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ぱらいそ~戦うゲームショップ!~  作者: タカテン
第二章:人は誰かになれるんだよと彼女は言った
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第十二話:ふとももを捧げよ

「あんたもいい加減しつこいわねぇ」

 必死な表情でコントローラを握り締める司を前に、さすがの美織もうんざりしていた。

 翌日。

『ぱらいそ』の開店と同時にお店に飛び込んできたのは、昨日解雇を言い渡した司だった。

 やっぱりここで働きたいです、お願いしますとかなんとか。いくら無理だと突っ撥ねても、しつこくお願いしてくるので「だったら私と勝負しなさい。私をぎゃふんと言わせることが出来たら考えてやってもいいわ」なんて言ってしまった。

 結果、朝からかれこれ十回は対戦している。

 例によって「新店長に勝てたら買取額倍増キャンペーン」を開催し、おかげで今日も対戦者たちが絶えない『ぱらいそ』において、十回という数字は相当なものだ。

 事実、すでに陽が西の空に傾きつつある……。

「今度こそ!」

 にもかかわらず、司の意気込みはまるで衰えを見せない。今回の対戦に選んだ落ちモノパズルゲームの画面を真剣に見つめ、懸命に連鎖を組んでいく。

「だから!」

 が、美織の操作は司以上に洗練されていた。普通のお客様相手ならば多少は手心を加えて接戦を演出するのに、司には一切容赦なし。あっという間に最大級の連鎖を組み上げて、

「そろそろ諦めろっつーの!」

 もたもたしている司のフィールドに大量のおじゃまブロックを送り込んでやった。

「あうっ!」

 かくして気合も空しく、司の画面にLOSEの文字が浮かび上がる。

「はい、おしまい。さぁ、とっとと帰った帰った」

 しっしと露骨に手をヒラヒラさせて、司を追い払う美織。だけど自然とその眼はトボトボと舞台を降りていく司の行く末を追っていた。

 肩を落とした司が向かう先は『ぱらいそ』の出入り口……ではなくて、久乃が詰めるレジカウンター。久乃に一言二言声を掛けられたかと思うと、頑張れとばかりに肩を叩かれて対戦待ちの札を手渡されている。

(久乃ぉ、そうじゃないでしょうぉぉぉぉ!!)

 いい加減諦めさせて帰らせなさいよと叫びたいのを、美織はぐっと我慢した。



 司との勝負には、ほとほとうんざりしていた。今日一日で様々なゲームで対戦したが、どれも決して下手ではない。が、所詮は一般人レベル。美織みたいに名人を通り越して廃人の域にどっぷし足を突っ込んでいる人間には、到底太刀打ち出来る力はなかった。

 それでも勝負を受け続けているのは、ひとえに「自分に勝てたら考えてあげる」と約束したから。司が「どうやっても勝てないので諦めます」と挫けない限り、美織自身から勝負を拒否しては約束を破ることになってしまう。約束を反故にしてしまうのは、負けを認めるようで絶対にイヤだった。

 だから最初から全力で司の心をまっぷたつに打ち折るつもりでやっているのだけれど……。

「まったく、このままじゃ埒が明かないんじゃ……おっ?」

 次の対戦相手も難なく退け、何気に入り口に視線を向けると、ちょうどお店に入ってきた一人の女の子に目が止まった。

 茶色のダッフルコートに身を包み、小さなリュックを背負った女の子。ごく普通の格好ではある。が、しかし、ただひとつだけ、彼女がキョロキョロと店内を見回す度に頭の左右でフルフルと動く、白いシニヨンキャップに美織の目は釘つけになった。

(メイドといえばレースのカチューシャは絶対なくてはならないもの。だけど、シニヨンキャップも悪くはない。うん、悪くはないわ!)

 シニヨンとは髪を束ねて丸めた、いわゆるお団子ヘアのことだ。頭の下のほうに作るとバレリーナのようなエレガントな雰囲気が、上のほうに盛るとキャバ嬢みたいになる。

 ではこれを左右に作り、ドアノブカバーのようなキャップを被せるとどうなるか?

(うん、いいわ。左右のシニヨンキャップに、チャイナドレスをモチーフにしたメイド服! これ、絶対カワイイじゃない!)

 そう、チャイナ娘になるのだ!

(ただし、私は全体的にボリューム不足。久乃は嫌がるだろうし、奈保は似合いそうだけど、あの子の最大の魅力である胸の谷間をチャイナドレスで発揮するのは難しい……ああっ、せっかくのナイスアイデアなのにいったいどうすればっ!)

 次の対戦相手に「ちょっと待ってて」と片手で合図しつつ、眉間に中指を押し当てて、あーでもない、こーでもないと美織は考え始める。

 チャイナドレスと言えば、最大の特徴はなんと言っても腰元まで伸びた鮮やかなスリットだ。そこから覗き見える太腿のセクシーさと言ったら、胸の谷間に勝るとも劣らずの逸品。もちろんメイド服にアレンジする際にも、美織はこのスリットを大胆に採用するつもりでいる。奈保の胸元ばいーんのメイド服も見事だったが、こちらもこう思わず太腿をペロペロしたくなるような実に通好みの一枚になるに違いないと確信できる。出来るのだけれど……。

(ああ、もう! どこかにいい太腿が落ちてないかしらっ!?)

 いいアイデアが浮かんだのに実現出来るだけの素材がない悔しさのあまり、他人が聞いたらぎょっとするような猟奇的な思考を美織は巡らせてしまう。

 どこか。

 どこかにいい太腿の持ち主はいないか。

 店内を見渡せど、三月の下旬では生足なんて滅多に見られない。

 そもそもここはゲームショップ。乙女ゲーだ、BLだと言ってもまだまだ一般的には男性のお客様が圧倒的な世界である。女の子のお客様、ましてやいい太腿をしていて、さらにメイド服を着て働いてくれる子なんて――

「美織ちゃーん、ちょっとええかぁ? この子、ここで働きたいってゆーてるんやけど」

 ……いた!

 呼ばれた方を向くと、久乃が詰めるカウンターに件のダブルシニヨンキャップがぷかぷかと浮いていた。おおっ、これぞ神のお導き! 美織はぴょんと壇上から飛び降りて、カウンターへと猛ダッシュする。お客様の間を掻き分けて進むと、やがて自分と同じ年頃の、いかにもスポーツやってますとばかりの肌色をした女の子が見えてきた。

(うん、健康優良児って感じに加えて、やや童顔なところも元気なチャイナ娘ぽくていいじゃないの!)

 ルックス審査、一発でパス。となると次は。

「あなた、コートの中はミニスカ?」

 初対面の相手に挨拶もせず、いきなり不躾な質問から入る。これが美織流アルバイト面接!

「え? えーと……はい?」

「おっけー。じゃあ脱いで!」

「えっ? ええっ!?」

 突然の展開に戸惑う女の子に、美織は強引に迫った。そもそも女の子が答えた「はい」は肯定の意味じゃなくて、「はい? この人、何言ってるの?」の「はい」なんだけど、そんなのはおかまいなしで我が道を突き進む!

「え、じゃない。早く脱ぐ! 脱いで私の前に全てを曝け出すのよ!」

「ええええええええええええええええええ?」

 ああ、もうじれったいとばかりに、美織はあたふたとする女の子のコートボタンに両手を掛けた。

「脱げっていうのが分からないかーっ!」

 それは一瞬の早業。美織がチョイチョイと手を動かしただけなのに、女の子のダッフルコートのボタンが全て外され――

 はらり、と。

 コートに隠されていた女の子のスタイルが顕わになった。

「わっ、わっ、わーっ!」

「ちょっ! 裸になったわけでもないんだから隠すなっつーの。えーと、どれどれ」

 まずは上半身、薄い桃色のセーター越しに、巨乳というほどでもなく、かといって美織みたいに成長不良でもない、年頃な日本人女性の平均的な盛り上がりを確認!

「よし! おっぱい、よし!」

 思わず指差し確認してしまう美織。

「だけど一番重要なのは太腿なんだけど……おおっ、これは!」

 あろうことか、女の子はミニスカートを穿いていなかった。

 代わりに身に纏っていたのは、デニム生地のショートパンツ。しかし、これが良かった! むしろ健康的な肌色でありながら染みひとつない太腿には、ショートパンツこそ大正義だ!

「あっぱれ! 合格よ! あなたのような人材を待っていたわー!」

 感極まって美織は女の子に抱きつく。

 対して抱きつかれた女の子は戸惑いを隠しきれなかった。

 え? ここってゲームショップだよね?

 あたし、キャバクラの面接に受かったわけじゃないよね?

 ……大丈夫、だよねぇぇぇえええええ???

 と(答え:多分大丈夫じゃない)

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