第13話
「え~~えぇ!何で今更そんなこというの?」
あれっ、俺また口に出してしまった?
やばい、またマリアが泣き出しそうだ。
口は災いのもと、とはよく言ったもんだ。
きっと昔にも俺みたいなうっかりさんが居たんだろうな。
え~と、何かないか?
この場をうまく治める魔法の様な言葉は。
二度ある事は三度あるというし、
きっと三たび天啓が……
な~んてそんな都合のいい事が………き、きた~~!
ご都合主義 万~歳!
これで全て丸く収まるはず、いや、収める。
「マリアよ、錬金術に携わる者として『等価交換』という言葉を知っているか?」
「とーかこうかん?」
なぜだろう、知っているとも、知らないとも言っていないに、こりゃ知らないなとわかってしまう。
「そうだな、マリアにも解りやすくいうなら、
やられたら、やり返す……ではなく、
お店で品物を買う時、その品物の値段のお金を支払うよな」
無言ではあるが、そこまでは解ったというように、コクリと頷く。
「その『品物』と『等しい価値のお金』を交換した訳だ。
これが『等価交換』だ」
「う~ん、わかったような、わからないような…」
両手の人差し指をこめかみにあてて、目を閉じ、ややうつむきながら唸り始める。
うん、これ絶対わかってないね。
もう、意味が違う事には目をつぶってください。
「マリア、手紙を貰ったら返事を書くよな」
これなら解ると、目を輝かせながら頷く。
わぁ、もの凄く嬉しそう。
「プレゼントを貰ったら、「ありがとう」っていうよな。
つまり、何かをしてもらったら、何かをしてあげなさいということだ」
「なるほど、それが『とーかこうかん』なのね」
とりあえずは、その認識でいいだろう。
まだ、マリアには難しいだろうからな。
何より、俺の目的にはその認識で問題ない。
マリアは『とーかこうかん』を理解して嬉しそうにしていたのだが、一転不安げな表情をして言う。
「つまり、あなたにお礼をしなさいと言う事よね。
…でも、うちにお金はないし、毎月大銀貨1枚の家賃も払わなければいけないから…」
あー、なるほど。お金が心配で不安げなのか。
「いや、お金は必要ない」
これで安心するかと思いきや、もっと落ち込んでしまったようだ。
なぜだ?
「やっぱり、あなたも私を見捨てるのね」
「ちょっと待て、何でそうなる?」
「だって、お金を受け取らないって事は、私の手伝いをしないって事なんでしょ?
『とーかこうかん』にならないもの」
ああ、そう捉えてしまったのか。
う~ん、例えが悪かったか。
「違う、違う、そうじゃない」
「違うの?」
「いいか、マリア落ち着いて考えるんだ。
マリアはお金を貰ったらどうする?」
「えっ、金額にもよるけど、欲しいものを買ったりとか、かな?」
「そうだな、お金を貰ったら使うよな?
でだ、俺がお金を貰って使えるか?」
「あっ、そうか、お金が使えない!」
「そういう事だ。だからお金は必要ない。
貰っても使えなからな」
「え~と、お金を貰っても使えないからという事はわかったわ。
でも、なおさら『とーかこうかん』できないじゃないの」
不安になったり、落ち込んだり、驚いたり、喜んだり、表情がころころ変わるマリア。
それをちょっと面白がっている俺がいる。
「いいか、マリア『とーかこうかん』はお金で有る必要はない。
確かに『お金』は共通の価値を持つので交換に適している。
だが、交換する者同士が納得できるのであれば『お金』でなくてもよいのだ」
あー、マリアが困ったような、難しい顔をしているな。
説明が難しかったか、もっとわかりやすい例をあげよう。
「いいかい、マリアがナガラの森で『ユズ』を沢山採取して、ナガラ湖畔を通って帰る途中で、ナガラ湖で釣りをしている冒険者に出会ったとする。
その冒険者は沢山魚を釣る事ができたので、魚を焼いて食べようとしていた。
そこに沢山『ユズ』を持ったマリアが現れる。
冒険者は思う、この焼き魚に『ユズ』を絞ったら、よりおいしく食べられると。
魚は沢山あるので、あの『ユズ』と交換して貰えないだろうかと。
そして、マリアも思う、丁度お昼時なのでお腹がすいている。
あの焼き魚を売っては貰えないかと。
そこでマリアは冒険者に焼き魚を売ってもらえないかと声をかける。
冒険者はお金をもらうより、マリアが持っている『ユズ』の方が欲しかったので、
マリアに『ユズ』との交換を持ちかける。
マリアも『ユズ』は大量にあったので、それで交換できるなら、願ったりかなったり。
こうして2人は『とーかこうかん』を成立させたのでした。
このように、お互いが納得するのであれば、物々交換であってもよいのだ」
「うん、うん、焼き魚には『ユズ』がないと物足りないものね。
わかるわ~」
「いや、そっちじゃなくてな…」
「や、や~ね、解ってるわよ『とーかこうかん』の話よね。
つまり、お金じゃなくて『モノ』を渡せば、私の手伝いをしてくれるのね」
……ちょっと忘れていやがったなコイツ。
ジト目で見てやりたいが、メガネでは不可能だ。
まあ、スルーしておいてやろう。
「そういうことだ」
「で、何を渡せばいいの?」
俺が要求したものは……