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ぱらいそ~戦うゲームショップ!~  作者: タカテン
第二章:人は誰かになれるんだよと彼女は言った
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第十五話:どうあがいても絶望だから助けてあげよう

 葵に視線を向けられて、司は慌てて目を背けた。

 ずっと眺めていたのを気付かれた?

 司は気恥ずかしくなって、顔が真っ赤になった。

 さらに考えてみれば、出会いがアレだったのだ。おまけに葵のチャイナ風メイド服は奈保のとはまた異なるきわどさがある。エロい目で見ていたと勘違いされたんじゃないかと思うと、司はますます顔が赤くなるのを感じた。

 とりあえずずっと見ていたわけじゃない、あくまで偶然だったんだと証明しなければ。

 司は美織との対決はまだかなぁと整理券を確認したり、近くの棚のゲームソフトを手にとってふむふむと頷いてみせたりした。へぇ、脱げば脱ぐほど強くなるスーパー脱衣システムか、それは萌えるシチュエーションだね……って何てソフトを見てるんだと慌ててソフトを棚に戻しつつ、ちらりと葵の様子を覗き見する。


 じーーーーーーーーーーー。


 ガン見されていた。

 驚くぐらい見られていて、先ほど以上に恥ずかしさがこみあげて来た。

 うわわわ、なんで? 

 どうして、そんなに僕を見るんだ?

 司は軽くパニックになりそうになる。

「てなわけでこの手のゲームは絶対買い取ったらアカンから値段が入っとらんのやけど……あれ、人がせっかく説明しているのにどこ見とるんかなぁ、この子は?」

 そこへ久乃がどこからか取り出したハリセンで、ぱんっと葵の頭をはたいてくれた。

 驚いた葵が目を丸くして久乃に向き直る。おかげで視線の束縛から逃れられた司はほっと胸を撫で下ろしたのだけれど、それも束の間、今度は視線どころか指差しされて、葵がなにやら久乃にひそひそと話をし始めるのが見えた。

 こ、これは……ガン見されるより辛い……。

「おーい、司くーん、ちょっとこっちへ来てくれへんかー?」

 葵の言葉に何やら頷いた久乃が呼びかけてくる。

 はうっ、一体何だろう? 

 ジロジロとエロい目で見ないでくださいとか言われたら、かなりショックだ。

 正直、逃げ出したい。とは言え、ここで変に逃げても事態は悪化するばかりだろう。

 司は罵倒もやむなしと覚悟を決めると、素直にカウンターへと近寄った。



「えっと、な、なんでしょう、か?」

「なに緊張しとるん? あんな、葵ちゃんがしっかりご挨拶したいんやて」

「あ……はぁ」

 どうやらいきなり変態呼ばわりされるのは避けられたようで、ほっと胸を撫で下ろす。

 いわれて見れば、さっきはあんなハプニングのせいでまともに挨拶も出来なかった。

 おまけに(これは葵にはナイショだが)スリットから覗き見える白い太腿やら、さらには縞々のパンツやらの印象が強くて、間近で顔を見た覚えがない。

 よし、今度は煩悩に負けるもんかと司は顔をあげた。

 大きくて澄んだ眼が、司が顔を合わせた瞬間ニコっと笑ってドキっとした。

「えっと、あたしは加賀野井葵って言います。この春から花翁学園に通う一年生だよ」

「あ、僕も同じだ」

「やっぱり! 見た目からそれっぽいなぁって思ってたんだ。一緒のクラスになれるといいね、えっと」

「司、香住司です。どうぞ、よろしくお願いします」

 うん、よろしくお願いするよーと葵が司の手を両手で握り、ずずいと顔を寄せてきた。

「え? えーと、加賀野井さん?」

「葵でいいよ。それより司クン、ちょっといい?」

 と、ジロジロと司を間近で観察し始めた。

「ふんふん……ほー……これはこれは……」

「あ、あの……」

 さらに葵は司の戸惑いなんかおかまいなしに、握っていた手を離したかと思うと、今度はあろうことか掌をほっぺたに滑らせてくる。

「わわっ、一体何を!?」

「スゴイ、すべすべだー。男の子なのに髭とか全然生えてないんだね!」

 驚いて飛び退いた司に、葵は「ごめん、ごめん」と謝りながらも朗らかに笑った。

「それに声もいい感じ。……よしっ!」

 一体何がいい感じなのかは、司も、傍らで様子を見ていた久乃も分からない。

 しかし、そんなふたりをよそに、葵は手にしたメモ帳に何かをすらすらと描き始めた。

「うん、出来た」

 そして再び司に近寄ると、描いていたページを切り取って司の前に差し出してくる。

「うわぁ」

 思わず感嘆の声をあげる司。

 差し出された紙には漫画ちっくにデフォルメされているものの、明らかに自分を描いたのだと分かる人物画が描かれていた。どことなくタッチが自分の好きな絵師さんに似ているのも嬉しかった。

「へー、葵ちゃんって絵、上手やなぁ」

 覗きこんできた久乃も葵の才能に感心する。

「えへへ。まぁ、ちょっとねー」

 葵は照れながら「それに司クンはちょっと描きやすいタイプだったから」と付け加える。

 十五年ほど生きてきて、描きやすいタイプだなんて言われたのは初めてだった。

「はい、これ、お近づきの印に司クンにあげる」

「いいの?」

「うん」

 葵は笑顔で頷いた。

 


 その後、しばらく話をしたものの、美織との対戦の順番が回ってきたので、司はカウンターから離れた。

 久乃も「ちょっと仕入れの注文するさかい、何かあったら呼んでなー」と、事務所兼休憩室に入っていく。

 カウンターにひとり残された葵は、まだ少し緊張した表情を浮かべてお客様のご利用を待ちつつ、またもや手にしたメモ帳にささっと絵を描いていく。

 さっき描いた司の顔が、真っ白な紙に再現された。

 ただ、そこに葵は自分の妄想を付け足してみる。ここはこうして、そこはこう、ついでにこんなこともやってみたら……。


 えへら。


 描きあがった絵に葵はなんとも言えない怪しげな笑みを浮かべる。

「にへへ。これは……うん、チャンスかも!」

 呟きつつ、壇上を見ると、司が美織にコテンパンにやられていた。

 司が元ぱらいその店員だということは、久乃から聞いていた。ついでにメイドゲームショップになった今でも働きたいと訴え、美織に勝てれば復職できるとも耳にしている。

 でも、あまりゲームが上手くない葵から見ても、司が美織に勝つのは難しそうに思えた。

 このままだと司が勝てるのは一ヵ月後? 半年? 一年後? もしかしたら一生勝てないかもしれない……。

「しょうがないなぁ。ここはあたしが一肌脱いであげますか!」

 司がどうしてぱらいそで働きたいのか、理由は知らない。でも、少し話しただけだけど、カワイイ女の子たちに囲まれて仕事したいとか、くだらない理由では無さそうなのは分かった。

 だったら、いい。それに葵は司と一緒にぱらいそで働きたかった。

 その理由は今はまだ葵と、メモ帳に描かれた絵だけが知っていた。

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