第14話
「『コピーパペット』があればそれを、なければ『リモートマリオネット』でもいいか」
「こぴぃぱぺっと?りもおとまりおねっと?」
言いながら、首を傾げるマリア。
まあ、現時点のマリアでは存在すら知らないだろう。
これは、まあ想定内だ。
「この部屋の中に人形はないか?どちらも見た目は人形に見える物だ」
「ちょっと、まってね。探してみるわ」
マリアが部屋の中を探し始める。
どこからか、「このフィギュア好きめ!」という声が聞こえてきそうだ。
確かに出来のいいフィギュアを眺める事は嫌いではない。
街中でも、ちょっといいフィギュアを見つけると、足をとめることもしばしばだ。
もっとも、俺の部屋には猫がいたため、買っても飾れないので、
自分で買う事はほとんど無かった。
いや、この際俺がフィギュアが好きかどうかは関係ない。
『リモートマリオネット』は目視できる範囲であれば、自在に操れる人形だ。
例えば、木の実を採る時、蜂蜜をとる時などに、あると非常に便利である。
『コピーパペット』は自分の意識を転写して、自在に動けるようになる人形だ。
上記の『リモートマリオネット』とは違い、目視できる範囲で有る必要はない。
また、視覚、聴覚、触覚も感じられるため、人間が入り込めない洞窟の調査や、
あえて何処とは言わないが、偵察などにも重宝する。
どちらのアイテムも時間制限があるが、
自力で動けないメガネ(俺)にとっては非常に便利というか、必須アイテムだろう。
「ねえ、3体ほどあったけれど、どうかな?」
「どうって言われても、見せて貰わない事には、何とも言えんよ」
「2体は大きくないから、持って行けるけれど、1体は大きくて無理よ」
「とりあえず、小さいほうの2体を見せてくれ。
その2体が俺の欲しい物でない時は、その大きい1体も見るということで」
「わかったわ、今持って行くわ」
そう言うと、マリアは俺の前に2体の人形を置いた。
1体は、明らかに違う物であった。
その外見は、いわゆる『藁人形』というやつだ。
人形を探してくれと、言われてこれもカウントするマリアの感性って………
いや、マリアは俺が欲している人形の性能を知らないから、可能性のある物は全て持ってきてくれたんだ。
そう、そう思い込もう。
主に俺の精神衛生上の理由で…
「マリア、その『藁の人形』は『呪いの藁人形』というアイテムで、私が欲しい物ではない」
「あっ、やっぱり違うのね。ちなみにこの『のろいのわら人形』ってどういうアイテムなの?」
「あー、それな、その人形に触れた者に呪いを掛け「えっ、私触っちゃったじゃない!」
慌てて、マリアが『呪いの藁人形』から手を離す。
そして、オレを睨む。
「あのな、人の説明は最後までちゃんと聞け」
「……あなた、メガネじゃん」
「うっ、メガネの説明であっても、説明は最後までちゃんと聞け」
「そんなことより、私呪われちゃったの?」
「だから、呪いについて説明しようとしていたのに、茶々を入れるから。
いいか、触れるだけで危険なモノを無造作に置いておくと思うか?」
「う~ん、お父さんだったらやりそうね」
そうだった。
そういえば、そんな父親だった。
確かに、そんなイベント有ったよ。
だが、今はそれを振り返っている場合ではない。
「もとい、そんな危険なモノに触れるのを止めない人に見えるのか、この私が」
「え~と、少なくとも『人』には見えないかなぁ」
「……もういい」
指があったら、床に『の』の字を書いているところだ。
メガネだから出来ないけど…
「ちょっ、ちょっと、いじけないでよ。私の呪いはどうなっているの?」
「一生結婚できない呪いが…」
「う、うそよね。そんな呪い聞いたことない。あっ、でもこれお父さんが作ったモノなら本当かも…」
自分が呪われてしまったと落ち込むマリア。
あの父親だ、「お前は絶対に嫁にやらん」とか言ってそうと思って言ってみたが、やっぱり言っていたんだな。
ちょっとした意趣返しだ。
「…かかったらよかったのに。残念だ」
「――どういうこと。返答次第では…」
マリアが『笑顔』で俺の体を握りしめる。
俺は知っている、これはヤバイ『笑顔』だ。
だんだんと俺を握る力が強くなる。
「いや、単にそんな呪いが掛かればいいのに、というオレの願望を述べただけであって…
軽い冗談じゃないか、怒るなんて大人気ないぞ」
「私、子供だし」
「…………」
「…………」
「私が悪かった」
無言の圧力に負けたのではない。
体への圧力に負けたのである。
「ふっ、ふ~ん。解ればいいのよ、解れば。まあ、私もちょ~~とばかり悪かったかもだけど」
勝ち誇った顔で、俺を見下すマリア。
いや、まあ、普通に机の上に俺を置くと見降ろすことになるのだが…
「ともかく、発動条件を満たさないと『呪い』は発動しないから大丈夫だ」
「最初からそう説明すればよかったのに」
「だから説明を…」
「何か言いましたか?」
ひぃ、またあの『笑顔』
「い、いえ、なんでもアリマセンヨ」
「なら、いいわ」
よくねえよ!と俺は心の中で叫んだ。
ふん!ここは大人の俺が引いてやる。
でも、覚えておけよ!
さて、もう1体の人形の確認だ。