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番外編5 テスト勉強(上)

「ふぁ……」


 鳴り響く目覚まし時計を止めるとあくびを一つ。

 本日土曜日。いつもなら昼ごろまで惰眠を貪り、アニメを視聴し、ラノベを読むなどしてゴロゴロと過ごす曜日だ。

 しかし今日はそうはいかない。テスト一週間前なのだ。二年一学期期末テストの勉強しなくてはならないのだ。

 休日なのに目覚まし時計をかけていたのも、二度寝をしなかったのもそのためである。起きた時間自体は九時で、早いわけではないが。

 しかし眠い。平日程酷くはないが、二度寝をしてない分、元気百パーセントとはいかない。あくびをかみ殺しながら着替え、階段を降りる。

 確か、親父は仕事で母さんは友達と遊びに行くんだったはずだ。つまり今日は姉さんと家に二人。口うるさい親がいなければ、集中して勉強できることができる。

 リビングに入る。が、いつものように姉さんはいない。俺よりも早起きして部屋で勉強だろう。

 ただ朝食の準備はしておいてくれている。

 勉強の前にすべきことはエネルギー補給だ。精神的エネルギーと思考エネルギー。その二つを得るため、録画しておいたアニメを見ながら朝食を食べる。

 食べ終わった後の食器を洗い、歯を磨いたら準備完了だ。


「さて、勉強するか……」


 今回の範囲の基本や注意するべき事は、一週間前に姉さんに教えを乞うた。今日からはテストに出るような応用をする。

 まあ数学は基本問題だけで七十点近く取れるから応用は必要あるまい。計算に慣れればいい。慣れるまでやるかは別として。

 というわけで暗記系をやりたい。

 中学までは理科は暗記系だったのに、高校に入ったらバリバリの計算系になってしまった。数学Ⅱと数学Bと物理、化学で数学が四科目みたいなものである。どんだけ計算しないといけないんだよ。俺もう計算したくないんだけど。

 現実逃避の意味も込めて世界史と日本史をやろう。あいつら覚えりゃいいだけだから大好き。

 取り急ぎ世界史のノートと教科書を取り出し、シャーペンを構えてスタンバイオーケー。レッツスタディー。

 レッツスタディーングとしたくなるが、レッツのあとは現在形なのでスタディーが正解だ。たぶん。

 そんな思考を挟みつつ、ノートに書いてある単語から、歴史の流れを思い出していく。

 曖昧なところがあればすぐさま教科書で確認。チラシの裏などに単語を書いて覚える。

 そうして三十分ほどが経過した頃だ。ピンポーンとインターホンが鳴った。

 まあ、姉さんに任せればいいだろう。と、思わないでもなかったが、あれでいて受験生の姉さんにテスト勉強を中断させるのは気がひける。


「姉さん、俺が出る」


「んー」


 気の無い返事だ。集中しているらしい。

 しかし面倒臭い。居留守でも使おうかとちょっと考えてしまうが、それは俺が一人で留守番してる時の選択肢だ。

 と、またインターホンが鳴った。

 急いで階段を降り、待たせてはいけないと相手も確認せず玄関扉を開けた。


「おはよう、武藤」


「おはよ、武藤君」


「…………」


 見慣れた顔がそこにはあった。

 鈴丘は水色のブラウスにクリーム色のミニスカートといういでたちで微笑を浮かべている。

 功刀は黒い七部丈のシャツにショートパンツで不機嫌そうな顔を作っていた。

 二人とも肩には手提げ袋をかけている。

 なんか、前にもこんなことあった気がする……。


「な、なによその顔」


 功刀が俺のことなんかちっとも見ずに言う。


「お前らなんでここにいんだよの顔だよ。テスト期間中だろが」


「えっと、それは……」


「うん、だから一緒にテスト勉強しようと思って来たんだよ」


 鈴丘が言葉に詰まった功刀をフォローするように言う。一緒に?


「なんで……?」


「ほら、武藤君私たちより成績いいし、だったら一緒に勉強しようと思って。香さんもいるし」


「勉強って一人でするもんだろ」


「えー、みんなでやった方が教え合えたりして楽しいよ」


「俺は姉さんに教えてもらえるからそのメリットはあってないようなもんだし、なんなら集中しにくいというデメリットが生まれる。あと勉強って別に楽しくない」


「大丈夫だよ」


「何を根拠に……」


 みんなで勉強とかって結局家に遊びに来たお友達になるってスケッ○ダンスで読んだぞ。


「とにかく、あんたの家で勉強ってのはもう決まってるの! つべこべ言わずに中に入れなさい!」


「偉そうだな……」


 ビシッと指を突きつけのたまう功刀。その様はもはや脅迫。少なくとも人の家に上がり込む態度ではない。

 そんなお客さんに対する答えは決まっている。


「お帰りください」


「ちょちょっ、いきなりだったのは私たちが悪いけど、なんとかならないかな? 家族の人には迷惑かけないようにするから……」


 言って扉を閉めようとした俺を鈴丘が制する。こーゆー態度であるならもう少し考えた上で断るんだが。


「いや、迷惑も何も今この瞬間が迷惑……と言うほどでもないけど勉強時間は削られてるな」


 途中、鈴丘にすごく悲しそうな顔をされたせいで思わずオブラートに包んでしまった。女の子の悲しそうな顔の威力は怖い。この俺ですらちょっと心が抉られた。


「もう、あんたは女子と一緒に勉強する甲斐性すらないわけ?」


「うっせ功刀。少なくともそんな態度で家上げてもらおうとしてるお前はおかしい」


「しょうがないでしょ!? これしかできないんだから!」


「開き直った……」


 なんだこいつ。

 なんかだんだん相手するの疲れてきたぞ。さっきから隣の家の人がジロジロ見てくるし。

 しかしどうしたものか。大人しく帰ってほしいんだが。と、ほとほと困り果ててると、背後から階段を下りる音が聞こえてきた。


「飛雄馬、どしたのん? けっこ〜長く話し込んでるけど。押し売り?」


「このご時世に訪問販売ってそんなにないだろ姉さん。しかも昼前から。なんか鈴丘と功刀が勉強しようって来たから丁重におことわりをだな……」


「可憐ちゃんと愛華ちゃん?」


 キランッ☆と姉さんの目が光った。瞬間背筋を走り抜け、ほとばしる嫌な予感。


「い〜よい〜よ。上がってって! 私が勉強教えるから! 今なら飛雄馬もついてくる!」


「ついてこねぇよ? ついてこねぇかんな? 俺絶対御免だかんな?」


「なんでよ、いいじゃん」


「どの辺りがだよ。だいたい姉さん受験生だろ。他人の勉強見てる場合じゃないだろ」


「飛雄馬の勉強は見たんだけど……」


「それは例外だろ」


「ど〜ゆ〜理屈……?」


 理屈も何もそこには必然しかない。姉に勉強を教えてもらえるのは世の弟の専売特許だ。たぶん。


「も〜、ケチケチしないで。一緒に勉強するくらいいいでしょ。人に教えるのも勉強のうちだよ飛雄馬」


 諭すような声音で言われてしまった。しかも言ってる内容は極めて真面目かつ正論。正論すぎて反論の余地がない。


「というわけで、ようこそ可憐ちゃん、愛華ちゃん。飛雄馬が勉強見てくれるってさ」


「え、俺?」


 姉さんが見るって話じゃなかったっけ違かったっけ?

 そんな俺の動揺など露知らず、「お邪魔します」と口々に言いながら鈴丘と功刀と西倉は靴を脱いで家へと……。西倉……?


「おいこらお前なんでナチュラルに上がり込もうとしてんだ。あまりに自然すぎてスルーしそうになったろ。え、ちょっとホントいつからいた? どういうことだ。目を隠す能力か? ミスディレクションか? お前は影なのか?」


 ガシッと襟首をつかんで息もつかずに畳み掛ける。いや、だって、え……? たった今まで存在すら認識できなかったんだけど? 

 西倉は見つかってしまった事を恥じようともせずに、一本取られたとばかりに額をペシッと叩いた。


「これぞ拙者の隠れ蓑術! ニンニンっ……ってちょっ、ごめん今のなし! 本当はこの透明マントで……ってのも嘘です! 振り上げた拳を下ろして! 扉の後ろに隠れてたんです!」


 扉の後ろて。

 確かに日本の玄関扉は外開き。開けている人間から見れば、扉の後ろは死角になる。

 問題は何故こいつが俺の家を知っていて、女子二人と一緒に来ることができたのかだ。

 俺はジト目で、硬直している鈴丘と功刀に視線を送った。


「い、いや、私も今の今まで気がつかなかったわよ!?」


「私と功刀さんは普通に来ただけよ!」


 ふむ。目も泳いでないし真実だろう。ということは、だ。

 俺は女子に向けていた瞳を、今度は襟首を掴まれ猫みたいになってる西倉に向けた。


「……えーと、いい天気だやっほうっ! って外歩いてたら、偶然功刀ちゃん発見したからとりあえず尾行したんだよ。そしたらここに着いた」


「ストーカーじゃない!」


 功刀よ、お前がそれを言うか。

 だが休日に偶然クラスの女子を見つけたから尾行するという西倉の変態性は、功刀のそれよりもはるかに上だ。普通、とりあえず尾行、とはならない。

 こんな変態さんをうちの敷居をまたがせるわけにはいかん。もう靴脱いで上がっちゃってるけど、またがせるわけにはいかん。つまみ出そう。

 と思ってたら姉さんが真逆のことを言い出した。


「あ〜、誰かと思えばこの前のツインテールとポニーテール論争の子じゃん。え〜っと、せっかく来たんだしみんなに勉強教えてもらいなよ」


「ちょっ、姉さん!?」


「ありがたきお言葉! 女神よっ! ぐえふっ!」


 誰にでも平等し接する思いやりに満ちていそうで、その実西倉の成績がこの中で一番低いと決めつける言葉に、当の本人は超喜んで姉さんに飛びつこうとした。無論、俺が押さえつけた。

 確かに西倉の成績は、まず間違いなくこの中で最下位。なんなら学年内でも屈指の悪さだろう。

 しかしこいつを家に上げるなど絶対に嫌だ。理屈とか道理とか倫理とかその他諸々関係ない。ほんとやだ。

 俺は懇願するように姉さんを見るが、スゥーッと目を逸らされてしまう。


「まあ、その子の相手をするのは私じゃなくて飛雄馬だし……」


「それ単に丸投げしてるだけだぞ?」


「だいじょ〜ぶ。私は可憐ちゃんと愛華ちゃんの相手するから」


「西倉一人よりそいつらニ人のほうが何十倍もマシだ」


「それじゃお邪魔しまーす」


「だからなんでお前はサラッとシレッと人様の家に上がり込んでんだっ」


 なんだ。なんなんだこのカオスは。這いよる混沌ニャルラトホテプでも来ちゃったのか。

 くそ、俺の休日が……。勉強時間が……。

 さすがの俺も、姉決定と西倉の勢いはどうにもならない。潔く諦める以外に選択肢はなかった。




 ***



「エロ本捜索開始ぃぃい!」


 俺の部屋に入った刹那、奴が動き出す。

 躊躇なく前蹴りを入れた。


「へぷっ」


 リアルに空気が漏れる声を上げて、西倉は俺のベッドへと吹っ飛んだ。


「んなもんねえ。死ね」


「健全な男子高校生の部屋にエロ本がないわけないだろ! だいたいそーやって必死こいて止める時点で怪しい! 俺は探すかんな!」


「探すな。それで散らかった部屋片付けんの誰だと思ってんだ。勉強するっつってんだろ」


「……そうか。今や電子機器はめちゃんこ発達してるんだし、本じゃなくて画面でもいいわけだよな……」


「…………」


「いだいいだいいだいいだい! やめてっ! いだいっ!」


 無言で俺の渾身のアイアンクローが炸裂。西倉は悶絶し始めた。これでしばらくは大人しいだろう。マジ死ね。

 そうやってバカみたいにじゃれ合う男子を尻目に、「おじゃましまーす」と控えめに断りを入れながら女子二人プラス姉が入ってきた。まあ姉さんだけは断りとか入れないけど。


「そだね〜。前に飛雄馬の部屋の怪しいところを頑張って探してみたけど、それらしいものは出てこなかったな〜」


 姉さん、たった今西倉を封じたというのにまだその話を掘り起こすか。つーか俺の知らないところでそんなことしてたのかよ。良かった。持ってなくて。

 鈴丘と功刀はそんな下世話な会話が耐えられないのか、頬を赤らめながら俺の部屋を見渡している。


「わー、すっごいたくさん本あるねー」


 鈴丘が目をつけたのは俺の本棚。

 縦八段に及ぶそれは、厚さにもよるが、一段に二十六冊ほど収納できる。それが二つ並んでいる。

 二段と少しが空いているものの、我ながらかなりの蔵書数だと自負しているのだ。ラノベと漫画ばっかだけど。


「けど姉さんの部屋の本棚もかなりのもんだぞ。俺のよりもあるんじゃねぇの?」


「えっ!? 本当に!?」


「う〜ん。どうだろ。私の部屋には一冊千ページ越えのラノベとかあるからね〜。厚さだけなら勝ってるかもしれないけど、冊数だけなら飛雄馬の方が多いんじゃない?」


「あー、あれな。そこらの辞書より分厚いやつな。ラノベとはいえ読む気がものすごい勢いで減退してくやつな」


 実際、買ってきてから読み終わるのにかなり時間を要してしまった。あれはきつい。せめて二冊に分けてくれ。


「……結構片付いてるのね」


「そこは姉さんがやってるからな」


「アンタさっき受験生だからどうのって言ってたじゃない……」


「完全なる矛盾だね……」


「まあ私、掃除好きだからいいんだけどね〜」


 たった今まで頭を押さえて身悶えてた生物Aが、「俺の部屋も掃除してほしいですぅ!」 とか言ってたが無視する。


「そんなことより、お前ら勉強しに来たんじゃないのか。ダラダラしてる時間ないぞ。一週間後だぞ」


「あっ、そうだった」


「はい飛雄馬、ちゃぶ台」


「おう」


 姉さんが俺に手渡したのはちゃぶ台、というよりもただのちっこいテーブルだ。膝ぐらいの高さで、広さは学校の机四つ分くらい。この人数で勉強するには十分な広さだろう。

 取り急ぎそれを広げて、俺の部屋の一番広そうなところに置いた。

 そんな中、西倉がむくりと起き上がる。


「おん? 机広げてなにやんの? 遊○王?」


「やんねえよ。何聞いてたんだ。勉強するんだよ」


「なっ! お前本気だったのか!?」


「は……?」


 こいつは一体何言ってんだ。


「人の家に勉強しにきたやつは、結局遊びに来たお友達になるってスケ○トダンスで言ってただろ! てっきり勉強するする言いながら、遊ぶもんだと思ってた!」


「ふん。俺がいるからにはそんな体たらくには絶対させないからな。勉強するからな。お前らは別に遊んでてもいいけど俺の邪魔だけはすんなよ」


「あれっ、武藤君もしかして一人で勉強するつもり!?」


「お、教えてくれるんじゃなかったの!?」


 鈴丘と功刀による驚愕に満ちた叫びが俺の部屋に響き渡る。その後方で、やっぱりと頷く姉さんが、二人に助け舟を出した。


「だいじょ〜ぶ。西倉君? の面倒は飛雄馬が見るから」


 訂正。二人には出してなかった。なんなら誰に向かっての助け舟でもなかった。俺に全てを丸投げしただけだった。


「姉さん勉強教える宣言さっきしてただろ」


「私にも限界はあるんだよ」


「自分で限界を決めるなって体育会系のやつは言うぞ」


「そんなのどうでもいいから、早く勉強しましょうよ!」


「功刀さん……教えてもらう側の態度じゃないよ」


「ルールを守って、楽しく決闘(デュエル)!」


 カオスだ……。俺の部屋が嫌に混沌としている。何一つ噛み合ってない。

 そんなグダグダな状況で、勉強会は始まった。

テストがなくなればみんなしあわせ。シワとシワを合わせるレベルでしあわせ。

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