第15話
「じゃあ、大きいほうの人形を見せてくれ」
「えっ。こっちの人形は?」
マリアが、持ってきた2体の人形の『藁人形』では無い方を指さす。
さっきの一連の行動で学習したのか、人形には触れずに指さすようにしている。
もっとも、先程抱えてきたのであるから、今更触れないようにしても、既に手遅れである。
――黙っていてあげよう。
「ああ、そのドールは違うから。でも大事にしまっておけよ」
「えっ、ええ。で、この人形はどういうものなの?」
「そのドールの効果は今は知らない方がいい」
「ま、また呪いなの?」
「いや、呪いではない。むしろ…いや、知らなくていい」
「そんなこと言われたら余計気になるよ」
「どうしても知りたかったら、立派な『錬金術師』になることだ。
そのドールを作れるぐらいになれば解る事だ」
「何なのそれ、さっきの仕返しのつもり?」
「そんなつもりは……ない」
「今、ちょっと間があったよね」
「そんな、些細なことはどうでもいい。
その『ドール』は父親がお前の為に作ったものだ。
お前が、立派な『錬金術師』になれるようにとな。
それだけで十分じゃないか」
「何でそんなことがアナタにわかるの?」
「その『ドール』は大切な人の為に作るものだ。
この部屋にあるのだから、作ったのは父親しか考えられない。
父親の一番大事な人は、お前以外に誰がいる?」
「お父さんが…」
「だから、俺の事は信じなくてもいいから、
父親の遺志をくんで、その効果は聞かないでくれ」
「そこまで言うなら、聞かないでおくわ。
よ~し、早く立派な『錬金術師』になって、謎を解き明かして見せるからね!」
「その意気だ」
部屋の中の人形を探させた時から、この『ドール』が見つかる事は想定していた。
なんせ、ゲーム中にこの『ドール』の効果が発揮されると、必ずイベントが起こるからな。
絶対用意してあると確信していた。
で、その効果なんだが…
「うっ、うぉーーーー!」
「って何て声出すのよ、あなた」
「お前がいきなり持ちあげるからだろう!
せめて、一声かけてからにしてくれ」
「だって、もう一体の大きい人形も見てみるんでしょ。
ここに置いたままじゃ見られないじゃない」
そう言って、持ちあげた俺をまじまじと眺めるマリア。
いや~ん、エッチとか言ったら、いいとこ落っことされるか、
下手したら、ブン投げられかねないので、自嘲…もとい自重した。
「ねぇ、掛けてみてもいい?」
突然、とんでもない事を言い出すマリア。
だが、確認をするだけさっきよりマシか。
確認もせず唐揚げにレモンをかけたりしたら、戦争になるからな。
いや、戦争は言いすぎ……とも限らないらしい。
怖い話だ。
ともかく確認は大事だ。
けどな、例え相手に訊ねたとしても、その答えを聞く前に実行したらあまり意味ないぞ、マリア。
こうして俺の『はじめて』はマリアによって、いとも簡単に奪われてしまった。
いや、別に大事にしていた訳ではないが…
しかし、それがあんな事になるとは思いもよらなかった。
いや、マジで。