第25話
さて、無言で歩く事約10分ほど。
目的地である『ギルド』に(迷うことなく)辿り着いた。
ちなみに、この『ギルド』
ゲーム内でも移動した際に、入口でイベントが発生することが結構あったので、外観は何度も見ている。
なので、マリアの家の外観を見たほどの感動はない。
マリアも父親のお使いで来たことがあると言っていた通り、迷う事なく中へと入り、窓口へと向かう。
「違う、そっちじゃない」
俺が囁くように小さな声でマリアに告げる。
「ちょっ!……」
俺の言葉に、文句を言おうとして、周りに人の目があることに気づき、咄嗟に口を塞ぐ。
そして、人目につかなそうな場所に移動してから、俺にだけ聞こえるような声で話しかけてくる。
「ちょっと、さっき外では会話はしないと決めたばかりじゃないの!
変な眼で見られるのは私なんだからね!」
きっちり小声で怒鳴っている。なかなか器用だな、マリア。
「うむ、正論だな」
「正論だな――じゃないわよ!そう思うなら黙っていてよ、セ・ン・セ・イ」
「私もそうしたかったのだが、マリアがいきなり買い取りカウンターに向かったりするから…」
「だって、まずは『融合剤』を売ってお金を貰わないと、買い物もできないじゃない」
「そうだな、我々は『融合剤』をお金にするべくここに来た」
「そうよ、だから買い取りカウンターに向かうのが当然でしょう?」
「ちっ、ちっ、ちっ、あまいな」
俺の頭の中では、人差し指を立て、それを左右に振りながらセリフを言うイメージだが、
今の俺には指がないので、それはできない。
なんて不便なんだこのメガネの体。
「何があまいっていうのよ?」
「いいか、そのまま『融合剤』を売ったなら、『融合剤』×7本で銀貨14枚。
もしかしたら、昨日錬成した『融合剤(緑)』は銀貨2枚でなく、もうちょっと高く売れるかもしれない。
それでも全部で銀貨20枚ぐらいだろう」
「十分じゃないの、それだけあれば、食料を節約すれば、来月分の家賃も払えるわ」
「いや、流石に来月までの食費が大銀貨1枚では足りないよ。
それに、銀貨20枚ぐらいと言ったが、正確にはよくて銀貨18枚、悪ければ銀貨16枚だな」
「うっ、さすがに一月分の食費が大銀貨1枚ないのはちょっと…」
「正確には今月がまだ残っているから、一ケ月以上だな」
「……追い打ち?ってか、とどめ?」
「いや、単に現実だ」
「………」
「いかに考えがあまいか、わかったか?」
実際は、これからも『融合剤』を錬成する訳で、それを売ればまたお金を手に入れられるのだが……
――まあ、この後の説明がスムーズに進みそうだから、黙っていよう。
「じゃあ、一体どうするの?」
「マリアも『錬金術師のたまご』の端くれなら、「『融合剤』はまとめて売りに行け」
という言葉を聞いた事があるだろう」
「…端くれって何よ、端くれって…」
「何か言ったか?」
「聞いた事があるって、言ったのよ」
「……」
「………」
「…………まぁ、いい。
では、その言葉の意味は知っているか?」
「えっ、意味?……え~と、
ちまちまと売りに行かないで、錬成に集中しろ……とかかな?」
「おおっ、流石はマリアだ」
「えっ、当たった?」
「全~然違うよ」
「きぃ~ぃ!……じゃあ、どういう意味なのよ?」
「その答えは……実践してみようか」