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ナルシスト

 想定外の出来事により領地での休暇を返上させられたファツィオは、首都にある小さな屋敷で過ごしていた。

 申請していた休暇日数は過ぎたが、重要な客人をもてなしているということで特別に休暇延長を得ていたのだ。


 ただ、もてなすといってもファツィオは特別なことは何もしていなかった。ジンはこの国の魔法書を読み漁り、美女はこの国のお菓子や果物などの食べ比べを堪能している。

 本当に何もすることがないファツィオは書斎に置いてあるソファーに寝転んで怠惰を満喫していた。


 すると控えめなノックとともに手紙を持った執事が書斎に入ってきた。


「お休み中申し訳ございません。早急にお渡しするように、との命でしたので」


 ファツィオは手紙に押されている王印を見て、仕方なく手だけを執事に伸ばした。そして面倒くさそうに手紙を受け取って中身を読むと、軽く笑いながら立ち上がった。


 そこに執事が(うやうや)しく報告する。


「あとイラーリオ卿がご面会を希望されています」


 執事の口から出た名前にファツィオの顔が微かに引きつる。


『用件は?』


 相変わらず声は出ていないが執事は主人の言葉を理解して静かに答えた。


「それが、お会いしたい、の一点張りでして」


『……でしょうね』


 ファツィオはイラーリオの姿を思い出して納得をした。


 イラーリオは美しいモノが好きだと公言しており、宝石や装飾品以外にも花や動物など見た目が美しければ、なんでも収集している。

 そして自身も四十代とは思えない若さを保っており、腹が出るなど美意識が許さないと言わんばかりに体を鍛えている。


 そのためか美しいモノ大好き、自分大好きなイラーリオと意思疎通することは困難なことが多い。

 まるで自分が主役の劇をしているかのように常に過大な言動をする上に、こちらの話の半分も聞かないという扱いづらい人種なのだ。


『仕方ないですね』


 重い腰を上げた当主に執事が進言する。


「ジン様をお呼びしましょうか?」


『いえ、筆談しますので呼ばなくていいですよ』


 イラーリオが美しいと判断する基準がいまいち分からない部分もある。噂では散歩中に見つけた白蛇を


「色、太さ、長さ、全てが完璧だ!」


 と叫んで、止める従者の声も聞かずにペットとして飼ったという。

 もし、ジンを見て何かが気に入ってしまったら後が面倒になる。そう判断したファツィオは一人で応接室へ向かった。




 ファツィオが応接室に入ると、豪華な衣装に身を包んだ四十代の男がソファーに座っていた。


 年齢の割には無駄な肉はなく、生気に溢れた精悍な顔立ちをしている。燃えるような赤髪を後ろに撫でつけて、吊り上った鋭い茶色の瞳は自信と自己愛に満ち溢れている。

 これが自己陶酔者(ナルシスト)の代名詞、イラーリオである。


 応接室に入ったファツィオに気が付いたイラーリオが、ソファーから立ち上がって両手を広げた。


「久しぶりだね、アントネッロ卿!」


 その言葉使いにファツィオは心の中でため息を吐いた。


 イラーリオは侯爵の地位を持っているが、階級としては公爵であるファツィオの一つ下となる。それならばファツィオの方が年下であろうが敬語を使用しなければならないのだが、その様子がまったくない。


 もともとアルガ・ロンガ国は上下関係が緩いところがあり、王がそれではいけないと階級による格差を強める新法を発令したのだが、イラーリオにはそれに従おうという気配さえ見られない。

 もっとも、自分が世界の中心であるイラーリオに、新法など道端に転がる石に等しいものなのだろう。つまり、どうでもよいものなのだ。


 そのことを薄々勘づいていたファツィオは他所向けの笑顔で答える。


『お久しぶりです、イラーリオ卿』


 声は出ていなかったが言っていることは雰囲気で伝わっただろう。

 だが、イラーリオはまるで舞台の上にいるかのような大袈裟な動作で、頭を抱えて全身を横に振った。


「本当に声が出ないのだな!残念だ。非常に残念だ!」


 そう言って柔らかな絨毯の上に両膝をついて沈み込んだ。


 その姿にファツィオはイラーリオが自分の声の熱狂的なファンであったことを思い出した。

 どこから耳に入れたのかは不明だが、ファツィオの声が出ないという噂を聞いて確かめに来たのだろう。だから、会いたい、の一点張りだったのだ。


 ファツィオがどう声をかけるか考えていると、イラーリオはスッと立ち上がり満面の笑顔を見せた。


「アントネッロ卿、落ち込むことはない」


 落ち込んでいるのは、あなただけです。


 そう出かかった言葉をファツィオは飲み込み、曖昧に微笑む。そこにイラーリオが励ますように肩を叩き宣言した。


「私が貴殿の声を治すぞ!だから、心安らかにして待っていろ!」


 そう叫んでファツィオの話を聞くことなく応接室から飛び出していった。


『やはり、こうなりましたね』


 ファツィオは軽く肩をすくめるとベルで執事を呼んでイラーリオの見送りを指示した。


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