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ぱらいそ~戦うゲームショップ!~  作者: タカテン
第二章:人は誰かになれるんだよと彼女は言った
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第十七話:ボクっ娘少女に魅せられて

「いらっしゃいませー、ぱらいそへようこそん♪ ……お?」

 美織が店長になり、入り口担当になってから一週間、奈保は多くのお客様に笑顔と元気と、大胆に露出させた胸の谷間で男心を擽るお色気を振りまいてきた。

 おまけに人懐っこく、あっけらかんとした性格もあって、お客様からの評判も上々だ。が、初めて『ぱらいそ』にやってきた人は、ゲームショップ店員とは思えない奈保の格好に一瞬固まるのが常だった。

 だから今ご来店された可愛らしい女の子のお客様が、ガチガチに緊張しているのも奈保からすれば見慣れた光景だったのだけれど……。

 ひとつ変わったところがあるとすれば、そのお客様が奈保にではなく、お店そのものに緊張しているように見えるところだった。

(んー、こういうお店、初めてだから緊張しているのかね?)

 奈保は女の子をつぶさに観察する。 

 高校生になったばかりだろうか。肩にかかるあたりできっちりと揃えた髪の毛をかすかに栗色に染め、うっすらと化粧を乗せた顔立ちはまだ幼さを残しつつも、とても奇麗に整っていた。全体的な凹凸はまだまだ発育途中なものの、すらりとして華奢な体つきといい、加えて春めいてきた今の季節にパステルピンクのシフォンワンピースというチョイスといい、歳相応の可愛らしさを存分に発揮させている。奈保から見ても「ああ、こりゃあ同年代の男の子たちは放っておかないだろうなぁ」という魅力があった。

 ただ、当の本人はと言えば、緊張感の他にも自分が着飾ることにどこか慣れていないような、気恥ずかしさを感じている素振りが見えた。

(まぁ年齢的にも化粧をして外出するのは今日が初めてなのかもしれないねー。あ、そっか、多分デートだ。しかも初めての。きっと彼氏とこのお店で待ち合わせしてるんだ、きっと。なるほどー、そりゃあ緊張するよー、うんうん)

 そういうことならおねーさんに任せなさいと、奈保は女の子に近付いて話しかけた。

「やっほー。誰かと待ち合わせかな、カワイコちゃん?」

「え?」

 声をかけられて初めて存在に気がついたとばかりに女の子が奈保に振り向く。

「え、えーと」

「うんうん、緊張するのも分かるよー。これからデートでしょ?」

「デ、デート!?」

 女の子が驚いたように目を見開いた。

「だいじょーぶじょぶ。すっごく可愛いから、きっと彼氏も喜んでくれるって!」

「可愛い!?」

 さらに素っ頓狂な声をあげる女の子の顔が、一瞬にして赤く色付いた。

「いやん、そんな仕草もカワイイ。うん、自信持って今日は彼氏にがんがんアタックするといいよ。あ、なんだったらコレいる?」

 ポケットから取り出すはお馴染みの結婚届……って、

「奈保、それ、あんたの名前が書いてあるんでしょ?」

 不意に二人に声をかける者がいた。

 美織だ。

「あ、そうか」

「そうか、じゃない」

 美織が奈保に呆れたように溜息をつくも、すぐに気を取り直したように女の子に微笑んだ。

「ようこそ、ぱらいそへ。さっきデートって聞こえたけど、彼氏とは待ち合わせ?」

「あ……」

 美織に話しかけられて、女の子はかすかに身体を強張らせた。

 だけど美織はそんな様子に気付くこともなく、さらに話しかける。

「けど、うちを待ち合わせにするなんて、なかなか彼氏も攻めているわね。

『待ち合わせ場所はどこにしますか?

一、駅前

二、喫茶店

三、ゲームショップ』

 で、三を選ぶなんて相当なギャルゲーマスターか、単なるゲームオタクかのどちらかよ?」

 攻めていると言いつつ、貶しているとしか思えない発言だ。

「で、彼氏はどの人? ちょっと教えなさい」

 鑑定してあげるから、とばかりに美織が女の子の横に立って店内を見渡す。

「あ、えっと、その……違います」

「ん? 違うって何が? 彼氏はギャルゲーマーじゃないの?」

「そ、そうじゃなくて、あの、ボク……」

「え、ボク?」

 美織は思わぬ言葉に、女の子に振り向く。

 女の子は緊張しながらも、それでもはっきりとした口調で言った。

「ボク、ここで働きたいんです!」

 奈保が「おー」と感嘆した。

 美織が目を見開いて、女の子を見つめた。

 女の子も顔を真っ赤にしながらも、頑張って見つめ返す。

本気マジ?」

 美織がぽつりと呟いた。

本気マジ、です」

「本当に本当?」

「本当の本当にここで働きたいんですっ!」

「そうじゃなくて!」

 背の低い美織は少し背伸びして女の子の肩にがしっと手を掛けた。

 女の子がビクッと身体を震わせる。

「あなた、本当にボクっ娘なの?」

「……え?」

 今度は女の子の方が、美織の予想だにしなかった言葉に驚く番だった。

「重要なことなの! ちゃんと答えて!」

 しかし、美織は真剣そのものの眼差しで女の子に答えを迫る。

 その勢いに負けたかのように、女の子はぽつりと呟いた。

「……えっと、はい、その、ボクはボクのことをボクって言いますけど……」

 

「ボクっ娘、きたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーー!!」


 美織、魂の咆哮。

 今さら言うまでもないが、美織こそ色々とダメなゲーマーの典型だった。


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