第48話
マリアの家を出て、意気揚々と門へと向かおうとする、マリア、カレン、レオン。
カレンとレオンはいつもと変わらぬ感じであるが、少しばかり興奮しているようだ。
採取の旅に出ることは嬉しいが、冒険者として、それは表に出さないようにしているのだろうか?
それとは真逆に、マリアは興奮も嬉しさも全く隠す様子がない。
女の子として、その鼻息はどうかと思うぞ。
まあ、メガネの居場所が、鼻に近いせいでそう感じるのかもしれないが…
「あー、その、何だ。
皆やる気になっているところ悪いんだが、
ちょっと、いいか?」
「どうかしたんですか、『メガネさん』」
オレの問いかけに、レオンが返事をするものの、
皆、気が急いているのか、誰一人足を止めない。
「確認したいんだが、お前ら門に向かっていないか?」
「何を今更、ウチらは採取に向かうんやから、門に向かうに決まってるやん?」
「そうよ『センセー』、ただでさえ予定より遅れてしまっているんだから、
余計な事で、時間をとらないでよ!」
いや、予定より遅れたのは誰のせいだ?
お前だけには言われたくないわ!
小一時間ほど説教してやろうか?
………しないけど。
いいか、出来ないのではない!
あ・え・てしないのだ!
決して後が怖いから出来ないわけではないぞ!
誤解しないように!
「いやな、俺も早く採取に向かうにやぶさかではないのだが……
「なら、無駄口叩いてないで、さっさと行くわよ『センセー』!」
「せや、せや、とっとと行かなぁ、日が暮れてまうでぇ」
俺の発言を遮るマリアに、カレンが同調する。
レオンは何も言わないが、2人の意見に逆らう気はないようだ。
ある意味この2人に逆らわないのは正しい判断と言えよう。
一を言えば十を返すようなコンビだからな。
だが、ここは引くわけにはいかない。
なぜなら、黙っていて、この事を後で告げたら、
こいつ等は、自分等のミスは棚上げして、オレに対して文句を言うに決まっている。
俺が言おうとすると文句を言われ、言わなければ(きっと後で)文句を言われる。
―――オレの扱いって………
あれっ?
カレンとレオンは、マリアに護衛として雇われているんだよな?
そして俺は、アイツ等の雇い主である、マリアの先生だ。
マリアより偉い筈だよな?
つまりは、この中では一番上の立場だよな?
明らかに扱いがおかしくね?
理不尽だ!
訴えてやる!
オレの人権………
あれっ、メガネって人権が無い?!
何てこった!
これじゃ例え裁判になってもオレは勝てない。
―――まぁ、裁判ないけどね。
しかし、人権もないとは、
なんて不憫なんだ、このメガネの体。
久しぶりに、このフレーズを使ったな。
微妙に違っているが……
「あれっ、今日の門番はゲドさんみたいだ。
まずいね、姉さん」
「げっ、あのオッサンかぁ~」
「えっ、嫌な人なの?」
「いや、決して悪い人ではないねんで、
ただ、ちょっと、なぁ~?」
「そうだね、むしろ世話好きのいい人だよ。
…………話が長いのを除けばね」
「せやな。
冒険者としては駆け出しのウチ等を心配してか、
よう声をかけてくんねん」
「何か嫌味を言ってくるとか?」
「そらぁ、ない!」
「そうだね、異国出身の僕等にも平等に接してくれる、数少ない人だね」
「えっ!」
「アホ!何関係ないこと口走っとんや!
今は、そないなこと関係あらへんやろ!」
「……そうだね、失言だった。
今の言葉は忘れてほしい」
「でも………」
俺が考え事をしているうちに、門が見えるところまでたどり着いてしまっているし、
おまけに、レオンの失言のせいで、なにやらちょっぴり重い雰囲気になってやがる。
よし!ここはひとつ俺が、
「おまえ―「そうだ!いいこと思いついたわ!」
折角、俺が場の空気を変えてやろうと、声を出そうとしたら、
それを遮って、妙に明るい声でマリアが叫ぶ。
うむ、場の空気を読むことを覚えたか。
成長したなマリア――――――じゃなくて、俺の話をだな~
「なんや~、いいことって?」
これまた、不自然なほど明るい声でカレンが答える。
「えっとね~、門番の人に声をかけないで出て行けばいいんじゃない?」
「「それは、ない」わ~」
おおっ、見事なシンクロ。
語尾が違うのはご愛嬌――――でもなくてだな、
オレの話をだな~
「あれっ、いいアイデアだと思ったんだけどダメなの?」
「……マリア、それ本気で言っとるん?」
「姉さん、普通の人はあまり街からでることがないから…
知らなくてもしょうがないよ」
「そら、普通の人ならそうやろうけど、
マリアは錬金術師なんやで?
ちょいちょい外に出る……「姉さん!」
姉の失言にいち早く気づいた弟が発言を遮る。
そして、折角よくなりかけた雰囲気がまた……
―――よしっ、今日からお前等の名前は失言姉弟だ!
「「「……………」」」
っん、待てよ。
これは俺にとってはチャンスではないか。
よし!
「おまえ―「そう!ある意味、今日が私の錬金術師デビュー!」
明るい声で、天を指差しポーズをとるマリア
「そして、カレンとレオンは将来自慢するといいわ!
あの偉大な錬金術師マリアに冒険のノウハウを教えてあげたのは私達なんだから!
ってね」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔の2人。
あれなんかデジャヴュ?
「………そりゃええ。
ほな、マリアも自慢したってええで、
あの伝説の冒険者カレンを最初に見出したのは私なんだ!
ってな」
「ちょ、姉さん僕は?」
「せやったな、
ついでに、金魚の糞のレオンもな!
ってな」
「ひどいよ姉さん!」
「ええ解ったわ!」
「って解っちゃうの?
僕の扱い酷くない?」
「「「酷くない!」」」
よしっ、見事にハモッた。
へっ、へぇ~ん。
俺だってやれば出来るんだ。
「って、姉さんや、マリアさんならともかく、
『メガネさん』まで言いますか~?」
「ふんっ!貴様などまだ人権があるだけマシじゃないか
オレには人権すら……
おまけに、さっきから発言権まで……」
「いや、なんかスミマセン『メガネさん』」
え~い、同情なんかいらんわ!
同情するなら、人間の身体くれ!
「ちょっ、ウチ等ならともかくって何やねん?レオン?」
「自分のその薄っぺらい胸に「何やて!」
レオンそれは言っちゃいけない。
それは死を招く呪われた言葉だ!――――じゃなくてぇ!!!!
「いいから俺の話をきけぇー!!!!」
「もう、何なのよ、ちょっとおとなしくなったと思ったら、また騒ぎ出して。
いいわ、聞いてあげるから言ってみて『センセー』」
何でこう上から目線なんだマリアは……
まあ、いい。
やっと言えるぜ。
「次回へ続く!」