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第5話

「鬱だ、シノウ…」


絶望に打ちひしがれ、思わずボソッと呟いた。


本気で死にたかった訳ではない、例え本気で死にたいと思っても、現状自分で死ぬことはできない。


だが、その言葉に過剰に反応する存在が俺の傍にいた。


「ダメだよ! 死んじゃ駄目! 死ぬなんて言っちゃだめ!」


涙を拭いつつ、まだ涙を流しながら、マリアが俺に向かって大声で叫んだ。


俺の中では一つのテンプレゼリフであったのだが、

父親を亡くしたばかりの子供の前で言っていいセリフではなかった。


「す、すまん。大丈夫だ、死んだりしない。それにほら、俺『メガネ』だから自分で死んだり出来ないし」


という俺の言葉を聞くと、ちょっと安心したような顔をして、少しキョトンとした表情に変化し、


「ぷっ」


吹きだしやがった。


―と思ったら、何かツボに嵌ったのか腹を抱えて笑いだす。


さっきまで泣いていたのに、いきなり変わりすぎだろう。


「そう・だよ・ね、あんた、メガネ・だった・よ・ね」


笑いながら、笑いすぎて苦しそうにしながらも、そんな事を俺に言う。


笑いすぎて苦しいなら、無理して喋らなくてもいいのに…

でも、泣き顔より笑っている方がいいな。


………でも、笑いすぎ。


――待つこと5分。


「ごめんなさいね。自己紹介の途中だったのに」


気丈に振舞うマリアだが、目元にはまだ涙が滲んでいる。


なんかちょっといいシーンっぽいけど、

その涙、悲しみの涙じゃなくて、笑いすぎてでた涙だよね、明らかに。


「じゃあ、今度はあなたの事を聞かせてよ」


――しまった、何か言い訳を考えるつもりだったのにすっかり忘れていた。


人間だったら今頃、滝汗状態だっただろうが、幸い今の俺はメガネだ。汗などかかない。


――ってそもそも、人間だったら言い訳を考える必要がないんだよ!

汗をかく必要もないんだよ!


俺のそんな焦りにも気付かず(っていうかメガネが焦っているなんて解る奴がそもそもいねぇ)


「そうねぇ、まずあなたは何時いつ作られたの?」


などと聞いてくる。


そんなのわかる訳が――んっ、質問の内容が変じゃね。


普通なら


「あなたはいったい誰?」


とか


「何者?」


とか聞いてこないか。


今の質問の仕方だと、俺(喋る謎のメガネ)の存在自体はおかしくない事になっていないか。


マリアの頭が残念ということは――まあ、無いだろう。

言葉が不自由な筈もない。


となると、何か理由があるはずだ。


考えろ、考えろ、考えろ、

もしくは、思い出せ、思い出せ、思い出せ…


――まてよ、あれか!

あるイベントを思い出した。


錬金術で作成するアイテムに『喋る○○○』シリーズと言われるものがある。

要は普通に存在するアイテムが喋るようになるというものだ。


ただし、喋ると言っても、会話をするというレベルではなく、

自動販売機の「いらっしゃいませ」「ありがとうごさいました」レベルだ。


そしてこの『喋る○○○』シリーズを初めて作成したときに起こるイベントがある。


アイテムが完成して、喜び勇んでマリアがアイテムに話しかけるのだが、

受け答えが上記のレベルなので、非常にガッカリするというイベントだ。


つまり、マリアは俺が『喋る○○○』シリーズの『喋るメガネ』であると思い込んでいるのではないだろうか。

『喋る○○○』シリーズを見たことがあり、実際に会話を試みたことがあれば、俺がそのシリーズでは無いと解るだろう。

しかし、上記のイベントが発生することから、マリアは『喋る○○○』シリーズを見たことが無い訳だ。


――いいじゃないか、俺は今日から『喋る○○○』シリーズだと装うことにしよう。

とりあえず、それで乗り切ろう。


「ほう、マリアは私が『喋る○○○』シリーズだと推測したのだな。流石は『錬金術師のたまご』だな」


せっかくなので少し煽てておく。


するとマリアは得意そうに、平らな胸を反らして、私ってば凄いでしょうと言うかのように誇らしげに俺に語る。


「以前お父さんの錬金術の本を見たときに『喋る○○○』シリーズを見たことがあったので、ピンッときたの。

 それとね、以前お父さんに『喋る○○○』シリーズを作ってよってお願いしたことがあるの。

 だから、こっそり私の誕生日プレゼントに用意してくれていたのかなぁ~って。

 どう、当たりでしょ?」


どこぞの名探偵が、関係者を集めて得意そうに自分の推理を披露するかのように語るマリアには悪いが、ハズレだ。


お前のお父さん、10歳の誕生日忘れていたぞ。

普通にチュートリアルに含まれているイベントだ。


まあ、それを正直にマリアに話しても仕方ないし、その迷推理に便乗した方が話が早い。


「まったく以って見事な推理だ。キミの洞察力はたいしたものだ。

 今後、私の事は『喋るメガネ』と呼んでくれてもかまわない」


うん、うんと頷きながら、


「やっぱりね、流石は私、凄いわ、コナソくんを超える日も近いわね」


自画自賛している所悪いが、俺々詐欺を始めとした諸々の詐欺とかに気をつけろよ。

この世界にはないけどな。

そもそも電話がないがな。


「それで、あたなは何時作られたの? いえ、何時から記憶があるの?」


さっきまでの得意そうな態度は何処へやら、一転 真剣な表情で俺に詰め寄る。


ん、そういえばさっきも「何時作られたか?」を気にしていたな。

何かあるのか?


そうか、父親が作ったのであれば、少なくとも2~3日前に作られた筈だから、父親から遺言でもないか気にしているのか?

だが、実際はマリアの父親に作られた訳でないので、そんなものは知らん。


捏造することも可能だが、できるなら嘘はつきたくない。

倫理的な意味ではない。

むしろ、倫理的という意味ならば、今のところ嘘をついていないこちらには非は全く無い…筈だ。


単に嘘をついた事がバレて、何故その様な嘘をついたのかを追究され、

そこから色々とバレるのがまずいという打算的な考えからだ。

また、信頼を失うのも今後の関係の為にも宜しくない。


うん、うん、ヲレってばゲス。


では、どうするか。

こうすることにした。


「すまないが、私が何時作られたのかは、私にも解らない。

 私の意識が目覚めたのは、マリアが先程この部屋の様子を見に来た時の少し前だ」


俺の答えを聞くと、あからさまにガッカリした表情を浮かべて、


「そっか、作られて直ぐに意識を持つ訳では無いのね。

 ひょっとしたらお父様を殺した犯人を見ていたかも、と期待したのだけど……」


うん、うん。俺の期待通りの答えにたどりついたな。

作られて直ぐに意識を持たないと俺は言っていないからな。

俺は嘘をついてはいない。

嘘はなるべく無いように、無いように。


う~ん、ゲスのか・ほ・り。


そうそう、だから父親を殺した犯人など知ら……


「殺されただと!!!!」


俺はまた叫んでいた。

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