第39話
うわっ、アンジェラもセバスチャンもまさか断られるとは思っていなかったらしく、フリーズしてるよ。
いきなり、ブチ切れられるよりは良かったものの、フリーズ状態から回復次第、一悶着ありそうだ。
「え~と、そちらのお爺様が言われたように、
国民に大人気のアンジェラ様のライバルになんてなってしまったら、
きっと全国民から嫌われてしまうし、嫌がらせなどをしてくる人もいるかもしれません。
そうなってしまったら、私には耐えられません」
おおっ、相手に何かを言われる前に、マリアが先に理論武装を展開した!
しかも、しっかり相手の言質をとりつつ、相手を持ち上げる事も忘れていない。
なかなかやるではないか、マリア。
さあ、どうする、アンジェラ&セバスチャン。
もっとも、アンジェラは現在フリーズ中だが…
おっ、セバスチャンが行動するか。
「え~とですな
「この私とした事が、あまりの予想外の出来事に、思わず混乱してしまったザマス
ですが解りましたザマスわ」
と、思ったらまさかのイーブリンの復活だ。
セバスチャンも、予想外だったらしく、困惑して……いないな。
むしろ、少しほっとしているようだ。
イーブリンの乱入で有耶無耶にする気だな。
「そうですわ、私とエルドレッドが最後に会ったのが13年前。
エルドレッドも男ですものね。
私に会えない寂しさを悪い女に付け込まれて、ついつい魔が差してしまったのね。
そして、その女、いえ毒婦とでもいうべきかしら――に子供ができたのとか言われて、
何処の男の子供かも解らない子を押し付けられて、面倒を見させられたのね。
もう、しょうがないんだから。
まあ、私は心の広い女だから、一度の過ちぐらいは、許してあげなくもない……
という気持ちが少しばかりはあると言うに、やぶさかではないわ。
なので、隠れてないで、安心して姿を見せるがいいわ、エルドレッド!!」
と言って、ビシッという音が聞こえきそうな勢いで、奥の扉――エルドレッドの部屋の入口だ――を指さす。
すごいな、イーブリン。
息継ぎすることなく、一気に言いやがった。
もっとも、語尾の『ザマス』をすっかり忘れてしまっているけどな。
「あ、あの~」
おっ、マリアが話しかける気だ。
よく、話しかける気になったな。
「何かしら、毒婦の娘。
――いや、あなたに罪は無いザマスね。
悪いのはあなたの母親の毒婦であって、あなたではないザマス。
エルドレッドがあなたを娘と認めるならば、私もそのように扱ってあげるザマス」
「イーブリン様と父――エルドレッドはつきあっていたのですか?」
「あら、私とエルドレッドの馴れ初めを聞きたいのザマスか?
あまり人に話すものではないザマスが、
そこまで言うならば、話してあげてもいいザマス。
そう、あれは今から15年前―――」
あ~、語りだしちゃったよ。
こうなると長いぞ。
イーブリンの語りを全部書いていると、
とてもこの話に収まらない。
よって、要点をまとめておく。
もうすぐ成人を迎える頃、若かりしイーブリンは、ある日街でゴロツキにからまれてしまった。
偶々それを助けたのがエルドレッドであり、そのエルドレッドに一目ぼれしたのがイーブリン。
エルドレッドは名前も告げずに去ってしまったのだが、そこは恋する乙女(イーブリン談)の一途な思いで、
エルドレッドを探し出し、猛烈なアタック。
エルドレッドは全く相手にしていなかったのであるが、
――イーブリン曰く「彼は私の魅力にメロメロだったザマス」――
あまりにしつこい、イーブリンに困り果て、イーブリンに何も告げずに王都エンドに移り住む。
イーブリンもすぐに捜しに出ようとしたが、エルドレッドに近づくために、
相当な無理をして、『伝説の錬金術師 ガレフ』に弟子入りを認めさせていた。
そのため、イーブリンが一人前の『錬金術師』になるまで、旅に出る事をガレフは許さなかった。
ようやく、ガレフから一人前と認められたイーブリンに、アンジェラから錬金術の師になって欲しいと依頼がくる。
最初は、その依頼を受ける気はなかったが、エルドレッドが王都エンドに住んでいる事を知り、依頼を受けた。
そして、今のこの状況になっている。
という話を、イーブリンによって都合のいいように、捏造(ただし、本人にそのつもりはない)、曲解された話が語られた。
時間にして、1時間程だっただろうか。
いや、1時間かけても終わらなかった。
では、なぜ話が中断されたのか?
それは、イーブリンが気持ちよく話している最中に、新たな客が来たからだ。
ここ2週間、毎日この双子は採取したモノを届けに来ていたが、
今日ほどこの2人が来てくれて嬉しいと感じた日はないだろう。
マリアがここを逃してなるものかと、イーブリンの話を強制的に遮る。
ちなみに、今までにも何度か試みていたのだが、全てイーブリンの話を遮るには至らなかった。
しかし、ここに至ってやっと話を遮ることに成功した。
不満げな顔のイーブリンに対して、メガネからは表情は窺えないが、双子を迎える声から嬉しさが溢れ出ている。
「な、何やの、マリアのこの歓迎っぷり。
それに、こちらのおば―――――っひぃ~………おねぇさまは、なにもん?」
カレンが言いかけた「おばさん」の言葉にいち早く反応し、あの人を数人は殺せそうな視線を向けるイーブリン。
その視線に反応し、咄嗟に「おねぇさま」に切り替えるカレン。
カレン、危なかったな。
もし、そのまま言っていたら、今頃……
くわばら、くわばら。
「カレン、ちょっと待っていて。
こちらの方々は、もうすぐお帰りになるから」
「ちょっと、なに勝手に話を終りにしているザマスか
私はエルドレッドに会うまで帰らないザマスよ」
いつの間に用意したのか、
豪華な椅子に座って、セバスチャンが入れた紅茶を飲みながら、アンジェラも頷く。
ほんと、いつの間に用意しやがった、セバスチャン。
凄ぇな、一流執事の技。
「それは、解りました。
でも、ここにいても父には会えませんよ」
「今日は帰ってこないという事ザマスか?」
「そうですね、今日も明日も、ず~~っと帰ってきませんよ」
「ずぅ~~っと帰ってこないってどういうことよ!」
おい、語尾にザマスを忘れているぞ『ポイズン』さん。
爆発寸前のイーブリンを無視して、アンジェラの方を向くマリア。
イーブリンをほっといていいのかマリア。
そして、3話連続で喋っていないぞ俺。
これでいいのか?