第29話
突然、怒りだしたマリアにどうしていいか困っているのは、俺だけでは無かった。
カレン・レオン――双子も何で怒られているのかわからず、どうしたらいいのか困っているようだ。
そんな2人を置き去りに―勿論、俺もな―マリアは地面を見ながら、ブツクサ言っている。
「いや、怒るのは筋違いよね…
碌に話が出来る状態ではなかったみたいだし…
むしろ、私がそれを推測すべきだった…
うかつだったわ…」
俺はポジション的にマリアの呟きが聞こえるが、姉弟には聞こえないだろう。
一喝したかと思ったら、急に視線をそらして、ブツブツなにやら呟く少女。
不安だろうな、あの姉弟。
オレなら逃げ出しているね、ほぼ間違いなく。
今はメガネだから逃げられないけど…
「よし!」
考えがまとまったのか、マリアが姉弟にも聞こえる音量で言うと、再び2人を見る。
「あなたたち、ちょっと家まで来なさい!」
「「へっ」」
マリアの突然の申し出に、戸惑う2人。
お前ら、ホント息が合ってるな。
「あなたたち、5日も何も食べていなかったんでしょう?
なら、もっと消化のいいものを食べなければダメよ!
返って体に悪いわ。
家で何か作るから、それを食べなさい!」
ああ、マリアが不機嫌だった理由はそれか。
――まったく、マリアらしい理由だ。
「メシ、くれるのか?」
カレンが訊ねる。
「そう言っているのよ、ついてきなさい。
ああ、その荷物持って貰える?」
「ええ、荷物ぐらいはお礼に持ちますけど、本当にいいのですか?」
今度はレオンが訊ねる。
「もうっ、うだうだ言ってないで、黙って私についてきなさい!」
「「はい」」
おお、姐御のようだな、マリア。
そして、姉弟よ、10歳の少女相手にそれでいいのか、お前ら…
駆け出しとはいえ、冒険者としてそれはどうよ。
それからは、特に問題もなくマリアの家に辿り着く。
いや、そんなに問題ばかり起きても困る訳だが…
「荷物はそこのテーブルに置いてちょうだい。
で、2人はそこで座って待っていて」
有無を言わせず、マリアが言いながら、買って来たものから幾つかの食材をチョイスして、キッチンに向かう。
姉弟はおとなしくしている事に決めたようで、素直にテーブルに並んで座る。
もちろん、座っているのは椅子だぞ。念の為。
マリアはキッチンに入るとエプロンを着て、手際良く料理を始める。
父一人、娘一人の生活が長く、父親の料理の腕が残念だったため、必然的に料理を幼少の頃より始めたとの事。
そのため齢10歳にしては、マリアの料理はかなりうまい…らしい。
なんせ、この体なので、実際に食った事はないので、正確な評価はしかねる。
味覚どころか嗅覚もないからな、この体。
いや、普通のメガネはそういうものだが…
だが、テキパキと料理をこなしていく姿を見る限り、少なくとも下手ではないのだろう。
―などと考えている内に、料理が完成したようだ。
スープか?いや、どちらかといえば雑炊だろうか?
ともかく、皿によそい、スプーンを用意し、お盆にのせて2人が待つテーブルへと運んで行く。
普通に座っていたレオン、テーブルに突っ伏していたカレンの2人が一斉にこちらを向く。
そして、マリアがカレンの前に皿を置くや否や、カレンがスプーンを取り、食べ始める。
「あっつ!、あっつ~~い!!」
「ちょっと、姉さん、行儀が悪すぎるよ!」
「はい、お水」
マリアがコップの水を差し出すと、一気に飲み干すカレン。
「あ~、あつかった。あんがとね。嬢ちゃん」
「すみません、がさつな姉で」
「そんな事は気にしなくていいから、あなたも食べて」
てっきり弟に「がさつ」呼ばわりされて、反論するかと思いきや、
食べる事に夢中――正確には、スプーンによそって冷ますの夢中で、聞いていなかったようだ。
そして、マリアに食べるよう促されたレオンも、スプーンを手に取り、息を吹きかけ、冷ましてから口に含む。
「うっ、うまい!!―じゃなくて、おいしいです」
「そう、よかったわ、お口にあって。
見た感じ2人とも、外国の人っぽかったから、
お口にあうかちょっと心配だったの。
まだ、あるから、足りなかったら言ってね」
「おかわりー!」
あっという間に皿を空っぽにしたカレンが、皿を突きだす。
あれっ、レオンのツッコミが入らないぞと、弟を見てみると、こっちも食事に夢中になっていた。
マリアは皿を受け取ると、
「ちょっと待っててね」
と言って、キッチンへと戻り、おかわりをよそって、カレンに差し出す。
そして、皿が置かれるや否や猛烈な勢いで食べ始めるカレン。
まるで、先程のシーンを録画・再生しているかのようである。
そして、またマリアの前に空っぽの皿が差し出される。
ちょっと待て!
いくらなんでも、早すぎないか?
と思ったら、皿を差し出したは、レオンの方だった。
「すみませんが、僕にもおかわりをいただけないでしょうか?」
先程、さも当然のような顔で皿を差し出した姉とは正反対に、
さも申し訳ないような表情で皿を差し出す弟。
「もちろん大丈夫よ。ちょっと待っててね」
と言って、キッチンへとおかわりをよそいに行き、レオンに差し出す。
以上を繰り返す事3回。
料理が無くなり、ご飯の時間は終了を告げる。
2人はまだ、食べたそうにしていたが、空になった鍋を見せられては、納得するしかない。
まあ、4杯も食べたのだから、充分であろう。
また、食べ過ぎてもよくないしな………って、マリアのヤツ量まで考えていたのか?
食後のお茶を用意したマリアがテーブルに着き、2人を見て言った。
「え~と、まずはお二人の名前を聞いてもいいでしょうか?」
――そうだよ、こいつらまだ自己紹介すらしてねーよ。