第42話
さて、どうするか。
何て、声を掛けたものやら…
「え~と、マリアさん?
明日の準備の方は順調でしょうか?」
うわ、俺ってば10歳相手に、敬語つかってるよ。
人としてどうよ?
まぁ、今は「メガネ」だからいいけどね。
「順調な訳ないでしょう!」
うぁ~、やっぱり、マリアさんてばお怒りモード?
「私は、採取に行くのは初めてなの!
カレン達みたいに、長旅をした事もないの!
『センセー』に教えて貰わないと、何も解らないの!
なのに『センセー』ってば、カレンとばっかり、楽しそうに話しちゃって、
カレン達にばっかりアドバイスして、私の事なんてどうでもいいんでしょ?」
いや、楽しそうにって、あれはある意味カレンをおちょくっ……げふん、
冗談を言い合っていただけで………
ひょっとして、こいつ、構ってもらえなくて寂しかったのか?
ってそんな訳ないな。
あのマリアだぞ。
ない。ない。
「あのな、マリア。
物には順序ってもんがあるんだよ。
アイツらがここにいたままじゃ、マリアの準備をするにの邪魔だろう。
だから、アイツらに伝えるべき事を伝えて、準備の為に帰してから、
マリアの準備をするつもりだったんだよ」
「…………本当に?」
「こんなことで嘘ついてどうする?」
「………………」
「………………」
「………………………………」
「………………………………」
「………………………………わかったわ。
『センセー』の言う事を、信じてあげる」
「何だろう、微妙に上から目線なのが気になるが、
まぁ、機嫌が直ったようなので、良しとするか。
信じると言うまでの間も気になるが、細かい事は言うまい。
本当の事なのだから、信じて貰えて何よりだ」
「『センセー』
考えている事が口にでてるわよ」
「えっ、マジで!」
「ええ、かぎかっこもついていたわ」
「……マリア、張り紙」
「おっといけない、それじゃぁ準備を始めましょう。
『センセー』」
ちなみに、マリアが『かぎかっこ』云々を言わなければ、
俺が「俺の口はどこにあった?」と訊こうとしていた事は内緒だ。
折角、機嫌が良くなったのだから、この流れに乗って、さっさと準備を進める事にしよう。
「よし、何はともあれ、まずはポータブル錬金術セットの準備からだな」
「えっ!採取に行くのに、錬金術の道具を持って行くの?
………やっと、『融合剤』の錬成地獄から抜け出せると思ったのに……」
「なぁ、マリアさんや。
お前は、何になるつもりなんだ?」
「…『錬金術師』よ」
「『錬金術師』が錬金術をしないで何をするんだ?」
「……でぃとれーど とか?」
「………現代の錬金術、株取引ってか?
この世界に株なんてねぇ~よ。
どこで、そんな言葉を覚えた?」
「う~ん、何かその言葉がひらめいたというか、
なにか怪しげな、腐のオーラ的なものが届いた的な……」
「お前の言っている事が俺には、さっぱりわからんよ」
「う~~~ん、何か『さんち』がどうとか、メガネは『せめ』『うけ』『リバもあり?』がどうとか
『どくでんぱ』なら得意技だからとか……」
「…………えっ! マジで?
まさか、マジで毒電波が届くとは……
しかも、マリアがそれを受信するとか、
そんなのありか~~~!!!」
誰か嘘だと言ってくれぇ~~ぇ~!!
「……っと………ちょっと、
……ンセ…、…………『センセー』ってば」
「…うん、あれっ、何だマリア」
「ん、もうっ『センセー』ってば急に返事しなくなるんだもん、
心配したじゃない!」
「…あれぇ、マリアもう毒電波は大丈夫なのか?」
「はぁ? どくでんぱ? 何言っているの『センセー』
本当に大丈夫?」
「あれっ、だってさっきディトレードとか、言っていたじゃないか」
「でぃとれぇど?何それ?」
「あ~れぇ、おかしいな?」
「いや、おかしいのは『センセー』だから」
はっ、まさか毒電波を受信していたのは・俺の方・だった・のか…?
恐るべし毒電波。
めったな事はいう(思う?)べきじゃないな。
まさに
「口は災いのもと」
だな。
「で、『センセー』の口はどこにあるのかしら?」
「…………マリア、それは、もういい…」
「…ちょっと、ほんとーに大丈夫『センセー』
テンションが、ダダ下がりなんだけど……」
「とっ、とにかくだ、何はともあれ、ポータブル錬金術セット。
これは必須だ。マストアイテムだ。
誰が何と言おうが、持って行ってもらうぞ」
「はい、はい、解りましたよ『センセー』」
「『はい』は3回だ!」
「はい、はい、はい。持って行けばいいんでしょ?
あ~あ、早く『融合剤』以外の錬成にも挑戦したいなぁ~」
「はぁ、何言ってんだ、お前」
「はい、はい、はい、どうせそんなのは半年は早いとか言うんでしょ!」
「……なぁ、マリア。
その首の上に乗せているモノは、頭突きをするためだけにあるのか?
それとも、私を乗せるための台か?」
「そうね、試しにメガネを破壊できるか試してみようかしら?」
「やめんか!
ちょっとは、モノを考えろ!
『融合剤』を錬成させるだけなら、採取に出る必要は無いだろう。
姉弟に材料を取ってきてもらう依頼を延長すればいいのだから」
「…えっ、じゃあ、他の錬成にチャレンジできるの?!」
「そう考えていたのだけれど、誰かさんはポータブル錬金術セットを持って行くのが嫌みたいだからなぁ~
今回はやめて置くべきかもしれ
「ポータブル錬金術セット、準備よしであります。
して、次に必要なものは何でありましょうか、『センセー』殿」
……俺が言い終えるよりも早く、返事を返してきやがった。
よっぽど『融合剤』以外の錬成をしたかったんだな。
しかも、言葉遣いがちょっと変になってるし……
俺的にも、これ以上レベル上げに向いていない『融合剤』の錬成だけを続けるなど、
微塵も考えていないのだが、それは黙っていよう。
「あれっ、採取に出かけてまで、錬成などしたくなかったんじゃないのか?」
「それは、いったい誰の事でありますか。
自分は、錬成大好きであります。
立派な錬金術師目指して、一直線であります」
「そうだったのか、マリアがそんなに錬成が好きだったとは知らなかったよ。
じゃあ、明日からの採取は取り消しにして、何ヶ月か『融合剤』の錬成を続けるか?」
「そっ、それは、ダメであります。
その、そう、急に予定を変更するなど、
カレン達にも悪いですから…」
「いや、いや、カレン達には違約金を支払うことで勘弁してもらおう」
「えっ、いや、お金の問題ではなく、信頼と言うか、え~と……」
「ぷっくっくっく、必至だなマリア。
ぶふっ。
ほんと……」
「………『センセー』わ・た・し・を・からかったんで・す・ね」
「さぁ、明日の準備を続けるぞ、マリアさん」
ちょっと、調子に乗りすぎた。
後悔はしている。反省は……してないな。
ちょっと、いや結構楽しかったのは内緒だ。