第27話
何度も言っているが、現在マリアは俺をかけている。
なので、マリアの表情を窺う事はできない。
だが、今俺は、マリアの目が¥になっている事がわかる。
なぜなら、手にした大銀貨5枚をじっと見つめて、身動き一つしないから。
さらに、「ぐひひ」と表現できる笑い声が聞こえるからな。
これが少年漫画ならば、この瞬間にヒロインからドロップアウト確実である。
もっとも、俺にとっての嫁は最初からマリアじゃないからな。
俺の中の評価はさほど変わっていない。
あ~、早く嫁に逢いたい。
いや、この姿で逢っても意味がないからな。
まずは、身体を取り戻してからだ。
…駄洒落じゃないからね。
さて、そろそろマリアをこっちの世界に呼び戻すとするか。
「マリア」
「…ぐひっ、ぐひひ」
「マリア!」
「ぐひひ」
「マ・リ・ア~~!!!」
「っひぃ。
ってなによ、急に大声出して!
周りの人が変に思うじゃないの!」
やっと、俺の声に気付きやがった。
「大丈夫だ。私が声を出す前から、変な眼で見られていた。
お金を見つめて、不気味な笑いをしている不審者をな」
「ちょっ、ちょっと、女の子に対して不気味って表現はどうかと思うけど」
「そうだな、お金を見つめて「ぐひひ」と笑う女の子もどうかと思うけど」
「……しかたないでしょう。こんな大金、手にしたの初めてなんだから」
「そう思うなら、誰かに取られたりしないように、大事にしまっておけ」
「そうね。そうするわ」
そう言って素直にお金をしまう。
「これで、家賃の大銀貨1枚を除いても、大銀貨が4枚もあるわ。
これなら、ちゃんとした生活ができそうね。
じゃあ、さっそく買い物に行きましょう『センセー』」
「…それでも構わんが、さっきの説明はいいのか?」
「ん?さっきの説明?……そうよ、お金に換えたら説明してくれる約束だったわね」
絶~対忘れてましたよね、完璧に。
まあ、追求してもしらばっくれるだろうから、触れずにいてあげよう。
「なぜ、依頼では、高く買い取るのか?
だったな」
「そう。そう」
「一つには、急ぎで欲しいから、という理由がある。
だが、『融合剤』は在庫がなくなることが稀であるから、
『融合剤』以外のモノの場合にのみ当てはまるかな」
「うん。つまり今回はその理由ではないって事ね」
「そうだな。
そして、今回は『融合剤』ならではの理由になる」
「『融合剤』ならでは?」
「ある程度のレベル以上の錬金術では『融合剤』が欠かせない事は知っているな?」
「ええ。お父さんも常に『融合剤』のストックは欠かさなかったわ」
「では、さらに高レベルになると『融合剤』を複数同時に使う事は知っているか?」
「えっ、『融合剤』は例え同じ色でも、混ぜてはいけないって、教わったけれど……」
「そうだな、『融合剤』を混ぜるのは危険が伴うので、『錬金術師のたまご』を卒業するまでは禁止されている。
だが、ある程度以上のレベルになると必要になる」
「へぇ~、全然知らなかったわ。
でも、私がそれを知ってしまってもいいの?」
「そうだな、6種類全ての『融合剤』の錬成に成功したので、知ってもいいだろう。
むしろ、知っておくべきだな」
「っていうことは、私ってば『錬金術師のたまご』を卒業した?」
「あと3日ぐらい『融合剤』を錬成したらな」
そうすれば、錬金術レベルが2になるから、卒業としてもいいだろう。
「へへ、そっか、立派な『錬金術師』にまた一歩近づいたのね」
マリアの表情は例によって見えないが、声のトーンだけで、嬉しい気持ちが伝わってくる。
だが、
「喜んでいる所、水を差すようで悪いのだが、説明を続けてもいいだろうか?」
「ああ、そうよ、説明の途中だったわね」
「『融合剤』を複数使う際に、『融合剤』の錬成をした者が影響してくる。
同一人物が錬成した『融合剤』を使うと、成功率が上がる。
また、造った物の品質が高くなり易い……と言われている」
「それで、今回の依頼では、同一人物が錬成した『融合剤』を高く買い取るとしていたのね。
でも、同一人物が錬成した『融合剤』ってどうやって見分けるの?」
「良い質問だ。
そこで『鑑定』スキルが必要になる。
『鑑定』スキルがあると製作者の名前を見る事ができるようになるのだ」
「へ~え、『鑑定』スキルってそんな事もできるのね。
そうか、だからさっきの私が錬成した『融合剤』だって解ったのね」
「まあ、窓口は必ず『鑑定』スキル持ちが担当するからな。
さて、とっとと買い物を済ませて、『融合剤』の錬成をしてしまうぞ」
「うへぇ~え、また『融合剤』の錬成なの?」
「それが嫌なら、とっとと『C』ランク以上の『融合剤』を錬成することだな」
「むむ。今に見ていなさいよ」
こうして我々はギルドをあとにした。