第23話
「マ・リ・ア・さ・ん、本気で訊いている訳じゃないよな?」
「ヤ~ネ、カルイジョウダン二キマッテイルジャナイノ。
え~と、こういう時は『ギルド』に行けばいい……筈よね」
この世界――とうかこの街という方が正しいかも――には「困った時は『ギルド』に行け」という格言めいた言葉がある。
(格言、たしか英語にするとAphorismって別にどうでもいいか)
例えば、欲しいモノがあるが見つからない時。、
『ギルド』で売っていないか訊いてみる。
それでも見つからないなら、依頼を出す。
あるいは、畑が野生動物に荒らされて困っている。
『ギルド』で罠を買う。
または、毒入りの餌を購入する。
そうでもなければ、冒険者を雇って、野生動物を追い払うか、駆除する。
今回に近い例なら、お金がなくて困っている時。
自分が持っているモノを売りに行く。
もしくは、依頼を受けて報酬を得る。
よくある『冒険者ギルド』をイメージしてもらっていいのだが、この世界ではちょっと違う。
他の世界の多くは、『冒険者ギルド』『商人ギルド』『魔術師ギルド』など、細かく分かれているが、
この世界では、それらがまとまって『ギルド』となっている。
一番想像しやすいのが、コンビニエンスストアをイメージしてもらうと解りやすいだろうか?
『ギルド』という一つ建物で、各ギルドの役割を果たしているような感じだ。
メリット・デメリットどちらもあるが、あちこち行かなくて済むとか、24時間窓口が開いていて便利だ、などと概ね好評なようである。
そして、勿論『融合剤』の買い取りも常時行われている。
「……そうだな、『ギルド』に向かってくれ。道は解るな?」
「もちろん、大丈夫よ。お父さんのお使いで何度も行った事があるもの」
ふうー。よかった。
道が解らないと言われたら、途方にくれるところだった。
あんな言い方をして何だが、実は俺『ギルド』への道を知らないんだよ。
なぜ、道を知らないのかというと、
――ゲームでは、移動は場所を選択する方式だったのだ。
なので、各施設の大まかな位置関係はわかるものの、詳細な道は知らないのだ。
ほんと、マリアが知っていてよかった。
しかし、マリアの家(正確にはあのババアの家だが…)こんな外観だったんだな。
ゲームでは移動先選択で、移動すると部屋の中のグラフィックになるから、外観を見た事なかったんだよ。
「へ~え、こんなすぐそばに宿屋があるんだな」
「えっ、何言ってんの、大家さんの家じゃない」
「え~えぇ!!まじでぇ~!!」
「何よ、知らなかったの?」
いや、そんなの初耳だよ。
そんなイベントはなかった……筈だ。
確かに会話の中でババアの家は(何かは解らないが)商売をしていると言っていた。
そしてエリナさんの父親である、ババアの息子が跡を継いでいて、エリナさんと結婚した彼氏がそれを引き継ぐ的な話はあった。
でも、何の商売か明らかになるイベントはなかった。
知らなくても仕方がないじゃないか。
宿屋なんか移動場所に表示される事は無かったし、行ったことないんだから。
マリアが泊まる理由がないだろう?
直ぐ傍に自宅(借家だが…)があるんだから…
――待てよ、エリナさんの家が宿屋をしているなら、あのイベントのエリナさんのセリフ。
「この間はお客様を紹介してくれてありがとうね、マリアちゃん。
これ、つまらないモノだけどお礼ね」と言ってちょっとしたアイテムを貰えるイベント。
貰えるアイテムは便利なモノではあるが、そのイベントでなくても手に入るもので、
さほど重要視しなかった、小さなイベント。
さほど重要ではないから、発生条件も特定しなかった。
何となく、複数の冒険者の友好度を上げる事が発生条件かなぁと目星は付けていたものの、はっきりとはしていなかった。
そして、宿屋が絡むあるイベント。
マリアと冒険者たちが、マリアの家で宴会をするイベントがある。
念の為言っておくが、マリアが成人してからのイベントなので、飲酒しても何の問題もない。
このイベントは発生条件もはっきりしている。
参加した冒険者全員の友好度が高い状態で、あるクエストをクリアする事で発生する。
そして、参加した冒険者の性別によって分岐が存在する。
参加者が女性だけなら、そのまま酔いつぶれて、全員がマリアの家に泊まることになり、朝を迎える。
参加者に男性が含まれていると、やや遅くなった頃に、男性陣(一人の時もあるが…)が追い出される。
その時のマリアのセリフが「ちょっろ、行っらところに、やろやがあるからぁ、マリアのしょ~かいって言っらら、よくしれくれるはずよぉ~」(若干違う点もあるかもしれんが、そこは勘弁しくれ)だった。
要するに、このイベントでマリアが紹介した宿屋は、エリナさんの宿屋で、そのお礼でエリナさんがプレゼントをくれていた。
つまり、エリナさんのお礼のイベントの発生条件は、宴会に男性が参加し、マリアが宿屋を紹介することだった訳だ。
――そんなん、わかるか~~!!
今は確認しようがないけれど、エリナさんがくれるアイテムが微妙に変わるのは、
ひょっとして紹介した人数(男性陣の数)の違いだったのか?
――あ~、何かそんな気がしてきた。
何で今頃、そんな事がわかるんだよ。
何?この敗北感というか、奥歯に挟まっていたモノがやっと取れた開放感というか、嬉しいような、悲しいような微妙な気持ちは。
やり場のないこの気持ち、どうすりゃいいの?
「知らなかったよ、悪いか?」
「えっ、え~と、別に悪くはないけど…」
いかん、マリアにぶつけてどうするよ、オレ。
落ち着け、俺。
よし、落ち着いた所で、改めて街の様子を見てみよう。
あれっ、何か周りの人々が俺を見ていないか?
いや、違う、俺じゃなくて俺をかけているマリアを見ている。
いったい、何だ?