「いたずら、してみる?」
「朝から散々だったな〜」
アシュメルはフルマラソンを
走りきったくらいの疲労感でいう。
おまえがはじめたんだろ?
そんなん知ったこっちゃねえや。
っていうか今朝のキャラメルのせいで
胸やけがおさまらない…。
ほんとに、とことん
おまえのせいだからな!
「でもまあ…」
アシュメルがしゃきっと
背筋を伸ばして
ちらっとおれを横目で見て笑う。
「イタズラがまかりとおるのは
今日ぐらいしかないし、
いろーんなことしようぜ、ナルミ」
「まあいつもしてるけどな…」
「今日は合法じゃんってことだよ」
なんていいながら
アシュメルは意気揚々としている。
「1限目は魔法薬学か〜。
どうする?なにつくる??」
ほんとに、ころころ機嫌が
変わるやつだな。
「透明薬くすねるか」
「お、いいね」
なんて話をしながら
教室に向かっていると。
「ナルミ・フリーエン!」
「お?」
ぴいんとよく鳴る高い声。
イグニス(火組)のレイナだ。
「今日は何の日かしってる?
トリック・オア・トリート!」
いやいや、その勢い、完全に
トリック・オア・バトル でしょ。
でも朝からそんなんつかれるし、
そんな気分じゃないんだよな。
しっかたないな。こういうときは…。
「でもおれ今お菓子持ってないんだ。」
かつかつとレイナに歩み寄る。
彼女の杖を持っている手をそっと握り、
おれのほうにぐいとひっぱって。
「ちょっ、なにすんっ…」
レイナがバランスを崩して
よろめいたところを胸で受け止めた。
がばっと顔を上げたレイナの目を
じっと見つめる。
そして声のトーンをぐっと抑えて、
半分くらい空気を含ませて
そっと、彼女にだけ聞こえるように言う。
「イタズラ、してみる?」
「〜〜っバカ!!!!!!」
レイナは、ものすごい勢いで
身を翻し、駆けて行ってしまった。
勝った。
ドヤ顔でいると、いつのまにか
周りに人が集まっていた。
野次馬、かな。まあいいや。
「アシュメル、行こう」
「お、おう」
アシュメルがてこてこついてくる。
ついでに野次馬もぞろぞろついてくる。
「…アシュメル、この人たちなに」
「…はぁ〜っ。
おまえほんとバカじゃないの?!」
アシュメルはもううんざり、
というようにじろっとおれを見る。
「気づけよ。みんなお前に
イタズラされたい女の子たちだよ…!」
「え」
ぐるっと見回してみると、ほんとだ…。
見事なまでに女だらけ。
まじかよ、めんどうだな….。
「あ〜…みなさんほんとに
イタズラしてもいいんでしょうかー…」
そうきくと、
きゃあっと集団がわきたった。
…ふぅん、そう。いいんだね。
おれは杖をひとふりして
あたりにきらきらした粉をふらせた。
「なにこれーっ」
「雪みたい!きれい!」
そう言ってられんのもいまのうちだぜ。
「ナルミ、遅れちまうよ!」
「わあってる」
おれとアシュメルは、
きゃっきゃと騒いでいる集団をかき分け、
教室に急いだ。
「ところでナルミ、あれ全然
イタズラには見えなかったんだけど」
「まあね。悲劇はあとから訪れるんだ。
あいつらの頭、3分後に
わたあめアフロになるはずだぜ」
ひとりひとり相手するのはめんどいし。
みんななかよく
わたあめアフロ仮装で今日のハロウィン
楽しんでくださいな。
「うわーお」
アシュメルはケタケタ笑って言った。
「ほんっとサイコーだな」