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ヒーローのハッピーハロウィン


「校長先生に言いつけてやる!

落第覚悟しておけ!!!」


やべー、怒らせちゃったか。


「でかくなったからって、

全然怖くねえよっ」


隣でアシュメルが怯まず杖を振った。


ぼんぼんっと爆発音がして

煙が上がっておれもアシュメルも咳き込む。

教室はさらにパニック。

なんだよこれ、なんの魔法だよ…!


曇った視界の中で懸命に目を凝らすと、

丸いシルエットが見えた。

…なんだ、あれ!


「ジャック・オウ・ランタンだ!」


誰かが叫んだのでやっとわかった。

背丈は普通の人間と同じくらいか。


視界がはっきりすると、

そいつの目や口がくっきり見えた。

三角形にくり抜かれた目を

怒ったようにつりあげている。


「ふざけるな!こんな姿にしおって!」


「ナルミ!おまえもなんとかしろよ!」


アシュメルは好戦的に言う。

その横顔はとてもたのしそうだった。


おれはさっきの魔法薬学の授業で

作った固形物をえいっとかぼちゃの

口に投げ入れた。

的がでかいから入りやすくて

ラッキーだったな。


「覚えておけ!お前らは落第…

らくだっ…あは、あはははは

ひゃひゃひゃ!!ぐるじいっ、ぎゃは、

いや、笑っている場合じゃな…っ

ぎゃは、ぎゃははははははは!!!」


大爆笑する巨大

ジャック・オウ・ランタンってのも、

なかなかシュールなもんだ。


「ナルミ、なに食わせたんだよ?」


「さっき授業で作ったやつ!

笑い薬だよ。それも、強力なやつ」


「すげえや、じゃあおれもっ」


アシュメルは満面の笑みで

ポケットからピストルを取り出した。


「なんだそれ、物騒だなっ」


「ばーか、水鉄砲だよ!」


ぴゅうっと水が飛んで、

三角形にくり抜かれた目にきれいに

入った。


「よっしゃ」


「うおおあっ。何かが入った!!!

なんだああ…ああ、これは、これは!

おかあさんが見える!!あひゃひゃひゃ、

おかあさんが見える!!ふははははは

!」


はぁ?!


「アシュメル、どういうことだよ」


「幻覚剤だよ。

本人が最も望むものが見えるように

作ったんだけど、まさか…

まさかおかあさんが出てくるなんて

思ってもなかった…。

すっかりしらけちまったな」


アシュメルはぶぅとふてくされた顔になった。せっかく作ったのになんだよ、ただのマザコンかよ、と毒づきながら。


巨大ジャック・オウ・ランタンは、

笑いながら教室中を飛び回り、

おれたちはおかしいやら

どうしていいやらで、

ぎゃあぎゃあ騒ぎながら教室を出た。


「さすがにまずいかな」


おれがつぶやくと、

クラスメイトが口々に言いだす。


「いや、最高にありがたかった。

退屈すぎて死ぬかと思ったよ」



「ほんとよ。

あんな授業誰も聞いてなんかないわ」


「あいつ身体中から

催眠魔法放ってんじゃねえの」


「とりあえず、アシュメルと

ナルミには感謝だな。まじメシア」


そ、そうか。

みんながそう言ってくれるんなら

まあいいかな。


ドンドン、ガシャガャ、バリバリ、

教室からは狼男が暴れているような

音が鳴り続けている。


「あーあー、せーっかく自腹で

建てた教室だったのにな」


なんてことを言い合っていると、

どけどけ、という野太い男の人の声が聞こえた。

振り返ると、図体のでかいやつが、がつがつとこちらに向かって歩いてきている。


やっべ、風紀主任のガッドじゃんか。


「やばいやばいやばい」


アシュメルの顔がさーっと青ざめた。


ああ、ほんとにまずいな。

当分の謹慎処分をくらうかもしれない。


ところがガッドは、おれとアシュメルを

全く気にせずスルーして、

歴史学塔にずかずか入っていった。


「…?」


おれとアシュメルは

すっかり拍子抜けて、

ガッドの後ろ姿を見送った。


バタンと扉が閉まり、

中で一発ドカンと音がすると

ぴったりと静かになった。

どうやら、

巨大ジャック・オウ・ランタンは

暴れるのをやめたらしい。

というか、なんらかの方法で

やめさせられたらしい。


ほどなくして、扉が開いた。

イファン先生は、ちゃんともとの

姿に戻っていた。

ガッドに抱えられるような格好で

ぐったりとうなだれている。


ガッドは厚い唇を重たそうに開いた。


「ラシュテルゲン教師条項第14条、

『教師は魔法を用いて生徒を脅してはならない』に違反。

かつ、学園資金を横領してこの塔を建てたという疑いが浮上しているため、一時身柄を拘束する。」


お、横領〜〜〜?!?!


生徒たちは騒然とした。

が、ガッドはおかまいなしにその

生徒の間をかきわけて去っていった。


「悪霊退散ってわけか!」


アシュメルは満足げだ。

みんなも、もしかしたらこれで

あの退屈な授業を受けなくてよくなるかもしれないと口々に言い合っている。


「すごいやナルミ、よく彼が

不正をしてるってわかったね!」


「いや、たまたまだよ」


「っていうか天性」


おいアシュメル、あんま調子乗るなよ。



教室の外の空気は

すっきりと澄んでいて気持ちよかった。

本館のてっぺんから伸びた

ラシュテルゲンの旗が

ひらひらとはためいている。


アシュメルと顔を見合わせ、

にいっと笑う。



「「ハッピーハロウィーン」」


ぱあんというハイタッチの音が

気持ちよく空に響いた。



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