第24話
原因はすぐに判明した。
と言うか教えてくれた親切な人がいた。
「…マリアちゃん。こんな所でひとりでブツブツ言って、どうかしたの?」
本日も麗しのエリナさんだ。
エリナさん、声も綺麗なんだよな~。
って、一人?
何言っているんですか?
ここに、俺がい………しまった!今、ヲレ、メガネだったよ!
客観的に見れば、10歳の女の子が、今まではかけていなかったメガネをかけて、自分家の近所で独り言をいっている。
うわぁ~、おもいっきり怪しいわ~。
これが、リアルの俺だったら、今頃通報されていてもおかしくないレベルだよ。
ましてや、マリアには唯一の肉親を亡くしてまだ一週間というオプションまでついている。
そりゃあ、まわりも心配するよ。うん。うん。
メガネだから頷けないけどな。
――と納得している場合ではない。
言い訳せねば……、って俺が喋ったらダメじゃん!
マリア、頑張ってくれ。
こんな時、マリアの表情を窺えないのがもどかしい。
なんて不便なんだこのメガネの体。
「ナ、ナンデモナイヨ、エリナお姉ちゃん」
っはぁ~ぁ。マリア。その「ナンデモナイヨ」は明らかに何かある「ナンデモナイヨ」だ。
かえって相手を不安にさせる。
案の定、エリナさん物凄く心配そうな顔をしている。
「え、え~と、そう、買い物。
買い物に行くところだったの。
それで、買い忘れがないように、買う物を確認していたの」
おお、うまいぞマリア。それなら、立ち止まってブツブツ言っていたのも納得がいく…と思う。
「そ、そうだったの。
でも、困ったことがあったらいつでも言ってね。
遠慮なんかしなくていいんだからね。
あっそうだ、私も一緒について行こうか?」
エリナさんが納得半分、不安半分という表情で、答えつつマリアの様子を窺う。
「ありがとうございます。エリナお姉ちゃん。
でも、お父さんが生きていた頃から何度もお使いには行っていたし、
それに、私もう10歳になったんだもん、一人でも買い物ぐらいできるよ」
マリアが元気よく答える姿を見て安心したのか、エリナさんが微笑みを浮かべる。
「じゃあ、気をつけて行ってくるのよ」
「はい、行ってきます」
エリナさんに手を振って、マリアが歩き出す。
ある程度距離が開いた所で、マリアにだけ聞こえるように呟く。
「マリア、返事はしなくていいから、そのまま歩きながら訊け。
聞こえて、理解できたなら、声に出さなくていいから頷くように」
マリアが頷くのを確認すると、また呟く。
「外で、さっきのように私と会話をすると、周りからオカシイ人と思われてしまう」
マリアが無言で何度も頷く。
いや、何度も頷かなくてもいいぞ。
むしろ、何度む頷くと俺が揺れるから、1回にしておけ。
「なので、今後他の人がいる所では会話はしない。
特にマリアは俺に話しかけないように。いいか?」
「わか………」
一瞬返事をしかけて、慌てて声を止めて、頷くマリア。
――今、声だしたよね。言ったばかりだというのに……
まあ、これから気をつければいいだろう。
それからは、我々は無言で『ギルド』へと向かった。
で、マリア。息まで止めなくていいからな。
そろそろ限界だろう。
息をしていいんだぞ。
と俺は心の中で呟いた。