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4 校外学習

ポイント、感想、レビューお願いします!

 ジリリリリと部屋いっぱいに音が響き渡る。

 その不快かつ神経を逆なでする音を完全にシャットアウトするべく、神業的早さで目覚ましに手を伸ばした。

 いつもは二度寝をしたい衝動にかられそのまま寝るのだが、ぐっと堪えて起き上がる。

 大きくあくびをして伸びをしカーテンを開けると、朝の陽光が頭をスッキリとさせた。

 俺は着替える前に机の横にかけてあるカレンダーをめくる。

 今日から五月だ。

 五月と言えば真っ先に思いつくのは五月病。新しいクラスにも慣れて気が抜けるのが原因だった気がする。まあ、俺の場合は年中自席でラノベタイムだから慣れるもなにもないのだが。

 え? GW? 僕の通う学校鬼畜だから、ちょっとまとまった休みがあると殺人的な量の宿題が出るんですよー。

 だからどこもゴールデンじゃない。もはやレッド。血にまみれている。

 そんなどうでもいいモノローグを脳内で延々放送しながらささっと制服に着替える。

 階段を下りてリビングに入ると姉さんが朝食を作っていた。


「おはよ姉さん。親父と母さんは?」


「おはよう飛雄馬。お父さんは昨日から出張、お母さんはもう出たよ〜」


「そうか」


 言って大きくあくびをする。


「それにしても、今日は珍しく一人で起きられたんだね〜。偉いえらい」


「五月病のせいで嫌な夢を見たから」


「へぇ〜。どんな?」


「……さあ、な。もう、忘れたよ……」


「あー、そっか……」


 そのまま会話が途切れる。

 俺は黙ってイスを引くと背もたれに寄りかかるようにして座った。

 そうすると姉さんが、若干作ったような明るい声で話しかけてきた。


「それはそうと! 飛雄馬、来週校外学習じゃん! どんな服着て行くかお姉ちゃんがコーディネートしてあげよっか」


「は? 校外学習? なんだそれ」


 初耳ですね……。


「年間行事予定表ちゃんと確認してる〜? 来週どこかの山にカレー作りに行くはずだよ。私の時はそーだった」


「それって行く意味あんの……?」


 山に行く理由が見当たらない。ついでにカレーを作る理由も見当たらない。結論、休んでいいですか。


「新しいクラスメイトと親交を深めるのが目的じゃなかったっけ?」


「そんなんで親交なんて深まらないと思うけどな」


「それで、その日は制服じゃなくて私服だから、私が選んであげようかって」


「いやいい。いらん。自分でテキトーに選ぶ」


「も〜。オシャレして女子にモテたいとは思わんのかね〜? 君は」


「思わねえよ。ラノベの主人公を見ろ。あいつらハーレムの中にいるけど殴られたり誤解されたり損な役まわりしたり、ロクな目にあってないじゃん」


 そもそも俺のことを好きになるとかどんだけ特殊な趣味をしてる女子なんだよと思う。

 こんなひねくれ者で面倒臭がりでアニメ好きなザコを好きになる奴がいたら会ってみたい。


「飛雄馬は顔はそこそこカッコイイと思うんだけどなぁ〜」


 姉さんは俺をまじまじと見つめながら言う。


「身内の贔屓目だな。全ての曇りを廃して俺を見たら、多分姉さん家を出てくぞ」


「それはないと思うよ?」


 おお、どんなでも変わらず俺を愛してくれるというのですか。もはや姉さんじゃない。神さんだ。


「私が出てくんじゃなくて出ていかせるから」


「へ、へー……」


 怖いって。

 姉を怖いと思う今日この頃です。

 にしても、校外学習ね……。

 何かに役立つような気がした。



 ***



「「私服でドキッ作戦……?」」


 鈴丘と功刀の声が重なる。

 黒髪セミロングの方は、どういうことか分かっていない様子。

 青髪ポニーテールの方は、こいつ何言ってんだというようなジト目だ。

 まあ確かに俺のネーミングはありえないよね。俺自身も少し引くようなレベルだもん。


「いや作戦名はどうでもいいんだよ。今テキトーにつけただけだから」


「はいはい分かったから。さっさと詳しく話しなさいよ」


 相変わらず偉そうだなぁ……。

 でも甲斐の前ではどもりまくってるところを見るとツンデレみたいなもんだな。ツンデレ亜種討伐作戦。デレさせるか死か。


「じゃあ詳細。どうやら来週、校外学習があるらしい。で、それには私服で行くんだと。これは二次元的には大チャンスだ」


「またライトノベルの知識?」


「武藤君……」


 呆れるのを通り越して若干引かれた。

 だが大丈夫。この前とは違い今回の案は女子の共感を得られるはずだ。


「待て待て。よくあるだろ。普段は制服しか見てないから、稀に見る私服姿に目を奪われる、みたいなの」


「あー」


 鈴丘がなるほどというように手を打つ。

 よし、手応え良好。


「でも武藤、当日はみんな私服なんだから目立たなくない?」


「なるほど」


 確かにそうだった。周りが私服だと霞むかもしれないな。

 甲斐が功刀に少しでも好意を持っているのであれば期待できるかもしない。しかし現時点ではそういう状態かはよく分からない。つまり、俺の作戦の有効性が疑われると。

 ぐぬぬぬ……。なんとか言いくるめたい……。はっ。


「その中でも輝く努力をするんだ」


「は? 輝く……?」


「それって目立つってことかな?」


「その通り。私服だらけの中で目立たないで甲斐を落とせるわけがないからな」


 何を隠そう甲斐はモテる。あそこだけ二次元空間なんじゃないのというくらいモテる。集団の中で目立つくらいしないと、振り向いてはくれないと考えなければならない。


「まあ早い話、校外学習当日の服装は本気を出せってことだよ。いや本気じゃダメだな。今までの自分を超えろ」


「無茶言わないでよ」


「無茶だとか言ってるうちはダメだぞ」


 ムッと功刀は口をつぐむ。

 そして少し考えるようにしたあと。


「分かったわよ……」


 と言った。

 これでよし。成功していい感じになれば一気に目的達成もあり得る。


「じゃあ功刀さんは甲斐君と同じ班の方がいいよね」


「そうだな」


 同じ班なら一緒に行動することも多い。嫌でも目に付くし話す機会もあるだろう。


「班決めっていつだっけ?」


「俺は把握してない。校外学習のことも姉さんに教えられたくらいだし」


「武藤君……」


「なんでそんな残念なものを見るような目するんだよ」


「予定くらいは把握してなさいってことでしょ。ダメ人間」


「お前はなんでそんなに毒舌なんだよ。あとダメ人間って言うな。俺わりとしっかりしてるからな? やる時はやる男だからな?」


「自分で言うことじゃないわよ」


「で、でもそれは本当だよね! 功刀さんの恋愛相談もちゃんと聞いてるし」


 鈴丘のフォローに感謝。

 けどな、やる時はやるってやらない時はやらないって事でもあるんだぞ。そしてやる時なんてそんなにないから、実際は何もやらない奴ってことだぞ。つまり功刀の言ってることは概ね正しい。

 若干の危機感を感じた。


「まあ班決めはいつでもいいや。甲斐を功刀と同じ班にするのは俺がなんとかする。俺ら全員も同じ班になるだろうけど別にいいよな」


 校外学習がちょっとしたイベントな以上、ここで女子の二人に甲斐と話させるのは得策じゃない。戦争が起こる。俺が行くしかないだろう。


「うん、お願いね、あ、でも五人班らしいからもう一人どうしようか」


「あー。一応アテはあるから、そっちもなんとかするわ」


「え? 武藤、友達とかいたの?」


 失礼だなお前。

 一応いないことはないんだよ。幼馴染もいるしな。 男だけど。


「武藤君、本読み終わった後とか西倉にしくら君と話してるよ」


「えぇ!? 意外! 武藤って絶対隅っこでじっとしてるだけの蛆虫だと思ってた。……ところで西倉って誰?」



 知らないのかよ……。つーか蛆虫って……。何で俺はこいつにそこまで言われにゃならんのだ。

 それはそれとして、まあこいつ、自分の興味のある男以外にはまるで無関心そうだしな。俺の名前もうろ覚えっぽかったし。


「あれだ。うるさいバカで妙にテンションの高いバカだ」


「とりあえずバカってことは分かったわ」


「二人ともダメだよー。西倉君にもちゃんといいところはあるよ。例えば……」


「例えばなんだよ?」


「えっと……」


「えっと?」


「……と、とにかくいいところはあるよ!」


 思いつかなかったらしい。

 究極観察眼アルティメットオブザービングアイの鈴丘をしてこれとは相当だぞ、西倉。


「まあ西倉のことはどうでもいいや。とりあえず任せてくれ」


 そう言うと功刀はキッと睨み。


「失敗したら許さないわよ」


 だから、なんで偉そうなんだよ。



 ***



 翌日。

 四時間目のHRの時間。

 ルーム長が、好きな人と班を組んで下さいと言った瞬間に俺は動いた。

 目指すは甲斐。コミュ力の高いヤツは男子にも人気者だ。もたついていると遅れをとってしまう。故に素早い行動が求められるのだ。

 足早に向かえばそこまで十秒もかからない。

 甲斐のすぐそばまで行くと、俺は昨日から何回もシミュレートしたセリフを言う。


「甲斐、一緒の班にならないか?」


「えっ?」


 甲斐は俺を確認すると素っ頓狂な声を上げる。まあ気持ちは分かる。


「う、うーんと、俺他の人と同じ班になろうかなと思って」


「それって仲のいい奴か?」


「うん、まあね。部活が同じなんだ」


 ということは朝練から帰ってくるとき喋ってる奴らか。確かに仲は良さそうだ。

 だが俺はそこにつけ込む。


「けどこの校外学習って新しいクラスメイトとの親交を深めるって目的があるぞ? 仲の良い奴らと組むのはちょっとまずくないか?」


「あぁー……えぇっと……」


「それなら俺と同じ班になった方がいいと思うんだが」


 実際は仲良い者同士で組んだりもしているんだろうが。だが真っ正面から本来のルールを言えば、どうでもいいよとは言えまい。俺は言えるが。

 甲斐は少し考えるように間を作った。


「俺じゃなくても武藤くんが新しく同じクラスになった人っているでしょ? なのに何で俺なのかなぁ……と」


 きた、この質問。この質問が引き出せればもう勝ったも同然だ。


「俺がお前と仲良くなりたいと思ったからなだけだけど。ダメか?」


「………………」


 こう言われてしまえば誰も悪い気はしないはずだ。そして、ここで断ったら相手に悪いという感覚が自動的に働く。

 案の定甲斐は諦めたように少しだけ笑顔を崩した。


「うん、じゃあ一緒の班になろうか」


 勝利。柄にもなく少し緊張してしまった。

 あとは西倉を引っ張って来れば任務達成だな。

 えーと、西倉、西倉、西バカ……。あぁ、いたいた。


「あいつも一緒の班に入れたいんだけどいいか?」


「あー、西倉君か。別にいいよ」


 許可をもらうや否や俺は西倉の元へ急ぐ。まあ許可をもらえなくても言いくるめるシミュレートはして来たんだが。

 西倉には背後から接近した。

 肩を叩いて気がつかせる代わりに軽く脳天をチョップする。


「うおぉうっ!? なんだ武藤か。どうしたんだよ? あれか!俺と同じ班になりたいのか!? いやー、確かにお前ぼっちだもんなぁ! クラスで話せる奴、俺しかいないもんなぁ! そうかー同じ班になりたいかー。どうしよっかなー」


 …うるせぇ……。…ウザい……。

 それに俺はぼっちじゃない。読書家なだけなんだ。ラノベか漫画しか読まないけど。

 西倉はウザいが頼んでるのが俺な以上、強引に済ますのは気が引ける。しばらく調子を合わせることにしよう。


「そこをなんとかしてくれくれないか?西倉」


「うーん、どうしよっかなー。どうしよっかなー」


「頼むよ」


「そうだなー。どうしよっかなー」


 イラッ。

 ほんの数秒言葉を交わしただけなのに腹が立った。マジでなんなんだこいつ。

 今もしきりに、「どうしよっかなー」と繰り返している。マジでなんなんだこいつ。


「じゃあこうしよう! 今度何かおごってくれたら……」


「調子乗るんじゃねぇよ」


 ちょっと拳を握って前に突き出そうかなと思った。俺の鉄の理性が踏みとどまらせたが。


「わ、分かったって。悪かったって。同じ班な! 了解了解!」


 西倉は焦ったように了承した。

 あれか。俺から殺気とか出てたのか?それはごめんね。反省はしないけど。


「おう、じゃあそういうことで」


 とにかくこれで作戦達成だ。

 あとは鈴丘と功刀を仲間に加えておしまいだ。

 西倉を連れて甲斐の元へ戻ると、疑問を投げかけるような目で見られた。


「仲のいい奴と同じ班はダメなんじゃないの?」


「は?」


「いや、さっき西倉君と結構親しそうに話してたと思ったから」


「そうか?」


 とてもそうとは思えないのだが。

 どうでもいい相手だからわりとテキトーに話して、最後には殺気で片を付けたようなもんだし。しかしそう見えてしまったか。


「うん。気の置けないような感じがした」


「それは、どうでもいい相手だからテキトーだっただけだ」


「どうでもいいのに仲良くなりたいの?」


「あー……」


 軽くボロを出してしまったか?

 だが俺のスルースキルをなめてはいけない。教師相手にも度々使ってるんだ。


「どうでもいいから、こそだよ」


「は?」


 これぞ必殺技。『意味深な言い回しはうやむやにしてくれる』だ。

 言うと俺は甲斐の返事を聞かずに鈴丘たちの元へ向かった。

 甲斐としては煮え切らないだろうが、我慢していただこう。それにどうでもいい相手という意味なら、甲斐も西倉と同レベルだ。



 ***



 こうして校外学習の班は決まった。

 任務を達成した俺は、功刀に初めてお褒めの言葉を賜った。「よくやったわ! アンタ割と役に立つわね!」とのことだ。全然嬉しくなかった。あいつは教師に向いてない。

 まあ当日できる限りのサポートはするものの、頑張るのは功刀だ。

 うまくいけばいいが……。

 早く、解放されたい……!

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