第51話
以前から確認しなければと思っていた、依頼掲示板の依頼が光って見える件についてだが、
前々から、こんな理由ではと予想していたが、今回の事で大体理解できた…と思う。
まず、光っている依頼を幾つか見て、共通点があった。
それは『融合剤』を求める依頼である事。
なので、予想とは違い『融合剤』の依頼が光っているのかと思ったが、
光っていない依頼に『融合剤』の依頼があることを見つけて、
また、その内容を確認して、予想が間違っていないと確信した。
光っている依頼に共通していること―――
『融合剤』の依頼であること。
そして、品質不問であるか、品質Dランク以下であること。
そして、光っていない依頼で、『融合剤』を求める依頼では、
品質がCランク以上であった。
今のところ、マリアが練成した『融合剤』はDランクが最高である。
以上の事から、2つの仮説をたてた。
1.マリアが練成した事がある物。つまり、達成できる可能性がある依頼が光っている。
2.マリアが今すぐに達成できる依頼が光っている。
そして、都合のいいことに、その2つの仮説を判別する依頼が存在した。
こんな依頼だ。
「 求む!
『融合剤』100本(同色) 単品不可 品質不問
同一人物が練成した物が好ましいが、そうでなくても良い。
同一人物が錬成した100本 :大銀貨35枚
同一人物が錬成していない100本 :大銀貨25枚
今の所、各色が欲しいので、どの色の100本セットも買い取ります。
今後、必要数を満たされる度に、依頼を更新するので、都度掲示板をチェックして欲しい。
期限:最終期限は8の月30日まで
依頼人:宮廷魔術師ナザール 」
今現在、マリアは同色の『融合剤』を100本も持っていない。
そしてこの依頼は――――――光っていなかった。
つまり、マリアが今現在達成できる依頼が光っている―で確定だろう。
ちなみに、この依頼を見つけて、マリアに声をかけた時
「マリア、ここに良い依頼があるぞ」
「本当にぃ~!
どれどれ…………
『センセー』向こうにいい依頼がありそうよ!」
「いや、ここの依頼が……」
「や~ね、『センセー』
ここに依頼なんて無いわよ」
「…………」
「…………」
「まあ、無理に受けさせたい訳ではないからいいけどな」
「ふぅ~~う、よかった!」
何て会話があったな。
それはともかく、考察の追加だ。
そして、光の強さについてだが、
これは予想通り 光の強さ=依頼の報酬の高さ で間違いないようだ。
マリアと一緒に、光っていた依頼を見てみると、光が強い程、報酬が良い依頼であった。
とりあえず、こんなところだ。
これだけ解れば、掲示板の光についてはいいだろう。
そして、依頼の紙が重なっている件については―――――
「すみません、この依頼なんですけど……」
「いらっしゃい、お嬢ちゃん。
依頼の申し込みかな?」
「いえ、そうではなくて、
こちらの依頼についてお聞きしたいのですが……」
「おっ、掲示板の依頼かい。
どれどれ………
あー、あのナーリ・ア・ガーリの依頼か」
やっぱり、ナーリ・ア・ガーリと書いて、大馬鹿って言ってるよ。
うっかり声を出しそうになったのは、ここだけの話だ。
「何でこの依頼は、紙が重なっているんですか?」
「あ~、それね……
この紙を持って来たって事は、お嬢ちゃんもこの依頼の内容を読んだのだろう?」
「はい」
「正直どう思った?」
「え~と、恐らく最初の依頼と思われる、一番下の依頼と、その次と思われる下から2番目の依頼内容を見て、
依頼者の正気を疑いました」
「くっくっく。
見た目は可愛いのに、中々辛辣なお嬢さんだね。
――でも、言っている事は正しい」
マリアの容赦のない感想に、苦笑いというか、笑みを浮かべる窓口の男。
「本来なら、こんな馬鹿げた依頼など受けないのだが、
この準男爵様は 「貴族の我の依頼を受けないとは何事か!」
みたいな感じで騒ぎ出してねぇ~、とりあえず、受けることにしたんだよ」
「はぁ、大変でしたね~。アホの相手は」
「…お嬢ちゃんも言うね。
でも、嫌いじゃないぜ、そういうの」
そういって、今度はニヤリと言う感じで笑みを浮かべる。
お前、脇役の癖に、キャラを作りすぎだ!
とっとと、説明を続けやがれ。
「でだ、一応でも受けてしまった以上は、掲示板の端っこにでも貼っておこうかって感じだったんだ。
でもな、ある職員が言ったんだよ
「むしろ、一番目立つ場所に貼り出しましょう」
ってな」
「一番目立つところにですか……、何でですか?」
「やっぱりそう思うよな。
他の職員もその質問をしたんだよ。
そうしたら、そいつ何て答えたと思う?」
「う~ん。え~と「……なるほど、晒し者か」―――えっ、晒し者?」
おっ、練習していた、あの技がうまくいったみたいだ。
この技を披露するは、今が初だからマリアも驚いている。
技の説明は後にするとして、俺がマリアだけに聞こえるように呟いた、
「晒し者」の言葉にマリアが反応し、思わずオウム返しに声に出してしまった。
「――った、たまげたぜ!お嬢ちゃん。
凄ぇな、正解だよ!
よく解ったな。
俺が把握している限りでは、初の正解者だよ」
「えっ! 正解? 私が?」
自分では、何が正解だか解っていないのに、凄いぜ!とか言われて慌てるマリア。
まぁ、すごいのはメガネであってマリアではないのだからな。
このメガネでなければ、渾身のドヤ顔をきめてるところだな。
当然、ドヤ顔はできんけどな。
「そう、お嬢ちゃんの言うとおり、そいつも言ったんだよ。
「この人はこんな依頼を出すぐらい馬鹿なんだと知らしめてあげましょう」
ってな」
「あ~~ぁ、なるほど!
そういうことね」
やっと正解に気づいたマリアが、ポンと手を打つ。
「えっ、なるほどって、何?」
目の前の、正解を言い当てた、賢い(と窓口の男は思っている)女の子の反応に不思議がる窓口の男。
「いえっ、え~と、何でもなくて……
その、だから新しい依頼に変わっても、新しいのと取り替えるのではなく、
上に重ねていったんですね?」
「そういうこと。
納得いったかい?
お嬢ちゃん」
そう言って、両手の人差し指で、マリアを指差す窓口の男。
――けっこう、見た目と違ってチャライな、この男。
――だから、お前はただの職員Aなんだから、そういうキャラ立ていらないから。
「はい。
でも…だとすると、この依頼受けちゃったらマズイ?」
「いや、4枚目の依頼を引き出した時点で、ギルド的には、気が済――ーゲフン、ゲフン。
…メンツは保てたので、受けて貰って全く問題ないよ」
―――いま、こいつ気が済んだと言おうとしなかったか?
まぁ、いい。
だとすれば、こんな美味しい依頼を受けない理由はない!
きっと、マリアも同じ気持ちだろう。
「じゃあ、この依頼、
私が受けます」
ほらな。