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番外編4 彼女たちの尾行

この話は「23尾行」の日の彼女達視点のお話です。

 木城高校のほど近くにある駅。

 生徒の多くが電車通いのため、ここは下校時刻になると連日学生で溢れかえる。

 と言っても波はある。

 例えば帰りのHRが終わったらすぐ学校を出た場合。

 ものすごい先頭にいれば、必然的に人混みは回避できる。

 あとは帰りのHRが終わってもすぐには学校を出ないで、しばらく教室に残ったりした場合。

 ほとんどの生徒は帰ってしまったので、木城高校の生徒が駅に溢れることは少なくなる。

 けどこっちの場合は、部活帰りの人ラッシュにぶつかったり、他校の学生の帰宅ラッシュにぶつかったりするため、ちょっとリスクがある。

 たぶん武藤君もそれを考えて、あんなに早く教室を出てるんだろうなぁ。功刀さんの服選びに行った時、人混みがすっごく嫌そうだったし。今日も一番早くに教室を出てった。

 ただすっごく嫌そうな顔をしてたけど。直前にiPhoneを確認してたから、それが何か関係があるのかな。

 そんなわけで今私は、友達の功刀さんと一緒に学校近くの駅前にいた。

 私も功刀さんも、特に人混みが嫌いというわけじゃないから、帰るにしても学校を出る時間は結構中途半端になる。

 だから今の駅前はそこそこ混雑してて、この中から誰かを探せなんて言われたら相当難しいと思う。けど人混みの中の彼の姿は、何故だか簡単に見つけられた。

 武藤君は、スルリスルリと人を躱わしながら歩いて行く。その先にはデパートがあった。

 あれ? あそこのデパート、別にアニメ関係の何かがあるわけじゃないのにな……。本屋はあるけど、武藤君ならアニ○イトに行くだろうし。何か違うものでも買うのかな。文房具とか。

 ……い、いやいやいやいや! 重要なのはそんなことじゃなくて!


 武藤君が、女の子と一緒に歩いてる……!


 最近よく見かける茶髪でショートカットのアホ毛がチャーミングな女の子だ。可愛い子だ。

 そんな子と、武藤君が、放課後に、一緒に、二人きりで、歩いてる。しかも、向かう先は、デパート。

 え……もしかして……もしかしてそういう関係なの……? 武藤君はひたすら知らないフリしてたけど。すごく嫌そうにしてたけど、そういうこと?

 頭の中が真っ白になって、ぐちゃぐちゃになる。自分でも激しく動揺するのが分かる。

 そんな時、突然肩が揺さぶられた。


「鈴丘さん? どうしたの? いきなり立ち止まって」


「へっ?」


 功刀さんが怪訝そうに私を見ていた。


「えっとね。今武藤君を見つけたんだけど……」


「武藤? どこよ?」


「ほら、あそこ。デパートに向かって歩いてる」


「デパートに向かって……?」


 呟き、私の指差す方向を凝視する功刀さん。そうして武藤君と、茶髪の女の子を視界に収めた瞬間、その目がスゥーッと半眼になった。気のせいかハイライトも消えてる。

 ちょっと怖い顔だ。そう例えるなら、刑事物の殺人事件の犯人で、動機は愛情のもつれ、みたいな……。

 と思ってたら、功刀さんはボソッと低い声で言った。


「鈴丘さん。追いかけましょうか」


「えっ!?」


 それってストーカーの勧誘だよね!?


「や、やめておこうよ。ストーカーはだめだって」


「失礼ね! ストーカーじゃないわよ。ちょっと跡をつけるだけ」


「それをストーカーって言うんだよぉ……」


「違うわよ。鈴丘さんだってこの間、尾行シーンのロマンを語ってたじゃない」


 尾行……?

 尾行。尾行ね。

 ……尾行なら、仕方ないよね。


「分かった。行こう!」


「行きましょう!」


「私はあんパンと牛乳買ってくるね!」


「それは買ってこなくていいわよ!?」


 こうして、私と功刀さんによるストーカー……じゃなくて尾行が始まった、



 ***



 走って追いかけデパートの入り口をくぐると十メートルほど先に武藤君と例の少女が見えた。

 案内表を見て何かを話してる。何話してるんだろう……。


「イチャイチャしてんじゃないわよ……!」


 と、隣からすっごくドス黒い声が聞こえた。

 恐る恐る視線を横にスライドさせる。


「あのー、功刀さん。あれはイチャイチャしてないと思うよ……?」


 武藤君すら超える黒いオーラを噴出した功刀さんは、明らかな殺意を込めてアホ毛の子を見てた。ていうか獲物を見つけた女豹とか雌ライオンとかの目だった。


「えぇ、イチャイチャというレベルでは収まらないわね」


「うん。ただ話してるだけだから。落ち着こうよ功刀さん」


 すると彼女はハッとして黒いオーラを止めた。


「ごめん。確かに落ち着かないとダメよね」


「う、うん」


 情緒不安定すぎるよ功刀さん……。

 と、武藤君たちがエスカレーターに乗った。


「追いかけましょうか」


「そだね」


 武藤君たちから十分に距離をとってエスカレーターに乗る。

 見つからないように最大限の注意をはらいながら追いかける。

 そんな時、ふと思った。

 どうして功刀さんは、武藤君と女の子が一緒にいるのを見て、あんなに情緒不安定になったのか。

 やっぱり甲斐君とのことがトラウマになっちゃってるのかな……。

 それでカップルとかに過剰に反応してしまうなら分からなくはない。

 そういう話は、できる限り避けないとだね。

 私は人知れず心に決めた。


 武藤君たちがエスカレーターを降りたのは、本屋のある階。

 二人はキョロキョロと何かを探すように首を動かす。本を探してるっていうより、何か別のもの。例えば人を探してるようにも見える。

 どんどん歩いていく武藤君たちを、私と功刀さんも本棚の陰に隠れたりして追いかける。

 その様子を見た店員さんに不思議そうな顔をされてしまったので、軽く会釈だけしといた。


「いませんねー」


 女の子が、本屋なのに結構大きい声で言った。

 それに答える武藤君。だけどそれは周りに配慮してか、小さくて私たちのいるところからは聞こえない。

 女の子の方も、最初の一言以降ボリュームを抑えてしまって、結局何を話してるのかは全く分からなかった。

 けど、


「『いませんね』って、誰かを探してるってことよね?」


「たぶんそうだよね」


 一体彼らは誰を探してるんだろう。少なくとも店員さんじゃないだろうけど……。


「『俺の財宝か? 欲しけりゃくれてやる。探せ! この世の全てをそこに置いてきた!』」


「っ!」


「んっ!?」


 いきなり後ろからそんな事を(小声)言われた。驚いて悲鳴を上げそうになった私と功刀さんの口を、その人は手を一つずつ使って塞いだ。


「黙れと言っているだろうに……」


 今度はすごいいい声で言われた。なにこれ!? 意味わかんない! ていうか誰!?

 ジタバタと暴れる私たちは、しかし放たれた次の言葉ですっかり静かになった。


「な〜んつって☆だめだよ〜? 尾行の途中に大声出しちゃ。ましてやここ本屋なんだから」


 楽しげに告げられ、その瞬間から口の拘束が外れる。

 慌てて振り返ると、この世の全てに楽しみを見出していそうな、底抜けに明るい笑顔がある。

 武藤君のお姉さんの(かおり)さんだ。


「ごめんね〜。驚かそうとは思わなかったんだけど。誰を探してるんだろうってフレーズ聞いて、急にパロディしたくなっちゃって」


「いや、それはいいですけど……。どうして香さんがここに?」


「尾行に決まってるじゃない!」


「ですよね……」


 ゲームしてる時の子供と同じ顔してますもん。


「どっ、どどどどどうも! ご無沙汰しておりますゆえに!?」


 たどたどしく放たれた声は功刀さんのだ。頭真っ白って状態が外にまで出てた。


「こっ、これはですね? 決してストーカー的なことじゃありませんでして……」


 どうやら武藤君のお姉さんにストーカーがバレたのが原因らしい。あ、ストーカーじゃなくて! 尾行だよ!


「功刀さん落ち着いて。香さんも尾行してるらしいから」


「へっ?」


 数秒固まる功刀さん。ギリギリと音が鳴りそうな感じで首を動かし香さんを見る。そして元気よく、満面の笑みで頷く香さん。功刀さんは一瞬で緊張を解いた。


「それはそうと、尾行中に対象から目を逸らしたらダメだよ〜?」


「あっ、はい」


 忘れてた。

 私たち三人は再び武藤君たちの動向を観察する。


挿絵(By みてみん)


 武藤君がしばらくジーっとライトノベルの陳列棚を凝視して、女の子がプリプリ怒りながら何かを言ってる。まあ、あんまり本気で怒ってるようには見えないけど。外が熱くて芯は冷たいみたいな。

 しばらくそうやって話し込んでから、彼らはこの場から去ろうとした。

 刹那。


「隠れてっ!」


 小声で言われると同時に襟首を引っ張られた。

 それに特に抵抗できず、私と功刀さんは本棚の陰に入る。

 その寸前、武藤君が不意に振り返ってこっちを探るように見回しているのが写った。


「危なかったね〜。ちょっと隠れるの遅れてたら見つかってたよ」


「そ、そうですね」


「ていうかなんで分かったの……ですか?」


 功刀さんの疑問も最もだ。だって何の予備動作もなかったし。すごく自然に振り向いてたもん。

 香さんはやはり楽しそうに笑って言った。


「僕には未来(さき)が全て見えている。それを変えるなど、容易いことだ」


「そうなのっ!?」と功刀さんがちょっと食いついたのはまた別の話。


 ***



 次にやってきたのはおもちゃ売り場だ。

 金曜日放課後といっても平日。休みの日みたいに人で溢れかえってたりはしない。

 そんな中、私たちは物陰から武藤君たちを観察する。


「ママー。なんか変なお姉ちゃんたちがいるよー」


「シッ! みちゃダメよ!」


 という会話が聞こえて心が折れそうになったけど。

 二人はやっぱり辺りをキョロキョロと見回している。武藤君も女の子も、あまり本気度が感じられなかったけど、誰かを探してるのに違いはないらしい。


「香さん。武藤君が誰を探してるのか分かりますか?」


「この世の全て?」


「いや、さっきのパロディ? はもういいですから……」


「そだね〜。分からないな〜。そもそも飛雄馬が放課後に女の子と二人きりでいること自体がかなり珍しいからね。てゆーか初めてじゃないかな?」


「武藤の……初めて……」


「愛華ちゃ〜ん。それラノベとかだと誤解されるフレーズだからね〜?」


 は、初めて……。そういう意味じゃないけど、初めて……。

 それじゃあやっぱりあの二人は……。

 と不安にはなるものの、観察した限りじゃ全然そんな雰囲気はない。

 最初の方は動揺してたからか細かい事まで気がつかなかったけど、今は落ち着いてる。二人には、いわゆる付き合ってる男女の空気は感じられない。

 武藤君は相変わらず乗り気じゃなさそうだし。それに女の子の方も、表面は取り繕ってるけどちょっと面倒臭そうというか。なんか無理して笑ってるように見えた。

 それはそれで健気で可愛い子だなぁとも思うんだけど。

 ……あれ。だったら私ピンチじゃない? 武藤君と可愛い子が二人きりって絶対ピンチだよ! どうしよう……。


「鈴丘さん、また移動するわよ」


 またぞろ動揺し始めた私に声がかけられた。

 功刀さんがちょいちょいと私の肩をつついてる。


「うん」


 エスカレーターに向かって動き出した武藤君たちを追いかけて私たちも歩き始める。

 歩き始めたんだけど武藤君たちが急に立ち止まって一点を見つめた。


「どうしたんだろ〜ね」


 香さんがさも不思議そうに言う。

 私も怪訝に思って、彼らの視線の先を追ってみた。

 そこにあるのは最近有名な妖怪○ォッチのコーナー。

 かなり人気と見えて、そこまで人がいないこの階においても、小さな人だかりが出来上がるくらいには混み合ってる。

 人だかりは、中心が大きく開いていた。

 お店でたまに見かける液晶画面には妖怪○ォッチのアニメの音楽と映像が流れてる。

 その真正面には武藤君と同じ制服を着たクラスメイトが一人。ちっちゃい子でもこんなに全力では踊らないくらいフルパワーで踊ってた。


「西倉君……」


「あのオタク……」


「あ〜、この前のポニーテールとツインテールの子だ〜……」


 私が、功刀さんが、香さんすらもが。

 呆れて、引いて、視線から温度が消えるのを禁じられなかった。


「あ、あれだよ! えーと……す、ストレスが溜まってるとか……」


「可憐ちゃ〜ん。それだいぶ苦しいフォローだよ」


「ストレス溜まってるにしても度がすぎてるわよ」


「ですよね……」


 私も言っててちょっと無理あるなって思ったもん。

 仮にストレス溜まってるならせめて、家で踊ろ……? 西倉君。デパートじゃなくてさ。

 私たちは気がつかれないようにその場から離脱した。

 よかった。見つからなくて。ていうか話しかけられなくて。



 ***



 おもちゃ売り場で猛威を振るってた西倉君から逃げて訪れたのは服売り場。そこでも二人は人を探してるようだった。

 服売り場は当然メンズとレディースで分けられている。彼らがいるのはメンズ。つまりーー


「探してるのは男の子、かな……」


「え、男の娘?」


「あの、香さん、字が違います。てゆーか男の娘ってなんですか」


「平たく言うと〜、オカマ」


「え、武藤たちオカマ探してるの!?」


「功刀さーん。今のは香さんがふざけただけだよー」


 功刀さん。いちいち香さんの言ったことを間に受けすぎだって。素直でいい子なだけなんだけど。

 ていうか今私の刑事のごとき名推理が完全にスルーされなかった? 別に気にはしないけど、ちょっと残念。


「で、男子を探してるとして、あいつが探しそうなのに誰がいるかしら」


 顎に指を当てて考え込む功刀さん。でもたぶんあの顔、何も分かってない。素直だとちょっと推理は苦手だよね。

 ここは私が! と考えるも、やっぱり誰かは分からない。そもそも武藤君の事、たくさん知ってるわけじゃないし。一番知ってるはずの香さんが分からない時点で私たちに分かるはずがない。

 ーーと


「隠れてっ!」


 再び小声で言われ襟首が引っ張られる。

 確かに見つかるのは嫌ですけど、そんな引っ張ったら伸びちゃいますって。

 そう思った刹那、武藤君たちのいた場所からパタパタと心なしか急ぎ気味の足音が聞こえてきた。


「もしかして、見つかっちゃった?」


「ど、どうしますか、武藤のお姉さん!」


「だいじょ〜ぶ。多分見つかってないから。こっち来て」


 私と功刀さんは香さんの手招きする方へ。シャツがたくさん掛けられてるその陰に逃げ込んだ。

 遅れて、ついさっきまで私たちのいた場所のすぐ前を、武藤君と例の女の子が早歩きで過ぎ去った。あそこから動かなければ、たぶん見つかってた。

 今更だけど、香さん、尾行慣れしてない? 

 そんな疑惑の色が視線に入ってしまったのか、香さんは照れ臭そうに後頭部をかいた。


「いや〜、小さい頃やった潜入ごっこのスキルが生きてるねぇ」


 そんな遊び、普通はしないと思う。

 いや、今はそんなことより。


「追いかけなくちゃ」


 私たちも武藤君たちの後を小走りで追いかけた。

 通路を抜けて、エスカレーターを降り、ひたすら競歩で行く。

 しばらく行くと、武藤君たちは探し他人を見つけたのか、私たちがやっていたのと同じように身を隠しながら進んで行く。

 商品の棚に隠れ、柱に隠れ、たまに人陰に隠れる。

 いったい誰だろうと、それらしい人を探すとすぐに見つかった。

 茶色がかった髪にすらっと高い身長。あの後ろ姿は甲斐君だ。


「探してた人見つけたみたいね」


「ん〜。みたいだけどどの人かまでは分からないね〜」


 私はすぐに見つけられたけど、功刀さんと香さんはそうはいかなかったみたいだ。

 確かに向かっているのはデパートの出入り口。店内よりも人口密度は高い。

 私は二人に武藤君たちが追いかけてる人を教えようとして、やめた。

 功刀さんにあまりあの時のことを連想させるものを言うのは、なんかこう、ダメだ。ついさっきもそれで情緒不安定になってたわけだし。

 だから私も知らないフリをすることにしといた。

 そう決めた数秒後。

 武藤君と名前も知らない女の子が脱力してるのが見えた。



 ***



 武藤君が相談を受けてたのを話してくれて、それが恋愛相談だったんだろうなと私が考えるのは、もう少し先の話。

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