プロローグ
プロローグ
「ついに、ついに完成した!」
時刻は午前2時、普通の人なら熟睡している時間だが、男にとっては、普通に活動時間である。
これまでの20年の人生で最高に興奮しながらも、叫びをあげることなく、小さく言葉にした。
3日前の同時刻に、難しいゲームをやっとのことでクリアした時に雄叫びをあげた男と同一人物とは思えない。
もっとも、その直後、隣に住んでいる反社会的勢力のお兄さんに肉体言語で説教されたことが トラウ…
もとい、身に付いた結果であろうか。
「ふはははは、世のオタクども、我を敬うがいい! 我は神の
「ウルセー!!!! 今何時だと思っていやがる!!!!!」
ズドンッ!!という、壁を蹴る凄まじい音と共に、ドスの聞いた怒声が聞こえる。
少女マンガの定番『壁ドン』である。
いや、同じ『壁ドン』であるが、そんな色気のあるものではない。
皆も気をつけよう。
どうやら、男の辞書には「懲りる」「反省する」「学習する」といった語彙は無い様である。
いや、そもそも辞書など持っていないのかもしれない。
「す、すいません、すいません、すいません、すいません」 ※記述の正しい表記は「すみません」です。
相手から男の姿が見えてはいない筈なのに、男はその場で土下座して壁に向かい何度も頭を下げ、ひたすら謝る。
男にとって僅かながらも幸いだったのは、肉体言語で説教された相手が住む方の壁とは反対側の壁だった事だろうか。
男は知ることは無かったのであるが、反社会的勢力の男は現在留守なのであった。
実は滅茶苦茶、幸運だったのか?
閑話休題
気を取り直した男は、今度は怒られないように小声で語りだす。
その場には誰もいないというのに……
いや、飼い猫のマイケルはいるが、彼は毛繕いに夢中で聞いているようには見えない。
たとえ、聞いていたとしても人間の言葉などわからないのだが……
「モニターの中から嫁が出てくるのを待っている奴等 あれは馬鹿だ。我々三次元の人間が四次元を理解できぬように、二次元の嫁が三次元を理解することなど不可能なのだから」
何やら厨二臭いというか、痛い話をしているが、もう少し我慢して聞いていただきたい。
「それに気づいた俺は考えた。嫁が出てくるのを待つのではなく、嫁を迎えに行くのが正解だと」
……お前こそが馬鹿である。
だがこの男ただのバカではなかった。
「その考えに辿り着いてからは、思いのほか順調に進んだな。たったの2年足らずで、こうして装置が完成した訳だから」
………まさかの紙一重の方だった。
「おっと、いけね。嫁が待っている。早く迎えに言ってあげないと、アイツ怒っちゃうしなぁ~」
見るに堪えない、だらしない顔をしながら、男が引き出しから1本のゲームソフトを取り出す。
「待っててね~ルナたん すぐ迎えに行くから~」
男がゲームソフトのメディアをドライブにセットする。
「このゲームはやり尽くしたし、攻略データも全てここに入っている」
男が頭を指さしながら、何やら怪しげな装置の電源をONにする。
「さて、行ってくるか」
男の手にはいつの間にやら、ボタンが用意されている。
どうやらそのボタンを押すことで装置が作動するようだ。
「よ~し、ポチッとなって……ちょ、ちょっと待て、マイケル待て、そこに触れるな~」
お前、昭和産まれだろ、と思うような声と共にボタンを押した男が急に騒ぎ出す。
装置は順調に作動を始めている。
男もそこは心配ないのか、見ているのは唯一点。
先ほどまで毛繕いに余念がなかったマイケルが、装置の端、震える部分にちょっかいを出し始めた。
「駄目、ダメ、だめ、DAME、そんな所触っちゃ、ら・め・ぇ~」
男の気持ち悪い悲鳴?もどこ吹く風、マイケルはマイペースで目の前の部品にじゃれつく。
ガキッ!
装置の一部が壊れる。
この世の終わりのような顔をした男、何やら少し誇らしげなマイケル。
そんな事とは関係なく、装置が光を放つ。
光が消えると、男の部屋で動くモノはいなくなっていた。