第15話・惑う本心
※真視点です
第15話・惑う本心
廃病院の解体作業を行う父さん達を庇う為に、廃病院の惑意と丸一日戦い通したその日。
体はともかく真威を使い倒した為ぼーっとする身を引きずって、それでも一仕事終えた満足を抱えて家に帰ったところで…
「何をしてたんだ?」
無断でのサボりとなるとさすがにあっさり見逃して貰えるわけもなく、父さんと母さんに問い詰められていた。
机を挟んで二人と向かい合う形で座る。
うぅ…これでも父さんを守ってたんだけど…言えずに怒られるのはちょっときついかも…
「サボりたかった…なんて訳じゃないんだろう?」
ゆっくり聞かれて、僕は静かに頷く。
そんないい加減な理由で学校をサボるなんてあり得ない。
二人もそんな僕だと知ってるからか、尚更問いたくなってるんだろう。
「…お前ひょっとして霊感でもあるのか?」
「え!?」
いきなり図星近いところを突かれて驚く。
まさか父さんからそんな話を振られるなんて思わなかったから。
案の定母さんもびっくりしたようで、驚いた後で怪訝そうに隣の父さんを見る。
「あなた、そんな子供みたいな話…」
「そうか?真が大丈夫っつって始めた病院の解体が大丈夫だったんだ、変な話じゃないだろ。」
いぶかしむ母さんに対して、あっさり根拠を告げる父さん。
と、父さん鋭いって言うか…よく信じられるなぁ…
惑意について知らなきゃ僕も霊感だけでそんなものを信じたか微妙なのに。
…ともあれ、霊感って形ででも話が通じるなら、多少の説明はできる。
黙りこくってないでちゃんと答えないと。
「…工事の様子を見てたんだ。父さんの言う通り、そうしてないと危なかったから。」
「なるほどな。」
「放っておけばいいって言うかもしれないけど、肝試しで友達も痛い目見てたし止めたくて…」
練想空間での話をしないまでも伝えるところは本音を話す。
と、父さんは息を吐いて…
「馬鹿者。」
短く怒った。
許してとは思ってなかったけど、こういうところには優しい…甘い、家の両親。
だから、世間的に見れば当然のこの反応に、僕は少し驚いてしまった。
落ち込む僕を前に、父さんは笑みを見せる。
「別にお前が庇わなくても解体作業は俺の仕事だ。頼むだけで良かったんだよ。」
笑いながら言う父さん。
けれど、父さんに依頼を出す前にあの廃病院の工事を引いた業者さんたちの損害を聞いたけど、突然の病気、操作ミスによる事故、死者がぎりぎりでない位の惨事が続いたからこそほかの業者さんも手をつけられずに引いたらしい。
「そんな、病気とか事故とか結構ひどかったって聞いてるのに」
「そんなもんを知らない間に子供に引き受けさせた俺の身になれ。」
聞いていた他業者の惨事を話しかけた僕に返された父さんの言葉に、真剣に言われて二の句が継げなくなった。
父さんの会社に任せて、被害がでないよう僕が危険を引き受けて、父さんはそれを一つも知らなくて…
…逆で万一父さんが知らない間に僕のために死んでたら、たまったものじゃない。
「子供じゃどうにもならない事もあって、それが分かってっから俺に解体頼んだんだろ?もう少し頼れ。」
「…うん、ごめん。」
気持ちこそわかるから謝った。
ただ…対処できるの僕たちだけだし、どうしたものかなぁ…
「それで信じたのか…」
いつもの登校中、昨夜の話を稔にすると、驚かれた。
やっぱり家は変わってるんだな。
…いや、稔も大概だから一般からずれてるか否かの判断に稔を参考にはできないけど。
「とはいえ、話が通じないより理解してくれた方がいい。」
「僕自身はそうだけど、こんな緩い感じだと申し訳なくはなるかな…」
「申し訳なくなる?」
何が申し訳ないのか分からないらしい稔。
僕は昨日の母さんの様子を思い出す。
不安げに僕を見ながら父さんの話を聞いて何も言わずにいた母さん。
「稔でさえ僕が死なないようにってあれこれ言ってるのに、黙ってた母さんや笑ってた父さんが、余裕だった訳無いから。」
「なるほどな…だが、だからと言ってお前が心配をかけない行動なんてするわけないだろう?」
「それはっ…まぁ…」
結局何があってもその結論に至ってしまう自分のデタラメぶりに口を閉ざす。
そんな僕を見て、稔は柔らかく笑みを浮かべる。
「気持ちはわかるがな。私も両親にとって、いるだけで迷惑な身だし。」
「そんなこと…」
「言っても仕方ない、と繰り返すしか無かった。魔法剣士になると言い続けるならお前もそうしておけ。」
稔の家の事情は僕の非じゃない。
彼女にそんなことを真剣に言われたら僕のほうには何を言う事も出来る筈がなかった。
「いよぉお二人さん。」
最早恒例になりつつある守雄との合流。
けれど、顔を見るまでもなく予想通りの声に、僕は軽く肩を落とした。
…すっごい楽しそう。
昨日学校を休んだ僕と稔の二人。
両親や先生にしてみれば問題発生、ほかの人にとっては…
「二人で何やってたんだよ?え?」
「そういう反応になるよねぇ…」
「それも仕方ないな、わかってて休んだんだから。」
完全に予想通りの反応をしてくれる守雄に、僕と稔は揃って苦笑い。
そんな僕たちを見て、守雄は拗ねたように口元を歪めた。
「こらこら、お前らが呆れんなよ。揃って学校休めば気になるだろ。」
「わかってる、説明はするよ。」
霊感云々については半信半疑に受け取られるだろうけど、父さん達に伝えた程度には話そうと決めて、登校しながら説明を始めた。
で、昼休み…
「きゅう…」
僕は一人、机に突っ伏していた。
理由は、どっさりと詰まれた昨日の授業分のテキスト。
数日中に解いて提出と言われて、当然家や放課後に余裕なんてない僕は学校にいる間に進めてるけど、一日分の内容が書かれたテキストと問題を解くのはさすがに手間だ。
「そりゃお前、あの氷の教師に『親父の工事が心配で霊感あるから様子見に行った』じゃそうなるって。」
「あはは…」
学校内じゃ女の子と交友を作ろうとしている守雄にしては珍しく僕を見て笑いながら声をかけてくる守雄。
僕は半分同感の守雄の言葉に苦笑いで返した。
氷の教師なんて表面だけ見た噂話だって知っていると、川崎先生の対応が冷たいなんて全く思わない。
一日、しかも勝手に休んだ分の勉強教材をまとめておくなんてとてもじゃないけど普通の教師はしない。
まして、中学から教科は教師ごとに別教科だ。一日分揃ってることも普通にはありえない。
ここまでする人が、冷たい教師な訳がない。
うん…それは、それそのものはありがたいんだけど…
「…やっぱり疲れた。」
「この俺を差し置いてサボりデートなんざかますからだ、頑張れよー。」
「そんなんじゃないってのにー…」
守雄の軽口に力なく返事を返した僕は、見るのも嫌な課題に目を移して…
わざわざそれを作った川崎先生と、父さん母さんの事を思い出して我慢して取り掛かった。
そんなこんなでただでさえ対して得意でもない勉強に振り回された後、サボってた…もとい、練想空間での戦闘になった結果一日動かせなかった分を取り戻すように、いつもより割り増しで走ったり打ち合ったり。
全部終わる頃には完全にバテバテだった。
汗こそ沢山掻いているものの、平然を装うようにタオルで顔を拭っている稔が、完全にへたっている僕を見て笑みを浮かべる。
「今日はくたびれているようだな。」
「昨日は帰って怒られて、今日は川崎先生に課題漬けにされたから…さすがにね。」
練想空間でとはいえ、1日戦って帰って怒られ翌日怒られ罰課題。
そうなると分かってやってなかったら結構な仕打ちだと思う。
「私も用意されていたからな。川崎先生に触発されたとか言って。」
「そっか、気のいい先生だもんね。」
稔の担任は太ってて笑顔の印象しかない先生。
甘いかもしれないけど、川崎先生とは違って話しやすい。
川崎先生のことを知ると、全く厳しくないのをいい先生と言うのはどうなんだろうと思うけれど、間違いなくいい人だ。
生徒のために頑張ってるって川崎先生のことを見て、稔用に手間かけてくれたんだろうな。
「正直成績に興味ないからどうでもいいんだがな。」
「あはは…それは同感。」
稔と揃って笑い会う。
こんなことを堂々と言いきるのもどうかとは思うけど、本心だからしょうがない。
「それより…姫野、言い忘れていた事がある。」
「うん?なに?」
少し重い話らしく、稔のトーンは低かった。
命懸け…と言うか、あの廃病院に関しては死んだ人がたくさんいたからできた場所だ。
何かあるなら軽くは聞けない。
「あの場にいた医者から聞いたんだが、私達が惑意に知られているらしい。」
「…へ?惑意に?」
想像してたのとは少し違った話で僕は首をかしげる。
惑意って片っ端から散らしてる気が…
「ウンディーネと再戦した時覚えていただろう?惑意のなかで目立つ動きをしてる私達の事を覚えているらしい。何故あの医者の惑意が知っていたのか分からないが…」
「なんで知ってるのか分かんないなら、他の惑意も知ってる可能性があるって事だよね。」
「そういうことだ。」
惑意に僕達の事が知れている。
…奇襲されたりするんだろうか?
「この間ホラースポットだった廃病院に溜まっていたように、私達を狙う何かがいない限りまともなのが襲ってくるとは思えないが、真威を浸食する特性を考えると安心もできない。一応覚えておけ。」
「分かったありがとう。」
家族やご近所さんの様子を見ておけってことだろう。
真威の使い手がいる場所は、真威を侵食するのが惑意にしてみれば集まって当然でもある。
自分が原因だけに言い辛い所だけど、母さん達悩ませてるからなぁ…
夕食も終えて部屋に戻り、僕は六芒魔法を纏めたノートを編集しようと思い、いつも通りノートとのにらみ合いを始めようとした所で、下から嫌なものを感じた。
…惑意?近いからなのか、僕が成長したのか、練想空間にいるわけでもないのにわかるようになってきたのかな。
稔との話を思い出した僕は、眉を顰める。
惑意が、僕達の事を知っている。
嫌な感じだ、変な事になってないと良いけど…
「そういう事を考えたときって、大概なっちゃってる時なんだよなぁ…」
練想空間に入って下に下りた僕が見たのは、料理をしている母さんの傍らで形を成しつつある惑意だった。
「そういうことじゃのぅ…」
現れた惑意は…老人だった。
ぼろ布を纏って痩せこけた姿に、僕は魔法剣を抜く気を失くした。
う、うーん…ほうっておいても死んじゃいそうな様相で、これを更に斬るって言うのは…
二の足を踏んでいる僕を見て、おじいさんは笑う。
「ほっほっほ…他人に優しいのは良いのじゃが、親不孝のようじゃのう…」
「…それも、そうだね。」
笑いながらの説教に、僕は少し反省しつつ頷いた。
さっき自分で言ったばかりだ、あれは『母さんの惑意』なんだ。
放っておいてどうするって言うのか。
子供だろうと女性だろうと何も感じない勢いで惑意を散らしていた稔の姿を思い返す。
あれは冷酷なんじゃない、優しい稔が惑意がどう言うものか良くわかっているからだ。
躊躇っていい理由なんか無かった。
「ライズ…ぅ?」
おじいさんが発する惑意。
魔法剣を展開しようとしたところでそれを受けた僕は、なんだか力が抜け…いや、力を入れる気にならなくなった。
何だこれ…なんかいろいろと色あせて見える気が…
「油断が過ぎたようじゃのぅ。」
「っ…何これ…」
笑いながら僕を見ているおじいさん。
インキュバスの時は稔が見られてるだけで効果を受けるようなテンプテーションがあったけど…このおじいさんにいったい何が?
「儂がなんなのかわからんかのぉ?」
「惑意…」
「ほほっ…儂は貧乏神…じゃよ。」
楽しげに名乗ったおじいさんは、貧乏神らしい。
神様…って、加護をくれる訳で、呪いも似て非なるものなんだろうけど、僕の今の状態もそれなのか。
「母君の惑う訳、分からぬとは言わせぬぞ。」
「それは…」
惑意から…貧乏神。
この間学校をサボった…なんて、そんな単純な話だけじゃない。
魔法剣士になるなんて非常識な事をずっと言ってるから、この先の事が心配なんだろう。
学業とか成績とかには興味ないって言い切ってるし、おまけに霊感なんかを理由に学校サボる羽目になってしまったから。
「でも貧乏神として成ってどうするの?」
「ほっほっほ。儂が加護として貧乏にするのは、怠惰を誘うことによるものでの。」
惑意としてある以上、不安とかそう言うのの塊なのに神様になっただけの事はあって、侵食するのじゃなく加護を与えるらしい。
しかもこの惑意は僕のせい、だから僕が加護で怠惰に誘われてるんだ。
「このままこの家に憑いて貧乏を誘い、君には嫌でも懸命に働くものに成長して貰おうと言う訳じゃ。世の誰一人に理解も出来ない世界で一人遊びをしておっても誰の力にもなれんよ。ええ加減大人になるんじゃ。」
淡々と語る貧乏神。
僕は怠惰に誘われたままで…
ただ、怠惰なだけで、頭は普通に動く中で…
彼は…僕の琴線に触れた。
歯を食いしばり、腕に意志を込める。
「無駄じゃよ、親御さんはおぬしが常世に沿わぬと儂を生む惑意を発したのじゃ、他人ならともかくお主がそこから外れることは」
「うるさい。」
丁寧に六芒星の魔法陣を描き、中央にFを描く。
光る魔法陣。それを見て、中が見えないほど細められていた彼の目が開かれる。
「ライズ…ブレイズリッパーっ!!!」
全工程を改めてゆっくりと辿り直すかのような形で、僕は炎の剣を手にしていた。
「な、なんと…まさか、怒りなどで破れるはずもない…」
「怒り…何かじゃない!」
僕は、自分の手にした炎の剣を見つめて強く握る。
体…練想空間にいるから、真威に食いついていたのだろう倦怠感は、手にした炎の剣を見ていると少しずつ晴れていった。
怠惰を誘い、いろんなものが色褪せて見えた状態。
『世の誰一人に理解も出来ない世界で一人遊びをしておっても誰の力にもなれんよ。ええ加減大人になるんじゃ。』
彼の告げた、普通の人ならうつむいて従うしかない現実。
それは…
僕が見て魔法剣士になると決めた、皆の夢を捨てた死んだ瞳になるって事と同じじゃないか。
「貴方は…知らない。僕が、そうならないためにこそ、こんなことを望んでるって。」
歩を進める。
怠惰なんかで止まらない、止まる訳がない。
「ありがたい注意なんだろうけど、僕は世界のパーツじゃない。望んでもないお人形として動く気なんてないよ。」
「何とまぁ、幼い夢よの…人は一人では生きられぬという事を知らぬ。」
「夢なら怠惰でやめるよ。でもね…」
母さんを見て少し眉を顰める貧乏神。
彼の注意は正しい、でも…
頑張るのが面倒なんて理由で、息を止める人間が存在しないのと同じように…
「姫野真の真威…犯しがたき意思の力。首を刎ねても心臓を止めても、僕が『僕』を捨てられる訳がない!!!」
稔が一人、両親と決別してまで手放さなかった真威、剣で神様に届く事。
聞けば聞くほど、知れば知るほど、本当に凄いと思ったんだ。
危険があったら死なないようにと注意して、僕も何度も止めようとして、怒ったりもしてくれた稔。ちゃんといろいろ考えていて、引くことも選択肢にちゃんと入れて…
その上で尚、自分の宝物を何があっても手放さないのだと決めている稔を見て、本当に凄いと思ったんだ。
真威、犯しがたき意思の力。
僕は…
「僕は魔法剣士になる!貴方の言う大人があの死んだ目の人形になる事なら、どれだけ怠けたってそんなものにはならない!!」
全霊を込めて一閃。
燃え盛る剣を受けた貧乏神は、赤い光を散らしていく。
「…良い時代…なのかのぉ。」
「え?」
「ただ生きることを目的にしとっても生きた目としておった時と、数多の願いを無視すると死んだ目になる今…どちらを良い時代と言うべきか…」
優しい、どこか寂しそうな笑みで告げる貧乏神。
生きることが目的にならざるを得ないほど『難しい』時代と、目的願いがなくて死んだ目でも生きていられる生きることの価値が『安い』時代。
どちらが良い時代なのか。
あれだけ自慢げに自分の願いを言い切っておきながら、彼が消えてしまっても答えを出すことが出来ないままだった。
貧乏神。僕に家族を守るために頑張らせようとした、惑意から成った神様。
答えが出るまで、その問いを覚えておこう。
そこまで思って台所を覗き見る。
少しはすっきりした様子ではあるものの、依然浮かない表情で調理をしている母さん。
…昔から…そうだったな…
魔法剣士になる。
こういう話が笑われる代物になってきた頃、出る杭は打たれるというか弄られるというか…靴が消えたり鞄やノートがぐしゃぐしゃになったりしてた。
わざわざ言うことはしなかったけど、ノートとかどうしようもないものは用意してもらう必要があって、きっとそのせいで感づいてて。
「真…学校で何かあるみたい…」
「そりゃあるだろ。思春期も近いしこの辺からごたごたするもんだ。」
夜、ノートの編集に起きていた僕が飲み物を飲もうと階段まで近づいた時、下から二人の声が聞こえてきた。
心配そうな母さんの声と、相談されてるらしい父さんがあっさり返す声が聞こえてくる。
「そんな簡単に言わないで!虐められてて追い詰められたら…もし…」
「もし、虐められてたら何も言わない理由なんて簡単だろ?」
「理由って」
「俺らや先生から、その子らを守る為だ。」
検討違いに僕の心配を必死にしている母さんと、僕を信じてくれてる父さん。
正直、ちょっと寂しい位の事はあったけど、そんなことよりもあの枯れて死んだ目になって行くのが嫌だったから、皆に沿うって気がそもそもなかったってだけなんだけど。
「でも…」
「笑うし泣くし、弱くみえるけど…あいつは男の子じゃなくて男だ。そんな弱くはねぇさ。」
…自分で言うのも情けない話だけど、僕はそんなに強いなんて見られる理由が分からなかった。
ひょっとしたら母さんの不安を払拭するためのでまかせだったのかもしれないけれど…でも、僕としては不安がられるよりは良かった。
大概は、こんな感じだった。
フランクと言うか大味な父さんと、何かにつけて心配性な母さんと。
どっちにしても大事にされてて…二人も仲は良くて。
僕は…どうなんだろう?
守雄には、殆ど何も強請らない手のかからない奴って言われてたし、確かに携帯電話すら『持ち歩け』って母さんから言われた位だからそう手はかかってないのかもしれないけど…心配はかけてるよなぁ。
不安げにしている母さんの姿を眺めながら、昔を振り返っていると、いつの間にかトゲの惑意が生まれていた。
…やっぱり、心配させてるんだな。
『ほっほっほ…他人に優しいのは良いのじゃが、親不孝のようじゃのう…』
貧乏神の言葉を思い出し、炎の剣を握る手に力をこめ、振り下ろす。
さすがにもう雑魚にすぎない惑意は、その一撃であっさりと掻き消えた。
「ごめん母さん、多分心配はかけっぱなしになると思う。でも…」
家の外。
いつも通り、散見している惑意の反応。
稔も、そろそろ夕飯を終えて練想空間に入っている頃だ。
「行くよ、僕らしく…ね。」
心配をかける要素を踏まないように、まるで地雷原を歩くみたいにのろのろと動いていても仕方がない。
思う所があれば、障害なり危険なりはあるに決まっているんだから。
あれこれと心配する母さんには悪いけど、ただ聞き分けのいい人形に成り下がるのも違うと思うから。
僕は家を飛び出し、強い感じの惑意目指して駆け出した。
いくらかの惑意を片付けたところで稔と合流して、さっき貧乏神の惑意を掃った事を話す。
「ウンディーネが出るくらいだから予想出来たことかもしれないが、神と呼ばれても惑意で形成されることもある訳か。」
「みたいだね。破壊神とかも神ってつくし、出るのかも。」
「そんなものに出られても困るがな。しかし…」
考えるように腕を組んでうつむく稔。
「やっぱり、予想通り僕たちの所に集まってるって?」
「掃いきれている内はいいが、これで私かお前が体調崩しでもしたら危険かもしれないな…」
確か、日本中にいる訳でもない練想空間に至っている人。
まして、その全員が僕たちみたいに暇さえあれば惑意と戦っているような人ばかりでもないだろう。
大人なら忙しいはずだし。
それもあって、スサノオ様たち神様が門…鳥居を使って惑意の分配をしているんだけど…
きっと稔はそれについて考え物だと思っているんだろう。僕たちが対処しきれない場合を考えて。
僕はそっちは修行になると思うし、惑意との戦闘の感覚を覚えて肉体に戻れる分動きを確認するってだけなら普通以上にやりやすくていい。だからそっちは気にしてない。
「惑意が惑意で自分たちの事を考えてくれる神様だった事が気になってるのか?」
「あ、スサノオ様。」
いきなり現れたスサノオ様に心中を言い当てられ、ちょっとびっくりする。
まぁ相手は神様なんだからそれくらいで大騒ぎする事はないんだけど。
「惑意は惑意だからな、必ず悪意や害意じゃない。不安や心配は、人を気遣ってすることもあるだろう?だが、どちらにしても強く立ち動く意志を喰う物だ。」
「ま、そういうこったな。意志の塊だけに完全な嘘偽りはそうそう無いが、惑意は惑意ってな。」
稔とスサノオ様が揃って僕に気にしないよう話してくれるけど、やっぱりさっき思ったとおり忠告自体は騙すとかそういうものじゃないんだろう。
貧乏…神様…か。
「で、稔のほうは手抜きしたいようだが…」
「誰がですか。」
「分配してるだけなんだから、手抜きした分他所で犯罪とかおきやすくなるぞ。近所がやばいか他所がやばいかって事だな。」
稔の抗議を無視して非情な宣告を笑顔でしてくれるスサノオ様。
うーん…失敗したときは自分や身内が割を食う可能性が高いのに、頑張っても特に何もない。
万一自分たちが追いつかなかったらと警戒する稔の判断は正しいのかもしれないけど…
「なんだかヒーローっぽいね。お金貰ったりしないで人助けに奔走してるみたいで。格好いいから僕はアリかな。」
「おう。ちなみに神様っぽくもあるぞ?5円10円で一年の無病息災学業成就家内安全に加護を与えるくらいにはな。」
「ぐ…」
僕の能天気な台詞はともかく、一応は神様の域を目指している稔としてはスサノオ様にこうまで言われれば引き難いんだろう。
僕に注意しようとした稔は続けられたスサノオ様の言葉に黙りこくることになった。
「まぁ、ちょっと真面目に言うなら、俺らだってちゃんと二人の様子を見て決めてっからな。突然余程の災害とかおきなきゃまぁ大丈夫だ。」
「それ、これだけ自然災害増えてる最近全く安心できる要素にならないんですが。」
「余程の災害が突然おきりゃ、惑意の多い少ないで人間助かるか否かって話で済む訳ねぇからそれも気にする必要ないな。」
さすが神様と言うべきなのか、いちいち尤もだった。
判断がなかなか豪快というか大雑把と言うか、けど外れてるとは思わない。
稔もそれが分かるのか、呆れ混じりに何も言わなくなった。
「なぁに、惑意の規模がでかい時はそもそも俺らも動いていい時が大概だ。お前らもだいぶ成長してきてるし気にすんな。」
あんまり根拠は感じられないけど、話してて安心できるクシナダ姫とはまた違って信じられる頼もしい言葉に、僕と稔は揃って苦笑いで頷いた。
休憩の後一通り惑意を片付け家に帰った僕は、おきっぱなしだった六芒魔法の本をしまって、別のプリントを取り出す。
学校にいる間しかやってないからまだ終わってない先生のくれたプリント。
一通り惑意を片付けた後だけあってそれなりの時間だけれど…
惑意だけど、不安や心配は本心から来るもの。
晴らすなら…
「…少しくらい、心配かける要素は減らしておきたいし…頑張ろう。」
勝手に学校をサボった結果不安そうにさせてしまっている母さんの惑意を少しでも払拭するために、熱い寡黙な川崎先生の用意してくれた課題に取り掛かった。
「…それで、先生から貰った課題を夜遅くまでやっていたの?」
「んー…」
「あっはっは!絵に描いたような本末転倒だな。」
寝ぼけ眼で食卓に着いた僕を見て、母さんが肩を落として父さんが大笑いする。
うぅ…計算のXとかYとか街中のどこで使うんだってば…英語だってアイキャントスピークイングリッシュだけ言えれば外国行かなきゃ困らないし…
「んで学校寝ぼけ眼で熟睡ってか。お前変な所で意地張ってずっこけるよなぁ。」
「むー…なんとか授業だけは寝ないようにするー…」
「おう、そうしとけ。勉強内容自体必要かは置いといて、多方面に頭を使うって事自体大事な事だしな。」
笑いながら言う父さんの言葉に少しドキッとする。
まさか考えてる事読んでたりしてないよなぁ…
もそもそと朝食を食べていると、傍らに小さなビンを置かれた。
見てみると、栄養ドリンクだった。こういうの年齢制限なかったかと思ったけど、子供用だった。
「少しは目も覚めるでしょ、飲んでおきなさい。」
「ありがと母さん。」
ありがたく貰った所でいつものチャイム。
僕は慌て気味に残りを平らげて家を出た。
「おはよー稔。」
「あぁ…眠そうだが?」
「普通に寝不足、あの後課題の残り済ませたから。」
歩き始めてすぐ、僕の状態に気づく稔。
その辺さすがだなーと、少し遠い事のように思う。
頭がぼやけているせいだ。
っと、慌て気味に飛び出してきたからまだ開いてなかった。
引っつかんで持ってきたビンを開いて、栄養ドリンクを飲む。
うん、そんなに刺激は強くないけど少しはすっきりしたかも。
「それは?」
「栄養ドリンク。母さんが出がけにくれたんだ。」
「…なるほど、相当心配してるみたいだな。」
本当に至れり尽くせりで。
と、僕も何気なくうなずいたんだけど…
「昨日の今日寝不足になる予想なんてしてる訳があるまい、私と飛び回るようになって疲れる日が増えたから事前に準備してくれてた証拠だ。」
「え、ぁ…」
全く気がつかなかった。
改めてビンを見る。子供用、それは分かってた。
でも、家に子供は僕一人。父さんの余りとかじゃないし、今朝になっていきなり寝不足だった僕にこんなものが出せた理由…
「不安や心配は惑意でも本心…か。」
空き瓶をカバンにしまいながら、スサノオ様の言葉を思い出す。
稔じゃないけど…ありがたいなぁ…
主人公なりその知り合いなり結構割を喰ってますね(汗)




