第49話
「『センセー』何言ってんの?」
あー、またあの能力が発動している。
メガネからは見えない筈のマリアの表情がわかる。
オレを呆れた目でみているマリアの顔が浮かんでくる。
そう、目の前の姉弟のような白い目でオレをみているマリアの顔が。
「いや、違う、俺が言いたかったのはそうではなくて、
今のは、何者かの陰謀であって、
決してオレの意思ではない」
「はぁ~、時間の無駄だったわね。
行きましょう、カレン、レオン」
「その通りだぁ~!!!」
「どうしたの、『センセー』
自分の罪を認めるわけ?」
「違う」
「じゃあ、何なのよ!」
「だから、このまま街の外に出たら時間の無駄になるんだよ!
Time is money だ!
ベンジャミン・フランクリンに謝れ!」
「だから、何を言いたいの?
もっと解りやすく言ってよ!」
「ああっ!
そうだった。
ありがとう、『メガネさん』気づかせてくれて」
突然、レオンが叫ぶ。
どうやら、レオンは気づいたみたいだ。
しかし、マリアやカレンはまだ解っていないようだ。
「アンタ、何一人で納得してんねん!
ウチ等にも解る様に説明しぃ!」
「説明しろも何も、僕達がとても大切な事を忘れていることを、
『メガネさん』は気づかせてくれたってだけの話だよ」
「私達が忘れている…」
「……大切な事やて?」
「でも、『メガネさん』も、もっと早く言ってくれれば、
時間を無駄にしないで済んだのですが……」
「あのなぁ~、オレは何度も言おうと「だから!何のこっちゃぁ、さっぱり解らん!
とっとと説明せんかい!」
俺の発言を遮り、カレンがレオンを小突く。
いや小突くというよりは、ドツク…いや殴るが正しいか?
結構、大きな音がした。
いや、ある意味、あえて良い音が鳴るように突っ込んだとも言える……のか?
しかし、本当に俺の発言が、遮られてばかりだな。
やはり、俺には発言権すらない可能性が高まった。
「ね、姉さん、グーはないだろう、グーは」
「うっさい!はよ説明せんアンタが悪い!」
「だったら、僕じゃなくて『メガネさん』に尋ねればいいじゃないか」
「アホ!『ベルメさん』どついたら、マリアまで一緒にどついてまうやないか!」
「いや、どついたりしないで、普通に尋ねなよ!」
「それができんから、どついてもかまわん、アンタをどついてん」
「理不尽だ!」
レオンよ、全国の――いや、全世界の姉を持つ弟がそれを感じている。
そして、諦めなさい。
姉という生物にとって弟の人権など、ヘリウムいや、水素より軽いもの――いや、
そもそも、弟の人権の存在を認識しているかも怪しい……
「っで、姉弟の漫才は置いといて、
実際どうなの『センセー』?」
「「漫才じゃない!」ちゃうわ!」
残念、ちょっと揃わなかった。
では、なく。
「今日の予定を思い出せ!」
「今日の予定って、今日は採取に出かける日で―――
あ~~!!
そうだった。
すっかり忘れていた。
確かに、時間を無駄にする所だった。
も~ぅ、『センセー』ってばもっと早く言いなさいよね!」
「だから、俺は何度も言「ちょっ、ちょっと、待ちぃなぁ、マリアまでウチを置いてけぼりにするんかい!」
――理不尽だ。
……もう、いいや、ヲレ弟じゃないけど、諦めた。
「えっ、『メガネさん』があんなヒントをくれたのに、まだ解らないの姉さん?
ぼく――私たちはこの2週間何をしていたんだい?」
「そらぁ、『ベルメさん』に依頼されて、『ティカの森』に採取に……
ああ~~!!!
せやった~。
採取に行くんやったら、何採ってきたら効率よく稼げるか、ギルドに依頼を見に行かなあかんかった!」
「そういうこと、よくできました姉さん」
「……何か、えらい馬鹿にされている気ぃもするが、
こんな、当たり前の事を忘れていたんやから、しゃ~ないか」
「と言う訳で、ギルドに行きましょう。
『センセー』のせいで、また余計な時間がかかってしまうわね」
くそっ、こんな身体でなければ、ジト目でマリアを見てやるのだが…
まぁ、人間諦めが肝心だ。
あれっ、でも、
いまのオレ人間じゃないから、諦めは肝心じゃないのだろうか?
「あれっ?
てっきり、何か言い返すかと思っていたのに、
随分静かなのね『センセー』?」
「………うっさい、さっさとギルドに行くぞ」
今回学んだよ。
メガネも諦めが肝心だ。
ヲレ以外に、諦めるメガネが存在するとも思えんがな。