第13話・被加害混線
※真視点です
第13話・被加害混線
僕が二属性剣を使って竜の腕を斬りおとしたのが稔的に衝撃だったのか、以来の修行では殺されそうな勢いでかかってこられている。
仮に僕が本当に練想空間で強いとしても、基本的に稔との修行は木刀で実際に打ち合うわけで…油断すれば病院送りか墓送りだ。
「轟っ!!」
踏み込みから斜めに振り下ろされる稔の木刀を紙一重で回避する。
狙って紙一重と言う訳じゃない。必死でバックステップしたら服を掠めて切り裂いただけだ。
そう、切り裂かれた。木刀で。
竜に届かなかったからって焦ってるのかもしれないけど、コレ絶対もう人の範疇外れてるからっ!
食らったら死ぬって!!どころかガードすら出来るか怪しい。
距離をとった僕に向かって稔は剣を引く。
突き?轟牙なら、弾くのすら簡単じゃない。
予想通り放たれた突きを僕は目一杯の横薙ぎで払い飛ばし…
軽く、あっさりと逸らせた。
…え?
疑問は一瞬。
稔は、僕が逸らした方向に向かってそのまま回転し始めていた。
突きを全力で払い飛ばした僕はすぐに動けるわけも無く…
あ、まず…
思ったときには、踏み込んだ右足のふくらはぎを遠心力込みの一撃で叩かれていた。
「…まずまずだな、一撃目を強打に出来ないから見抜かれたら使い辛いが、轟牙と使い分ければいけるか。」
右足を押さえてのた打ち回る僕を前に、狙い通りに使えたらしい稔が自分の木刀を見ながら満足気に呟く。
踏み込んで地面にべったりだった足を横殴りに叩かれたから全くダメージを逃がせなかった。
「…何時まで大げさにのた打ち回ってるんだ。」
「そ、そりゃないよ…稔強いんだってば。」
竜に剣の先端が刺さっただけって結果が納得行ってないんだろうけど、現実での動作に反映できる割合が多いのは圧倒的に稔のほうなんだから直撃放り込んでそんな辛辣なコメントは勘弁して欲しい。
「もう少し試行錯誤してみたい所たが…折れても問題か。」
残念そうな稔に僕はコクコクと頷く。
真威の力を扱えると身体の回復も早く出来るし、身体に働きかけられるからダメージも少しは軽いけど…ちょっと丈夫な人程度だ。
竹刀じゃないだけで結構危険度あるんだ、普通の限界以上に頑張るにしても、強打を受けまくったら僕らだって病院送りになる。
「仕方ない、後は走っておくか。」
「…はーい。」
打たれたのが足だから正直痛いんだけど、限界に迫るって意味ではいくらでも無茶をするのが真威を扱う人間にとっての必須事項。
そこまではさぼる訳にも行かず、山中を駆け出した稔の後を追うように、僕も地を蹴った。
うーん…
昨日の感じだと、やっぱり僕の方が稔より夢現同化には遠そうだ。
稔の最終目標が現実で神様達と並ぶ位の力を身につける事だから、単に夢現同化に辿り着くだけじゃ駄目で焦ってるのかもしれないけど、僕と違ってとんとん拍子で進んでると思うんだよなぁ…
「いよう、モテモテ小動物。」
「は?」
いきなり訳の分からない呼び方で守雄に声をかけられる。
僕の夢現同化への手順とか、稔の自信のつけ方とかいろんなことが頭をぐるぐるしてるところだったから、邪魔されたのか丁度いいのか。
「お客さんだぞ。」
クラスの外を指差した守雄。
そこには、意外な人がいた。
「あれ…あの子は…」
いつか男子たちに囲まれていた女子だ。
そう思い出して、名前を聞いていない事に気づいた。
「知らない間に次から次へと女の子絡んでよぉ…お前本当に修行詰めなのか?」
「試すなら付き合うけど?」
「ぐ…」
昨日の地獄を思い出し、同時にそれを軽んじられた気がして冷たくあしらうと、守雄はそれで何も言わなくなった。
ただ、普段から女の子と接点を持とうとしている守雄にしてみれば、僕に女の子の知り合いが多いのは納得行かないんだろう。その気持ちは分かる。
大した知り合いじゃないからと伝えて、彼女の元へ向かう。
「えっと…」
「あ、あの…あ、私…篠原耶雅美です…姫野…真さん…です…よね?」
「あ、うん。」
元々は虐められてた位だ、あまり嬉々として喋るタイプじゃないんだろう。
自己紹介と名前の確認だけで一杯一杯といった感じだ。
「貴方と…白兎…稔さんに…話したい事が…」
「分かった。」
全部言わなくても、僕に先に声をかけた理由はさすがに分かった。
僕は篠原さんに先導する形で稔のクラスに向かった。
言いづらい話らしいから、稔を呼び出した後僕達は人目を避けられる外に出た。
「それで、どうしたの?」
問いかけると、俯きながら僕と稔の前に顔を出した彼女は恐る恐るといった感じで僕達の前に一枚の紙を差し出してきた。
僕はその閉じた紙を開いて稔と一緒に見てみる。
『姫野真と白兎稔を連れてこの廃工場へ来い。他の誰かに知らせればお前の姉の無事は保証しない。』
と、御丁寧にも新聞の切り貼りで作られていた。
小さな地図に赤いバツで印がつけてある。多分廃工場の場所なんだろう。
殆ど面識が無い僕と稔の名前を、篠原さんに出す人間。
そんなもの、あのときの男子達しかいない。
報復…って事か…
「…古典的だな。」
緊張もなく呆れたように息を吐いた稔は、紙から篠原さんに視線を移す。
「それで、どうしたいんだ?」
「っ…」
稔に真っ直ぐに問い掛けられた篠原さんは、身体を震わせて俯いてしまう。
彼女にしてみれば、学校中の恐怖の対象になりつつある稔にこんなものを持ってくるだけで怖い筈だ。
気弱で虐められていた所から無理をしているくらいなのに、稔に交渉なんて…
「…願い…ます…」
小さな声が聞こえてきた。
「お願いします…手を貸してください…」
震え声。
けれど、繰り返されたそれは今度はちゃんと聞こえた。
「姉さんは…私なんかと違って、ちゃんと友達もいて優しくて…何より、関係ないんです。私のせいで傷つけたくなくて…でもっ…これじゃ…」
「助けもなにも、僕達が行かないとお姉さんが何かしらされそうだね…」
警察が来て素直に引くタイプならいいけど、血迷ったような犯罪の多い昨今、そんなのはアテにならない。逆恨みで暴走したりとか。
だいたい、こんな脅迫文を渡してくる時点で十分危険だ。僕も稔も放っておいても大丈夫だけど、篠原さんたち姉妹は…
「私にできる事なら何でもします、囮でも何でも!でも…二人に言わずに姉さんを無事に助ける方法がわからなくて…お願いします、私はどうなってもいいから姉さんを助けるのに」
「分かった。」
迷いない声。それは僕のものじゃない。
予想外だったのか、泣きながら喋っていた篠原さんは顔をあげて声の主を…稔を見る。
「姉の無事を保証すればいいんだな。引き受ける。姫野もいいか?」
「もちろん。」
「え…ぁ…」
稔が引き受けるなら僕に断る理由なんて全くない。
笑顔で即答した僕と、先に承諾した稔を見比べるように視線をさ迷わせた彼女は…
「ありがとう…ございますっ…」
深々と頭を下げた。
篠原さんの同行を足手纏いと切り捨てるように断った稔は、剣道部の持田さんに彼女を預けてから廃工場に向かっていた。
紙に僕達を連れてこいとしか書いてないから大丈夫と言うことらしい。
「けどこの間は厳しかったのに随分あっさり引き受けたね?」
彼女は勿論、僕も驚いた。
お姉さんには関係ないから助けたい。けど、関係が無いって言うだけなら僕達はもっとそうだ。
稔の厳しさだと突っぱねそうだと思っていた。けど…
「病気になって、医者に来て、症状を伝えたからな。」
「え?あ…」
いつか話した、『彼女が自分でやらなきゃいけないこと』。
自分を被害者と呪うのでも、誰かのせいにするのでも…
一人の力で解決するのでもなく。
「人の力でどうにもできないことを願うために、『神様』はいるんだ。お前はともかく私には目標に近付く手順のひとつだよ。」
「…そっか。」
稔が言っている理由が、本当のところを覆い隠す為のものなのは分かっていた。
だって、ただ強くなることに言い訳をしないために上へ上へと来た結果、今見知っている最強だろうスサノオ様に届く事。それが稔にとって神様を目指すってことだ。
人の願いを叶えるなんてのは目標じゃない。
けれど、無条件に手伝うなんて甘さだと思ってるから、理由が必要なんだ。
「それよりお前こそいいのか?理由なんてまるで無いだろう。」
稔の問いは検討違いもいい所だった。
関係ないなんて、そんなはずがない。だって…
「泣いてる女の子…助けなきゃカッコ悪いでしょ?」
僕は、かっこよかったから、魔法剣士なんてファンタジーを目指しているんだから。
「やれやれ、お互い楽は出来そうもないな。」
「かもね。」
自嘲気味の台詞を言い合いながら、僕も稔も笑顔だった。
呼び出された廃工場には、ぞろぞろと集まった男子達が武器を持ってニヤニヤしていた。
どこから集めたのかと思うのと同時に、近所にこれだけの不良がいたのかと思うと少し悲しくなる。
先生や警察って訳じゃないんだから僕が気にすることでもないんだろうけれど。
「あん?何でアイツがいないわけ?」
工場の廃材に腰かけていた目付きの悪い女性がガムを吐き捨てながら僕達を睨む。
あれ?何か…
「呼び出しの紙に私たちの名前しかなかったからな。邪魔だからおいてきた。」
「ちっ、あんだそれ。あいつがいねぇと意味ねぇじゃんかよ。」
舌打ちしながら廃材を蹴る女性。
気のせいかも知れないけど、もしかして…
「篠原さんの…お姉さん?」
「…いい勘してんな、そうだよ。あいつの姉だよ。」
恐る恐る問いかけた僕に対して、彼女は嫌そうに姉を名乗った。
妙な色の化粧をしてて、正直パッと見ではそう見えないけど…骨格とかそういうのは手術でもしないと変わらない。
だから、何処か似てる気がしたのと、人質の割に見える所に派手につかまってないのに気づいて聞いてみた。
だけど…自分から聞いたことだけどっ…そんな馬鹿な…そんなの…
「何驚いてんだよ、あのネクラが身内なら好かれてるとでも思ったのか?」
「こ、好みの問題じゃないっ!こんなのありえないだろっ!!」
僕は思いっきり叫んでいた。
あり得ない、こんなことがあっていいはずがない。
何があっても、自分がどうなっても、巻き込みたくない。
そう言っていたお姉さんが犯人だなんて、そんな馬鹿な話…あっていいわけがない。
パシャリと携帯のカメラ音がした。
ここに来る途中、稔に貸して欲しいと頼まれて貸した僕の携帯。
両親との折り合いの悪さから稔は携帯電話なんて持たせて貰ってないらしい。
だから貸してと言われてたんだけど…
「これでいい、帰るぞ。」
「え?」
「約束は果たしただろう。」
意味不明。いきなりすぎて頭がついていかなかった。
約束を果たしたって…まさか脅迫に付き合ってここに僕達が来た事じゃないだろうし…篠原さんとの…
『姉の無事を保証すればいいんだな。引き受ける。』
無事に決まってる、犯人なんだから。
でも、これは…これで保障ってそんな馬鹿な事…
「させると思ってんのかよ。」
あんまりな状況にぐるぐると迷っていると、入ってきた工場の出口にも何人も武器を持った人が出てきた。
見える範囲に20人程度。
僕達は丸腰で向こうは木刀、バット、角材…ヌンチャク?鎖?
なんかよく分からないものを持って笑っている男子がごろごろいた。
「姫野。」
「え?」
「かかってくる奴以外は放っておけよ。」
冷静に告げる稔。
全く動揺してない辺り、この展開想像ついてたんだろうなぁ…
直後、皆が動き出し、悲鳴が工場内に響き渡った。
「て、んめぇ…」
「や、その…ごめん?」
囲まれて、掴まれて、殴られる…もしそんな形になったら、人並みよりちょっと強い程度の身体能力しかない身で捌ききれる訳が無い。
ただ、単に20人が囲んでるってだけなら、数人を次から次へと撃破するって形で数を減らすのは簡単だった。
練想空間内での事とは言え、歴戦の英雄とか神様とかと戦ってきた身。
彼等の攻撃と比べて、あまりにも貧相で遅くて雑だ。
だから、僕でもあっさりカウンター気味に拳を放り込む事ができる。
悪い人が相手とは言え、多対一とは言え、弱いもの虐めをしてる気がして気が引ける。
でも、僕が引き受けないと…
「あだあぁぁっ!?」
「骨は折れてない、騒ぐな。」
無謀にも稔に金属バットで向かっていった男子の一人が、序盤に取り上げた木刀を持った稔に脛を叩かれてのた打ち回る。
痛む足で我慢してバットを振り上げた彼は、振り上げたバットを切っ先が見えない速さで振るわれた木刀で叩かれて弾き飛ばされた。
僕が引き受けないと…あの洗礼を受ける事になるんだよなぁ…
「なろぉ!」
余所見してる僕に向かって、釘バットが振り下ろされた。
避ける暇が無いから僕は腕を出してそれを受ける。
先端でなければ…まぁ痛いけど、稔に殴られるよりはずっとマシだ。
両手で振り下ろした釘バットを片腕で防御されると思ってなかったのか、バットを手放した男子はずるずると後ずさりを始める。
「えーと…帰らない?」
僕はおそるおそる稔に声をかけた。
犯人が篠原さんだと分かった当初の困惑より、申し訳なさのほうが強くなっていた。
嬉々として僕達を取り囲んでいた皆はいつの間にか後ずさりしながら互いを先に行かせようとしている。
正当防衛言うのにかかってきた人だけしか手を出してないから、かかって来辛いんだろう。
もう既に出入り口も空いてるし、今更逃げてもとめようと必死にならない筈だ。
「じょ、冗談じゃねぇっ!」
「やってられっかぁっ!!」
結局、残ってた内の一人が武器を放り捨てて駆け出すと、それについていく形で動ける皆がばたばたと駆け出す。
あーあ…倒れてる人放って行っちゃった…
後に残ったのは、倒れて呻いたり完全に意識飛んだりしている人達と…
「何…なんだよお前ら…」
すっかり怯えてしまっている篠原さんのお姉さん。
うーん…普通の不良さんでも20人抜きの伝説持ってる人位はいると思うけど、珍しいといえば珍しいのかな?小柄な中学生二人で高校生交じりの集団だもんな…
「少し強い人間だ、この程度軍人や特殊部隊員なら誰でも出来る。」
「う…ぐ…」
稔からなんでもないように告げられた内容に息を呑むお姉さん。
一番奥で廃材に腰掛けてみていた彼女は、稔と僕を通り過ぎないと逃げられないせいか、僕達を見て震えて動かない。
稔も言ってたけど、かかってこない限り何かする気もない…って言うか、女の子叩き伏せる気なんて無いんだけど…
稔はつかつかと歩いて、お姉さんに近づいていく。
「く、来るなっ…」
怯えるお姉さんを無視して近づいていった稔は、彼女の手を掴んだ。
「は、はな」
「黙れ。」
「は…ぁ…」
いきなりの稔の対応に文句を言おうとしたお姉さんだったが、一言で一蹴された。
見渡す限りの惨状やわずかに聞こえる呻き声。
コレを作った人に黙れなんて言われたら…喋れないよなぁ…
ずるずると引きずるようにして歩き出した稔についていくように、僕も工場を出た。
しばらくしてお姉さんを放り出すように手放した稔と共に、僕達は篠原さんを預けた学校へ向かう。
「どうして途中までお姉さんを引きずってきたの?」
この結果を報告するのは、二人を無理矢理合わせるのは酷だと思ってた僕。
対して、稔は厳しさから逃げずに会わせようとしたのかと思ったのだけど、途中で手放したからそれもない。
でも、そうだとすると何でわざわざ途中までは連れてきたのか…
「数を揃えて人を襲おう何て精神の奴等だ、目を覚ましたときに集めた女性が一人そこに残ってたらろくな事にならないだろう。」
「あ…」
集まった人達の性格から起こる事なんて…まったく考えていなかった。
お姉さんの無事を保障する為に行ったのに、僕達が行った事が原因で酷い目にあわせたら本末転倒だ。
だから街中まで連れてきてから離したのか。
「怖いフリして凄い優しいね稔。」
「どれだけ力があっても何にどう使うかを間違えたらそれまでだからな、優しい…と言うか、考えないと振るえない代物だと言う事だ。お前もだぞ。」
「う…気をつける。」
ノリで暴れた逆恨みが他の人に向かったら大問題だ。
稔任せにしてないで僕もちゃんと考えないと。
学校に着いた僕達は、篠原さんの元に向かう。
そう言えば、お姉さんと別れたのはいいんだけど…
「どうするの?」
別れた、という事は真相を伝えないって事だ。
だったら、写真も見せられないわけで、お姉さんいない中どうやって無事だった事を証明する気なんだろう?
「適当に済ませるさ。怪我を見せれば行って来た事は伝わるだろうしな。」
「そっか…」
お姉さんが家にちゃんと帰ってるならそれで問題ない話ではあるし、いいのかな?
「人の家庭問題より、夜に備えておけ。」
稔の指摘に頷いて…
夜?
と、僕は分からないまま首を傾げた。
で、夜…
「予想通りだな。」
「あぁ、そうなんだ…」
練想空間では結構な惑意が感じられた。
合流した稔があっさり予想通りと言い切ったのを聞いて、僕は苦笑いするしかなかった。
「叩きのめした奴、逃げた奴、それらの家族や仲間、教職員なんかの関係者も含めれば、それなりの人数になるだろうからな。」
稔の説明に首を縦に振る。
それが『追加』された分なんだ。
当然、いつも通り発生してるだろう惑意もあるし、重なると増しやすい。
「分かれて片付けるぞ。」
「うん。」
あっさりと、二手に分かれると言う話を承諾して、ちょっと思う。
少しは信用されたかな。
だったら、頑張らないと。
「ライズ…シデンノタチ!!」
あちこちに多く散っている惑意を蹴散らして回るため、速さに重きを置いた剣を手にして駆け出した。
斬る、斬る、斬る。
トゲの惑意や幽霊の惑意…一般に恐れられるものが雑魚の惑意として出るからか、夏に差し掛かった最近は布に顔を描いた幽霊っぽいのやゾンビっぽいのも出てきている。
けど…もう雑魚だ。
数が出た所で竜の事を思えば敵じゃな
パアンッ!!!
銃声がした。
幸い直撃しなかったけど、音の方を見ればスナイパーライフルを持ったゾンビが居た。
だああぁぁっ!さすが練想空間自由すぎる!!映画かゲームか知らないけど厄介な!!
僕は近場の民家の屋根に飛び乗って、道に多数いる雑魚惑意の群れを見据え、シデンノタチを投げた。
「マテリアルダスト!!!」
剣が割れ、紫色の雷が雨のように降り注ぐ。
マテリアルダストは剣の力を分解放出する。石剣でやれば石の、雷剣でやれば雷の雨になる。
雷は重さは無いものの、広い範囲に伝達するから雑魚には丁度いい。
赤い光に変わって散っていくのを見届けて、僕は道に降りる。
自分の手を見て握って開いてみる。
意識のブレや力の低下はあんまり感じない、真威が強くなってはいるんだな。
「…よし。」
近場の家に感じる、少し強い惑意の反応。
僕はそこに向かって駆け出した。
反応は二階から。
練想空間内なら別に全く問題なんてない。外から窓に向かって跳んで割り入
中に、篠原さん達が居た。
呆けた一瞬で窓を割り損ねて、慌てて枠に掴まって登り直す。
ここからの惑意が強いって…
「良かった…お姉ちゃんが無事で…ごめん私のせいで…」
泣きそうな篠原さんの言葉を聞きながら、お姉さんの表情が段々と険しいものになっている。
何も伝えてないからお姉さんが主犯だったなんて夢にも思ってない篠原さん。
未だに自分を心配する姿を見せられて、それを潰そうとしていた本人が平然としてられるわけもない。
惑意は…篠原さんのお姉さんの方から強くなっている。
「ざけんなよっ!なんなんだよあの化け物はっ!挙句はめるつもりだったアンタはこねぇしよっ!!」
「え…」
感極まったらしいお姉さんから告げられた内容に硬直する篠原さん。
当たり前だ、誰が助けようとしてた人にはめられてたなんて想像できるものか。
「お、お姉」
「うるさいっ!何もかもできて見た目も良くて、あたしから全部持ってっておいて、自分は奪われるってなったらあんな化け物まで手懐けて!」
叫びながら、お姉さんはカッターナイフを抜く。
惑意が強くなってる…飲まれてるんだ。
でもコレは現実で、練想空間内の僕には…
「アンタが…アンタがいなけりゃあぁぁぁっ!!」
「やめろおぉぉぉぉぉっ!!!」
届きはしない、届くわけが無い。
練想空間の中から何が届くわけも無い。
けれど、僕は、無心に腕を振りぬいていた。
殆ど何も考えず、描いた魔法陣から生んだ闇の剣。
それが、現実にいるお姉さんの体を薙いでいた。
練想空間で何かをしても現実が変化するわけじゃない、けど…
篠原さんに襲いかかろうとしていたお姉さんは、その動きを止めていた。
惑意に…意思に僕の剣が通じたんだろうか?
だとしても、僕の剣も惑意を掃った効果も一時的なものでしかない。
篠原さんに逃げるか何かしてもらわないとどうにもならないと思って彼女を見る。
彼女は全く動かず、呆然とお姉さんを見つめていた。
「もう…いいよ。」
そして、まるでなにか諦めるような言葉を呟いて目を閉じた。
ちょ、ちょっと…もういいって…
「せめて誰も巻き込まないようにって…お姉ちゃん位はって…なのに、助けを頼んだ真さん達に一杯無理させて…お姉ちゃんには…私がいるだけで邪魔で…」
涙を流しながら呟く篠原さん。
『楽しくなければそうなる方法は、彼女が気が向いた時に自分で考えるさ。』
前に稔と話してた事だけど、ただでさえ無理していた篠原さんがこうも全部ろくな事にならないと、元々強い人じゃなさそうだし、厳しいのか。
分かってるよ、誰にでも強くなれって言うのが無茶だって、僕が言ったんだから。
だけど…
「だからもう…いいよ。」
良い訳…あるか!!
どうにかしなきゃと思いながら、それでも何をしていいか分からず…
少しして、かしゃんと何かが落ちる音がした。
お姉さんの手にあった、カッターだった。
「お姉ちゃん?」
呆然と、突っ立っていたお姉さんが、唐突にその場に崩れ落ちた。
…そう言えば何の気なしに振るった闇の剣。以来、お姉さんは一つも動いても無ければ声も出していない。
惑意は…威は…精神は斬れるんだよ…な。まさか…直接叩ききったせいでもう植物人間になっちゃってるんじゃ…
「何で…まだそんな事…」
少し怖かったけど、お姉さんはゆっくりを口を開いてくれた。
ちょっとだけほっとするのと同時に、何を言うのかと気がかりになる。
また物騒な事にならないといいけど…
「母さんも父さんもアンタの味方で、あんたが生まれてからのあたしはオマケか厄介者でしかなかった。大学に行かせられないってキレた父さんの台詞なんだったと思う?『二人も行かせられるか』だよ?なのになんで…当のアンタがここまできてあたしの味方みたいに…」
「味方だもん。」
力の無いお姉さんを前に迷い無く言い切った篠原さんは、立ち上がると部屋の扉に手をかける。
「私…ある人達に教わったの。望む事があるなら望む限り戦えって。その人達は…お姉ちゃんを助けて、そして私に何も言わずにいてくれた。だから、お姉ちゃんが困ってるなら私の番。」
「え?」
「お母さんとお父さんと喧嘩してくる。」
呆然としているお姉さんを置いて部屋を出る篠原さん。そして…
しばらくして、下から大声が聞こえてきた。
喧嘩してくる…かぁ、良い方に変わったのかなぁ…
僕や稔と会ったのが原因ではあるんだろうけれど、これが良い変化と言えるのかどうかはちょっと複雑だ。
「姫野。」
呑気に感想を抱いていると、背後から、正確には背後下方から聞こえてきた低い声。
背中を跳ねさせて僕は外を見る。
腕を組んでこっちを見上げている稔の姿があった。
「練想空間を利用して覗きに走るなと…」
「あ、いやその…ご、ごめんすぐ出る!!」
真っ先に言い訳に走りそうになったけれど、さすがにもう死んだりはしなさそうだと思って、とりあえずすぐに出る事にした。
…あんまり覗きやってると、僕の方が殺されるかもだし。
惑意をあらかた片付けた…という訳でもなかったから、その後また別れて惑意を散らす事になった。でも、当然説明なしってわけには行かず、翌朝登校中に話す約束になった。
「殺されそうになってたから様子を見てた…か。」
「うん…さすがにほっとけないよ。」
「だろうな。」
さすがに納得してもらえたようで、稔も渋い表情ではあったものの、昨日みたいに怒らなかった。
「しかしまさかそこまでするとは…恨みを私達で纏めて引き受ければ流れ弾が行き辛いと踏んだが、外れだったみたいだな。全く…色々あるんだろうが取り返しのつかない事を平気で…」
呆れたように呟く稔。
確かに、僕も昨日のはさすがにびっくりした。
「痛み…について、よく知らないんだろうな、多分。最近じゃただの喧嘩もそうそう見ない。その代わりに陰湿な策謀や集団を利用して一人を省いたり傷つけたり…」
稔の言葉に頷く。
練想空間を見ていて思ったのは、そういう集団に絡む事柄の場合、本気で憎しみとか怒りを抱えて行動してる人はそういないって事だ。
けれど、被害を受けてる側の人の傷は深くて、惑意が酷く出ている。
今回だって、当事者の篠原さん達は強い惑意に苛まれていたけれど、追い詰めた両親や付き合いで出てきてた不良達の惑意は強いものじゃなかった。
自分の手を見て、昨日お姉さんをなぎ払った事を思い出す。
…焦って振るったけど、僕も気をつけないと。
取り返しなんてつかないんだから。
「よう。」
「え?」
学校に着くと、意外な人に声をかけられた。
篠原さんのお姉さんだった。
「姫野真…サンキューな。」
名指しでお礼を言われた僕は、隣にいる稔を見る。が、稔は自分の名前が出なかった時点で関係ないといわんばかりに先に校舎に向かってしまった。
邪魔になると思ったからか、いつも通り途中で合流した守雄を引きずっていってくれてる辺りは稔らしい親切だと思う。
「えと、何で僕?」
名指しで、しかも用意したお友達?を叩きのめしてしまった僕と稔はお姉さんには恨まれてるものだと思っていた。だからお礼を言われた理由が分からず首を傾げる。
「耶雅美がな、お前等に感謝してたんだが…多分、お前に感謝してたからな。」
「多分って…まぁ稔の親切って分かりづらいけど。」
「それに、あんな奴に礼は言いたくねぇ。」
はき捨てるように言うお姉さん。
うん、稔怖かったんだろうな、相当。僕は一緒にいるからそんな事無いのは知ってるけど、傍目から見える部分だけに目が行くとそういう反応になるのが普通だ。
「ま、とにかく…だ。アンタ名指しなのは、あの馬鹿の面倒を見てもらいたいからだよ。」
「篠原さんの?」
「昨日色々あって話を聞く事になったんだが…友達もいないらしいからな、誰か見てねぇと危ない奴だし、出来ればアンタに任せたいんだが…」
…どうやら、両親を巻き込んでの『喧嘩』はものすごい事になったらしい。
学校内で虐めに加わってた男子から僕達の名前を集めたのはお姉さんも知ってるはずだから、見てる友人までいないとなるといつ何が起こるかわからず心配なんだろう。
「クラスとか違うけど、僕に出来るだけは。」
承諾すると、お姉さんは何故か驚いた。
頼みに来たのに驚かれても…そんなに変な事言ったかな?
「昨日の今日で、とか言わないのか?」
どうやら、僕じゃなく、自分が変な事を頼んでいると思っていたらしい。
ま、まぁ昨日の顛末をちょっと覗いてたなんて知る由もないだろうし、うん。
「それは篠原さんの家の問題だし、相談されなきゃ踏み込まないよ。それに、仲よくなったなら問い詰める理由なんてないし。」
「…あんた、大物だわ。」
僕の答えに、お姉さんは笑顔を返してくれた。
色々あるのもあったのも別にいい、今上手く行ってるなら、それで十分だ。
ところで…
「お姉さん、学校は?」
「いーんだよ遅れても、どうせ耶雅美と違って不良生徒だ。」
「あはは…」
さっぱりと言い切ったお姉さんに、苦笑するしかなかった。
そりゃ両親も篠原さんの味方するだろう…
僕も模範生徒じゃないから人の事は言えないが、皆大変なんだなぁと思わざるを得なかった。
『行動や発言には責任をもちましょう』なんて、最近は冷めた目になりそうな標語だなぁ…と、人のフリ見て我がフリ直せとは言うもので、気をつけたいです。




