第21話
「ねぇ『センセー』そろそろ食料を買いに行かないと、食べるものが無いんだけど」
え、食べ物?
何言ってんだ、こいつ。
ゲームにはそんなの無かったぞ。
そう、そうだよ、こっちに来てから、何かず~と引っ掛かってたんだよ!
ゲームでは、風呂に入ったり、トイレに行ったり、飯を食うなんてシーンは無かったんだよ!
[寝る]コマンドだけはあった。
ゲーム内時間で48時間以上[寝る]コマンドを実行しないと、
集中力が落ちて、錬成に失敗したり等のペナルティがあった。
でも、ここは確かにゲームの中の世界だが、マリア達はこの世界で『生きている』んだ。
心のどこかで、これはゲームなんだという意識がまだあったんだな。
しっかりと心に刻んでおこう。
マリア達はゲームのキャラでなく、この世界で生きている『人間』なのだと。
「すまん、すっかり忘れてた。そうだよな、生きているんだから食べ物は必要だよな」
「『センセー』みたいに飲まず食わずでいいなら便利なんですけどね」
「自分で動けないけどな」
「それは、嫌だなぁ~。
水はお父さんが作った『どこでも蛇口』があるから大丈夫だけど、食べ物は昨日の夕飯で最後です」
『どこでも蛇口』は名前から効果は想像できると思うが、要は水がでるアイテムだと思ってくれれば問題ない。
「そうか……で、食べ物はどうやって手に入れるんだ?」
「………『センセー』本気で訊いてる?」
「いや、畑があったりとかは…しないかなぁ~とか、狩りに行くとか?」
「仮に畑があったとして『センセー』と出会ってから今まで、一度も畑に行っていないってありえる?
また、私に狩りができるように見えますか? セ・ン・セ・イ」
成長の仕方によっては1~2年後の君なら簡単にできるんだけど――とは言わぬが花だな。
「だよな~。ほら、なんだ、一応聞いておいただけで、別に変な意味などないからな」
「はぁ~、まぁいいです。
という訳で、普通に買いに行くのですが、問題があります」
「問題?」
「買い物に一番必要なモノがありません」
「一番必要なモノ?」
「……おかねです」
「…お金か」
「マリアちゃん、最高!」
「……何言ってんだ、お前」
「だって、さっきから『センセー』オウムのように繰り返すから、もしかしたら言うかなぁ~なんて?」
「言うか!」
「また、またぁ。いいんですよぉ、もっと私を褒め称えても」
「マリアチャン、(買い物に)さぁいこう」
「………」
「…………」
「……………」
「………せめて、何か反応してくれ」
「何ていえば良かったですか?
次の選択肢の中から選ん……」
「いや、もういい。忘れてくれ」
マリアが言い終わる前に遮る。
「ええ~、せぇ~っかく選択肢を考えたんですから――」
「現実から目を逸らすのは止めよう。まぁ、オレには逸らす目がないけどな」
「……そうですね。ウチにはお金がありません」
「父親の貯えとかは――」
「あのお父さんがですか?」
――そうなんだよ、この父親決して稼ぎが少ない訳ではない。
むしろ、この世界の基準で考えるとかなり高額を稼いでいる。
では、なぜ貯えがないのか?
――とんでもない浪費家なんだ。
いや、浪費=無駄使いと定義すると、一概に無駄とはいえない……かもしれない。
とにかく、異常ともいえるほど『錬金術』オタクで、『錬金術』に関するモノを買いまくる。
そりゃあもう、値段も気にせず、買いまくる。
リアルのオタクがグッズを買いまくる勢いで。
そこ、耳が痛いと思った人、手を挙げて!
えっ俺、俺は手を挙げないよ――今は手がないから……
まぁ、そんな訳で高額所得者のくせに、いつも金欠で、
この父親の浪費癖で発生するイベントもあるぐらいだ。
そのイベントって言うのが………
いや、今はそれどころではない。
「1銅貨もないのか?」
「流石に、銅貨や大銅貨ぐらいは私でも持っているけど……
駄菓子の様なモノを買うならともかく、パンとかを買うにはちょっと、ね」
そうだよな、リアルの日本で数百数十円持って買い物に行くようなものだ。
一食たべるくらいなら出来なくもないが、数日分の食料を買うには足りないな。
さて、どうするか?