第16話
マリアが俺をかけた瞬間。
俺の頭の中に[マリアとのシンクロにより、『錬金術』レベル1を獲得しました]という声が響いた。
明らかに、耳から聞こえるのとは違い、文字通り頭の中に直接という感じであった。
現在、耳も頭もないけどな。
メガネだから。
まあ、人間だった頃の感覚というか、
今までにマリアの他にも、エリナさんとババアの声も聞いているが、
それらとは明らかに違う聞こえ方だった。
声も、人間の声と言うよりは機械的な感じの声だった。
そんな俺の困惑には気づかず、マリアは
「へぇ、このメガネ『ど』っていうのが入っていないのね。
くらくらする事もなく、ちゃんと見る事ができるわ。
こんなに透明度の高いガラスを作るなんて凄いわ」
はじめてかけるメガネに興奮していた。
マリアの性格から考えて、俺と同じ声(?)が聞こえていたなら、何らかの反応をするだろう。
よって、マリアには聞こえなかったと判断する。
もっとも、現在マリアの表情を見る事はできない。
メガネの正面側しか見えないのは、誰かがメガネをかけても変わらないようだ。
もっとも、マリアがあちこちを見るので、この体になって初めて、部屋の中を見回せた。
あれ、今何か文字が浮かばなかったか?
「マリア、ちょっと左側の棚を見てくれないか?」
「え、急にどうしたの?」
「いいから、ちょっと棚を見てくれ」
「…はい、これでいい?」
間違いない。文字が浮かんでいる。『融合剤(緑)×6』と。
マンガの吹きだし見たいな感じ、と言えば解りやすいだろうか。
マリアには見えていないのか?
「ねぇ、いつまで見てればいいの?」
「ああ、ついでにもう一ついいかな?
その棚の、下から3番目の段に『融合剤』が入っていると思うのだが、
『融合剤(緑)』が何本あるか数えてみてくれないか?」
「まだ、いいって返事していないのに…
まあ、いいわ。
『みどり』だけでいいのね?」
「ああ、頼む」
マリアが棚に近づき、『融合剤』の数を調べ始める。
もっとも、俺をかけたままなので、その作業は俺にも見えている。
「6本あるわ」
「いや、折角報告してくれたのに悪いが、数えている所を一緒に見ていたから報告はなくても大丈夫だ」
「あぁ、そう言えば、今ここにいるのよね。何か変な感じね」
マリアが、俺を触りながら答えるが、正直あまり聞いていなかった。
浮かんだ文字の謎の解明に集中していたからだ。
予想通りというか何というか、『融合剤(緑)』が6本あった。
それは、いい。
浮かんでいた文字通りだから。
だが、ここには他の『融合剤』もあった。
では何で、それらは表示されなかったのか?
オレの中に一つの仮説が浮かんだ。
よし、確かめてみよう。
「マリア、たびたびすまないが、『融合剤』の材料はどこにある?」
「えっ、こんどは『融合剤』の材料?
大きい人形の確認はいいの?」
「ああ、人形の確認もだが、その前に確認したい事ができた」
「まぁ、私は別にいいけどね。
『融合剤』の材料なら、あっちの隅っこよ」
マリアがそちらを向いた瞬間、文字が浮かんできた。
「ビンゴ!」
「えっ、何?びんご?」
やばっ、あまりに予想通りだったので思わず言ってしまった。
まあ、今回は別段問題ない…よね。
「そんなことより、マリア、確認したい事がある。
マリアが採取した事がある材料は、
『緑の草』『緑の石』『青の水』『赤の実』『白の花』『黒の石』『黄の石』
で間違いないか?」
「いっ、いきなり、何なの?」
「いいから、どうなんだ」
「え~と、まずは『みどりの草』に『みどりの石』でしょう。
それから『青の水』と『赤の実』と『白の花』で、
あとは『黒の石』と『黄の石』だから…うん。
間違いないわよ。
でも、よく解ったわね。
そこには、他の材料もあるのに」
「ま、まあな」
ここぞとばかりに、勝ち誇ってやろうかと思ったが、
別段、俺の手柄では無いので、やめておいた。
だって、浮かんでいた材料名を読み上げただけだから……