第53話
俺達が門に向かって歩いていると、
「あれっ、姉さん門番がゲドさんじゃなくなっているよ」
「おっ、ほんまや」
と姉弟が話している。
いや、ここから門までまだ結構距離があるぞ。
この距離で門番が誰なのか判るのか姉弟。
かなり目がいいな。
やっぱり身体能力は悪くないんだよな姉弟。
「えっ、そうなの、この距離でよく判るわね2人とも」
「って言っても、ゲドさんか、そうでないかが判るだけなんですけどね」
「アホッ、それは言わんでもええんや」
………さっき褒めた言葉、返せ!
いや、でもそれが判るだけでも結構凄い…のか?
この距離だと、俺にはライフゲームの駒の棒人間にしか見えないからな。
よし、やっぱりさっきの言葉、返却しなくてよろしい!
「……そんなに、嫌なの?」
「嫌……じゃなくて、いやそんなに嫌というか……
ねぇ、姉さん?」
「こらっ、そこでウチに振るな!」
「ともかく、本当に悪い人じゃないんですよ。ええ、本当に。
むしろ、凄くいい人なんですけど………、それを打ち消す程に、話が長い人でして……」
「ほ~~う、そいつは悪かったな。
冒険者としてペーペーのお前等があまりにもなっていないから、
元冒険者の先輩として親切にアドバイスしているつもりだったのだが、
そ~か、そ~か、迷惑だったか」
と、突然俺達の後ろから声がかけられる。
「ゲッ、オッサン!」
「誰が、オッサンか。ちゃんとゲドさんと言えといっただろう、カレン!」
「な、何でここにゲドさんが?」
「何でも何も、すぐ先にワシの職場である門があるのだから、
門番であるワシがここらに居てもおかしくはあるまい?」
「で、ですが、ちょっと前まで門番をしていたじゃないですか?
仕事をサボっていいんですか?」
「ワシがサボったりする訳がなかろうが!
昨日から今日にかけて夜勤だったんだよ!
だから、仕事はもう終わっとる」
「……なら、サッサと家に帰らんかい!」
カレンがボソッと呟く。
「ほ~う、そんなことを言うのはこの口かぁ!」
カレンの呟きが、しっかりと聞こえていたらしく、
カレンの頬っぺたを両手でつかみ左右に引っ張る(推定)ゲドさん。
自己紹介も、姉弟からの紹介もないが、ゲドさん―――でいいんだよな?
むしろ、この流れでゲドさんじゃなかったら、吃驚だ。
「いひゃい、いひゃい、はなひへ~」
「何言ってるか、わからんぞぉ~!」
「らっはら、へをはなせ~!」
「だったら、手を放せ! と姉は言ってます」
「おお、そうか、じゃあ放してやろう」
そう言って、男は言葉通りに手を放す。
「全く、乙女の柔肌に、許可も無く触れるたぁ~とんだセクハラ親父だ!」
「えっ、乙女、そんなの何処に居るんだ?
いるならワシに紹介してくれ」
そういって、周りを見る仕草をするオッサン。
「目の前におるっちゅうねん!!」
「そうね!しかも2人も居るわよ!」
黙っていられなくなったんだろうなぁ~、
マリアが参戦する。
「何だ、このお嬢ちゃんは?」
「いい年の大人の癖に、人に名前を尋ねるときは自分から名乗るというマナーも知らないのかしら?
まぁ、いいわ。
私から名乗ってあげます。
私はマリア。
『錬金術師見習い』よ」
そう言って、無い胸―ギロッ 何故声にしていないのに反応できるんだ……
(有るか無いかはひとまず置いておく事にした)胸を張って名乗るマリア。
何気に『錬金術師のたまご』から『錬金術師見習い』にランクアップしているが、
実際、それぐらいの実力は身に付けているから、そこにはノータッチで。
べっ、別にロリータとは何の関係もないからな!
ここ、重要!
こらっ! そこの変態紳士、呼んでいないから、出番はないから!
そして、言われた方は、どう反応するのか、
ひょっとしたら、怒り出すかと思い見てみると、
ちょっと、驚いたような顔をしたかと思ったら、
満面の笑顔で、
「はっ、はっ、はっ、こいつは一本取られた!
確かに、お嬢ちゃん―――いや、マリアちゃんだったな―――の言うとおりだ。
こっちから名乗らなければならなかったな。
ワシの名はゲド、このエンドで門番をしている。
よろしくな、お嬢…マリアちゃん」
「マリアと呼び捨てでかまいませんよ、ゲドさん」
「そうか、じゃあそうさせてもらうよマリア!
じゃあ、ワシのことは ゲド様 か ゲドおじ様 と呼んでもいいぞ」
「それでは、ゲド様と呼ばせていただきますわ」
「……すまん、普通にゲドさんで頼む!」
「え~え、せっかく ゲ・ド・お・じ・さ・ま って呼ぼうかなぁ~って思っていたのにぃ~」
「だから、ワシが悪かった。
―――しかし、こんな返しができるとは……
只者ではな無いな、お主」
「だてに、この年で『錬金術師見習い』を名のっていないわ!」
「ほ~う、『錬金術師見習い』ねぇ~――――
あれっ、待てよ。
錬金術師・マリア・女の子………」
何やら、首を傾げながら考え出す推定ゲドさん改め、確定ゲドさん。
どーでもいいが、いい年したオッサンがそんな仕草をしても、一ミクロンも可愛くないぞ。
チャンスとばかりに、この場を去ろうした我々を止めるように、叫ぶおっさん。
「思い出したぞ!!
あんたがあのマリアか!!」
な、何なんだ!
マリアよ、お前何かやらかしたのか?
まだ、ちょっとだけ続くんじゃ。