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夢現の旅人  作者: 黒影翼
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第12話・幻想竜と神業

※稔視点です




第12話・幻想竜と神業





余程辛辣な説教でも受けたのか、自分の親の姿の惑意を出現させていた学生。その惑意を斬り払って私は剣を鞘に納めた。

両親の姿で出たため、父親らしい方を姫野に任せたが、其方も難なく片付いたようだ。

練想空間内とはいえ人の部屋を何時までも眺めるのも良くない為、さっさと家を出る。


「しっかし見事なもんだな。練想空間は勿論、現実でも真威を使えてきてるんだろ?お前らならその内夢現同化に辿り着くかもな。」


丁度というか、此方の様子を見ていたのだろうスサノオ様が声をかけてくる。


「そ、そうですか?」

「うかれるな、『その内』で『かも』の時点で話し半分もいいところだ。」

「はは、だよねぇ…」


お気楽な姫野を諌めつつ、私は自分の手を見る。

スサノオ様達の話によると、練想空間に二人いる分誰もいない地域から門を通して惑意を集めている為、近隣の惑意は強化されているはず。

それをたやすく葬れている辺り、強くなれているとも取れるのかもしれないが…


今学生の両親を捌いた通り、現代で人の惑意が戦闘関連である事はそう多くもない。


馬鹿力の隙を突いて斬り払って霧散させ、トゲなどの小者になったのをちまちまと片付けている感じがしてどうも強くなっている実感はない。

夢現同化に辿り着く…という方に至っては、一般人の世界記録程度にも届かない身体能力では浮かれる気にもならない。


「お前ももうちっと可愛くなりゃいいのに、んなピリピリしてて楽しいのか?」

「度々稔さんをからかうからですよ…でも、私もすごいと思いますよ。撫ぜ撫ぜ…」

「はぁ…」


きっちり傍らにいた…小柄で見えなかったクシナダ姫が私の頭を撫でる。

よく撫でてくるクシナダ姫だが、両親に撫でるように育てられたという話があるらしい。

そのせいかは分からないが、加護のような暖かい感じを覚えるので、神様からの贈り物と特に拒まないようにしている。

しているが…どう見ても幼女にしか見えない彼女に懸命に手を伸ばされると正直複雑なものがある。


「実感がわかないか?」

「ええまぁ。一応…」


私は鞘から片手間の如く剣を抜き放ち、また収める。

その間に放たれた白い刃が、木の枝を切り落とした。

しばらくして直って行く木を眺めながら剣を仕舞い直す。


「見ての通り『空』が使い物になっているので、少しは進歩もあるんですが、決定的と言うにはどうにも…」

「日進月歩はいつの間にか、って感じで自覚するもんだからな。まして、二人だけで鍛えてるんじゃそう変化は感じねぇか。」


楽しげに言うスサノオ様に、私は嫌な予感を感じる。

予感、と言ってもこの練想空間では生身ではなく意思の塊。

嘘吐いていられるものでもないので、何か企んでいるのは間違いないだろう。


「久々にアレとやってみるか?二人ならいけるかもしれねぇし。」

「あれって?」

「決まってんだろ…竜種だ。」


思考が停止する。

そして、思い出すのは片腕を持っていかれたあの幼竜との戦闘。

正直トラウマものの代物だ。穂波の事がなければさすがに私も泣き言の一つも言っていたかもしれない。


「稔で手も足も出なかった代物と勝負…想像できないんですけど。」

「そうか?そん時の稔なら、多分この間の中間テストで五回ともきっちり死ねてると思うけどな。」

「あ…そっか、二人で勝負にはなったから…」


何か考えるような間の後で、姫野は私を見る。

何を言い出すかは聞かなくても大体想像できた。


「稔と一緒ならやってみたいかな。」


楽しそうに言ってのける姫野。

ったく…呑気…で言ってる訳じゃないから困る。

木刀で打ち合っている私との訓練だって、普通に惑意と戦うときだって、安全が保障されているわけじゃないのに姫野は大体こんな感じだ。

格好いい魔法剣士とか何とか言っているが、こういうタイミングで緊張せずにいられると言うのは何気に英雄の器なんじゃないかと思う。


「後輩君の方が乗り気だぞ?良いのか引っ込み思案で。」

「そういう振り方するから稔さんが警戒するんですってば。」


夫婦神様が揃ってこっちを見てくる。後は私の一存のみだと言わんばかり…いや、実際皆が乗り気なのでそうなのだけど。


「…わかりました、やります。姫野、死ぬなよ。」

「あはは…やっぱりそういう洒落にならない相手なんだよね、了解。」


緊張感を煽るつもりでわざわざ死ぬなと言ったのに、姫野は相も変わらず笑顔だった。

本当、素直で優しく懐いてくる子犬みたいな性格の割に大物だなこいつ…














さすがにクシナダ姫でも何時でも何処でもと言う訳にも行かず、神社に集合する。

鳥居…門を通して、全国から処理されていない惑意を集め始める。


「って言うか、神社に呼べるサイズなんだね。この間の恐竜みたいなのだと思った。」

「現実の恐竜は種別的には巨大トカゲだ。神話の竜種は、竜鱗、ブレス、飛行系はその速度等、大きくなくても十分化け物なんだよ。」


私自身やりあって食われたのが幼竜だったからよく分かる。

無論、その上で姫野の言うような天を穿つ巨躯を持つ竜もいるだろうが、そんなものは試すまでもなく相手にならない。

いや、神威が弱っている今のスサノオ様達神様ですら、当時の神話の再現などそのまま現れたら対処できないんじゃないだろうか?


「一応言っとくぞ、やばくなったら助けを拒むなよ?俺らは人に望まれてない事は出来ないし、無理にやっても力が出ねぇ。雑魚ならともかく竜種にそれだと俺もお前ら護りきるのはきついからな。」

「はい。」


スサノオ様の忠告に素直に答える姫野。私も無言ではあるが、さすがに頷いた。


「では行きますよー…」


クシナダ姫の声と共に、集められた惑意が型を成す。


二本の短めの角、むき出しの牙、爪のほうが大きいような腕、折り畳まれているせいか短足に見えるが、筋量は図抜けていそうな足、体長程の尾。

それら全てが翡翠色の鱗に覆われている…化物。


歴史ではなく神話の竜がそこにいた。


私達に合わせたからだろうか、体長は2メートルに届くかどうかと言う、まぁ大男程度。

他の惑意を色々相手にしたうえでこれを見ても、何も知らない奴なら驚きも感じないだろうが…


「翼竜じゃないからやりようはあるだろ、ま、頑張れー。」


気の抜けそうなスサノオ様の声を無視して、私は地を蹴った。



「はああぁぁぁっ!!!」



乱。

竜の全身を、絶え間ない剣戟が叩き…


まるでトライアングルでも鳴らしているかのような、硬質な軽い音が連続で響いた。


…知っている、竜鱗は金属より硬いんだ。

普通に剣でかかってもせいぜい拍手のように楽器を楽しむ程度にしかならず、全く斬れる様子がない。

だからと、轟に繋ごうとして気づく。


竜が尾を振りかぶっていた。


「っ!」


咄嗟に後退。直後私がいた場所を旋回した竜の尾が薙いで行った。


剣で斬れない竜鱗に覆われた尾を振るわれる。

それはもう、ハンマーを振るわれるのと大差ない。食らえば終わりだ。


「うわ、傷一つつかないんだ…」

「悪かったな!こういう化物なんだよっ!!」


今の結果だけで十分規格外の化物だと認識したらしい姫野。

だが、今更遅い。やるしかない。


「ライズ!ガイアクレイモア!!」


斬りかかっている間に魔法陣を描いていたらしく、巨大な石の剣を展開する姫野。

確かに今まで展開した剣の中では一番威力がありそうだが…


「お前、それをどうやって当てる気だ?」

「へっ?」


私の問いの意味が分からないのか、間抜けな声を出す姫野。

直後、竜が駆け出した。


「え!?結構速い!?」


方向転換やステップこそ器用でないものの、脚力がない訳じゃない。

熊を想像すればいいだろうか?巨体だろうがなんだろうが人が逃げるのは至難の業だ。

しかも…


「うわ!受けたぁ!?」


全身を使って大剣を横薙ぎに振りぬいた姫野だったが、それを竜の爪に掴むようにして止められた。

獣だってそれなりに頭を使って生活しているが、竜種は下手をすると人より知能が高いとすらされている者もいるくらいだ。

大味だが、こうして防御や回避もしてくるのだ。


全ての力を押しとどめるらしい地の剣ガイアクレイモア。

だが、掴んでとめられた状態から…持ち上げられるのは防げなかった。


「わ、ちょ…っ!」

「ふん、二対一だからなっ!!」


姫野に意識が向いている間に接近して斬りかかろうと思ったのだが…

竜は掴んでいる姫野と剣をぶん投げてきた。

手放せばいいものを剣をつかんだまま振り回された姫野が一緒になってこっちに向かってくる。


「ちっ!」


跳躍するしかなかった。

が、向こうも普通には頭が回るらしく、それは読んでいて…


口が、私に向かって開いていた。


ブレス…っ!

まともに食らえばシャレにならない。なら…


「『空』っ!!」


咄嗟に、開かれた口の中に遠当ての刃を放つ。

丁度ブレスを噴出した所に放り込んだらしく、少しの炎が裂けつつ私に向かってきた。

軽く炎に飲まれながら着地した。

軽く…だったはずなんだが、手甲が歪んだ上、服が溶けて腕がむき出しになっている。

並の炎じゃない。



「はああぁぁぁっ!!!」



背後から聞こえる姫野の声。

直後、私の脇を通り過ぎるように石の剣が旋回しながら飛んでいった。

竜の傍に落ちる石の剣。



「アースロック!!」



姫野の声と共に、剣の力が解放された。

解けるように動いた周囲の大地が、竜を飲み込むようにして包みこむ。

下半身を包まれた竜は、そのまま拘束されて動けなくなった。


「稔っ!!」

「任せろ!!」


この状況でやる事など一つしかない。

動けない隙に、全力の一撃を叩き込む。それだけ。


奥義である八括魔が練想空間ですら不完全な私が手札を増やすには、それなりに考える必要がある。

分解して基本形とした『乱』と『轟』。基本形なら当然、応用にそれらを使う事もできる。

だから編み出した…轟の応用技。



「轟牙っ!!!」



元々剣の中でも殺傷力の高い突きを轟の要領で放つ必殺の一撃。

下半身を大地に絡めとられた竜に回避手段などあるわけも無く、私の剣は…





甲高い音を響かせ、折れた。





「っ…稔!下がって!!」





まるで起きた事がない現状に理解が追いついていない間に、竜を包む大地がひび割れていた。

全身を旋回させ、その尾を思いっきり振るってくる竜。

もう回避できるタイミングじゃなく、左腕を右手で押さえた状態でその尾を手甲で受けて…



強い衝撃と共に吹き飛ばされた。



直後、背中にやわらかい感触。姫野に抱きとめられたらしい。


痛む左腕を見ると、変な形に曲がっているのと同時に、砕けた手甲が型を成さず、青い光になって散っているところだった。


「っ…さすがに…これは…」


勝てない。

そう言いかけた所で、私の肩を軽く叩く感触。

どうやら姫野の合図だったらしく、私を抱きかかえたままで姫野が片手で竜を指差した。


見ると、その腹に折れた私の剣の切っ先が刺さっていた。


「通りもしなかった、って時よりは進歩してるんだよ。やっぱり。」

「みたいだな…全く。」


明るい姫野に対して、私は自嘲気味に呟く。

進歩している、それでこの有様。元がどうだったのかとか、後どれだけ進めばいいのやらとか、キリがない。

第一、アレは私達でも競り合えるサイズの相手を選んだものだが、竜種には空を舞うものや山程のサイズの代物もいる。先は果てしなく遠かった。


「さてと…ここまでみたいだな。後は…」

「あ、ちょっと待って貰えますか?」


竜に向かおうとしたスサノオ様。それを、姫野が呼び止める。

直後、スサノオ様が歩みを止めて、私達を振り返る。


「お前、止めるなって…」

「後一つ、試したいんです。」


言いつつ私を置いて前に出た姫野は魔法陣を描く。

そこまではいつも通り。だが、最後が違った。

いつもなら、六芒の魔法陣の中央には、それぞれの属性の頭文字を描く姫野。けれど、今描かれたのは二文字だった。




「ライズ…ミカグチノタチ!!!」




姫野が展開したのは、巨大な太刀だった。

細くはあるものの、長さそのものはさっきの石剣と差がない程の太刀。

刀身は打っている最中の刀の如く橙色に光を帯びており、刃に至っては、白に近いほどだが…

どちらも、太陽のような熱での発色だった。


その刀が、凄まじい力なのは刀自体を見れば分かる。だが…


「っ…ぁ…」


見るからに、姫野がついていけていなかった。展開するだけでふらついている。


当たり前だ。

スサノオ様の十拳剣、天羽々斬剣からすら感じない規模の力を湛えた代物だ。

天羽々斬剣だって草薙剣よりは格が落ちると言っても神器だと言うのに。


「お、おいおい…」

「姫野…」


けれど、それでも姫野は歩を踏みだした。

さすがにずっと待っているわけも無く、竜の方も歩み始め…止まった。

姫野の剣を警戒しているんだ。


「こ、の…一太刀はぁっ!!」


剣にすべてを込めたせいか、姫野本人の方は踏み込みも振りも怪しい一撃だった。

しかも、竜鱗は基本硬いだけでなく熱関連への耐性も高く、当然止め…




受けた竜の腕が切断されて宙を舞った。




当然止められると思っていたのだが、素通りするかの如く通った。凄まじい剣だ。

一振りしただけで前のめりに倒れる姫野。

片腕を絶たれた竜が悲鳴の如き咆哮を空に上げる。


そして、倒れた姫野に向かって残った腕を振り下ろし…


「っとぉ、間一髪。」


スサノオ様が倒れた姫野の足を引っ張って無理矢理気味に姫野を回収した。

と、屈み込んだスサノオ様。よく見れば姫野が何か口を動かしていたが、私は何も聞き取れず…


少しして、姫野が消えた。


練想空間を抜けたらしい。アレだけの消耗なら無理も無いか。

と、屈んだままのスサノオ様に竜が近づいてきて…


立ち上がる勢いそのままに、スサノオ様は竜を殴り飛ばした。

牙の何本かが折れて宙を舞い、赤い光になって散っていく。


殴っただけでコレとは…さすがスサノオ様。


でも、祭事の時期でもないのにこんな力発揮できるものなんだろうか?


「稔、よく見とけよ。」


静かに、珍しく真剣な声のスサノオ様が剣を構える。

これは…この構えは…



「くたばれ雑魚がっ!!!」



振るわれた八つの剣閃が、立ち直った竜をばらばらに刻んだ。

そのまま、赤い光に変わって散っていく。



八括魔…だ。



分解された轟と乱しか見せてもらった事はなかった。

本物の、八括魔。

ヤマタノオロチすら屠る連続斬撃を受けた小さな竜に耐えられる筈が無かった。


「…ち、さすがに全開時の一割程度が関の山か。ま、撃てただけ御の字だな。」


私の剣が折れるような相手を刻んで散らしておきながら一割とか言うスサノオ様。

一体どれだけの差になるのか、つくづく遠い。


「よぉ、見てたか稔?感謝しろよ。」


振り返って自慢げに笑みを浮かべるスサノオ様。

しかし、こうまで見事に決めて貰うと返す言葉も無い。


「…ありがとうございます。」

「違えよ馬鹿、真にだよ。」

「は?」


理解が及ばなかった。首を傾げた私を前に、楽しげなままでスサノオ様が続ける。


「あの野郎、やるだけやって最後に『稔の力になって』って願って帰ったんだよ。でなきゃ個人訓練であんなもん撃てるか。」

「な…」


姫野から最後に告げられていた何か。その詳細を聞かされ、私は硬直する。

願われれば、祈られれば、『真威を注がれれば』神様達はその方向に沿って力を発揮できる。

そして、百聞は一見にしかずとは誇張の無い事実で、スサノオ様のそれを見ることが出来たのは私にとって収穫だった。


だがつまりそれは、倒れる程消耗する剣を生成した上でまだ真威を使い倒したと言う事で…その消耗が、私が八括魔を見るためと言う事で…


「真さんは稔さんが大好きなんですねぇ…」

「っ!?」


しまいにはクシナダ姫までスサノオ様のような事を言い出す始末。

けれど、こんな状況に至ると否定も出来ない。

半年もたたないと言うのにどれだけ助けられてるのか懐かれてるのか、いくらなんでも分からないはずが無かった。


「…世話になりっぱなしですね、確かに。」

「そうでもねぇさ。」


からかわれるかと思ったけれど、スサノオ様は私の言葉を真面目に否定する。


「お前に普段の訓練とかでずっと世話になってると、そう思ってるから出来るだけ返したいんだろ。並べるように…な。」

「っ…」


思えばずっとそうだった。

姫野は戦いでも現実でも、私と着いて行こうと並ぼうと、懸命に動いていた。

姫野…か。名前で呼ぶのは認めたらでいい、と言っていたが…ここまでアイツの道を見ていながら苗字で呼んでいたら、こっちが拗ねている子供みたいだ。


「まぁやるならやっとけ。後回しにしようっても人の身に『後』がいつまでもあるかわからんしな。」

「はやや…スサノオ様、良い事言ってるようなんですがどーして品の無い話を混ぜるですか。」


中年男性のような物言いをするスサノオ様とそれに呆れるクシナダ姫に一礼して、私も練想空間を離れた。


自室に、自分に、現実に戻り、左腕を見る。

傷一つ無く、少ししびれてだるい気もするが動かせる左腕。

夢現同化に近づくと、練想空間での怪我すら反映される事があるらしい。現に初めて会ったとき叩き返した姫野は頭を打った痕があったと言っていた。

並ぶどころか抜かれているようにすら見えかねない現状に覚えた苛立ちを叩きつけるように、しびれる左手に力を込めてベッドを叩き、そのまま眠りについた。










「はよー…」


いつも通り迎えに顔を出すと、姫野からは案の定寝ぼけたように気の抜けた声が返ってきた。

見たことも無い代物を次から次へとよくもまぁ…それで毎回こんなふらふらでは見ていて心配が尽きない。


「昨日のあれは何だったんだ?」


無茶をするな、等と言っても仕方ない事を今更言う意味を感じなかった為、素直に昨日の剣が何だったのかを聞くことにした。

姫野はまだぼやけるらしい頭を振ってから私を見た。


「ミカグチノタチ…炎雷の力を持つ二属性剣だよ。」

「二属性…やっぱりか。」


尋常じゃない熱量、赤と黄の混じった刀身、腹に刺した私の剣が折れた防御能力を持つ、あの竜の腕を一撃で両断する威力。

普通に作ったわけじゃない事くらいは察しがついていた。


「ホントはまだ扱う代物じゃなかったんだけどね…おかげ様でふわふわー…はぁー…」


本当に真威を消耗したらしく、いい加減回復していいだろう時間が経っているのにまだ眠そうだった。

さすがに気がかりになる。


「何だって昨日いきなり使ったんだ?実戦で遭遇した相手ならともかく、練習台に使う消費じゃないだろう。」


自分で言ってるくらいだから理由はあるらしい。

話す気じゃないのならわざわざ扱う代物じゃないなんて事言わないだろう。


「…稔の剣が通じたから。」


相も変わらず眠たげではあったが、姫野は笑顔でそう言った。


「修行で練想空間にまで辿り着いた稔の力は基本的に現実に即してて、大きく変わった影響が出づらい。だけど、その分生身での動きにも近いし反映されやすいし、真威の消耗が少ない。言っちゃえば一撃型じゃないはずの稔が、あんな相手に一撃届かせたんだ。」


剣が折れ、あの程度しかならなかった事に軽い失意を覚えていた私の力を、楽しそうに讃えた姫野は、そこまで言って自分の手を見る。


「凄いと思った。同時に…引けないって。だって、僕は稔と反対に一撃撃ってこんな感じになるタイプだし。それで傷一つつけられず、何の進歩も出来ないままで稔に追いつこう何て、どの口で言ってるんだってそう思って。」


ふらふらの自分を指差して笑う姫野。

その顔を見ていられず視線を逸らした。


『真さんは稔さんが大好きなんですねぇ…』


しみじみ言っていたクシナダ姫の言葉を思い出す。

自分の事だと自惚れのようだけれど、ここまで来ると私でもそれが感じられる。


自分自身ですら足りない届いてないと焦りに曇っている力を、こうも手放しに褒めてきたばかりか、追いつく為に命がけになろう何て、余程の事だ。


「できれば、私を目指して目覚めなくなったなんて笑い話にもならないシャレは止めて欲しいんだけどな。」

「はは、さすがに気をつける。」


いつも通り素直に返してくる姫野だったが、どうせ信用ならないんだろうという気がする。

こいつに無茶をするなと言って聞いたためしがない。


「持田さんとも仲直りできたし、わだかまりって言うのかな?真威を澱ませる要素減ってるから、多分空が撃てないって詰まってた頃よりスッと成長できるようになると思うし、置いてけぼりはごめんだからね、ちょっと頑張りすぎたんだ。」


私よりも真威について色々考えているらしい姫野。

真偽はともかく、穂波とのわだかまりが力に影響するかもしれない等、思っても見なかった。

が、確かにストレスと言うか気負いと言うか、学校でも家でも肩身の狭い思い出を抱えていた身としては穂波とのわだかまりを解消できたのは正直気分的に大きい。

もし真威の発揮にまで本当に大きく影響しているなら…



本気で姫野に頭が上がらない。




出会ってから今までで一体どれだけの世話になっているのか?

修行をつけていると言うが、独りで黙々と打ち合いすらなく駆けずり回っていた頃より此方の随分助かっているのは事実で、正直肩身が狭いとすら感じる。


当の姫野はそんなこっちの気など知ってか知らずか…いや、おそらくは全く気にもとめずに突っ走った結果、こっちが怒ってる心配すらしていそうだ。


『まぁやるならやっとけ。後回しにしようっても人の身に『後』がいつまでもあるかわからんしな。』


どうしようか…と一瞬考え、自然昨日聞いたばかりの言葉が浮かんでくる。

思わず自分の身体を見てしまってから、私は握り拳を作って近くの電柱を殴りつけた。


「へ?み、稔?」

「なんでもない、何処かの不埒神に頭に来ただけだ。」

「それはいいけど、さすがに手傷めるんじゃ…」

「木刀で打ち合うよりはマシだろう。」


私の手を心配そうに見る姫野だが、生身で木刀での打ち合いなんて真似をしている普段の方が常識を外れている。

赤くこそなっていたものの別になんともなっていない手を見せる。

と、姫野は私の手をつかんだ。


「この細い指でアレだけ木刀振り回せるんだもんなぁ…こないだ持田さんも見てたけど、よっぽどじゃ無いと」

「…おい。」


あまりにも自然で何の気も無い動作だった為、怒る等の反応の一切が出来なかった。

ようやく姫野の無遠慮に怒りを覚えた頃には、ついさっきまで散々世話になって頭が上がらないと思っていた事も思い出してしまい、無理矢理振り払えずに棒立ちする事になってしまう。


「いようお二人さん、朝っぱらから通学路でイチャイチャか?」

「へ…あ!ご、ごめんつい!」


いつも通りのタイミングで須佐に遭遇し、相変わらずのツッコミを受けてようやく自分の状況に気づいた姫野が、慌てて私の手を離した。

触れるな、何て言うつもりはないが、通学路ど真ん中でいきなりこんな事をすればどうなるか位想像つかないものだろうか、全く…


「折角仲直りした幼馴染とじゃなくお前をご指名で通学したいってんだ、手くらい繋いでもいいんじゃねぇの?」

「今不埒な話題が嫌いだって怒ったばっかりの稔を前にこの話それ以上続ける勇気があるなら、何かあっても助けなくていいよね。」

「ごめんなさいすみません、俺が悪かったですこんちくしょう。」


ニヤニヤ話していた須佐が姫野に予想外の形で反撃されて平謝りしだす。

穂波と姫野の人並み外れた試合を目の当たりにした上で、私に届いてないと連日姫野が発言している。

須佐も自分が私や姫野より桁外れに弱い自覚があるのだろう。尤も、姫野にこんな形で返される想定はしていなかったのか、『こんちくしょう』が割と本気で悔しそうだった。


「穂波は朝練だ、ブランクを埋めるのに忙しいんだ。」


私は放課後に姫野と連日鍛錬している為朝まで気にする事はない。

一応、通学路と別方向にある姫野の家に来る事を朝の運動と言うことにしている。軽く走る程度なら少し汗をかく位で済むから丁度いい。


「…二人とも、本当にありがとう。ああいう奴だから素直に言わないだろうが、穂波も感謝してる。」

「何、真の頼みで女の子助けだ。当然だな。」


改めて礼を告げると、須佐らしい返事が返ってきた。

姫野の方は改めて言われると思ってなかったのか、少しの間の後で笑みを見せる。


「時間が…解決する事もあるかもしれないけど、傷口は腐ったり、治らなくなったりする。稔が自分から誘える訳無かったし、持田さんだって大変だったし。だから…」


微笑みながら話す姫野。

確かに、私はもう解決なんて無いと、出来る訳が無いと思っていた。




「出来るうちにやっておかないと…って思ったんだ。」

「ぁ…」




微笑みながら嬉しそうに言う姫野。

その言葉に、私は先のスサノオ様の言葉を思い出した。

普段のスサノオ様のノリと、続けられたクシナダ姫の言葉のせいで勘違いをしていたけれど、別に『やること』は何でもいいんだ。

やるなら…



『認めてくれたら真って呼んで欲しいかな。苗字だと何か格好つかないし。』



やるならやっておけ…って…これか…

私が姫野に感謝しているから、姫野が頑張っている理由の一つがこれだから、そして…


そのせいで姫野が死んだら、やりきれないから。


「どうしたの?」

「あ、いや…別に…」


考えていると、姫野が不思議そうに問いかけてくる。

なんでもない訳がないが、だからって話せる訳でもない。


「色々やったしお前がかっこよく見えたんじゃねぇの?」

「え、そうなの!?」


男女のノリで言ったのだろう須佐の言葉に対し、元々『格好いいから』と魔法剣士を目指している姫野は、そこだけに強く引っかかったのかものすごい反応する。

須佐じゃないが、あれだけ助けられ、頑張っている姿も見ていると…こういう所が無ければ本当に格好良く見えるのかもしれない。

が、全てに素直な反応を乱発する姫野はどうしても尻尾を振る子犬のようなイメージがついて回る。


「…期待に飛びつくような反応をする今までは格好良く見えてたな。」

「ぁ…うぅ…」


やっちゃった、と言わんばかりに固まった姫野は、その後で俯いた。

本当素直だ、羨ましい位に。

こうなりたいとは思わないが、言葉や気持ちに詰まるものがある時は姫野の素直さは羨ましい。


「ま、こういう所を見る限り格好いい男には届かないだろうな、俺と違ってな。」


言いながら静かに自分の髪を撫でる須佐。

姫野が求めているのはそういう格好良さではないだろう。ついでに言うなら…


「自分でそう言う台詞を吐いているとただのナルシストに見えるんじゃないか?」

「な、ナルシストぉ!?誰がだ誰がっ!!」


冗談じゃないと言わんばかりに食って掛かってくる須佐。

と、そんな須佐を見ながら、姫野が小さく頷く。


「いや、守雄はどっちかって言うと三枚目じゃないのかな?」

「だ…お前まで言うかっ!」

「あたたたた!」


真剣に言われて、須佐は姫野の頭を抱えてぐりぐりと拳をこすりつける。

振り払うくらい簡単だろうにされるがままになっているあたり、お遊びなんだろう。


ヘッドロックが日常コミュニケーションだと、漫才師扱いでも無理は無い気がするが…


通学中だと言うのに道のど真ん中でじゃれあっている二人を放って、私はさっさと進む事にした。














朝は朝連、放課後は私と姫野は修行で穂波は部活。クラスも違う。

となれば、昼休みくらいはと話せるようになった穂波の所に来たのだが…





「変人三人組で噂になってるぞ。」





比較的普通に学友と関わりを持っている穂波の口から、早々に知りたくもない事実を聞かされた。

人の噂など知った事じゃない…知った事じゃないが、あの路上漫才に加えられていると思うと少し物言いたくなる。

が、苦い顔をしている私を見て、穂波は冷静に続ける。


「大体方向違うのにわざわざジョギングついでに迎えに顔を出しているお前も十分変だろ。」

「姫野の母君が心配性で、一度行った手前急に行かなくなると悪い気がしてな。」


二人のノリに混ざっている訳じゃないが、別の意味で変人なのは変わりない。

それを指摘されれば否定出来る訳も無く、苦笑いするしかなかった。



「姫野ですら苗字なんだな。」



一瞬息すら止めて、ぴたりと硬直する。タイミングの良すぎる話題だった。

何かあるのは察したらしい穂波が私の言葉を待つ。


「認めたら…名前で呼んで欲しいと言われてる。」

「あぁ…難儀な約束を。」


きっと私は苦い表情をしていたのだろう。

何処か同情を感じさせる様子で穂波は私を見ていた。


「認めてるくせに、それを受け入れる気になれないんだろう?乙女か全く。」

「乙女だ一応。」

「バラエティ番組の撮影中じゃないぞ。」


…そこまで言うか。

拳を握って穂波を睨むが、何処吹く風で笑みを浮かべて返された。

百歩譲って私が女子失格でも、須佐に言わせれば『私達』の会話が女子のそれじゃないって感想だったろうに、よく人を笑ってくれる。


「いつか名前を呼ぶ気なら、後々に伸ばすより今の方が変にならないんじゃないか?認めるどころかお前の方が姫野に抜かれて置いていかれるかもしれないし。」

「っ、誰がっ!!」


学校だと言うのに思わず叫んでしまう。

一瞬驚いた穂波だったが、その後笑う。


「今認めたら、段階的にそうなるのが早くなりそうで嫌なんだな。」

「っ…」

「お前がそんなんでどうするんだ…」


否定しきれない穂波の言葉に何も言えなくなる中、穂波は言葉を続ける。


「私達は勝てないって言葉を聞き入れず、先輩に大人に、上に上にと挑んで、挙句お前に至っては多人数にすら負けたのが許せなくて剣道を離れたのに、後ろを気にして保険をかけるような真似みっともなさ過ぎるぞ。」


呆れ混じりの穂波の言葉の中に、結局私は自信を持って否定できる部分を見つけられなかった。

だが…


「って、何で説教まがいの話の最中に笑ってるんだ?」


穂波の指摘通り、私は頬が緩んでいるのを自覚していた。


「やっぱりよく分かってると思ってな。」


道を共にした幼馴染だけあってよく分かってる。

改めてそう思って嬉しくなってしまった。


だが、そんな私と対照的に、穂波は少しかげりを見せる。


「…今のお前と一緒にいるのは姫野なんだ、そのうちアイツの方が色々話せるようになる。」


否定の言葉を口にしようとして、それが無意味である事に気づく。

既に練想空間と神様、真威惑意の話など通じるべくも無いからだ。

それは、姫野と共にいて、穂波がそれらを知らないからで…通じない話は、きっと時間と共に増えていくんだろう。


「私だけがお前の特別のままと言うのも悪い気はしないが、意地張らずにちゃんと見て応えてやったほうがいいと思うぞ。」

「善処するよ。」


その内どんどん道が交わる事が減るのを分かった上で真摯に話してくれる親友に心底感謝しながら頷いた。



人でも『首を落とす』とかそう簡単な話じゃないんですが、ヤマタノオロチをばらばらにしたスサノオって何気に策なしでも凄い気が…

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