第十三話:パンツを見せること、それは新人バイトの誇り
普通のゲームショップから、普通じゃないメイドゲームショップになった『ぱらいそ』。
何故にメイドなのかと言えば、単純に客寄せの為だと司は思っていた。
このまま何もしなければ閉店れてしまう。そこで店員をやる気のない男性アルバイトから華のあるメイドさんへと変更し、男性客、とりわけお金を持っているオタク層や中年層といった、ゲームショップのメイン客層に来てもらおうって魂胆だろう、と。
実際、その推測は間違ってはいないだろうし、ライバル店の開店待ちの行列にチラシを配ってしまう美織らしい、大胆な戦略だとは思う。
ただ、司が見落としていた事実がひとつあった。
「ううっ、店長って女の子が好きな人だったんだ……」
先ほど見た美織の面接を思い出して、司は思わず顔を赤らめた。
もっとも美織の、男性ならセクハラで訴えられてもおかしくない言動は、女の子好きと言うより単にエロオヤジな性格なだけかもしれない。しかし、どちらにしろ普通の男の子である司にとっては、ますます復職が困難になってしまった感があった。
それでも諦めるわけにはいかない。
美織をぎゃふんと言わせたら、バイトを考えてくれると約束してくれた。今日はけちょんけちょんにされ続けたけれども、諦めずに挑み続ければいつか、きっと、勝てる……はず。
「でも、このままじゃあ勝つのにどれだけかかるかわからないよね。よし、家に帰って特訓しよう!」
営業時間が終了し、外へ放り出された司はしばらく店先に佇んでいたものの、やがて意を決して歩き出した。
「あ、今日も来たんやぁ?」
またも翌日。
開店と同時に店内へと足を踏み入れる司を迎え入れたのは、久乃ひとりだった。
あれっと思って店内を見回すも、美織の姿はどこにもない。
「えっと、店長はもしかして今日はお休み……?」
よくよく考えたら美織だって人の子だ、一年中仕事に追われるわけにもいかない。お休みだって必要だろう。
もっともゲームばっかりしている美織のアレを、仕事と呼ぶべきかどうかは意見が分かれるところだけど……。
「ううん、おるでー。そろそろ連れ出すのに成功するんとちゃうかなぁ」
しかし、休んでいるわけではないようだった。
と言って、久乃の返答はいまいち要領を得ない。
連れ出す? 一体何を? と思っていたら。
「ほらほら、もうお店、開いちゃったんだから。いつまでも恥ずかしがってないで、そろそろ出る出る! 女は度胸!」
「それを言うなら、女は愛嬌だ! って、うわん!」
カウンターの奥、休憩室から美織が出てきた。続いて昨日採用したばかりの、新人の女の子が美織に引き摺られる様にして姿を現す。
「お、いい練習相手がいるじゃん! よし、葵、早速練習したように挨拶してみなさい!」
そしてカウンター前に立つ司を見るなり美織はニヤリと笑って、素早く女の子の後ろに回ると、その背をぐいっと押した。
「え、ちょっ! あわ、あわわわ」
不意に背中を押され、女の子がつんのめる。草花の刺繍を施したチャイナ靴が床でタタタンと音を立てた。
チャイナ靴から延びるのは、健康的な肌色の素足。それが足首、ふくらはぎ、膝、太腿と続き……太腿を下から三分の二ほど進んだところで、ようやく衣装が現われるのだが……。
(う……わ)
司は言葉を失ってしまった。
女の子は青色のサテン地も艶やかな、チャイナ服を模したメイド服を着ていた。
体にぴったりと張り付く衣装に、顕わとなる育ち盛りのボディライン。が、一番目を引くのはなんと言っても深く入ったスリットから覗く大胆な腰周りだろう。
太腿なんかと比べて明らかに白い肌に、司はなんだか見ちゃいけないものを見ているようでドキドキした。おまけに腰骨付近までスリットが入っているのにもかかわらず、女の子の最終防護壁の側面が見えないのが妙な妄想をいやがうえにもかきたてる。
つまり、いわゆるひとつの、穿いてない……?
「イヤイヤイヤ、ちゃんとパンツは穿いてるから! ほらっ!」
と、司の視線から思考を読んだのか、女の子が慌てて衣装の裾を自ら上げた!
青いサテン地の裏に隠れていたのは、白と水色のストライプ……通称縞ぱん。しかも左右が紐状になっていて、普通のパンツと違って布面積はとても小さい。それゆえ、スリットからは見えず、あたかも何も穿いていないかのような演出を可能にしているのだった。
もっとも。
「うわっ! ちょ、ちょっと!」
司がかくも冷静に観察できるわけもなく、見ちゃいけないとばかりに顔を背ける。
「って、なにやってんだー、あたしぃぃ!」
そして司同様、女の子もまた自分の咄嗟の行動に悲鳴を上げていた。
「自らパンツを見せ付けるとは……葵、恐ろしい子」
ことの発端を作ったとはいえ、思ってもいない顛末に美織は笑いを噛み締める。
「私、とんでもない淫乱チャイナ娘を雇ってしまったのかもしれない」
「誰が淫乱チャイナだっ! てか、誰のせいだと思ってんだよーっ!」
朝のぱらいそに、新人バイト・加賀野井葵の悲鳴がこだました。