第32話
「さて、姉弟が落ち着くまで、我々の事を相談しておくか、マリア」
「えっ、2人はほっとくの?」
「ほっとけば、すぐこっちの世界に戻ってくる。
逆に言えば、すぐに戻ってくるから、こっちの話をとっとと進めておこう」
「…まあ、何かしないといけない訳じゃないし、
そうね、私たち――というか『センセー』の考えを聞かせて」
「うむ、まず私の事を誰にも話さず、ずっと隠し続けるのは難しいだろう。
かと言って、全ての人に知られるのもどうかと思う」
返事は無いが、無言で頷くマリア。
そういえば、マリアの顔をこうして正面から見るのも久しぶりかも。
「そこでだ、信頼できる一部の人々には私の事をある程度話そうと思うのだ」
「『センセー』がそう考えるのであれば、私には異論はないわ。
でも、カレンさんとレオンさんをそんなに簡単に信頼していいの?」
そうだよな、その質問はしてくるよな。
俺は、この2人の事をよく知っている。
ゲームに登場した人物だからな。
だから、この2人は信頼して大丈夫だと知っている。
しかし、マリアにそう説明する訳にはいかない。
さて、どうするか…
「そうだな、まだ信頼はしていない」
「なのに、話してしまっていいの?」
「だが、信用していい2人だなとは思っている。
今までの態度を見るに、間違いなく悪い奴らでは無い。
それに、マリアも姉弟の事、結構気に入っているだろう?」
「うん、悪い人たちでない事は確信しているし、
ほら、私ってば一人っ子だから、姉弟っていいなっていうのもあるかもだけど、
2人の事は、いい人達だなぁ~と思っているわ」
「いや~ぁ、ウチらの事、信用してくれてありがとう、マリア。
それから、そっちの『センセー』さん?、思いのほかウチらのこと高評価なようで」
戻って来たか。いや、今の感じだと、俺らの会話を聞いていて、入るタイミングを窺っていたな。
やはり、カレンは強かな所があるな。
「聞いていたんですか?」
「いや~、正気に戻ったら、何や真剣な顔で話してるんで、邪魔したら悪いな~思うて。
盗み聞きするつもりやなかったんやで。ほんま」
「まあ、聞かれて困る話でもないし、別にいいさ」
「おっ、変わった見かけの割に、意外と話せる人やなぁ、アンタ」
「姉さん『人』ではないと思うよ」
「おおっと、弟くんも、話せるようになったようなので、私から説明させてもらってもいいかな?」
弟のツッコミに、姉が言い返そうとしていたので、先んじて話す事で遮らせてもらった。
コイツらが言いあいを始めると長いからな…
そして、2人が頷くのを確認してから話し始める。
「まず、御二人が一番に聞きたいのが、私の事だろう。
私がいったい何者か?
これを、一言で言うのは難しい。
そこで、まず、御二人は『錬金術師 エルドレッド』を御存知だろうか?」
「エルドレッド?あれ、どっかで聞いたことあるで。
どこでや?」
「姉さん、何言ってんのさ。あの『伝説の錬金術師 ガレフ』様の一番弟子。
ガレフ様を除けば、この国で一番と言われる錬金術師の名前じゃないか」
「えっ!「そうやった、そうやった。どうりで聞いた事あるような気がしててん」
「ねぇ、『センセー』いま 「えっ!」って驚いてなかった?」
マリアが俺にだけ聞こえるように、オレの耳元で訊ねる。
俺に耳はないから、近くで囁いたと解釈してくれ。
「ナニヲ、イッテイルノカナ、マリアくん、ソンナコトナイヨ」
姉弟は気付いていないし、そこは見逃してください。マリアさん。
しかし、偉大な錬金術師だとは知っていたけど、それ程とは思わなかった。
何せ、いろいろ残念な面を知っているからなぁ……
よし、それは無かった事にして、説明を続けてしまおう。
「そう、その『エルドレッド』がマリアの父親だ」
「「えっ、ええ~~~!!!」」
ホント、仲いいなお前ら、ばっちりシンクロしているよ。
そして、マリア。
そのドヤ顔はやめなさい。
凄いのは父親であって、今のお前はそれ程凄くないから。
そして、姉弟よ、マリアが増長するから、尊敬の目でマリアを見るのをやめなさい。
「…え~と、説明を続けていいかな?」
「あっ、すみません。どうぞ続けてください」
弟が丁寧に答える。ある意味メガネ相手に大したもんだ。
で、姉は…こっちも聞く気はあるようだな。
「まあ、続けると言っても、すぐに終わる。
要するに、私はあの『エルドレッド』の娘がかけている『メガネ』という訳だ。
色々と訳ありなので、そう理解してもらえると助かる」
「なるほど~、あの『錬金術師』様が作ったメガネっちゅうこっちゃな。
そりゃ、喋ったりしてもおかしないな」
「そうだね姉さん。あの『エルドレッド』様が作ったのなら、有り得るね。
やっぱり凄い『錬金術師』なんだね。
ナニワハラにいた時は、こんな風に喋るモノなんて見た事がなかったもの」
よしよし、こいつらも俺を父親が作ったと勘違いしてくれた。
まあ、そう仕向けた訳だけどな。
ニヤリ。
マリアも父親の事を誉められて、凄く嬉しそうだ。
俺はうまく誤魔化せた事に喜び、
マリアは父親を誉められ、浮かれていた。
だから、我々は油断していたんだな、
カレンの次の行動に反応するのが遅れてしまった。
「なあ、メガネ、ウチにもかけさせてぇ」
と言うや否や、俺を手に取り、かけてしまった。