第31話
「……腹話術まで、できるんやね」
マリアが思わず、ずっこける。
いや、本当にこけた訳ではないが、上半身が大きく傾いて沈んだ。
マリア、それ俺が落っこちそうで結構怖いから、今後は控えてくれ。
まあ、落ちても痛みはないんだけどな。
でも、壊れたらどうなるんだろう?
流石にこれは試せない。
「口は全く動いてへんし、声も全然違う声になっとった。
芸人としてもやっていけるで」
「おっ、その発想はなかったな。
どのぐらい稼げるか試して見るか、マリア?」
「ちょっと『センセー』ふざけないでよ」
「おっ、もう一人の人格は『せんせー』ちゅうんか、
なんや、もう準備万端やん?」
最初はカレンが冗談で言っていると思っていたが、どうやら本気で言っているようだ。
どうするかな…
「……姉さん、違うよ」
「何が違うん?」
「腹話術じゃないよ」
「ちょっ、あんた何言ってん。
腹話術じゃないんなら、何やの?」
「何なのかは、僕……私にもわからない。
でも、今のが腹話術ではないことは解る」
「な~に『私』なんて気取ってん、『僕』でいいやん」
「姉さん、今はそんなことは関係ないだろう。
いいから、僕の……私の説明を聞いてくれくれよ」
「じゃあ、『私』じゃなくて『僕』にしたら、聞いてやってもええよ」
「何で説明を受ける側の姉さんが、上から目線なんだよ!」
「そんなん決まってる。ウチが『姉』だからや」
「たかだか、僕より10分早く生まれただけじゃないか!」
「例え10分でも、立派な『姉』や。
そんであんたは『弟』これはいつまでたっても変わらへん。
んで、『僕』にしたから説明を聞いてやるから、早よ話せ」
「………わかったよ。
何故、腹話術でないと解ったかのか、それは、
『マリア』さんと『せんせー』さんが同時に喋っている時があったからさ。
いくら凄腕の腹話術であっても、同時に喋ることは不可能。
よって、今のは腹話術ではない」
レオンの何らかのスイッチが入ってしまったのか、
――とりあえず、やる気スイッチではないと思うが…
立ち上がり、ビシッという音が聞こえそうな感じで、
人差し指でマリアを指さす。
どこぞの弁護士や検事か?
何にせよ、人を指さすのはやめておきなさい。
「…え~と、何と言ったらいいのか…
とりあえず、私はふくわじゅつ?なんてできないわよ」
姉弟のやり取りに、いつ突っ込んでいいかタイミングをはかりかね、
やっと、止まった所に口をはさむマリア。
何と言ってやったらいいのやら。
――とりあえず、頑張れ。
「…あれっ」
ちょっぴりドヤ顔だったレオンが、不思議そうな表情にかわる。
「そもそも、ふくわじゅつって何?」
「ぷっ、ぶわっはっはっは~~、レオン、ぶふぅっ、かっこ悪ぅ~、はぁっはぁっは~」
弟を指さしながら、腹を抱えて笑いだす姉。
だから、人を指さすのは……ってやっぱり声に出さないと伝わらないよね。
「わ、笑う事は無いだろう。僕は腹話術でない事を証明しただけで…
ってそもそも、最初に腹話術って言いだしたのは姉さんの方じゃないか」
「あれっ、そうやったか?
まあ、そんなのどっちでもいいやん。
で、マリア、どんなカラクリなん?」
「エー、エット、ソノ~」
突然話を振られた……からではなく、どうこたえるべきか悩むマリア。
「私が答えるよ、マリア。
それと、腹話術の疑いは消えたようだが、このままだと分かりにくいだろうから、
いったん私を外して、テーブルに置いてくれ」
「…わかったわ、『センセー』」
そう言って、私を外してテーブルに置く。
再び、2人とも鳩が豆鉄砲を食ったような顔でそのやり取りを見ている。
お前ら豆鉄砲すきだね。