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りんご

作者: 浅野ハリー


 そもそも僕はおばぁちゃん子で、どちらかというとおじいちゃんは苦手だった。だから僕の布団の下に三年前に亡くなったおじいちゃんが、ぺちゃんこになって挟まっていたのには、もちろんとてもびっくりした(本当に)けれど、少なからず違和感も覚えていた。


 それは三ヶ月前の事だった。


 僕は大学を出て初めての出社の日で、普段より早めに起きて身支度を始めていた。就職活動でかなりよれよれになってしまったリクルートスーツに、両親から贈ってもらったネクタイを締め、洗面所で出社初日の緊張をほぐすため、鏡に向かって(バカみたいに)笑顔の練習をしていた。そして、布団を上げてさぁ出かけようとした時、おじいちゃんを見つけたのだ。


 おじいちゃんはシマシマのトランクスにアップルマッキントッシュのロゴが入ったTシャツを着て、じっと僕を見つめてモゴモゴと何かつぶやいていた。

「おまえはおばぁちゃん子だから、わしの事は信じんだろうが、とにかくおばぁちゃんを連れてきてくれんかのう」


 とてもとても小さな声でおじいちゃんはそうつぶやいていた。でも、おばぁちゃんはおじいちゃんが死んだ次の年に後を追うように亡くなっていたのだ。


 その事をおじいちゃんに伝えてもぜんぜん取り合ってくれなかった。僕はおばぁちゃんの形見を家から持ってきては、おじいちゃんに渡してみるのだけども頑固に首を振ってため息をつくだけだった。


 「おじいちゃん、そもそもどうして僕の布団の下なんかに居るんだい?」そう訊ねてみても、おじいちゃんは僕の目を見て悲しそうな顔をするだけで、またモゴモゴとつぶやきはじめる。


 そうこうしているうちに三ヶ月たって梅雨の季節になった。僕はおじいちゃんにカビが生えないように、ちゃんと布団を上げて、風通しをよくして、布団が湿気ないように気をつけていたのだけれど、それでもおじいちゃんのTシャツにはカビが生えてしまった。


 アップルのロゴに生えた青カビをブラシでこすっていたとき、そのロゴがカチリと開いて奥にUSBの差込口が表れた。僕は少し迷ったのだけれど手持ちのUSBメモリを差してみた。するとメモリは青い光を点滅させながら何かデータを吸い出していった。


 その次の日にはおじいちゃんの姿はもうそこには無かった。そして、僕のUSBメモリには大量の写真データがコピーされていた。そこにはおじいちゃんとおばぁちゃんの全人生の思い出アルバムがあった。画面の中でようやくおばあちゃんと再会出来たおじいちゃんは、それでも僕に何かモゴモゴと言いたそうな顔をしていた。


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