第8話
状況を確認する。
マリアは父親を殺した犯人捜しを、俺にも手伝わせたい。
そして、俺がそうするのが当然と考えている。
「俺にはそんな事をしている時間はない」という俺の気持ちを正直に言ったと仮定する。
――じゃあ、あなたはいったい何をするの?
と追及されることだろう。
「何をするかは話せない」と俺は答える。
何をするのかを話せないというのでは、マリアの性格からして聞き入れないだろう。
その上、俺を作った(とマリアは思い込んでいる)父親の敵を探すのは当たり前と主張して引かないだろう。
俺を作ったのは父親ではないと言ってしまえば、俺は無関係だからとなるが、
じゃあ、俺は何者だという、最初の問題がむし返されてしまって、返って面倒なのでこの案は却下だ。
つまり、俺を作ったのは父親だと勘違いさせたまま、俺が手伝わない事をマリアが納得する理由が無ければならない。
しかし、そんな理由は今のところ存在しない。
昔、偉い人が言った(デジャヴュ?)
「嘘も方便」
そう、無ければ捏造ればいいのである。
そんな俺に突然天啓がひらめく。
よし、この案で行こう。
「しかし、マリアよ、そんな事をしている暇はあるのかな?」
「えっ、突然何?」
ここは時間を空けずに畳み掛けねばならない。
「キミの夢は父親のような立派な『錬金術師』になることだったな」
「そうよ」
即答だな。よしよし、そのやる気が今の俺には好都合。
「ならば、手掛かりのほとんど無い、無茶な犯人捜しをするよりも、優先せねばならぬ事があるのではないか?」
「うっ、でも、でも…」
よし、いい感じだ。
でも、ここで追いつめすぎては逆効果だ。
「何も、犯人捜しを諦めよと言っているのではない。優先順位を確認しなさいと言っているのだ」
「うっ、それは…、でも、えっと、犯人捜しを諦めなくてもいいなら…」
ここで、切り札を。
「無理な犯人探しを続けて、自分の夢を蔑ろにする娘。
自分の夢の為に一生懸命に頑張る娘。
父親は娘にどっちに成って欲しいと願うのだろうか?」
「…わ、わかったわよ。立派な『錬金術師』になれるように頑張ればいいんでしょ。
でも、犯人捜しも諦めたりしないんだからね!」
よし、うまくいった。
体がメガネでなかったら、ガッツポーズをしていただろう。
「そうそう。真面目に『錬金術師』を目指せば、犯人捜しに便利なアイテムなども作成できる。
それらを使用した方が、今の雲をつかむような状況よりも捜査が進むだろうよ」
「それ、本当なの!」
突然、俺の体(メガネ)を持ちあげて詰め寄ってくるマリア。
「ちょっ、ちょと待てよ」(某タクヤ風)
な、何だ、突然。
あまりの事に慌てて、マリアに理解不能なボケをかましてしまう。
「い、痛い、いや痛くは無いが、壊れる、壊れる、そんなに乱暴にされたら壊れてしまぅ~」
今ちょっと、ミシッとか音がしなかった?
「あ、ごめんなさい。力を入れすぎちゃった」
謝りながら、手の力を抜いていく。
正直壊れるかと思ったよ、まったく。
「そんな事より、今言った事は本当?」
そんな事とは、何だ!
鯖江市の皆さんと全国のメガネスキーに土下座して謝りなさい!
と、怒鳴ってやろうかと思っていたのだが、
あまりに真剣なマリアの表情にその言葉を飲み込む。
「今言った事とは、何の事だね?」
マジで何にそんなに反応したのか解らず、素直に聞いてしまった。
「犯人を捜せるアイテムを作れるっていう話よ!」
あれ、微妙にオレが言ったセリフと違くね。
しかもニュアンスがかなり変わってしまっているような……
「ねぇ、どうなの、犯人を捕まえるアイテムをつくれるの?」
ついに、犯人を捕まえるアイテムにまで進化してしまったようだ。
俺は青い猫型ロボット…いや、どちらかと言えば、ご先祖様の発明を造るメガネ少年ナリか。
「そんな都合のいい……」
否定の言葉を言いかけるものの、ここでまた天啓が。
「……アイテムさえ創りだす可能性を秘めているのが『錬金術』である」
決して創れると言い切らないのがポイントだ。
『可能性』誠に便利な言葉である。
「そうか!『錬金術師』になれば、お父さんを殺した犯人を捕まえられるのね」
先程「犯人捜しよりも先に立派な『錬金術師』になれ」と言われた時の不満顔とは正反対に、心の底から嬉しそうな表情で、俺に確認するというよりは、自分に言い聞かせているようだ。
マリアが俺の言葉をどう解釈するかはマリアの問題であり、
ヲレ自身は一言も「『錬金術師』になれば犯人を捕まえられる」とは言っていない。
まあ、そんな事は決して口にしないけどね。――っていうか、口がないんだけどさ、メガネだから。
――ホント、なんで喋れるんだろオレ。
それはともかく、マリアのとりあえずの目標は『錬金術師』になることになった。
父親殺しの犯人捜しを諦めた訳ではないが、優先順位が変わった。
これで俺が犯人探しに駆り出される事も無くなった。
無駄にモチベーションを上げる事にもなったが、結果オーライだ。
これで、一安心………だと思っていた。
そう、玄関のドアをノックする音と「マリア嬢ちゃん居るかい?」
という声を聞くまでは…