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夢現の旅人  作者: 黒影翼
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第8話・テストと課題

※稔視点です




第8話・テストと課題





「と言うわけで、中間テストを始めます。」

「「は?」」


神社に呼ばれた私と姫野は、両手を腰にない胸をはっているクシナダ姫の唐突すぎる台詞に揃って疑問符を返した。


「皆テストで悲鳴あげてんのにお前らはいつも通りってのも不公平だろう?」


背後で賽銭箱に腰かけているスサノオ様が尤もらしい口調でそう語るが、はっきり言って胡散臭いことこの上ない。


「そこでだ、俺達からプレゼントを贈ろうと思ったわけだ。」

「たまに変わった惑意も出るとはいえ、トゲトゲさんばっかり皆の為に消して回ってるのは地味で辛いでしょう?」


二人の楽しげな話し方に嫌なものを思い出す。

姫野が練想空間にたどり着く前に、一度私は…


「竜と戦ったの思い出したのか?」

「竜?」


私が思い出したものを察したらしいスサノオ様がわざわざ聞いてきたため、姫野がこっちを見てくる。

魔法剣士…なんて、西洋全開の代物を格好いいからと目指しているくらいだ。

安直だが興味がわかない訳がない。


「…半年か、もう少し前位か。練想空間になれてきた頃に幼竜と戦わせて貰った事があるんだ。」


私にとっては苦い話だが、姫野にとっては足しになる話。

興味もあるならしておこうとあの日を振り返った。








「右も左もわからない頃から比べたら練想空間にも慣れてきたみたいだな。」

「えぇまぁ…お陰様で。とりあえずその辺の惑意に遅れをとることはなさそうです。」


思い上がりを禁じつつも、自分を低く見て予防線として安全圏で動き回るという事態を敬遠している私は、その時遭遇していた程度の惑意なら勝負になった為、端から見れば慢心ともとれるような台詞を平然と言い放っていた。

惑意含めて私などより練想空間を遥かに知るスサノオ様は、そんな私を見て楽しげに笑う。


「んじゃ軽く竜種とやってみるか?」


あっさり放たれた一言によって、私と幼竜との試合が決定した。


クシナダ姫によって呼ばれた竜は、私と同じくらいの身長の幼竜だった。

肩…と言うか、幅自体は全身大きかったが、巨大で威圧感のある…といったサイズではなかった。

剣を抜き放ち構え、すぐさま切りかかる。

あっさり直撃して…刃が立たなかった。


「竜鱗っつってな、竜種の全身は金属より固い。ま、頑張れー。」

「っ…金属ごときっ!」


踏み込みから全力で剣を振るう。

当時習っていた最強の一撃である轟。

その直撃でも竜は微動だにしなかった。

深く踏み込んで振るった一撃。それは私を隙だらけにし…


近付いてきた幼い…『空腹らしい』竜に左腕に食いつかれ、千切られた。


「あ…があぁぁっ!!」


練想空間で意味があるのか判らないが、千切れた口から青い光を漏れさせている私の腕を咀嚼して飲み込む竜。

出血こそないが、痛みも現実のそれに近いこの世界。おまけに、自分で戻らずここで消えることは最悪植物人間になることを意味するとは聞いている。

けれど、私はそれでも剣を手に…







「この辺りで記憶がない。」

「うっわぁ…」


相応に重い話だったからか、呆然としている姫野。

たまに何を勘違いしたのか『たかが片腕くらい』なんて馬鹿な事を言う人間がいるが、痛いと言うことをなにも知らないものの発言だ。興奮状態で気づかない、痛みが薄い場合もあるにはあるが、普通の人間なら耐えられる代物じゃない。


「あの時はさすがに慌てました…」


クシナダ姫としても予想外だったのか、しみじみと呟きを漏らす。


「調子のってるとこんなんにも会うぞ。って警告のつもりでやらせたんだが、腕食われても助けを請われないと思ってなくてな。ウンディーネにもあって知ってるだろうが、俺達は人の要求に縛られがちだ。助けてとも言われねぇ中だと雑魚ならともかく竜種は俺でもキツい。」

「私もいたのでどうにかなりましたけど…竜種相手にほとんど無力の状態は大変でした…」


今更ながらにヤマタノオロチを葬った二人組の神様が疲れたように思い返す相手と当てられたのかと思うと恐ろしい話だ。

病院送りにした穂波の事を思うと、自分で望んだ方向へ向かっている私が簡単には引けないと思ったのだが、そんな理由で意地を張ると思ってなかったらしい二人は、私の救出に手間取ったという。


「ともかく…だ。やることは同じだが、相手を変える予定だ。テストだからな。」

「まぁお二人が望まなければ止めておきますけど…どうします?」

「私は是非。」


問いかけてきたクシナダ姫の言葉が終わる前に、私は即答していた。

手に終えないものと実践でいきなり会うよりは見張りつきで試せた方がいい。

テストと言うからには楽でない勝ち目のある相手位を見積もってくれるだろうし、いい経験にはなる筈だ。


「僕もやります。テストとか言われてびっくりしたけどそう言うことなら僕も是非。」


姫野の了承を確認した所で、スサノオ様が手を叩く。


「よし、決まりだ。んじゃ頼むぞクシナダ。」

「はいです!」


決まると同時にクシナダ姫が鳥居に向かって手を翳す。


「何してるの?」


事態の良く分かっていない姫野が私に問いを投げかけてくる。

少しは時間がかかるのでその間に説明をしておく事にした。


「神様達も何もしてないわけじゃない。祈り願いを届けに来た者に加護を与える、惑意を排除して心を梳くなど、惑意に関して自由になる部分もある。」


いいつつ、私は鳥居を指差す。


「神々の通り道にして門の意味を持つ鳥居。それを通せば、そのある程度自由になる惑意を集めたりも出来るんだ。」

「練想空間に来れる人間なんざ日本中探しても県の数より少ないくらいだからな。型を成さないまでも日本中の規模では調整したりはしてるな。出来るだけ人の力に任せるようにしてるのもあって。」


同じく暇そうにしているスサノオ様が私の足りない解説に付け加えて説明してくれる。

が、少し考えて嫌なことに気づいた。


練想空間に辿り着ける人間が少ないから惑意の調整って…


「つまり、ここ最近やたらと多種多様に像を結んだ惑意に会ったのは…」


スサノオ様を横目で見ると、顔をそらしたスサノオ様はふけていない口笛を空に向かって吹いていた。


どうやら、聞くまでも無く姫野が練想空間に辿り着いたかららしい。

確かに人数は二人になった、人材として希少も希少な上、一人もいない県すら多数あるくらいなのだから二人のところに惑意を集めるのは道理だ。

理屈は分かる、分かるが…こっちはおかげで、その希少も希少な姫野含めてほぼ無力な内から惑意を強化されて死に掛けていると言うのに、あんな態度とされるとさすがに怒りたくなる。

…逆に、人間一人二人の生き死にに関してすっとぼけるようなフリを装う程度には神様が気にかけてくれている、と言う見方も出来るのだろうか?嬉しくはないが。


「と言う事は、僕達が慣れて来たら世界規模で惑意の悪影響を減らせるって事ですよね。」


私が睨む中、姫野が…よりにもよって散々に消えかけた姫野のほうが嬉々としてスサノオ様に話を振る。スサノオ様自身も予想外だったのか、少しばかり驚いたように目を大きく開いた。


「ん、俺らが門…鳥居で調整してるのは日本だけだが、まぁ強くなって対処するって方が色々してやれるわな。さっき言ったように、出来るだけ人の願い…真威に沿うように活動するってのが神々に課せられてる縛りで方針だ。だからお前らが自分から望んでくれた方がより大きく惑意の処理が出来るのは確かだな。」


スサノオ様の解説に笑みを見せる姫野。

格好いいからなりたい、と言うのならヒーローのようなものでも夢見ているのかもしれない。


「言っておくが、私達が全部出来るだけの力を仮に持ったとして、誰も彼もの惑意を消してしまったら、皆が修行できなくなると言う事になる。それはそれで問題だからな。」


病気に対して免疫を自力で身に付けるように、苦難は苦難で問題は問題で、惑意は惑意で必要なものだ。

仮に私達に全て出来て、全て処理すればそれは神様達が制限無く活動するのと同じだ。


「分かってるけど、練想空間に来れる人ですら県の数より少ないって言うなら一杯一杯まで頑張る意味はあると思うけど。」

「…そうだな。」


考えなしとも思ったが、そうでもなかったらしい。

私のほうが納得せざるを得なくなった。


「何、いらない心配だ。いつかの竜が倒せても日本中には程遠い。」

「ぐっ…」


嫌な笑みで私の危惧を一蹴してくれるスサノオ様。

おかげで私は何も言えなくなった。


「前向きな後輩を見習うんだな稔。まずはアイツ相手にな。」


スサノオ様が言いながら鳥居を示す。私達もそれを見ていた。

詳しく知っている訳じゃない、だけど、そんな私ですら察しがついた。


武将と見える鎧を着た大男。

そして、その手に光る方天画戟。

通常5キロも行けば十分のはずの類の武器だが、スサノオ様の剣同様明らかにそんな通常の域とは一線を画していた。

そんな化け物じみた代物を扱っていた人間なんてそうはいない。まして、惑意から型を成せる暴将など数えるほどだろう。


「呂布…三国志最強の暴を持つ将。ま、人間最強級だな。練想空間でお前ら二人掛かりなら、何とか…出来ると良いな。」


予測の範疇にはあった名に、内心で舌打ちしつつ構えた。

アレが『中間テスト』か…どうかしてるな、全く。








「…ふん、この俺を練習台にしようとは、随分思い上がったものだな。」


一言に感じる獣のごとき威圧感。だが、偉人にしては惑意で形成される理由が分かる気もした。

本当に、獣のようだ。

私達の敵…練習台として生まれたからか、敵だから殺すと言わんばかりにこちらを見据えてくる。

馬鹿正直と言うほど、何も隠す気が無かった。


「役不足かどうかはその大層な武器で試せばいい。のんびり喋る気も無いんでしょう?」

「後悔するなよ。」


挑発と言う気すらなかったのに怒りを見せる呂布。

…おいおい、本当に分かりやすく単細胞だな。


私と呂布を見比べるようにしてどうしていいか戸惑っている様子の姫野。

大方私が強敵とやりあう邪魔をしないようにとか言う所だろう。スサノオ様から見て二対一で丁度いいと言う想定、おそらくは間違っていないのだろうが…姫野が出るのを躊躇うのなら、先に試させて貰うか。

姫野にしても、魔法剣に巻き込まないタイミングを見計らうのに私が前に出た方が良いだろうしな。


どう見ても間合いは向こうが圧倒的…距離をつめつつ斬り抜くなら…


軽く駆け出し距離をつめる。

分かりやすいほど大きく振りかぶった呂布は…



「むんっ!!!」



私が間合いに入ると同時に方天画戟を振りぬいた。

当然、そのままでは直撃。だが、さすが歴戦。間合い丁度で振って『くれた』。

前足に力を込め思いっきり後方に身を下げる。胸元の鎧を掠めた戟が鎧表面を紙切れのように裂く。

が、私は回避した上で後ろ足に重心が乗った…溜めが出来た。



超重武器を全力で薙いだ隙に、作った溜めを全力で使い距離をつめて斬ろう。

そう思っていたのだが…




「ふん!」

「な…っ!!」




何の間も無く、今度は打ち下ろされた。

転がるようにして打ち下ろしを避けると、戟が直撃した境内の地面が砕け散る。


冗談…だろう?

振れるだけで化け物じみているあの戟を片手で、それも遠心力に持っていかれる事も無く竹刀でも振り回すかのように打ち下ろしに『繋げて来る』なんて、馬鹿げてる。


人間最強級って…人間じゃないだろこれは。


何て、考えている場合じゃなかった。


「死ね。」


自分で思ったくせに解ってなかった。

『竹刀でも振るかのように』振ってきたんだ。二連撃で止まるわけがない。

転がって起き上がっただけの所にまた横薙ぎを振るわれ、到底避けきれない。

咄嗟に地を蹴り、浮きつつ剣で防御。

まともに受けて止められる訳も無いから衝撃を緩和して吹き飛ばされようとしたのだが…



冗談じゃない一撃で軽々吹っ飛ばされた私は、木に背中から激突した。

びりびりと衝撃が全身に走り、意識が揺らぐ。


呂布はそんな私を見ながら、戟を手放し弓を引いていた。

そして…



「っ!?」



一も二もなく、本当に咄嗟に首を傾けた。

直後、私の頬を掠めた矢が背後の木に深々と突き刺さる。

斧でも叩き付けたような音がした。普通の弓じゃない。

日本の逸話にも船上の的を陸から射る何て離れ業の話があるが、そのクラスの異常な張りの弓をあの戟を軽々振る力で速射したのだろう。


「ほう、粘るな。」

「言ってろ化け物…」


悪態をついては見たものの、はっきり言ってこれはどうしようもない差だ。

速さはともかく、見て防いでも防ぐ事が出来ない。これはどうするか…




「ちょっと待ってよ。」




唐突に、忘れかけていた姫野の声が響く。

凄く何事も無いかのような、呑気な口調で。

そして、私と呂布の間に割って入った姫野は、呂布と向かい合う。


「僕の相手もしてよ、修行なんだから…さ。」


言いながら、姫野は魔法陣を空に描き…



「ライズ!ガイアクレイモア!!」



両手で以て、褐色の大剣を取り出した。

今まで見た中でも規格外のサイズ。だがそれは…


「ば、馬鹿!アイツと力で打ち合う気か!?」

「まぁね、稔程見切りに自信ないし、軌道は見えるから止めるしかないかなって。」


私の叫びにけろっと同意する姫野。


見たとおり打ち合う為の大剣らしい。馬鹿げている。

今、防御した私が吹き飛ばされたのを見ていなかったのかこいつは。


例によって怒りやすいこの暴雄は、怒りをそのままに手に取った方天画戟を振りぬいた。


石の大剣なんて代物を持ったまま回避など出来るわけがない。私をまりのように吹き飛ばした一閃をまともに大剣で受けた姫野は…




微動だにしなかった。




むしろ、姫野が揺らがなかったのが想定外だった呂布のほうが少しその身体を崩す。


「何…」

「ガイアクレイモア、全てを押し止める大地の剣。」


涼しげに語る姫野。

炎は熱、氷は冷気、雷は速さ。

物理を外れる加護を与える、姫野の魔法剣。


特性で特化させた力は私に出来ない事をたやすく成すな…練想空間にはアイツの方が余程…


「妖か貴様。そのふざけた石細工ごと叩き潰してくれる!!!」


解りやすい彼は、作り物を手にした子供に自分の一撃が止められたと怒り狂い、それまで片手で振るっていた戟を両手で握り、姫野への猛攻を開始した。

戸惑う私を前に進行していく戦闘。

姫野も自慢げに展開した大地の剣で全てを受けているが、あの大剣、高速で振り回す事は姫野が出来ないのか、どうにか取り回して呂布の攻撃を受け止める事に徹している。


彼の攻撃は、先端は速いし繋ぎも遅くは無いのだがさすがに振り始めたら軌道は変わらないし、長柄だから見ていれば軌道がわかる。

取り回し辛いあの大剣で技量も私未満の姫野が呂布の猛攻を受け切れているのはそのためだ。


ざっ、と、一歩姫野が後退した。

押された…んじゃ無い。わざと後方に力を込めて足を踏み鳴らした。アレは…


二対一…か。


右からの呂布の横薙ぎ、それを姫野が左脇に剣を構えて防御する体勢になった瞬間…



私は姫野の右脇から駆け出した。


「はぁっ!」

「ち、舐めるな!!」


左胴目掛けて振るった私の剣を、長柄の利を活かして手元に残る柄部分で受け止める呂布。

だが、そのまま私を狙うわけにはいかない。なぜなら…


「マテリアルダスト!!!」


二対一だから。

姫野の展開していた大地の大剣が分解され、多数の石の塊になって呂布の顔面を中心に横殴りに降り注ぐ。


「むぐ…っ!」


顔への直撃、しかも石の塊となれば、視界程度は奪う事が出来た。

私は、その瞬間を狙って、鎧の隙間を縫うように剣を突き出した。


腹部を深々と貫く私の剣を受けた呂布は…


「ま、だだっ!これしきのことでっ!!」

「は?ぐっ!!」


深々と剣で刺し貫いた為ゼロ距離に居た私を蹴り上げた。

つま先が鎧下の腹に食い込むように入って吹っ飛んだ私は、今度はやわらかい感触にとめられる。


「だ、大丈夫?」


背後から聞こえる姫野の声。

咄嗟に抱きとめてくれたのだろうが…


「か…ろう…」


すぐ喋ろうとして声にならなかった。『馬鹿野郎』と。

英雄の器だからか、乱世の人間だからか知らないが、剣に貫かれてまだ攻撃してくる化け物。私を庇っていたら…



「俺をっ…舐めるなあぁっ!!!」



私を抱えて姫野も尻餅をついている。

そんな私達の前で、戟を思い切り振り上げる呂布。


私を庇っていたら、当然纏めてとどめをさされる。


揃って尻餅をついている今、アレを打ち下ろされたら回避なんて出来るわけも無く…





そのまま、次の一撃は無かった。





よくよく見れば、呂布は立ったまま硬直していた。

私達は揃ってゆっくり立ち上がる。

あわせて、呂布の身体は赤い光を散らして練想空間に消えていった。


…弁慶か、まったく。


歴史に名を残す者の一端を感じ、私は剣を鞘に納めて一礼した。



「お見事ですねっ。」

「いや全くだ。」


死闘を見てた者からとは思えない明るい賛辞が届くと同時、身体が楽になる。

クシナダ姫が回復してくれたのだろう。


「しかし魔法剣は本当に便利だな。範囲攻撃とかで牽制するかと思ってたんだが、まさか真っ向から受けに行くとは。末恐ろしい野郎だ。」

「ど、どうも。」

「いちいちこっちを伺わなくていい、全く。」


自分の話だけが出たからか、姫野が私の顔を横目で見てくるのに軽く呆れる。

超えるのが目的なら喜んでおけば良いだろうに、根が優しいからか変なところで気を使いすぎる奴だ。

まぁ姫野らしいかと思いながら私は肩の力を抜いた。


「稔さんも良かったじゃないですか。姫野さんの無言の合図に合わせて動けるなんて。」

「あはは…ごめん、格好つけて受け手に回ったのは良いけど、そこから先なんにも考えてなくて。」


クシナダ姫と姫野からそれぞれに話に出されたのは、きっと押されて下がったフリをした時の姫野に気づいて仕掛けに出た事だろう。

元々二対一用のテストだったと言う事もあったし、一人で挑んで勝てる気が全くしなかったからすんなりと浮かんだ発想でもある。

正直、自分では少し情けないものがあった。




「さて…んじゃ次行ってみるか?」

「「へ?」」




スサノオ様の言葉に、姫野と揃って素っ頓狂な声を上げた。


「何驚いてんだ。テストは5教科とかそれ以上あるんだろ?力の次は技で宮本でも呼んでみるか?」


ニヤニヤしながら告げるスサノオ様に、私達は呆然と突っ立っている他無かった。







結局和洋折衷、全開のウンディーネとの再戦まで含めて計五戦を終えた所で終了となった。



伝説伝承精霊相手の連戦って…どんな中間テストだ全く。



自分なりに無茶のある修行を進めてきたつもりだったが、何かそのことごとくを軽く見られた気がした。













翌日、こっちは昨日の連戦で微妙に気分が悪いというのに、迎えにいった姫野はとても上機嫌だった。

練想空間での活動の方が『らしい』姫野にしてみれば、素直に伝承との試合を楽しめたのだろう。

それも、二人掛かりでの辛勝とはいえ、全勝ならその喜びも当然と思える。


だが…


「稔は浮かない顔だけど…どうしたの?昨日の疲れ…なわけないよね。」


自分が平然としていられるのに私が疲れている…疲れを見せるわけが無いと信じきっているらしい姫野。そこまで持ち上げられるとむずがゆい気もするが、姫野の指摘通り疲れているわけではない。


「昨日の試合がどうもな…」

「昨日の試合って…二人掛かりでの辛勝だったこと?スサノオ様もぎりぎりを見積もって呼んでくれたのに、さすがにそれは…」


姫野が顔を顰める。今の段階で高望み、と言いたいのは分かる。

だが…


「姫野…忘れたかもしれないが、練想空間と現実が遠ざけられたのは、理に反するものをファンタジー扱いする現代の風潮のせいだ。」

「うん、それは覚えてる。」

「つまり…だ、彼等は『あの実力で実在してた』んだ。お前、私達が今戦って万一にも勝てると思うか?」


硬直後、即座に首を横に振る姫野。当たり前だ。

私にしたって家の屋根に飛び乗るような身体能力は勿論、金属製の剣で乱を使いこなす事など出来る訳も無いし…姫野にいたっては魔法剣の発動など、今現実で出来る訳が無い。

無論、私も姫野も人並み自体は外れているのだが…


「私の目標はスサノオ様達の域だが…そこまでを階段扱いで表現するなら一体何処まで遠くなるんだろうか…とな。」


考えるだけで気が重い。

繰り返すが、今現時点でも一応人並みは外れてはいるのだ。

走って走って打ち合って打ち合って振って振って走打振走打振走打振走打振走打振…

それなりに異常は自覚しているが、それでもはるか遠いとなるとさすがに気が滅入る。


「確かに…明確な目標が相当遠いもんね。でも、くたびれてもしょうがないよ。二十歳位までに伝説の人間位には追いついて、その後目指す感じなら間に合いそうじゃない?」

「微妙にリアルな刻み方だな。なんにしろお前の言う通り、くたびれていても仕方が無いか。」


実際、剣豪なんかは死ぬまでが修行なんだ、今の段階で滅入るのは気が早すぎると言われても仕方がない。

しかし、姫野にしてみれば現実では全くたどり着く兆しも見えないはずだろうに、今の話をしてよくもまぁそんなに明るくしていられるものだ。


「お前は強いな。」

「はは、能天気なだけだよ。僕は前に背中が見えるのも気が楽な原因かもしれないけど。」


背中が見えると言われて、またも複雑な気分になる。

とりあえず私に追いつくのが目標になっている姫野にしてみれば、昨日の伝承集団よりは手の届く範囲なのだろう。


「それに、僕には追われて、目指してるところがずっと遠いのにちゃんと突っ走ってる稔も十分以上に強いと思うよ。」

「そーそー、ちなみに俺は小学校低学年の頃には兄貴に追いつくのは諦めたぜ!!」


励ましてくる姫野に乗っかるようにして唐突に顔を出した須佐が堂々と情けない話を持ち出す。

尤も、あの練想空間での力量を見るに並の人間なら絶望しても不思議はないが。


「何時から聞いていたんだ?」

「目標とか伝説とか辺りからちらほらと。って、聞いてたって失礼な、近づいたら少しずつ聞こえてきただけだ。」


盗み聞き扱いをきっちり否定したのち、須佐はそのまま問いを投げかけてくる。


「で、目標が伝説とかってどういう事なんだ?」

「ん、あぁ。姫野が魔法剣士なんて荒唐無稽な代物を目指しているように、私もそれなり以上に普通の人類とは一線越えた代物を目指しているつもりなんだ。それらが遠いと話してた所だ。」

「具体的は、三国志とか精霊とか。」


私の話を姫野が補足した所で、須佐は私を見る。

頬が引きつっていた。


「…真もアレだけど、その訓練に付き合ってるだけあってお前も大概だな。」

「何だ今更、私は姫野より強いぞ。」

「あー…」


私と姫野を見比べるようにして視線を彷徨わせた須佐は、なにかに納得したようにコクコクと短く頷く。

なんだか心外な感想を抱かれている気もする反応だが、人からの反応が良いものじゃないのは今に始まった事じゃない。


「しかしお前も大変だな。目標になるような化け物がそもそもいねぇだろ。どうやって確認すんだ?」

「別に私は世界最強の相手を探して直接戦う必要はない。例えば、一騎当千の実力を確認したければ、千人と戦えばいい。」

「はは…さいですか。」


あっさり片付けた私の無謀とも取れる台詞に引く須佐。普通の反応だとは分かるので気にしない。


実際には目標とは相対できるのだが、それはそれで練想空間限定と言う縛りがある。

単に勝つだけではしょうもない、練想空間で目標とする力に辿り着いたのなら、完全な夢現同化を行う必要がある。


「けどお前らと話すのはありがたいぜ。」

「うん?」

「きついと思うことがあっても、お前ら見ると『あ、楽だ俺』と思えるからな。」

「あぁ、それは分かるかも。」


須佐と姫野が揃って私を見てくる。

おそらく、二人とも私が途方も無い苦行を平然とやっているように見ているのだろう。


だが…それで足りない事は昨日証明されたようなものだ。

やはり複雑な気分だ。













中間テストを返却され、間違いの多かった箇所の説明を始める先生。

汎用的な成績の私も当然の如く忘れたり考え足り無かったりして間違っていた箇所の復習をしながら、改めて先日の試合を振り返る。


復習…か。


あれがテストだと言うなら、当然『修正できる事』について考えなければならない。


地力が足りない、の一言で済ますのもアリではある。真威そのものを高め、発揮できる力を増やさなければ、スサノオ様にも夢現同化にも辿り着けはしない。

けれど、それだけで済ますのも問題だ。


朝須佐に会ったのが丁度良かった。彼の兄の惑意について簡単に思い出せたから。

惑意としての力はさほどでも無かったが、技量がデタラメだった。

更に、ある程度までなら姫野の魔法剣にまで対応してみせた。

真威を高めるのと別に、技術や反応を磨く必要もある。

一朝一夕ではどうにもならない…とは言え、試合を増やそうにも姫野が死にかねない。


「白兎。」

「ぁ…」


気づくと、先生が私の席を覗き込んでいた。

こだわりが無い結果、私の席は他の生徒が嫌がる前方だ。呆けていたらすぐ気づかれる。


「お前は別段よくも悪くも無い程度だが、予復習くらいはきちんとしておかないと落ちる一方だぞ?」

「…すみません。」


授業中に長話できないからか、一言だけ告げた先生は再びテストの説明に戻る。

身が入らないのも無理は無いんだけれど。何しろ私の目的に一切関係ない項目なんだから。

とは言え、向こうにしても生徒がどうであれ学生の勉学を補助、促進するのが仕事だ。

その邪魔をするのまでは私も本意じゃない。

授業外の話は休み時間にでも姫野と相談する事にして、私はテスト用紙に目を向けた。











「ずばり…相互理解です!!」


昼休み、予定通りに校庭の一角で姫野と合流した私の前で、人差し指を立てて自慢げに言うクシナダ姫。

此方の教師と言うならクシナダ姫とスサノオ様になるが、大雑把なスサノオ様に教師役はどうかと思い、クシナダ姫に頼んだ結果、即答でこう返ってきたのだ。


「相互理解?」

「はい。特に稔さんのほうはですね、真さんがどんな魔法剣を持っているのか使えるのか、全くと言っていいほど知らないのではないですか?」

「それは…」


確かに聞いていない。

自分にとって大事なものが人にとってもそうなんて保証はまるで無いし、姫野が大事にしている事は知っていても、魔法剣士になろうなんて描いた話なんて真剣に聞ける自信はあまり無い。それだと失礼になりかねない。それに…


「それは連携強化になっても直接私達の成長には繋がらないのでは?」

「ここの理解も不足ですよ稔さん。意思の世界、練想空間が現実と同じ様な形なのは、ここが『こういうもの』だと皆が思っているからです。二人だけになっちゃいますけど、二人の技が『そう言うもの』だと思える事はプラスになるはずですっ。」

「なるほど…さすがクシナダ姫。」


姫野に褒められてエッヘンと誇らしげに胸を張るクシナダ姫。

確かにそう言われれば、理解しておかざるを得ない。


「ここの事で俺達に突っ込みいれようなんざ文字通り千年は早いっての。」

「う…」


背後から現れたスサノオ様に指摘を受けて、私は口ごもる他無くなる。

ご尤も…としか言いようが無い。何しろ、僅かばかりの体験談を除けばここでの知識なんてほぼお二方に教わったものなのだから。


「相互理解って言うなら今稔の剣のほうを知りたいかな。僕の方はノートに纏める程度には色々あるし、テスト返却の日に長話なんて聞く気になれないでしょ?」

「そんな事は無いが…まぁ昼休みに片付くのは私の方か。」


言いつつ、私は剣を抜く。


「お前の理解は何処までだ?」

「えっと…強斬撃の轟と、乱撃の乱…かな。それを普通の斬撃とか、乱と轟を繋いだりとかしてる。」

「見事に見たままだけじゃねぇか。本当相互理解足りてねぇな。」


完全に返す言葉が無かった。


改めて、私は基本の再確認をするように説明を始める。


「轟は強力な斬撃。だが、当然振ってる間中力んで剣が鋭くなる訳も無い。」


ワザと全力で腕に力を込めて剣を振る。力は篭っているが当然鈍い。


「だから…力を込める、集中させるのは命中時。断ち切る瞬間に握り手含めて力が集中するように振るうんだ。」


今度振った一撃は、フェンスを紙の如く断ち切った。

練想空間内なのでしばらくしたら元に戻っていく。


「で、乱は、力んでとめるような事はせず、脱力状態から乱撃を振るう。鞭は振るい手の力が非力でも先端の速度は異常な事になるが、その要領で全身は止めようとせず、根本に瞬間最小の力を込めて剣を高速で切り返すんだ。」


脱力状態から乱によって連撃を振るう。基本的にはこの二つ…



嫌なものが視界の端に映って私は軽く後退した。



直後、横合いから飛んできた刃が私の居た地面を裂く。


「で、これが刃を飛ばす空…と。俺が稔に教えるために、無意識で使ってた剣を分類して分かりやすくしてやったんだが、これは未だに出来てねぇんだよなぁ。」


心底不思議そうに言うスサノオ様を横目で睨みながらも、私は何も言えない。

そんなもの現実で出来るか。

そう言うにしても、今の私の身体能力自体普通の中学生ではないし、練想空間での装備展開もそもそも現実のそれじゃない。

言い訳にしかならないため、言うに言えないのだ。


「刃を飛ばす…って言われても分かり辛いんだよね。稔は普通に鍛えて強くなって、その精神力で練想空間に来たんだし。」

「まぁ…な。」


自分で言うと言い訳になるので黙っていたのだが、姫野に当てられたので同意するしかなかった。


「でも、その剣は作れるんだし、真威を込めて斬撃を強くしたりは出来るんだよね?」

「あぁ、さすがにそれ位はな。」

「ならさ、剣で作った刃を投げる…って考えればいいんじゃないかな?超常現象を一足飛びに起こそうとか思うから大変なんだよ。」


あっさりと言われた私は、手にしている剣を見る。

そもそもが装備展開も超常現象には違いない。出来る事から派生していく、妥当な案だった。


私は剣を構え、轟を振るう時のように剣に真威を集中し、いつも撃たれている空の刃を剣に重ねるようなイメージを持つ。

そして…


「空っ!!!」

「っとぉわ!?」


姫野が初めて魔法陣を描いていたように一つ一つの工程を丁寧になぞって振るった私の剣は、銀色の光のようになってスサノオ様に向かっていった。

手にしていた剣で受けたスサノオ様が驚いたように少し固まったかと思うと、ぐしゃりと自分の髪を掴み乱す。


「俺があれだけ何度も見せてきたってのに真の助言一つであっさりやってんじゃねぇよ。しかも俺狙いかよっ。」

「スサノオ様は稔さんをからかいすぎなんですよ。」

「むぅ…」


二人の夫婦漫才を横目に、私は自分の剣を見る。

速さも鋭さもスサノオ様のそれとは桁違いで鈍く、このまま使えない代物だ。だが、一回使えれば使えるものを良くして行く事は出来る。

一歩目が進めたのは大きい。そして…


「…ありがとう。」


それは、間違いなく姫野のおかげだった。

凝り固まっていたら何時まで経っても使えないままか、使えても大分後の話になっていただろう。


「認めてくれたら真って呼んで欲しいかな。苗字だと何か格好つかないし。」


浮かれ気味に笑みを浮かべて言う姫野の姿を見て、私は口を開きかけて…噤む。


「それは永遠に早い。追いつかれてたまるか。」

「たはは…だよねぇ、僕が強くなったわけじゃないし。とりあえず、進歩おめでと稔。」


一蹴したにも関わらず、素直に私に出来る事が増えた事を喜んでくれる姫野の言葉に頬が緩む。

そんな有様を見られたくなく、私は姫野に背を向けて剣を鞘に収めた。


「予鈴だ、戻るぞ。…お二人もありがとうございます。」

「あ、うん。ありがとうございます。」


少し離れて私達を笑顔で眺めていた二人にお礼だけ言って、予鈴をだしに練想空間を離れた。

大人に勝てない現実に抗って、神様に届かない人間と言う事実に俯かず抗って、そうして練想空間に至った私。だが…

こうも支えて貰って進めると、少しは受け入れたほうがいい気がした。


相互理解…か。


「姫野…無理かもしれんが、魔法剣について編集しているノート、借りてもいいか?」


恐る恐る、と言った気分で切り出した私の言葉を聞いた姫野は校内に向かっていた足を完全に止める。

やはり練想空間に至る理由になるほどの宝物を借りるなど無茶が過ぎ



「うんっ!!是非っ!!!」



私の心配を断ち切るような、はしゃいですらいるような姫野の声に、私は思わず耳を押さえて苦笑した。

自分の宝物の価値を人に認めて貰える…って言うのは、それはそれで嬉しいんだな…

少なくとも魔法からは大分離れているだろう修行に姫野がついてこれている理由が少し分かった気がした。



見識深い先輩…になりたくてもなれない稔。神様相手では無理も無いですが(汗)。

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