第12話
「マリアよ、払える目途もないなら、あんな啖呵を切るものではないぞ」
「でぼ、あんなぶうにいばれだら、ぐやじぐっで」
あ~あ、顔が涙と鼻水とでぐしゃぐしゃだよ。
このハンカチで――って、今ハンカチも持ってないよ!
仮に有っても差し出せないよ!
これだからメガネの体は……
「あ~、ま~、ともかく落ち着け。そしてとりあえず顔を洗ってこい。
今後の話はそれからだ」
マリアは黙って頷くと、素直に顔を洗いに行った。
この隙にちょっと考えを纏めておこう。
確かマリアは「今日10歳になった」と言っていた。
マリアの誕生日は4の月の10日だった筈だから、今日は4の月の10日。
今月の家賃は既に払ってあるとのことだから、
4の月が残り20日、5の月の月末まで30日。
いや、30日には家賃を取りに来るのだから、念の為前日までには用意しておきたい。
なので29日。
合計で49日猶予があることになる。
これだけ日数があれば、
『錬金術師のたまご』であれば(例え10歳の少女であっても)、『大銀貨1枚』なら用意することは容易であろう。
――いや、駄洒落じゃないからな。
本当に『大銀貨5枚』じゃなくて良かった。
何で『大銀貨1枚』になったのかは解らないが、その追求はとりあえず置いておこう。
将来的にはともかく、今のレベルで毎月大銀貨5枚の家賃を払いながら生活するのは難しい。
しかも、その他に錬金術のレベルを上げていかなければならないのだから、その費用も馬鹿にならない。
『融合剤』ばかり錬成し続けても、上がるレベルなどタカが知れている。
まあ、最初の9日は『融合剤』を錬成し続けて、とりあえずレベル2にしないとだな。
レベル2になれば、色々作れるようになるからな。
「あっ、そういえば何色か聞くの忘れてたな、マリアの属性」
「みどりよ」
「そうか、緑か。なら、まずは――
って、何時の間に戻って来た?」
「いつって、ついさっき?」
「じゃなくて、俺また声に出してた?」
「えっ、顔を洗って戻ってきたら、属性は?って聞かれたから、答えたのだけど…」
「いや、いい。気にしないでくれ。
それより、属性が緑ということは、やはり『融合剤』は緑のみ錬成に成功したという事か?」
「ええ、三日前に初めて成功して、無事『錬金術師のたまご』の仲間入りしたばかりよ」
ここまでの会話で疑問に思う方もいるだろう。
なぜ、ゲームをやり込んだと自称している俺がマリアの属性を知らないのか?
そもそも、属性とは何か? 等々。
少し説明をさせていただく。
まず属性だが、この世界では、万物に属性があるとされている。
属性は6つ有り、「赤」「青」「黄」「緑」「白」「黒」と名付けられている。
勿論、人間にも属性があるのだが、人間の属性はこれと決まっている訳ではない。
どの属性の可能性もある。
親子で違うという事も珍しい事ではない。
察しのいい方は、もう気づいたかもしれないが、
このゲームではマリアの属性はランダムに決定する。
当然、希望通りの属性とは限らないので、ゲームでは希望の属性がでるまでやり直すなど日常茶飯事である。
属性によってエンディングが変わるなどは無いのだが、属性によって狙いやすいエンディングがあるのは確かだ。
自分の属性のアイテムは効率よく作れるし、品質も上げやすい。
それはともかく、そんな訳で、俺はこの場にいるマリアの属性を知らなかった訳だ。
そして、これまた察しのいい方はお気づきだと思われるが、
『融合剤』にも属性が存在する。
『錬金術師のたまご』として認めてもらうには、『融合剤』を錬成できることが唯一の条件である。
種族・年齢・性別・身分を問わず、『融合剤』さえ錬成出来るようになれば『錬金術師のたまご』を名のる事が許される。
そして、ほとんどの『錬金術師のたまご』は最初に自分の属性の『融合剤』錬成する。
と言うよりは、最初に錬成できた『融合剤』で自分の属性を知るという方が正しいかもしれない。
一部の人間を除いて、この世界の人間は自分の属性を知らない事が多い。
別段知らなくても問題ないからというのと、最近は大分安くなったが、属性を調べるのもタダではないからだ。
しかし、一部の人間――
『王族』や『貴族』、これは高貴な人間としては当然だとか何とかいう理由らしい。
お金を持っている人々なので、大金を払って属性を調べる。
『錬金術師』や『魔術師』『冒険者』『騎士』なども自分の属性を知ることが必須と言われる。
錬成、魔法、スキルの使用などで属性を確定させるものがほとんど。
稀に自分の属性を勘違いしている者もいるとかいないとか。
にとっては大事なことである。
どうだろう、少しは疑問が解消されただろうか?
まだまだ説明不足な点もあると思うが、追々説明が入ると思ってくれ。
「それでは、各属性の『融合剤』の材料も、ある程度はストックがあるな?」
「ええ。各属性20個ずつは『融合剤』を錬成できる材料があるはずよ」
「そうか、そうか。よし、よし。材料を採取に行く時間ももったいないからな。それなら……」
ここで、ふと、気がついてしまった。
「あれっ、何で俺、マリアの面倒見る気になっているんだ?」