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出会い

 昼食に満足したジンは会議があるという王と別れて中庭を散歩していた。


「植物も似たようなものが生えているなぁ」


 ジンが適度な間隔で植えられた木々と花々を眺めていると空から数枚の用紙が降ってきた。


「なんだ?」


 ヒラヒラと舞い降りてきた用紙を一枚掴む。そこには何かの記号と、その下に詩が書かれていた。


「詩……と、いうか歌詞かな?この記号は音を表しているみたいだね」


 ジンが一人で納得しながら歌詞を読んでいると、半泣きに近い女性の声が聞こえてきた。


「すみません!ここに紙が……」


 と、そこまで言って女性はジンが持っている用紙を見て両手で頬を押さえた。

 ここまで走ってきたのか息が上がって顔は赤くなっているのに、表情は幽霊を見たかのように絶望している。


 女性は声を震わせながら恐る恐る訊ねた。


「よ……読みましたの?」


「あぁ、これは君が書いたものかい?はい」


 ジンが用紙を差し出すが女性は力尽きたように、その場に座り込んで俯いた。


「どうしたの?具合が悪いのかい?」


 屈みこんで心配するジンを無視して女性が呟く。


「人に読まれるなんて……私はもう生きていけません」


「え?」


 意味が分からないジンを置いて女性が胸元から小瓶を取り出して蓋を開ける。

 そこから微かに漂ってきた臭いに気が付いたジンは慌てて女性から小瓶を取り上げた。


「ちょっと、これ毒薬でしょ!?目の前で死なれたら、私が(・・)、すっごく困るんだけど」


 私を強調したジンの言葉を聞いて女性が碧い瞳を丸くして顔を上げた。


「では、あなたがいない場所でなら死んでも問題ないと?」


「うん」


 ためらいなく頷いたジンに女性がポカンとした表情になる。


「あの、こういう時は死ぬのを止めるのが普通なのではないのですか?」


「そうなの?とりあえず私に迷惑がかからないのであれば、誰が何をしようと興味ないんだけどなぁ」


「では、あなたの前で死ぬことにします」


 再び決心をした女性がジンから小瓶を奪い返そうと手を動かす。だが、その動きは上品でおっとりとしており、とてもではないが小瓶を奪えるものではない。


 ジンは苦笑いをしながら立ち上がると、小瓶を女性の手が届かない木の上に置いた。


「今の話の流れで、どうして私の前で死ぬ決心をするようになるかな?」


 首を傾げるジンに女性が可愛らしく頬を膨らます。


「私の歌を読んだでしょう?そのことに対する嫌がらせです」


「嫌がらせに命をかけるなんて根性あるね」


 思わぬところを感心されて女性の頬が紅くなる。


「こ、根性なんて……そんなものは……」


「あぁ。そういえば、さっきの歌詞も良かったと思うよ。私の故郷の歌によく似ていた」


 突然のジンからの発言に女性の顔が真っ赤に染まる。水面で餌を求める魚のように口をパクパクさせているが音は出ていない。


 そんな女性をジンは上から下まで眺めた。


 ほどよくウェーブがかかった黄金色の髪は無造作に腰まで伸ばされている。髪と同じ金色をした長いまつ毛に縁取られた瞳は海のように碧い。筋が通った鼻に可愛らしいピンク色をした唇が小顔に収まっており、一言でいうなら美人だ。年齢は二十代半ばぐらいだろうが、それにしては動作がどこか幼い。


 不躾なまでに全身を眺めているジンに気が付いた女性が抗議する。


「な、なんですの!?」


「ん?別に。見ていただけ」


 そう言うとジンは興味を無くしたように女性から視線を外した。そして木の枝にひっかかっている用紙を集め出した。


「あ、それは!?」


 再び顔を赤くする女性にジンが何でもないことのように言った。


「中身は見ないから。君だと手が届かないだろ?代わりに集めてあげるよ」


 ひょい、ひょいと用紙を集めていくジンを女性はおどおどしながらも見守っていた。


「これで全部だと思うけど、確認してみて」


「は、はい」


 集めた用紙を渡された女性は恥ずかしそうに俯いたまま用紙の中身を確認した。そして、ほっと息を吐いて顔を上げた。


「全部あります」


「なら、良かった。じゃあね」


 あっさりと立ち去ろうとするジンに女性が声をかける。


「あ、あの、お礼を……」


 そう言って女性は自分の周囲を探した。服装品で礼になるようなものを探しているのだ。


 そんな女性にジンは頭をかいた。


「あのさ、お礼って物だけで表すものでもないでしょ?」


「え?」


 戸惑う女性にジンは口を指さした。


「なんのために言葉があるの?」


 ジンが言いたいことを理解した女性は、顔を赤くしながらバタバタと手を動かした。


「え?こ、言葉、ですか?」


「そう。もしかして言ったことないの?」


 琥珀の瞳を丸くしたジンに女性が慌てて首を横に振る。


「そ、そんなことありませんわ!」


「じゃあ、わかるよね?」


 にっこりと微笑むジンの顔を見て女性は上目使いで悔しそうに言った。


「あ……あ、ありがとう!」


 意を決したように叫んだ女性に対してジンは子どもにするように頭を撫でた。


「はい、よく言えました。じゃあね」


 ジンがヒラヒラと手を振って中庭から出て行く。女性はその後ろ姿を茫然と見送っていた。



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