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夢現の旅人  作者: 黒影翼
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第5話・大きなお祭り

※真視点です




第5話・大きなお祭り




「そう言えば今日からね、3Dロードイベント。」


白兎さん指導の下走ったり、山で剣の稽古として打ち合ったり、練想空間で雑魚惑意を払ったりする日常がしばらく過ぎて、4月も終わりに来た頃のある日の休み。

朝食の最中、母さんがチラシを手にして楽しそうに話し出す。


町中でチラシみたいのを見た気はするけど、基本修行でくたくただったりであまり覚えてない。


「何するんだっけ?」

「道路を封鎖しておっきな3D映像を町中で流すのよ。楽しみだわ。」

「ふうん、町中規模の映像かぁ…進んでるなぁ。」


3D映像の投影技術を使って、街中でパレードのように映像を動かすらしい。

特に見たいとか騒ぐつもりはないけど、町中通るなら通りすがりに見かけたらちょっと眺めるくらいいいかもしれない。


「真、一緒に見に行かない?」

「いや、僕はいつも通り修行。」

「そう…」


僕の答えがある程度分かっていたのか、母さんは少しだけ肩を落としたが特に何も言わなかった。

最近は休みとか関係なしに動き回ってる。

けれど、白兎さんがそんな感じだって言うのに、白兎さんを追っている身の僕がお祭り騒ぎに乗じて手抜きなんてするわけにはいかない。


「あまり無茶しちゃダメよ、体に悪いわ。」

「白兎さんに出来てることだもん、男子の僕が追い付けないなんて言ってられないからね。」

「母さんは真が無事なら何でもいいんだよ。けど、男として負けっぱなしでへこへこしてられないってもんだ、俺はわかるぞ。」


分かるぞとか自信満々に言う父さんに、僕は愛想笑いを返す。

へこへこ…殊勝でいる分には全然かまわない。実際に白兎さんは圧倒的に凄い人だし。

ただ、そんな彼女に凄く良くして貰っているから、愚痴を漏らしてガッカリされたくない。


と、朝食も終わるか終わらないか位で家のチャイムが鳴る。

イベントに出る前にってわざわざ家まで来てくれたのかな?

別に逃げる気なんてなかった僕は、応対しようと玄関に向かって扉を開く。




外には、私服の白兎さんが外にいた。




派手でこそ無いものの、制服以外は運動着か練想空間の退魔装備しか見たことなかったから驚いて固まってしまう。


「な、なんだ?じろじろと。」

「いや、可愛いからビックリして。どうしたの?」

「…イベントを見て回ろうと思ってな。さすがにいつもの装いじゃ目立ちすぎるだろう。」


そっぽを向いて言う白兎さん。照れているんだろうか?

と、後から追ってきた母さんが白兎さんの提案を耳にしたのか、派手に手を叩いて笑顔を見せた。


「そうよ、偶には休んでデートにでも行ってらっしゃい。服を出してくるから中で休んで行って。」

「あ、と…」


嬉しそうな母さんに何かを言いかけたものの、結局何も言わずに部屋に去っていく母さんを見送る白兎さん。


「ただ遊びに…って訳でもなさそう?」

「察しがいいな。」


言いつつ白兎さんが取り出したのは、3Dロードイベントのチラシ。

テカテカと肉食恐竜の絵が描かれていた。

光る車とか普通に電飾等で飾れば出来そうなものより、わざわざ映像をなすならこういうものの方がいいと言う事だろう。飛ぶ奴とかは機械やハリボテで作るのも無理だろうし。


「遊園地のパレードみたいならともかく、こういう恐怖感を呷る代物を感受性の強い子供が何人も見かけて、街中に化け物がいる。と、本気で思って気絶でもすれば…」

「あ、惑意か。」

「あぁ。勿論誰もが楽しんでそれで終わりならいいんだが、これではな。」


お化け屋敷等のびっくりイベントの会場では、それらの惑意が発生する事があるらしい。

そこで、イベント周りを見回りついでに見て回ろうと言うことだった。


「ロードイベントを追って特に何も無ければそれでよし、あれば練想空間での対処がそのまま修行になる。母君じゃないが、偶には休んでも問題ないだろうしな。」


何も無ければそれでよし、という事だけど…

何かあれば…三、四人分の惑意で現れたインキュバスがアレだったんだ、相応にとんでもないものになるだろう事は想像に難くない。


「しいて言うなら…他の生徒に見つかったら学校で面倒、と言う位か。今更と言えば今更だがな。」

「そんなの、別に気にしなくてもいいじゃない。何も悪い事してるわけでもなし。」

「そうそう、折角なんだからデート位楽しんできなさいな。」


都合よくと言えばいいのか悪いのか、肝心の部分はさっぱり聞かずに現れた母さんに腕をつかまれ引っ張られる。どうやら、何が何でもデートって事にしたいらしい。

白兎さんが嫌とかそういうんじゃないけど…なんだかなぁ…

聖地を荒らされているような気がして、なんだかあまり喜べなかった。白兎さんのほうはどうなんだろう…









「白兎さんは恋人扱いされるのどんな気分?」

「はっ…ぁ?」


疑問に思ったので聞いてみよう。

と、イベント位置までの会話がてらに切り出したんだけど、白兎さんは硬直した後で僕を横目で見る。


「…それをお前が聞くか?」

「白兎さんが嫌って訳じゃないんだけどさ、修行とかで知り合って人助けにもなる惑意の排除に回ってるのに、そういう扱いだと何か軽くされてるって言うか…」

「そう言う事か…全く、誰でも躊躇いそうな事でも平気で聞くなお前は。」


普通触れない話題だから驚いたらしい白兎さん。

告白を躊躇う…なら僕もちょっと分かるけど、そういう決心が要る質問じゃないから別に平気だと思うのは僕が変なんだろうか。


「人の反応の話ならどうでもいい。と言うか、そう思わないとここまで来れなかった身だろう、お互い。」

「あ。」


わざわざ言われて気づく。

元々僕も白兎さんも大事なものを人に全く理解されてない身なんだ。

今更そんなところで不満を持ってもしょうがない。

抜けた質問だったと今更気づき…


「ちなみに、私から見てお前が男子としてどう見えるかを聞きたいか?」


丁度そこで、僕を見ながら微笑んで白兎さんがそう言って来た。

おそらくは、最初白兎さんが勘違いして固まった、いきなりされるには勇気の要るだろう意図の質問。

いくら僕でも、このタイミングで笑顔の白兎さんにそれを聞かされる勇気は無かった。


「え、遠慮しとく…」

「賢明だな。」


怒られたのかからかわれたのか。どっちかは分からないけど、こんな悪戯っぽい事をしてくれる程度には仲良くなれたのかと思うとちょっとだけ嬉しかった。

からかわれてるなら喜んでどうするって気もするけど。











町の一角、道路の一部を封鎖して行われるこの3Dロードイベントは、神事関係の催しが主となっているこの辺で、逆にこの地域の人の…地方の人の為に最新技術をお披露目して回るためのイベントらしい。

町でやるから見学自体は無料で出来るもので、順路の各所やイベントの開始、終了地点にお店が出ている。


僕達は買い物が目的じゃない…とは言え。


「おなかが空いたら仕事にならない…ってね。仕事じゃないけど。」


イベントにちなんだ映像機器の資料や家庭用の投影装置なんかが売っているけど、さすがに5、6桁の代物は買っていられないので、普通にイベントに乗じて並んでいる屋台でありがちなものをいくつか買う。

白兎さんは僕を止めなかったけど、何を買う様子も無かった。


「…白兎さんは?」

「両親と折り合いが悪くてな、こっちは気にするな。」


多分、お小遣いなんてものを使える状態じゃないって言う事なんだろう。勝手にアルバイトなんて出来るわけもないし。

気にするなとは言うものの、当然無理な話だ。


「そうは行かないよ、何がいい?」

「お前な…同級生相手にたかれと」

「好みを教えてくれなきゃ食べられない量片っ端から買って来る。」


きっぱりと言い切った僕を前に目を細めた白兎さんは、少しそうした後で諦めたように俯いた。


「…チリドッグとスパイシーチキン。」

「了解。」


案外素直に教えてくれた白兎さんに少し嬉しくなった僕は、近場に見える屋台に駆け足で向かった。

勝ってきた二つを渡すと、白兎さんは丁寧に頭を下げた後で受け取って、袋部分を持ってチリドッグを齧る。

あ、なんか嬉しそう。


「結構肉系好きなの?」

「辛い物…だな。それに、家で出るものは近所親類に貰える菜食や穀類が多くてな。文句を言うつもり何て無いが、僧侶でもないのに寂しくはあってな。」


両親と折り合いが悪い、と言っていた。

食事に関して好みなんて聞いてくれず、白兎さんだって真面目な人だから作って貰って文句なんて言う人じゃない。

それで普段から好みに一つもかすりもしないんじゃ、嬉しいのも分かる気がする。


「なんだその笑みは、悪かったな女子らしくない趣味で。」

「え、いや、好きなもの食べれて嬉しそうなのが可愛いなって。普段かっこいい感じだから。」

「う…ぐっ…お前は…」


僕から目を逸らした白兎さんは、手にしていたチリドッグを無理やり押し込むようにがつがつと食べ始めた。












適度に腹ごしらえも終えた所で、イベントが始まった。


「ふわぁ…」


3D映像って事で見た目もっとテレビっぽくぶれて映るかと思ってたんだけど、最近の技術はそれなりに凄いみたいで、割と生々しい映像が写っていた。

しいて言うなら、音の発生位置は映像の中にする事が出来ないからか、声や足音がスピーカーとか映像を再生している機器本体から流れている所位だ。

それが変わったらもう本物が歩いているようにすら見えるかもしれない。


「綺麗に映るんだね。」

「技術的な話は知らんが、テレビといい最近はよくやるな。」


恐竜が歩く様子を眺めながら、僕達は揃って感心していた。

技術で作ったものなんだけど、関係する知識なんて全く無い僕達には何がどうしてこんな事が出来るのか全くわからない。


「練想空間が出来る訳だな…」


ふと、遠めにイベントを眺めている白兎さんがポツリと呟きを漏らす。


「どういう事?」

「これだけ大層な事を技術的に誰かが出来る事を知っていて、それぞれの専門家達が説明できないありえないと言ってしまった事なんて、誰も信じはしないだろう。」


これは技術で出来る代物で、学者や研究者が出来ないと言ってしまったものはフィクション。

僕や白兎さんが向かっている場所が、現実を見れない絵空事だと片付けられている理由。

こんなものまで出来ていたら、現実に起こる災害なんかの予測が出来て当然出来なきゃ手抜き、何て勘違いが起きても仕方ないのかもしれない。


「技術が発展すればするほど、信仰とかがなくなってくのかな…」

「だろうな。」


今ですらまるで夢の中のような練想空間でしか話せなくなっている神様達。

それでも人の惑意を排除して、真威に沿って力になってくれている。

成長と言えばいいのかもしれないけれど、偉大だと思っていた自然現象なんかが制御できる代物だ何て思うようになったら、敬意が人から無くなって行くのなら、少し嫌だな。


「とにかく、ただ堪能してても仕方ない。練想空間を見ながら、異常な惑意が出るかどうか確認しながらイベントを追って行こう。」

「分かった。」


所々で目を閉じながら、練想空間を見る。

基本的には皆楽しんでいるみたいでちょっと怖がった子供達が惑意を発生させても一緒に楽しんでる大人達に吸い込まれ、特に変化も起こらない。

多少の惑意なら普通の人でも十分消せるから、怖がってる子と楽しんでる人で割合が同じ位なら別段何か起きる事もない。


あるとすれば…



「子供がショックで気絶したとかあれば…あ。」



言って丁度、目をむいてへたり込んでしまっている子を見つけた。

周りにいた友人らしい子達が呼び掛けている。

練想空間にいる間は人からは寝てるみたいに見える。だから、僕と白兎さんは『並んで日向ぼっこしていたら寝てしまった』様を装うと決めていた。

そのために適当なベンチを見つける。日当たりがよくてもロードイベントを見れる位置から外れた場所は空いている。



僕達は揃って座って練想空間に入った。

僕はともかく、白兎さんが個人の惑意くらいに負けるはずは無い。

いくら物珍しいイベントの結果だからって別に







ゴウン!!






と、聞いたことがない地響きのような音がした。

見るまでもなかった。見ようなんて思う必要がなかった。




目を開けてさえいれば何処にいても分かりそうな、民家より巨大な恐竜がいた。


挿絵(By みてみん)


「ちょ!え!?冗談でしょ!?」

「練想空間で冗談もあるか魔法剣士!来るぞ!!」


さっさと武装を展開した白兎さんは、踏み込んできた恐竜の足を横っ飛びで回避する。


「な、何で!?こんな規模の惑意なんて一人で」

「今まさに皆がこれを見てるからな!おそらく、惑意と真威で相殺せずにこっちに吸い寄せられてるんだろう!」


水と油みたいに分離した状態で、皆の惑意で形作られてるんだろう。本気の悩みや恐怖じゃない、びっくりしたとかどきどきするとか、そんな気分の集合だけでも数百数千もいれば…



「こうなるのかっ!!うわっ!」



僕を追ってくる恐竜に対して真後ろに飛んだ僕は…



ズウン!!



着地前に響いた恐竜の一歩の振動で転んだ。

しかも恐竜は、そのまま加速するように次の一歩を振り上げている。

冗談じゃないっ!!


転がって避けた僕の横を潰すように踏み込まれた足の振動で跳ねた僕は、どうにか体勢を整える。


「ちっ…こっちだ化物!!!」


と、白兎さんが近くの民家の屋根から飛び掛かって、恐竜の首に斬撃を放り込む。

けれど、表面が浅く裂けた位で斬れたと言うには心許ない。

案の定、惑意特有の赤い光は、切り口から少し漏れた程度で治まる。


けれど、予定通りとばかりに跳んだ先の屋根に着地した白兎さんは、恐竜の視線が自分に向いたことを確認すると道路に降りる。


「姫野!お前は帰れ!!練習じゃすまない!!!」


それで終わりとばかりに一方的に一言告げた白兎さんは、僕から引き離すように駆け出した。

駆け出した白兎さんを追う恐竜の惑意。


「帰れって…」


僕じゃあれは役不足。

それはわかるけど、白兎さんだってあんなの相手じゃ無理がある。

跳ばないと首に届かなくて、跳ぶと不安定で鋭い斬撃が振るえない。それが原因だ。


僕は現実で倒れていたはずの子を見た。どうやら目を覚ましたらしい。

惑意は真威を侵食しようとする。だから、さっきまでアレがあの子を食いかけてて、今は白兎さんが引き受けているから目を覚ましたんだろう。


最悪、白兎さんは手も足も出なければ引く事が出来る。

でもそしたら…考えるまでも無い。


僕も白兎さんも引いたら、あんな規模の惑意に侵食された人なんて正気で済む訳がない。


僕はあれをどうにかする手立てを考えながら駆ける。

白兎さんが時間を稼いでいる間にあれを消しきる魔法を使う?


…いやいや、そんな代物使って消えたらかんかんに怒られる。

じゃあ逆に、白兎さんが首を全力で切断できるように動きを…あ。


「それだっ!!!」


現地で慌てないように剣を作ってしまってから、僕はそれを手に駆け出した。







恐竜が目立つから位置はわかるけど、大きさのせいか一歩が大きくて町中で見る車より速い。

瞬間的には真威を使って凄まじい速さで移動できる白兎さんでも、あれだと走って逃げ切るのは無茶だ。

急げ、急げっ!!


僕が追い付くのとほとんど同じタイミングで、唐突に恐竜の体が倒れた。

慌てて直線上に飛び出すと、川を背に着地したらしい白兎さんと、川に足を突っ込んで引っ掻けたらしい恐竜の姿が見えた。


川を背にギリギリで横に飛んで恐竜を転ばせたんだ、さすが白兎さん!


「白兎さんナイス!!」

「姫野!?」


声をかけてくる白兎さんに答えることなく僕は恐竜目指して走り続け…


展開しておいた、フローズンダガーを投げ放った。

ご丁寧に川に収まる感じで転んでくれてる、これを逃す手はない。



「フリーズケイジ!!!」



スサノオ様に見せた時と違って加減なしの最大展開。おまけに川に転がっている恐竜は、瞬く間に巨大な氷解に包まれ、『地上に首が倒れている状態で』動けなくなる。


恐竜は氷河期を迎えた世界で絶滅した。


練想空間では皆の意思…認識が反映されている。恐竜として出来た以上、氷なら効きもいいはずだ。


「白兎さんっ!!!」


僕が叫んだのとほとんど同時くらいに、白兎さんは駆け出していた。

氷に罅を入れ始めている、それでもまだ動き出すには至らない恐竜の首に向かい、そして…




「『轟』っ!!!」




猛き一閃にて、恐竜の首を斬り落とした。

斬り口から、赤い光が吹き出して散っていくのが、倒れている僕からもよく見えて…




倒れている?




あ、やばっ…

真威の消費が大きすぎたのだと気づいた僕は、慌てて目を閉じて、練想空間を離れた。












ゆっくりと目を開く。

すっかり夕方になっていた。日は傾いて今にも消えてしまいそうだ。


町中で行われた結果散乱しているゴミを清掃員さんが片付けるなか、僕はベンチに寝そべっていた。


…起きられた。


ってことはとりあえず僕は大丈夫らしい。

白兎さんは…大丈夫だ。僕をベンチに寝かせたのは彼女だろうから。

よかった、あんな化物相手でも上手く行ったんだ。さすが白兎さん。


感心しながらゆっくりと身を起こす。

うん、怪我での消耗じゃないからか、ボーッとするくらいでどこも痛くない。


白兎さんは、ベンチに背を向けるようにして空を眺めていた。やがて僕が身を起こしたことに気づいたのかゆっくり振り返ると…



鋭く振るわれた白兎さんの平手が僕の頬を叩いた。



寝起きの僕を気遣ったのだろう、白兎さんの強さを考えればあまりにも優しい、撫でるかのようなその一撃に、かえって僕の心が痛む。

気遣ったにも関わらず叩いた理由なんてわかりきっているから。


「そばにいれば監督できるかと思ったんだがな。」

「…ごめん。」

「私に謝っても仕方無いだろう、消えるのはお前なんだぞ?」


淡々と話す白兎さんの口調から怒りを抑えているのを感じられてしまい、同時に、気持ちを感じられるくらいには一緒にいる女の子を傷付けたのかと思うといたたまれなくなる。


「口出しも修行もお前が消えないためのものなのに、その私を助ける為にこれでは話にならないな。」

「白兎さん…」

「もう勝手にしろ、私に関わるな。」


白兎さんは言うだけ言うと、僕に背を向けて去っていった。

僕にはそれ以上なにも言えなかった。












次の日、白兎さんは迎えに来なかった。




「はぁ…」


友達。そう呼ぶには親しい仲じゃなかった。

同時に、そんな程度の言葉で片付けてしまうほど軽い仲じゃなかった。


同じ場所を知って同じ場所にいた、唯一の人。


そんな白兎さんに突き放されたのは、さすがに堪えた。

それこそ…


「いよっ、今日は一人か?」

「あ、守雄…」


ここ最近はタイミングよく通学中に会うことが多くなっていた守雄に声をかけられるまで全く気づかないくらいに。

元気に返す気分じゃなかった僕は、だらだらと守雄の顔を見る。


「どうした、元気ねぇな?白兎の奴が一緒じゃないけどそれ関係か?」

「まぁね…分かる?」

「お前の様子が分からないんじゃ人間素人だな。」


楽しそうに言う守雄。

よっぽど僕は普段から分かりやすいらしい。それほど単純なんだろう。


「…何か言われたのか?」

「ん…ちょっとね。」

「俺はちょっとの事で落ち込む姫野真もちょっとの事を根に持つ白兎稔も知らねぇ。」


笑って適当に話を流して貰える事を期待してた僕にかけられたのは、予想より真面目で…予想外にも白兎さんもちゃんと見ての言葉だった。


「言ってみろよ、考え纏まるかもよ?第一、いかれた話ってんなら四六時中してんだから、今さら隠すなって。」


軽い口調と笑顔で僕の頭を撫でてくる守雄。だけどそれは、決して僕を馬鹿にしたものじゃなく、優しさからくるものだった。

聞いたわけじゃなくても分かる。だって撫でられる掌から感じる暖かさがクシナダ姫を思い出すくらいのものだったから。


「剣を鍛えて貰ってるって話をしたよね、それで無茶して怒られたんだ。面倒見てられるかって。」


練想空間の事は話しても仕方ないから簡潔に伝える。

命の危機が絡んでることを話さないと誤解を生むかもしれないけれど、木刀、竹刀の練習で命の危機を説明できないから仕方がない。


「白兎の言うことを聞かなくて怒らせたって訳か、成る程…あいつ剣には滅茶苦茶恐そうだもんな。」

「恐そうって言うのはともかく…僕のことも気遣っての話だから、悪いことしたなって…」

「ふぅん…」


そこまで言って、守雄が突然気の無い返事になった。ついさっきまで真面目に受け答えしてくれていただけあってその差がよく分かる。


「剣を教えてくれる白兎の言う通りにしなくて悪い…ねえ?」

「うん。」

「白兎先生の言う通りにせず心配かけて悪い…ねえ?」

「なんだよ、そんな嫌味みたいに繰り返しあたぁっ!!」


芝居がかった守雄に文句を言おうとしたちょうどそこで頭を殴られた。

何をするのかと守雄の顔を見ると、なぜか守雄の方が怒っていた。


「アホか気付けっ!お前がいつ『先生に心配かけないように真面目に振る舞った』んだよ!!」

「え?あ…」


守雄に言われて思い出す。

進路指導を馬鹿にするような魔法剣士という目標。

それを先生を怨むわけでもなく押し通している身で、人の迷惑がどうこうなんて気にする資格なんか無いも同然なんだ。


「ま、お前は白兎稔大先生の事は相当尊敬してるみたいだからな。気付かなかったのも無理ないが…そもそも同級生の女の子尊敬してへこへこしてて良いのか?かっこいい魔法剣士になりたいんだろ?」


そうだ。

第一僕は言ったはずだ、白兎さんに追い付くと。

心配かけたからって僕は大人しくするのか?そうじゃないはずだ。


「いちいち謝ってないで、稔!俺の女になれ!くらい言って見せろよ。」

「だからそれは違うってば…でも、ありがとう守雄。」


僕の身を気遣って怒ってくれた白兎さん。だけど、僕はそれでも再三踏み込んだ。

消えるかもしれないって言うのに戦って、止まらなかったその理由…









最初に見たのは、ただのテレビ。

ピカピカと光る剣を振るう姿がカッコよくて、真似したくなったんだ。

子供の初めなんてそんなものだ。カッコ良かったから、そんな程度だ。








だけど…








放課後、僕は一人で走っていた。


走る。

ひたすらに走る。

体力じゃなく最大値の底上げの為だから、ダッシュをひたすらに繰り返す。


「はぁはぁっ!さ、すがに、辛…っそおぉ!!」


辛い、と言いそうになったところで無理矢理起き上がる。

足は痛い、けど…駆けた。


「白兎さんが凄いのはわかってる、だけど…だからなんだ!」


女の子が凄い凄いってはしゃいでて…僕の方がゴマするようについて歩いたってしょうがない。

だから…引かない。

そのために出来る限りを…いや、今以上を出来るように!!


練想空間で真威を集中させる要領で両足に真威を集中。

痛みなんか関係ない、必ずもっと速く強くなるんだと、そう想う。

そして、僕は再び地を蹴った。















「あーあ、ざまねぇなったく。」

「…え、も、守雄?」


気が付くと、守雄に覗き込まれていた。


気が付くと?気を失ってたのか?


見上げた空は紺色で、日が沈みきれば夜になるだろうその直前であることを示していた。

身体を起こして立ち上がろうと…


「あつっ…」


足に力を入れたら激痛が走った。

痛みを自覚した瞬間両足とも痛くなる。


「白兎に格好つける前にアイツより鍛えようとしたのか?そりゃさすがに無理…あるけど、魔法剣士よりゃ簡単か。」

「え…あたたたたっ!!」


言いながら守雄は僕の手を引き立ち上がらせる。と、汗と土埃が泥みたいになってまとわりついている僕の姿に構うことなく僕の腕を肩に背負った。


「男抱き上げる趣味はねーんだ、肩までは貸してやっからとっとと家帰るぞ。」

「…ありがとう。」


顔も見ないでそう言ってくる守雄にお礼を言うと、足が痛い中わざと一歩だけ大股にされた。

自業自得とは言え結構深刻なのに、照れ隠しで痛めつけなくても…





「実際どうなんだ?」

「え?」


隣を歩く守雄が漏らした、ぴったりくっついていなきゃ聞き漏らしそうな小さな声での問いかけ。

くたくたで頭も回ってなかった僕には、質問の意図が全くわからなかった。


「魔法剣士だよ。ノートに絵ばっか書いてヘラヘラ笑ってた頃ならいざ知らず、この有り様だ。何かアテでも出来たのか?」


丁寧に聞かれてようやくわかった僕は、答えようとして固まる。

練想空間も何も知らない筈なのに察せるなんて…


「正解。相変わらず凄いね守雄は。」

「何だよ急に。」

「だって、走るようになっただけでそこまで気づけるんだもん、凄いよ。」


僕の言葉を聞いて息を吐いた守雄は、僕の背中から回している左手に力を入れる。

軽く抓る程度のつもりだったんだろうけれど、結果変に力が入って足が痛む。


「痛…痛い!力んだら足が痛い!」

「知るか御人好し。ったく…人の事情察するのにお前より」


呆れ混じりの守雄に引きずられるようにして連れられている僕。

僕を御人好しと言うけど、無関係の修行の様子をわざわざ見に来て介抱してくれてる辺り、守雄も十二分に御人好しだと思う。


「俺はお前に言われるまで、白兎の噂を信じて完全に怖いだけの女だと思ってたけど、話してみりゃそうでもなかったからな。」

「勘違い、で嫌いたくないからちょっと気をつけてるだけだよ。」

「それで遠慮が多めでアイツ相手にも腰低かったって訳か。」


人類皆兄弟…はさすがに誇大広告が過ぎるけれど、それにしたってパッと見で一面だけ合わずに喧嘩してよく知ったら違う、何て勿体無い話はない。

無くていい悪意…惑意なら、持ちたくないし向けられたくない。


「話を戻すが、アテが出来たのは間違いないんだろ?どのくらい近づいたんだ?」

「何処を目指したらいいかも分かってなかった状態から、とりあえず方角位は見えるまでは。」

「『夢へ近づいた』の表現が歩数どころか方角確定した程度か、目指す方向性決まってても叶わない奴なんて山ほどいるのに、ずいぶんとまぁ大変そうなこって。」


呆れたように言う守雄。

確かに程々遠くありえない話なんだけれど、それでも、僕にとっては見えただけで十分だ。

距離なんか、高さなんか、遠さなんか…白兎さんのように、いくらでも走ればきっと潰せるから。


「そういう守雄だって、『女の子と仲良くなる方法』確定してないんじゃないの?」

「が、ぐっ…お前、それ言うか?」

「守雄の結婚よりデタラメって言う僕の夢の方が先に叶ったりして。」

「だーまーれー!畜生絶対中学のうちにいい娘捕まえてやる!!」


これはこれでらしい願い事なんだろうか。

夕日も消えかけている紺色の空に、男らしいんだか情けないんだか分からない叫びが響き渡った。










ボロボロになるほど消耗した身体は、普通に待っていたら回復しないかもしれない。

だから、度々訓練の後にやって来た瞑想。

力を抜いて座り、目を閉じて全身に真威を巡らせる。

より強くなるように意識しながら、全身が回復するように。


これも、白兎さんから教わったんだよね。

魔法剣士になるなんてトンデモ話の取っ掛かり、その全てが白兎さんから貰ったものと言ってもいい位だった。白兎さん相手に頭が低くなるのも無理は無いか。

でも…


『いちいち謝ってないで、稔!俺の女になれ!くらい言って見せろよ。』


まるで駄々をこねる子供のように指導者に背いてでも捨てなかったはずのわがまま。

今更彼女相手にだけ殊勝になって控えていても仕方ない。



覚悟を決めよう。



たとえ命がかかっていても、たとえ誰一人と仲良く進めなくても、僕は変わらない。

まして、目指す方向が見えた…夢現同化について知った今、引くなんて選択肢は無い。


立ち上がる。


少しだけ足の痛みは軽くなっていた。これで眠ればいつもと同じで大体は回復するだろう。


タン、と軽く音を立てて床を蹴って、足が良くなってることを実感したところで、僕は机に向かって座り、ノートを開いた。

自作の六芒魔法について記述されているページを過ぎた所で、魔法剣の描かれたページに辿り着く。

練想空間で使った…使えたものには印をつけてあるが、地力が足りないせいか作ることもままならなかった剣なども書かれている。


これらを作る。

でなきゃきっと、届かない。


僕は目を閉じて…




気がつくと翌朝になっていた。




全力ダッシュの繰り返しに足の回復。

それらに体力も真威も使いきっていて、机に向かった段階で倒れたらしい。




…大間抜けだ。




せっかく覚悟を決めたのに、いきなりやらかしたポカに僕は肩を竦めて息を吐いた。



普通に居たろう生命体とは言え、剣で相対するレベルではないですね(汗)。

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