第7話
マリアが少し落ち着くのを待って(今回は前ほど時間はかからなかった)思いついた事を聞いてみる。
「なあ、ナイフの指紋は調べたのか?」
「えっ、ナイフのしもん?」
マリアが頭の上にクエスチョンマークを浮かべながら、首をかしげる。
勿論、本当にクエスチョンマークは浮かんでいないからな、念の為。
などと動揺している場合ではない。
馬鹿か俺は、この世界に鑑識など存在しない。
指紋っていう概念すらないだろう。
早くごまかさねば。
「凶器のナイフはしっかりと調べたのか?って聞いたのだすよ」
く、苦しすぎる。
――っていうか無理ありすぎ。
しかも『だすよ』とか思いっきり噛んでるし。
「そうそう、ナイフの事をまだ言っていなかったわね」
おお、指紋の事も、噛んだ事も流してくれた。
マリアたんマジ ネ申。
俺の中でマリアの株がストップ高で急上昇中とは知らずに話をすすめる。
「ある意味凶器のナイフだけが唯一の侵入者と言えるのかもね。
見たこともないナイフだった『だすよ』
お父さんの持ち物では無かったし、
今まで誰も見たこともない形・材質のナイフだったわね」
――なあ、マリアさんや、
今のあなたの『だすよ』は噛んだのではなく、明らかにワザとですよね。
俺の中でマリアの株が急降下。
「よかったらそのナイフを見せて貰えないか?」
ゲーム内のアイテムならバッチリ覚えている。
頭の中では、幾つかの候補が挙がっている。
実は、リアル世界でもナイフに興味があって、
以前ネットオークションで珍しいナイフを手に入れたぐらい好きなのだ。
不謹慎かもしれんが、見た事もないようなナイフ――見てみたいっス。
「そうしてみたいのは山々なのだけれど、無理なのよ」
あれっ、ここはそのナイフを俺が調べて、犯人を特定する。
頭脳は大人、体はメガネの名探偵の出番っていう流れじゃないの。
「調査に来た、城の衛兵が持って行ってしまったの」
――名探偵の出番ではないらしい。
ナイフから調べるのはちょっと無理か。
ちょっと、いやかなり興味があったので、見る事ができずとても残念だ。
だが、手口を聞く限り『カルト教団』とは無関係のようだ。
奴らは見せしめの為に殺す事が多いから、明らかに他殺という殺し方が主流である。
また、自己顕示欲が強い集団だから、必ず犯行声明の様なものを残す。
ましてや、密室になどする筈がない。
とりあえずは、カルト教団絡みではないと思ってよさそうだ。
無論、油断は禁物だが。
であれば、マリアが狙われるということは、とりあえずはなさそうだ。
よかった。
――ん、よかった?
「今すぐは無理かもしれないけれど、いつか必ずお父さんを殺した犯人を捕まえるんだから」
拳を握りしめ、高らかに宣言する。
「そうか、頑張れよ」
「ちょっと、何他人事のように言っているの、あなたも手伝うのよ」
「え、マジで」
そんな事を一ミリたりとも考えていなかった俺には、まさに青天の霹靂であった。
「あなたは、お父さんに作られたのでしょう、なら、私の弟か妹のようなもの。
――話し方から推察するに弟よね。
だから、自分の親を殺した犯人を見つけるは当然のことよね」
おい、おい、確かにあの父親を殺した犯人は気にならなくもないが、俺にはやらなければならない事がある。
さて、どうやって断ろう。
ただ断っても、きっとマリアは聞き入れない。
俺はリアル世界に戻る装置を造らねばならないのだ――などと本当の理由を告げる訳にはいかない。
ならば、正当な理由をでっちあげ――モトイ、マリアが納得できる言い訳を考えねば。
このままでは大して手掛かりもない犯人探しに駆り出されてしまう、ここは正念場だ。