第9話
「マリア嬢ちゃん居るかい?」
と訊きながらも、マリアが返事をする前に、ドアを開けて入ってくる人物。
まだその姿は見えないが、この声の持ち主――この人物を俺は知っている。
だが、この人物を語る上で、ある一つの衝撃的な事実をお伝えしなければならない。
いや、人によっては全く衝撃ではないかもしれないが、
少なくとも俺は最初にこのイベント遭遇した時、思わずモニターに裏手突っ込みしてしまった。
「何で、持ち家でなく、借家なんだよ!」と。
この時あまりに思いっきり突っ込んだため、右手の小指を突き指してしまったのは墓場まで持っていく秘密である。
それはともかく、それほど俺は衝撃を受けたって訳さ。
あれ、その振りかぶった座布団をどうするつもりだい?
いいかい、座布団ってモノは、基本座る時に使うものだ。
Bテレで2066年に無事100周年を迎えた番組『昇天』では、
時々動きが止まる『メカうた○』を再起動させるべく『ロボ¥らく』が座布団で叩くが、
あの使い方は一般的ではない。
それとも、『じゃまだくん』に弟子入りでもするつもりかい?
バシッ!!!
――はっ、あれオカシイな、ちょっとばかり気を失っていたようだ。
以前にこの『衝撃の事実』を俺の数少ない友達に話した時の記憶が…
これがフラッシュバックというやつかな。
そういえばあの時、気を失った俺の為に沢山の座布団が置いてあったな…
良い友達を持ったものだ。
えーと、何をしていた……
そうそう、説明の途中だった。
このイベントに初めて遭遇したのは、何周目だったろうか?
とにかく前述した通り、もの凄く強く、国から仕事を依頼されるくらいの『錬金術師』である父親。
その住む家が借家だなんて思わないだろう普通。
ましてや、こいつ自分の部屋を魔改造しているんだぞ、誰だって自分の持ち家だと思うだろう。
まあ、借家である理由は後に明らかになるのだが…それは今は関係ない。
とにかく、初めて父親死亡イベントを発生させた後、いきなり大家が現れ、
「今後、家賃の支払いはちゃんとできるんだろうね。払えないならば、出て行って貰うよ!」
そうそう、その台詞……って、俺が説明するはずだったのに、誰だよ!
あれっ、いつの間にかマリアが居なくなっている。
今のセリフもドアの向こうから聞こえてきたようだ。
ドアが開けっぱなしであるため、向こうの姿が見えた。
う~ん
「ドアを開けたらちゃんと閉めなさい!」と言いたいところだが、
今回はそのおかげで向こうの様子が窺えるから良しとしよう。
え~と、マリアの他に2人ほど来客がいるようだ。
残念ながら、来客の2人の姿はよく見えない。
体さえ動けば、よく見える位置に移動するのだが、メガネの体ではそれもままならん。
もっとも、さっきの台詞から一人は大家のババアで間違いないだろう。
となるともう一人は恐らく――
「ちょっと、お婆ちゃん!開口一番その言葉は無いでしょう!
ごめんね、マリアちゃん。口の悪いお婆ちゃんで」
やっぱり、そうか。
エリナさんだ。
あの糞ババアの血を引く孫娘とは思えないほど優しくて、
ババアのDNAを持った父親では無く、綺麗な母親によく似た、もの凄い美人である。
ちなみにエルフである母親も子持ちとは思えない外見で、2人並ぶと美人姉妹と紹介されても誰も疑わない。
たった一つの致命的な弱点さえなければ、俺の嫁になっていた事だろう。
んっ、致命的な弱点とはどうせ『胸』がとか言うんだろう、この『巨乳崇拝者』が!
エルフは『美(微)乳』だからこそいいのが何故解らん!
と言う声が聞こえてきそうだが、その種の趣味の人には申し訳ないが、
こちらの世界のエルフは全員が、『貧に――美(微)乳』な訳ではない。
(今、すっげー殺気を感じた、あのまま言っていたら今頃……言葉には気をつけよう)
人間と同じで大きい人もいれば、小さい人もいる。
そしてエリナさん母娘はどちらも、豊かな人である。
そうか、それが致命的弱点なのか、わかるぞ『同士』よ。
という声が聞こえてきそうだが、俺にとってそれは弱点なわけではない。
俺は『特大~つるぺた』まで全てOKだ。
っていうか女性の価値は胸の大小によって変わったりしない。
無論、異論は受け付ける。
他人の価値観を否定する気は毛頭ない。
頭毛はあるからね。まだ20歳だし。
今はメガネなので毛はないけど…
では、いったい何が致命的な弱点なのか?
『彼氏』がいるんだ。
しかも超ラブラブ(死語?)だ。
ゲームが進むとほぼ間違いなく結婚し夫婦になりやがる。
一部には「最高のご褒美ではないですか」などとのたまわれる方々もいるらしいが、
普通の人なら嫁候補から外すよね?
って今はそれどころではない。