巻末・近く遠き神々
巻末・近く遠き神々
「ま、そんなお気楽な訳もねーんだけどな。」
練想空間。
学校の木に立ち、窓から呑気な会話をする稔と真の姿を眺める複数の影があった。
スサノオとクシナダ。
一度消耗して消えたがようやく持ち直し、様子を見に来たのだ。
「どうにかお前の加護で持ち堪えられる程度で済んで良かったぜ全く。」
「そうは言ってもぎりぎりでしたけど。」
消滅まで行かずに体に戻るように。
クシナダ姫が真と稔に施しておいたそれは保険としてかけた程度で、通常そんなものが機能するような事態になるまで練想空間で活動することなどありえないのだが、件の聖剣、そしてその開放による六芒魔法としての発動によって夢現同化と呼べる域の現象を引き起こしてしまった真は、その保険によって目覚めることが出来たのである。
たまたま大丈夫だった、と言う程都合よく済む消耗ではなかった。
「しかし、まさかアーサーの奴の聖剣を創って振る子供がいるとは、とんでもない弟子を持ったの。」
そして、二人とは別の木の、太めの枝に腰掛ける女性が安堵している二人を見て微笑む。
「呑気に言ってくれますね姉上…」
「はやや…アマテラス様がわざわざ此方に来てくれたんですから、そんな渋い顔をしなくても…」
楽しげな女性…アマテラスと呼ばれた彼女を、クシナダの指摘通りに渋い表情で見据えるスサノオ。
それと言うのも…
「惑意をやたらとこの辺に集め過ぎてなければここまでの惨事にはなってなかったんだぞ?」
今回練想空間内でとはいえ、蛟のような神話の域の代物が発生する規模の災害となったのは惑意を真と稔の近所であるこの地に集めすぎていた結果なのだ。
ともすればダムの決壊が起きたことすらそれが原因かも知れず、おかげで完全に消滅することこそ無いとは言え二人は共に一度消え、それどころか本当に目覚めなくなる可能性すらあった真と稔が神話の代物に相対する事になったのだ。
人の選択を尊重する立場にある神様とて、家族を持ち祭事を楽しみ宴を囲む心ある者。
近しい者となってきている二人を危機に晒して笑ってはいられなかった。
だが…
「知っとるわ。ただし、他の地がすさんでおったじゃろうがな。」
「まぁ…そうなんだけどな。」
アマテラスの返しに渋い顔のままで同意するスサノオ。
練想空間に到る者ですら県の数より少ない現状、祭事等に沿って行動しなければろくに動けないという縛りをもつ神々にしてみれば、そのうちの二人がいる地に惑意を集め、掃ってもらうと言うのは、詰まる所他の地に住まう人々の力になることに繋がる。
人々の命の価値が同じであるなら、絶望や狂気の多い現代にて多くの人の死を避ける為にも当然の対応だ。
スサノオもそれは分かっている…が、それと永い時の中では珍しい近しい人間をあっさり危険に晒されたのを明るく聞いてはいられなかったのだ。
「それに…わかっとるじゃろ?」
「退魔師が全滅した今、本当の夢現同化に至ってる人間はいない。それは今、今回の蛟のようなものが万一現実に出たら対処出来る奴がいないって事…だろ。」
夢現同化に至る…符術や異能を実際に扱い妖魔などの具現化する域の惑意の塊と相対できる者。
それがいないと言う事は、妖魔などに対処出来る者がいないという事。
そして、神々が力を失うのに対し、惑意は減るどころか増してすらいる。
恐怖不安困惑…それらの対象が、魔性の存在を否定しても尽きることが無いように。
それは、たとえ本物の魔を生まなかったとしても、多くの人々を狂わせる事になる。
狂った人々に対し、神々に至るほど強く澄んだ真威を持つ者は…
「今となっては、一人しか…ですけどねっ。」
クシナダが笑顔で校舎を眺めつつ告げる。
視線の先には、取り乱した稔をようやく宥め、自分の教室へ戻ろうとしている真の姿。
練想空間内から雨雲を裂いた聖剣。
今はただの一撃のみで借り物、しかも消耗も危険域と話にならないが、そもそも真威で現実を変えるという所業そのものが、並の所業ではない。
それが、練想空間に至って半年も経たない少年が辿り着いた域となれば、期待されるのは当然だった。
「人が己の恐怖に飲まれる前に、彼のように強い人に増えて貰いたいがの。」
「真だってまだまだだし、稔も心中穏やかじゃないだろうに…やれやれ。」
決して良いと呼べる状況ではないにもかかわらず、真たちを…人を見る彼らの顔には笑みが浮かんでいた。
理を外れたものを異物とし、科学の範疇に無いものを妄想と嗤い、現実より引き剥がされた神々。
人々と遠く離れた…離された身でありながら、それでも尚その幸せを願う。
それは単純に、彼らが人々を好きだと言う事。
でなければ、祭事で人と寄り添い騒ぐなどしてこなかったろう。
創生に関わった大地の人々への愛情、それはある種当然と言えた。
そして…離されて尚近づいて…練想空間に至ってくれた人間ともあれば、それはとてもありがたい事だ。
国全体を守るのに必要と惑意を真と稔の近辺に集めていたが、危機に晒して笑っていられないスサノオとクシナダの気持ちも、アマテラスは分かっていた。
「しっかし主も相変わらずよのぉ…仲良くなるといちゃいちゃべたべた…」
とはいえ、一度は引き篭もるまで暴れられたアマテラスとしては、無垢に優しくは有れず、結果としてからかう。
母親を追って暴れ、娘を取られてふてたスサノオは、事実彼女の言うとおり何気に近しくなった者に甘いのである。
「るせぇよ!弟子もいない僻みか?」
「おるわ一人位!」
「まぁまぁ…折角晴れたのですから喧嘩なさらずとも…」
古来より在る神々。
その弊害と言うべきか、嫁に貰われたクシナダは二人がこうなると控えざる負えず、口論を始めた二人の間で腰低く二人を宥める。
近くて遠い練想空間、同じく人に近いようで異なる神々の喧騒が響いていた。
総あとがき
まず始めに。
今作にここまでお付き合いくださった方向けの内容となっておりますので、本編の内容に関する話を含む内容となっておりますので、あとがきから探す方はご注意ください。
まずは改めて、読んで下さった方ありがとうございます。
そして、色々申し訳ありません!!
ってまぁ、読むか否か各々で決めてるのに勝手に謝るなとか怒られるとそれはそれで申し訳ないのですが、後書きまで来た方向けと言うことでご容赦下さい。
で、何で謝罪に入ったかと言う話ですが…色々と情けない方向に予定外が過ぎたもので…
長い間は未完で更新停止に見えるのであまり空けないようにと心がけたつもりだったのに体調と頭がついていかず一週以上当たり前にかかってしまいました。
自分の頭にある程度あるものを文字に起こす形になる予定でいたので『なんとかなるだろー』とか思っていて、結果なんともなりませんでした。本当に申し訳ない…
次に、視点をころころと変えないほうが状況が分かりやすいと言う話を聞き、とはいえ普通の第三者視点的な書き方は出来そうに無い気がしていて、一人限定の視点での書き方だと主役格二人いるのにどうしたものか…とか一瞬考え
『じゃあ二人の視点で一話ごとまとめよう!』
とか馬鹿な考えに至った結果、いろんな所で詰まるわ止まるわ出したい話がすんなり出てこないわ…
話数一桁の内に『失敗したな』と感じたものの、未完終了は御免だと思ったのと、途中で止まるより、失敗は失敗で『何が失敗か』を情報経験として使えるように思い知っておきたいと言うものがあり、止めずに進めました。
下調べの為に夜行バス+数泊までしたと言うのに…中々思うようには行かないもので…
今後の予定ですが…
何もしない。と言う事はありませんが、先に書いた通り下調べに行く等の準備があったり、他の事をしたりと間が空くとは思います。
忘れた頃に…と言う感じになりそうなので、もしまた何処かで見かけたら『うわ、いたなぁ』程度にでも思い出して頂けたら幸いです。
それでは改めて、ありがとうございました!!




