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二つ名

 部屋の主は軽くジンを見た後、ファツィオに視線を戻した。


「それに今回、呼び出した用件については極秘性が薄いからな。ジン殿には、そのままアントネッロ卿の通訳をしてもらっても問題ない」


 部屋の主の言葉にファツィオの笑顔の質が変わる。

 具体的に表現すると、より一層笑顔になったが背後に黒い影というか渦が加わった。言外に、重要な用件でないのに休暇中に呼び出すな、という雰囲気を発している。


 そのことに気が付いた部屋の主が黒い影を追い払うように咳払いをした。


「この度、シャブラ国に召喚された勇者が国外に出たという情報は知っておるな?」


『はい』


「強い魔力と異世界の知識を持った勇者だ。各国が捕獲しようと動いていることも知っておるな?」


『はい。その全てが失敗に終わり、むしろ被害が甚大で、ある国では壊滅状態に陥ったと聞いております』


「そうだ。二人の勇者を表す、微笑の魔人と悪名高き魔女という通り名。それは伊達ではない。そして、その二人が現在、我が国に立ち寄っているという情報が入った」


『はい』


 部屋の主は思案するように両手を机の上で組んでファツィオを見上げた。


「私としては、是非その勇者を我が国に取り入れたい。だが下手に手を出して他国のようなことにはなりたくない。何か良い策はないか?」


『そうですね』


 ファツィオは軽く頷きながら隣に立っているジンに視線を向けて首を傾げた。


『どうしますか?』


 自分に訊ねられた言葉を自分で言うという状況になってもジンは平然と通訳を続けている。


 そんなジンとファツィオの言動に部屋の主が片眉を上げる。


「私はアントネッロ卿、そなたに聞いておるのだ。ジン殿の意見は関係あるまい」


 密かに怒りが入った部屋の主の指摘にアントネッロ卿が平然と答える。


『彼がこの度、シャブラ国に召喚された勇者の一人、ジン殿です』


 言葉はファツィオのものだが、話したのはジンだ。他人がした自分の紹介を本人が言うという違和感ありまくりの状況だが、部屋の主はそれどころではなかった。


「ジン殿が……微笑の魔人!?」


 椅子から落ちそうなほど驚いている部屋の主を見てジンが苦笑する。


「本名より、通り名の方が有名になっていたんだね」


『そのようですね。で、ジン殿はどうしますか?アルガ・ロンガ国、国王が直々にこの国への逗留を願っていますが』


 ファツィオの言葉をジンは通訳のためにスラスラと話していたが、途中で少しだけ琥珀の瞳を丸くした。

 そして言いきったところで軽く部屋を見回した。


 調度品はほとんどなく書類仕事をするのに必要最低限の物しか置いていない質素な部屋だ。壁の色は白色に塗られており部屋を明るくしているが、物が少ないため寂しい印象を受ける。

 唯一の明るい場所は机の後ろにある窓から見える整えられた中庭と、そこに咲く色鮮やかな花々だ。


 ジンは感心したように言った。


「こんな質素な部屋で事務仕事をしているから半信半疑だったんだけど、本当に王様だったんだ」


 今まで話していた相手が王と分かってもジンの態度は変わらない。飄々とした雰囲気のままでジンは困ったように頭をかいた。


「まあ、少しぐらいなら、この国に滞在してもいいよ」


『では、ジン殿は我が家の客人ということで、よろしいですか?』


 ファツィオの提案に腰を抜かしていた王が反射的に頷く。


「そ、そうだな。必要なものがあれば言ってくれ。すぐに用意させよう。ジン殿、我が国で旅の疲れを癒してくれ」


 ジンは同年代である若き王に軽く微笑んで会釈をした。


「ありがとう」


 こうしてジンは予想外にも国王直々にアルガ・ロンガ国滞在の許可を得ることとなった。



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