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風
頬を撫でられたら、泣きたくなった。
そこには誰かの指なんて無いのに。
髪を撫でられたら、笑みがこぼれた。
別に整えてくれてるんじゃないのに。
思い切り吸い込んだら、飲み込める気がした。
だけど喉の中で暴れてる気がした。
自分の吐息を絡ませたら、中和してる感じがした。
だけど染めてしまってる気がした。
手を伸ばしたら、掴める気がした。
目を細めたら、見える気がした。
呼びかけたら、返って来る気がした。
けれどキミは、透明なままだった。
無形で無質量で無反応な存在だった。
ただ、キミはいつも隣にいた。
無存在、ではなかった。
無関心、でもなかった。
音にしようとした5文字の感謝を、キミは飲み込んだ。
強く静かで清廉された音を立て、ボクの言葉を消した。
そして、向きを変えたボクの背を、躊躇いも無く押してくれた。
(大学1年のときに書いたものをそのまま)




