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ぱらいそ~戦うゲームショップ!~  作者: タカテン
第二章:人は誰かになれるんだよと彼女は言った
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第十四話:加賀野井葵は鑑定スキルを手に入れた!

「あ、ありがとうございましたー」

 頭の左右に取り付けたシニヨンキャップを上下に揺らして、葵は買い物を済ませたお客様に挨拶をする。

「うーん、まだ表情が固いなぁ。六十点」

「えー、久乃さん、厳しいですよー」

「何言うてるん、商売はイチに笑顔、ニに笑顔、三枝も笑顔でいらっしゃ~いって言うとるやろ?」

 えっと三枝って誰です? と質問する葵に、久乃がくわっと目を見開いて「これやから関東人は!」とばかりに猛烈に説明し始める(ちなみに今は三枝ではなく、桂分枝だが)。

 そんな様子を、司は少し離れた場所から眺めていた。

 ほんの一週間前、司も葵同様、先輩から仕事のことを教わった。

 でも、すごくいい加減だった。とりあえず一通り見せられた後、んじゃ頑張ってとばかりに丸投げされたのだ。

 おかげで仕事を覚えるのは大変だったし、気になったところがあって尋ねても「あー、適当でいいよ、適当で」としか答えてもらえず、結局は自分で試行錯誤するしかなかった。

 だから通常業務の指導だけでなく、笑顔にまで久乃につきっきりで教えてもらっている葵が羨ましくて、ついつい視線を送ってしまう。

「さて、買取作業に戻ろかぁ。今日も美織ちゃんは大人気やからなぁ」

「ええっと。中身があっているかどうか確かめて、カセットはロードが出来るかどうか、ディスクはキズが付いてないかどうかを調べるんですね?」

「そや。あと、お子様からの買い取りはカセットの裏に名前が書いてあることもあるから、ちゃんと確認してな」

 買い取った後にアルコールで消さなあかんさかいと久乃。

「はい。あ、あと、さっきから気になってたんですけど……」

 葵が手にしていたパッケージをひょいと裏向きにして久乃に見せる。

「バーコードがないのが時々あるんですけど、これってなんです? 非売品?」

「ああ、それなぁ。一応ふたつのパターンがあるんよ」

 久乃は葵からパッケージを受け取ると、ジャケットを取り出す。

「ひとつはジャケットがリバーシブルになっとる場合。コンマイ(ゲームメーカー)さんとこの廉価版に多いヤツで、これはどっちかにちゃんとバーコードがあるねん」

 でも、今回はジャケットの背面は真っ白だった。

「で、もうひとつが限定版の場合やね。限定版ってのは大抵グッズが付いていて、大きな箱に入っとるねん。そやから箱の方にバーコードが載っていて、ソフトのパッケージにはバーコードが付いてないねん」

「なるほどー」

「でもな、またややこしくて、中にはソフトのパッケージにも限定版のバーコードが載ってる場合もあるん。これがきっついんやー。気付かんでグッズなしのハンパもんに限定版の価格で買い取りそうになるさかいな」

「限定版ってグッズが付いている分、普通のよりずっと値段高いですよね? なのにソフトだけで、その値段で買い取りって……うわん、危なっ!」

「そやから買い取りのレジを打つ時も、ちゃんとレジ画面を見なあかんねん。普通のはバーコードを通すと画面に白文字で表示されるんやけど、限定版は気が付くよう赤文字で、しかもちゃんと注意書きまで出てくるからな。これを見ればばっちりや」

 実際にやってみせる久乃に、おおーっと葵が感嘆の声をあげた。

「ついでに言うとくと、バグ版も存在する場合は黄色で表示されるんで、こっちも注意してなー」

「バグ版?」

「そやで。バグがあって回収になったり、修正版が出回っているヤツやな」

 これらはメーカーもおおっぴらに修正版って銘打たないことが多いから、見分けるのは単純に知識が必要となるんやと久乃が説明する。

 例えば修正版はジャケット下部に青い先が引いてあるとか、ジャケットの色が違うとか、ディスクに小さく「アップデート版」と書かれてあるとか。中には頑なにバグ版を認めず、回収もしないくせに、ちゃっかり二次出荷でバグを修正しているパターンもあって、こうなってくるとソフトに書かれている型番で判断せざるを得なくて、とても面倒くさい。

「こんなんいちいち覚えてられんから、こいつらもレジ画面に出る注意書きでちゃんと確認するんやで?」

「いえっさー」

 葵が敬礼して答える。

「あ、そや、もうひとつ、こういうのもあるでー。最近のゲームやのに、買取価格が設定されてへんゲームや。これはどういうことか分かる?」

「うん、ズバリ、久乃さんや美織ちゃんが値段を付け忘れた! でしょ?」

「そや! ってそんなことあるかーい! ちゃうで、これはな……」

 ボケる葵に久乃がツッコミを入れながら、嬉しそうに説明する。

 葵もまた、久乃のスナップの効いたツッコミで強かに胸を打たれながらも、興味津々とばかりに聞いていた。

 教える者と教わる者の理想的な関係……数日前のぱらいそではとても考えられない光景を、司は複雑な感情で眺めていると……。

「あっ」

 こちらの視線に気付いたのか、不意に顔を擡げた葵と目が合ってしまった。

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