第34話
「そういえば、『メガネさん』は僕た…私たちに依頼をすると言っていましたね」
「おっ、覚えていたか。なら話は早い。
私から――というよりはマリアからだな、依頼を出そうと思う」
「ちょっと『センセー』勝手に決めないでよ。
私は別に依頼なんてないわよ」
「マリア、しばらくは『融合剤』の錬成を続ける。
そろそろ、材料が足りなくなる。
なので、材料の採取を依頼する」
「そんなの、私が自分で採りに行くわよ」
「ふん。そんな暇があるなら、どんどん『融合剤』の錬成をしなさい。
お前は『冒険者』になりたいのか?
それとも『錬金術師』になりたいのか?
どっちなんだ?」
「そんなの『錬金術師』に決まっているわ」
「なら、私の言う事に従いなさい」
「でも、仕事を無理矢理やらせる為に、2人にご飯をあげた訳じゃないわ」
「そんな事は、この2人が一番解っている。なあ、そうだろう?」
私達2人のやりとりに、どうしたらいいか困っていた姉弟に話をふる。
「もちろんです。
マリアさんが、そんな打算的な気持ちで僕達を助けてくれた訳じゃないことぐらい解ります」
「せや、せや。
それにな、そんなよこしまな気持ちで、人助けするような奴は、そないな心配せぇへんよ。
ウチらはマリアがそんな奴だなんて、全く思ってへんよ」
「ほら見ろ。
それにな、マリア。
ちゃんと依頼料は払うぞ。
ギルドは通さないけど、正式な依頼だ」
「えっ、そうなの。
てっきり『センセー』のことだから、タダでこき使うつもりなのかと……」
「ほぉ~う。マリアが私の事をどう思っているか、よ~く解ったよ。
そんな目で私を見ていたのだな。
悲しくって、涙がでてくるよ」
「「「メガネだから、涙でないわよね」出せんやろ!」出せませんよね?」
3人揃って、突っ込みをいれてくる。
いや、微妙に語尾が違うか?
何にせよ、まだまだ息が合っていないな。
「まあ、それはいい。
という訳で前金を2人に渡してくれ、マリア」
「はい。でいくら渡せばいいの?」
「そうだな、大銀貨2枚を渡してやってくれ」
「ちょっ、ちょっと待ちぃ。多すぎるわ!
いったいウチらに何をさせる気や。
オークの×ンタマでも取ってこい、いうんかい?」
「姉さん。下品だよ」
「何が下品やいうんや?」
「だって、オークのごにょごにょなんて…
一応、姉さんだって女の端くれなんだから…」
「誰が端くれやねん!こんなに可憐な乙女に向かって。
それは、ともかくとして。
へぇ~、ウチ知らんかったわ。
オークのメンタマって下品やったんやな」
「え~えぇ、姉さんが言ったあれ『メ』だったの、てっきり伏せ字なのかと…」
「え~い、そこな姉弟、メタな話はやめ~ぃ!」
「ねえ『センセー』めたなはなしって何?」
「マリアよ。そこには触れずにスルーするのが、レディの嗜みってものだぞ」
「そうね、レディな私は、華麗にスルーするわ」
ふっ、ちょろいぜ!
「『センセー』今、何か変な事考えなかった?」
「んげっ、何の事かな?
そんなことより、前金の大銀貨2枚を早く用意してくれ」
ふーうぅ。危ない危ない。10歳とは言え、女の勘って奴は働くんだな。
気をつけよう。
「せ~や~か~ら、前金が多すぎる言うてるやろ!」
「確かに、珍しく姉さんの言っていることが正しいよ『メガネさん』
採取の依頼で、大銀貨2枚は多すぎます」
「多い分には黙って貰ってしまえばいいのに。
律義な奴らだな。
ほら見ろ、マリア。
私の目に狂いはなかったよ」
「『センセー』狂う目がないものね、メガネだから」
「……、あー、その何だ、
2人とも勘違いしないように。
仕事の内容をちゃんと聞いたら、この金額が妥当だと解るから」
「ほな、その仕事内容をきかせてや」
「うむ、まず2人には、『ティカの森』に採取に行ってもらう。
『ティカの森』はこの街を出て東にある。
近いので採取をしても日帰りで戻れる。
そして、『融合剤』の材料になるモノは、前金とは別にマリアが正規の値段で買い取る。
それ以外に手に入れたモノは、売りさばくなり自由にしていい。
ギルドで他の依頼を同時に受けるのもいいだろう。
そして、それを2週間やってもらう。
前金の大銀貨2枚は2週間『ティカの森』に行ってもらう依頼料金だ。
どうだろう?」
「なるほど、1回の採取ではなく、2週間分の料金ということですね。
そうですね、拘束時間の割に料金は安めだが、他の依頼を同時進行してもよいなら悪くない」
「せやな。護衛と違って誰かを守る必要もないしな」
「ただ、ひとつ問題があります『メガネさん』」
「何だね?」
「僕と姉さんでは、『融合剤』の材料になるモノを見つけられるか解りません」
「せやったぁ~」