第33話
カレンが俺をかけた瞬間。
俺の頭の中に[カレンとのシンクロにより、『冒険者』レベル3を獲得しました]という声が響いた。
以前にマリアが初めて俺をかけた時に聞いた声と同じだ。
いや、内容は違うようだが…
そして、以前と同様、この声は俺にしか聞こえていないようだ。
3人は特に反応していない。
「へぇ、以前地元の道具屋の婆ちゃんのメガネをかけた時は、なんや頭がくらくらしたんやけど、これはそんな事ないな。
かけてへん時と、ほとんどかわらんな」
と言って、周りを見ている。
マリアがかけた時と特に変わりは無いな………、ってちょっと待て。
「カレン!」
突然大声をだした、俺に3人が驚く。
「ちょっ、ちょう『センセー』はん、そんなに怒らんでもええやん。
別に盗ったり何て、もちろんせぇへんし、すぐにはずすから…」
「いや、そうじゃなくて、むしろはずすな!」
「えっ、はずしたらあかんの?」
「そのまま、マリアの方を見てくれるか?」
「えぇ、別にええけど…」
やっぱりだ。
マリアのステータスが表示されている。
ゲームで見たのと同じ画面だな。
あれ、こんなの以前から表示されていたか?
って、マリア以外の人が俺をかけたのが初めてだ。
当然、誰かが俺をかけた状態でマリアを見るのも初めてだ。
確認のしようがない。
そうだ、せめてもう一つだけでも確認しておこう。
「今度は、レオンの方を見てくれるか?」
「結構、人使いがあらいなぁ『センセー』はんは。
見るだけやから、別にええけどなぁ」
う~ん、表示されない。
マリアだけなのか?
俺が黙っていると、心配そうな表情のマリアが近づいてくる。
「『センセー』、まだ、カレンさんがかけていないとダメなの?」
「…ああ、もう確認はすんだから、はずしてもいいぞ、カレン」
「ホンマか、いやな、頭はクラクラせんからいいんやけど、
普段、かけてないから、ちょっと違和感があってん。
うん、何もないほうが、すっきりするな」
と俺をテーブル置こうとするのを、マリアが直接受け取る。
とたんに、さっきまでの不安そうな顔が、安心したような顔に変わる。
どうかしたのか、マリア?
「カレンさん、『センセー』は一つしか無い大事なモノなのです。
ちゃんと私に許可を貰ってから触れるようにしてくださいね!」
ああ、そうか俺が壊されたりしないか心配だったんだな。
そうだよな、俺がいなくなると『錬金術』を教える人(?)がいなくなってしまうからな。
だが、マリアよ。
たしか、お前が最初に私をかけた時も似たような感じだったぞ。
オレの記憶が確かならな。
「そうだよ、姉さん。あの『エルドレッド』様の作品なんだ。
万が一の事があったら、僕達が一生働いても弁償できないよ」
「アンタに言われたくないよ!
だから、壊したりしないように、慎重に扱っていただろう。
で、マリアごめんね。
今後は気ぃつける。
ちゃんとマリアに許可をもらう。
せやから、ゆるしてぇ~」
「いえ、その、解ってくれればそれでいいです。
私もちょっと強く言いすぎました」
そう言って互いに頭を下げる。
そっか、俺の価値って凄いんだな。
マリアが将来金に困って、俺を売ったりしないように、『錬金術』だけでなく、金儲けもしっかりしないとな。
それと、そこで頭を下げあっている2人。
俺の体なので、是非「俺の許可」もとってね。
「それで、あのぉ『先生』さん。
お話はそれだけでしょうか?」
「ああ、そうだった。
しかし、マリアはともかく、2人にまで『先生』と呼ばれると変な感じだな」
「そうよね。私にとっては『錬金術』の『センセー』だからそう呼んでいるけど、2人には関係ないものね」
「そやなぁ~、確かにウチらにとっては『先生』とちゃうしなぁ~」
「あの~、メガネなんだから『メガネさん』でいいのではないでしょうか?」
「お前はアホか!まんまやないか~!」
「いや、それでいい。『メガネさん』でいこう」
「ええ~、『センセー』それでいいの?
カレンさんも言っていたけど、そのまんまじゃないの」
「わかりやすくて、いいじゃないか。
という訳で『メガネさん』で決定だ」
「了解しました。『メガネさん』」
女性陣2人に否定されてちょっと落ち込み気味だったレオンが真っ先に同意する。
「ええ~、ウチは嫌やわ。
え~と、しゃべるメガネやから……
最初と最後をとって…しネ…はないわぁ~、
なら、逆に真中をとって…べるメ……結構いいかも。
よっしゃぁ~、『ベルメさん』
ウチは『ベルメさん』って呼ばしてもらうわ」
「べつにいいぞ」
「そんな、あっさり決めちゃっていいの『センセー』
確かに『ベルメ』って結構かわいくていいと思うけど…」
「せやろ、いやぁ、やっぱりマリアは解っとるわぁ~」
『ベルメ』って可愛いか?
女の考えは解らん。
そもそも、俺に可愛い名前をつけるセンスがそもそも解らん。
いや、この2人がきっと特殊なんだろう。
むしろ、そうであってくれ。
「呼び名など何でもかまわん。好きに呼ぶがいい」
「いやん、『ベルメさん』ってば、おっとこまえ」
「さて、呼び名も決定した所で、お仕事の話をしようか」