40 文化祭準備におけるひと時の休息 【上】
西倉という邪魔は入ったものの、垂れ幕は無事完成。なんとか締め切りまでに提出する事ができた。
唯一台本だけはアレだが、片山が信じて待とうと言った手前、どうしようもない。
まあどうしようもあったところで、俺がどうにかしようとは思わない。面倒臭いし。
さてそんな折、一通のメールが届いた。
差出人は常盤紫苑。
一体なんだと思いつつ開いてみると、以下のようなことが書いてあった。
本文:明後日、ピアノのコンクールがあるんだけど、お前来いよ。というか鈴丘さんも誘って来てくれ。
率直な感想を言おう。
なんでやねん。
これ確実に二文目が本当に伝えたい事じゃねーか。別に俺なんていなくてもいいやつじゃねえか。だったらなんで俺にメールよこした。鈴丘に直接送れ。お前あいつのメアド知ってるだろうが。
という旨をほとんどそのまま書いて返信すると、しばらくしてから再びiPhoneが振動する。
本文:それができたら苦労してないよ!
いやだからなんでやねん。
このままではらちが明かないと瞬間的に察知した俺は、迷わず紫苑に電話をかけた。
『もしもし』
つい先刻までメールのやり取りをしていたからかワンコールで出た紫苑は、何のひねりもなく開口一番にそう言った。
「もしもし。で、どういうことだよ?」
『どうもこうも、そのままの意味だって。できたら苦労してない』
「いや、お前どうやったか知らんけどメアドと電話番号は聞き出したんだろ。だったら見に来てって言うくらい……」
『それができないんだって! 飛雄馬だってクラスのLINEとかで連絡先知ってても、女子にどこか行こうって誘わないだろ!』
「そりゃ俺はどこか行こうとはしないし、どこか行くにしても一人かもしくは姉さんとだからな」
そもそもの前提条件としてありえないことになる。
『ま、まあそれは置いといて。それに俺が電話番号とメアド教えてもらったのはちょっとした技を使ったから、結構自然にいけたんだけど、コンクール来てってのは自然じゃないじゃん』
「知らねーよ。つーかなんだよその技って」
相手の心の中でも読む能力に目覚めたのかと思い尋ねると、紫苑は渋々といった様子で、
『ケータイ無くしたフリして、「ちょっと探したいから電話かけてくれない?」って言った。で、「ついでにメアドも交換しちゃおうよ」みたいな』
「うっわ」
なんかどっかで聞いたことある手段だなぁ。
なんとなく意図は察しつつも、気を使って何も言わない鈴丘の表情が目に浮かぶようだ。
『だからストレートに俺から言うのはなんかちょっと……』
「そこで俺を使うか……。でもいいのかよ? そしたら当日俺も行かないといけなくなるぞ。それとも当日はなんか理由つけて帰るかなんかするか? つーか帰るか」
『? いや、お前も見てけよ。俺の勇姿』
「うん?」
ちょっと理解できなくて数秒の沈黙が流れた。
「確認するが、お前は俺がいなくても構わないのでは」
『えー、俺と飛雄馬と鈴丘さんの三人で行こうぜー』
「いやだから、それだと二人きりにはなれないだろよ」
『それでもよくない? 誘う方法としては自然だし』
確かに、紫苑のコンクール行くから、お前も一応知り合いだし一緒に行こうぜ、とする方が、紫苑が直接鈴丘だけを誘うより自然だ。自然さ、という部分のみに重点を置くのであれば、一番の手だろう。
だけどそれでいいのか紫苑よ。
ここは多少察せられてしまうことを承知で一対一に持ってくところじゃないのか。そもそもあの鈴丘相手では隠し事なんて出来るわけがないのだし。
過去二回の恋愛相談の経験が火を噴き超速で思考する。さながらチェスをするように。
でもどう転ぼうが、鈴丘は紫苑に対して気を使うだけだと思うんだよなぁ。
「はあ、分かった。俺から誘っとく。仮に断られても知らんからな」
『おう、ありがと。助かるわ。断られたらお前と二人でもいいし』
「俺はどっちにしろ外出させられんのな」
通話を切ると、俺はすぐさま行動に移った。面倒臭いことは早めに済ますに限る。
ピアノコンクールを見に行けば文化祭準備を休んでしまうことになるが、まあいいだろう。今現在でできることはあらかた片付けてある。だから台本が出来上がるまで暇といえば暇だ。
サボる形になってしまうことに欠片ほどの罪悪感を感じながら、俺はiPhoneからLINEを開く。
一週間ほど前から一切開いていない、鈴丘とのトークルームへ飛んで、コンクールの旨を伝えようとした。
…………。
……なんて書けばいいのだ?
身内以外の女性に自分から話しかけたこと、そしてメールの類を送ったことのない俺は硬直した。
世のリア充はいとも簡単に女子に話しかけたりしてるが、あれは一体どうやっているんだ。
世のリア充はことあるごとに女子にメールを送ったりしてるが、あれは一体どうやってるんだ。
つーかリア充ってホントに俺らと同じ人間なのか。言語野とふてぶてしさが異常に発達した近未来型人類。すなわちミライノニンゲンなんじゃないのか。
そんないくつもの疑問が頭を駆け巡り、嵐のように波乱を巻き起こし、なんか五つくらいの勢力に別れた。そして始まるのは戦争。
魔法が放たれ、弾かれ、剣で斬り合い、血が跳ねる。
やがてそれらの勢力は疲弊し、不戦勝で唯一神の座が決まるーー。
それ、どこのノーゲー○ノーライフ
早い話どう書いたものか分からなくてテンパってた。
落ち着け武藤飛雄馬。これは仕事だ。極めて事務的に送れば多分いい感じにまとまる。
取り急ぎ『明後日って暇か?』と送る。
既読がついた。
はええよ。
しかし既読がつくのは早かったのに、今度は返信までやけに間が空く。超長考してるのか、もしくは無視か。俺が前にやったことを実践してるのか。
その可能性は、高くないけどありえるなぁ。
ちょっとビビってると変な音とともにメッセージが表示される。
鈴丘「暇だよ!」
なんでエクスクラメーションマークつけてるんだこいつ。
まあどうでもいい。暇ということは分かった。もう断れまい。
……そもそも鈴丘は断らなそうだけど。
そんなことを考えながら、紫苑のコンクールがあってそれに一緒に行かないか、という旨を伝える。
今度も返信までにやけに時間がかかった。
鈴丘「うん、行く」
なんかこいつテンション下がってない? 具体的に指し示すのであれば、エクスクラメーションマークがなくなったところが。
まあいい。
俺は待ち合わせ場所と時間については追って知らせるとだけ送った。
また一つ、外出しなければならない理由ができてしまった……。
***
当日は超いい天気でした。
夏に入ってから晴れ以外を見た記憶がない。太陽がピンポイントで吸血鬼の血を引く者を殺しにかかってるようだ。灰になるぞマジで。
そんな中俺は、一応吸血鬼の血は引いていないのでなんとか生きながらえていた。
いつも通り蝉にガンを飛ばし、太陽は直視できないので恨まれ愚痴を叩いて。
待ち合わせ場所は俺の家の近く。というか真ん前。
全員家が近いためこうなったのだ。
時刻は九時二十分。夏休みで生活リズムが崩れまくってる俺にとっては少しキツイ時間帯だ。堪らずあくびを一つ。
つーか、あいつらが来るのを見計らってから家の外に出ればよかったんじゃねえの、とすでに色々後悔し始めた頃、紫苑がやって来た。
「おはよ。鈴丘さんは?」
「まだだ」
「うーん、ちょっと来るの早かったかな」
「いや、もっと早くてもいいくらいだ。暑さから気を逸らしたい。なんか面白い話しろ」
「無茶な!?」
片山ならなんかやりそうだな、と思いました。
俺がつい先日獲得したクラスメイトの情報を思い出していると、こっちに来る人影が一つ。
セミロングの黒髪を揺らしながら小走りだ。
元々あまり派手な格好をする子ではないが、今日は白を基調にした大人しめな印象を受ける。それがまた似合っている。
「ごめん、遅れちゃった?」
「いや、俺と飛雄馬が早かっただけだよ。久しぶり、鈴丘さん。て言っても二週間くらいだけど」
「うん、久しぶり」
鈴丘、紫苑、双方ともに優しい笑顔。
空気、ラブコメ。
客観的視点より、デートの待ち合わせをしていたカップルにしか見えません。
結論、俺邪魔じゃね……。
「俺帰るわ」
「「なんでっ!?」」
確信からそう宣言すると、ピッタリ息のあったツッコミを入れられた。
「なんですぐ帰ろうとするんだよ飛雄馬! お願いだからお前も来い!」
「そ、そうだよ。帰られると、ちょっとどうしていいか分からないし……」
この二人の様子が、今までに見た何かに一致して見えた。
その正体はすぐに分かる。
あれだ。両想いだけど、まだ二人きりでどこか行くのは恥ずかしい男女だ。
そういう奴らは大抵、というかまず百パー共通の友達、もしくはそれぞれ友人を引き連れて、「お願いだからいてくれ」と懇願するのだ。さらにいえば強制参加まであり得る。
あれは本当に傍迷惑な話だと思う。延々と隣でラブコメシーンを見せられて、自分は何も面白くないのに何時間も付き合うのだ。しかも大体見返りはない。
そう思えば無視して今すぐ後ろの我が家にゲットインしたいところだ。
だが今日は紫苑のコンクールである。二次元的展開には陥らないと考えられる。なったら速攻で帰る。
「まあ、ラノベ読んでればいいし行きはするが」
言いつつ歩き出す。
紫苑も鈴丘もそれに続いてきた。
「で、飛雄馬。今日はどんなラノベ持って来てんの?」
「今日は異世界転生ファンタジーだな。ただしゲームがすべて」
「へえ、どんなの? 見せて」
「あん? まあいいけどよ」
多少面倒ながら今しがた取り出したラノベを一冊渡した。
紫苑はそれを受け取り、描いてあるイラストを見て嘆息を漏らす。
「綺麗なイラストだね。今日持って来てるのってこれだけ?」
「いや、もう一冊。そっちも見るか?」
「うん」
肯定の返事を得る前に俺は動き出した。具体的にはカバンからラノベを取り出しただけだ。
「ほれ」
「おー、こっちもなかなか……」
「そんなにすごいの?」
覗き込む鈴丘。次の瞬間には紫苑と同じように嘆息した。
「独特な感じだね」
「ふ、そうだろう?」
「なんで武藤君が得意げ?」
自分のお気に入りのものが褒められればそりゃ嬉しいに決まってるだろ。
そんな俺の心中を察してか、紫苑はだいぶ長いことラノベ二冊を観察したかと思うと、
「じゃ、没収」
まとめて自分の持ってるカバンに収納した。
「…………は、はめたな」
最初からすべては俺からラノベを没収するためだっただと。なんて外道だ。
「あ、でもイラストが綺麗だってのは本当だから安心して大丈夫だぞ」
「いらねえよそんな微妙な慰め」
かくして俺は会話に強制参加させられることとなった。
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