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最近の俺はコンサルタント  作者: サクラソウ
恋愛相談編リターンズ
25/75

22 カフェ

 チャイムとともに教室内の空気が弛緩していく。

 俺も息を吐いて首をぐるぐると回した。

 金曜日最後の授業が終わった後の開放感は半端じゃない。これから始まる二日間の休みをどう過ごすかで頭がいっぱいになる。

 反対に日曜日の夜の絶望感は半端じゃない。これかは始まる五日間をどう凌ぎきるかで頭がいっぱいになる。というか全力で休みたくなる。

 それゆえ月曜日が祝日の時は嬉しさ二倍。三連休ひゃっはーとなる。

 以上のことから月曜日はツンデレの可能性が高い。ただし、ツン率はかなり高いだろう。

 ……一年はだいたい五十週で月曜祝日はなんか五日くらい? となると五割る五十で十パーセントか。

 いや、夏休みとか冬休みとか足したらもっと多いな。四割くらいじゃね。ツン率意外に低かった。

 自分でもびっくりするくらい頭の悪いことを考えてるとスマホが振動する。

 俺にメールをよこす人物はかなり限られている。家族と中学の友達、それと紫苑くらいだ。迷惑メールという可能性もある。

 そう思いつつ開くと差出人不明。見たことのないメールアドレスだけが表示されていた。迷惑メールだったようだ。

 そう思い閉じようとしたが、メールアドレスの下に表示されている件名を見て止まった。

 なぜなら「汐留朝日です!」という文字が踊っていたから……。

 …………。

 ……俺、あいつにメールアドレス教えてないんだけど。教えてないはずなんだけど。なんで俺にメール送れてるんだよ。え、ちょっと待ってマジでイミワカラナイ。

 さすがの俺も恐怖を覚えてしまう。

 第三者から聞いたとしても、この学校に俺のメアドを知ってる奴なんてそれこそ姉さんくらいしかいない。その姉さんに他学年との交流がないのは明白。

 つまり入手ルートが全くの不明……。

 麻薬密売人を相手にする刑事の気持ちが分かった。

 のしかかる情報社会の恐怖を振り払いながら本文を開く。


 本文 : 今日は私、部活休みです! なので駅前のカフェに来てください。来なかったらセンパイのメールアドレスをいろんなところにばら撒きます☆


 ……これもう脅迫状じゃねえか。

 ☆とかつけて冗談っぽくしてあるが、多分あいつ本当にやる。何日も俺を付け回した奴がしないわけがない。

 とすると、やはり行く以外の選択肢はなさそうだ。

 まあそもそも引き受けた時点でこの程度の厄介ごとは覚悟の上だ。行くつもりではあった。面倒臭いけど。

 なんでカフェなんだよという疑問はあったが、取り急ぎ「了解」とだけ返信してカバンを肩にかける。

 どこから俺の連絡先を手に入れたのかを問い詰めるのを決意して教室を出た。



 ***



「センパイ、五分遅刻です!」


 言われた通りやって来ると開口一番そう言われた。何を勘違いしたのか、微笑ましそうに見ている店員の視線が痛い。

 とりあえずその店員にコーヒーを注文してから席に着くと反論する。


「時間指定とかなかっただろが。どんなペースで来ようと俺の勝手だ」


「分かってないですねー。可愛い可愛い後輩の女の子が呼び出したんですよ? 時空を超えて、物理法則を無視してでもすぐ来ないと!」


「俺はそんな超人じゃねえし、法則は無視できないから法則なんだよ。無視できちゃったらそれは法則ヅラしたサムシングだ」


 言うと汐留の頭頂部から伸びるそれが不機嫌そうに揺れた。


「返しに優しさがありません」


「そりゃそうだ。別に俺は優しくねえし」


 そもそもこいつに対して優しくする意味がない。それ以前に俺って優しく振る舞ったことあったっけ。


「つーかなんでカフェなんだよ。放課後の学校とか人いないから話をするのに不便じゃないだろ」


「えー、でも誰かに見られたら嫌じゃないですかー。付き合ってるみたいな噂が立ったら危険ですし。特に今の状況だと」


 今の状況、というのは甲斐に想いを寄せているということだろう。そりゃ他に好意を寄せている相手がいるのに、別の相手と付き合ってるという噂が流れるのは好ましくない。

 まあそれ以前に、俺もそんな噂が流れるのは嫌だが……。


「功刀の時は普通に学校で相談受けてたな……」


 凄まじい逆効果を一ヶ月近くも行っていたことになる。しかしあの時は別に噂にはならなかった。


「それはあれですね。鈴丘センパイも一緒にいたから大丈夫だったんですね。でも今回は私とセンパイ二人だけですから」


「いや、お前俺のこと尾け回してただろ。あと家庭科室の時も一緒だったし。あれはどうなんだよ」


「ある程度のリスクを払わないと目的なんて達成できませんよ」


「……なるほど」


 等価交換の原則、か。なるほど、ハガレンで読んだし理にかなっている。そもそもノーリスクな事なんてこの世にはないだろう。

 歩くだけでも常に転ぶかもしれないというリスクを背負っているのだ。ドMの輩には逆にご褒美だろうが、俺はドMではないのでリスクとしておく。


「けど、ここ外から見えなくはないよな。わざわざこんな所で会ってるの見られる方がヤバくないか?」


「放課後の教室で会うよりマシです。教室だと絶対見つかりますけど、ここなら見つかるとは限らないじゃないですか」


「壁に耳あり障子に目あり。結構見られてるもんだぞ。……俺の場合見られてても噂にはならないだろうけど。誰にも興味持たれてねーし」


 そもそも女子と関わってない。


「そうですかー。センパイ教室では空気なんですねー」


「俺、そこまで自分を卑下してないんだが」


 さらっと毒を吐かれるも、俺の耐毒スキルは伊達じゃない。見事に防ぐ。

 と、重要なことに気がついた。


「お前はこーゆーところ見られたら噂になるんだな」


 すると汐留はキョトンとした。


「いや、だいぶ皆んなに認知されてるんだなって。友達多いのか?」


「そりゃ多いですよー。なんせ私、クラスの中心ですからね? 相談とか結構されますし。みんなに信頼されてるんですよ。私」


 要約すると、クラス内カーストが高いということか。それなら多くの情報を持っていることも納得がいく。


「ちょっと意外だな。年上にばっか媚び売ってるんだと思ってた」


「酷いです!」


 だってしょうがないじゃん。俺に対してもそうだけど、なんか妙に後輩っぽいし。さらに言えば、前にこいつがバレー部の先輩と話してる時も頑張ってますオーラ超出てたし。

 こいつの様子を見るに、たぶん地何だろうが。


「まあそれはいいとして本題に入ろう。お前なんで俺のメアド知ってるんだよ。どっから手に入れた」


「あ、本題ってそっちですか……。残念ながらクライアントの情報は明かせませんので☆」


 キャピっとアホ毛が踊りいい笑顔で言われた。


「だからクライアントってそういう意味じゃねーから。俺が知りたいのはソースだっつの」


「キッコーマンですかね?」


「それは醤油だろ。ソースじゃねえし、つーか俺が知りたい方のソースは調味料じゃねえ。情報源のことだ」


「まあそれはそれとして、なんで呼び出したかっていうとですねー」


 ガン無視だった。その姿はさながら受け流しの達人……。剣術だったら絶対に強い人だ。


「甲斐センパイとデート作戦! みたいなのを決行したいんですよ」


「おう、行ってらっしゃい」


 功刀の恋愛相談を受けていた時に知った事だが、付き合うまでにデートというのは必須らしい。

 功刀の時は性格を考慮して断念したが、こいつのごときストロングメンタルならそれもありだろう。

 デートの時の服装やらなんやらの相談なら散々やった。かなりレベルも上がっているはずだし一応役には立てるはずだ。

 さすがに当日付いて行くことはしないが、汐留なら上手くやるだろう。

 俺が何の気なしに言うと、汐留はキョトンとしてさも当然のように口を開いた。


「いやセンパイも付いて来て下さい」


「はいぃ……?」


 相棒の右京さんみたいな声が出た。


「だから、当日センパイも付いて来て陰から見てて下さい。で、なんかいい感じにアドバイスをリアルタイムで」


「いや当日にどうやってリアルタイムでアドバイスするんだよ」


「そこはなんか携帯使っていい感じに」


「ならねーよ。デート尾行してアドバイスとか漫画でしか見たことないわ」


 耳にインカム装備してフラクシナスと通信なんて現実でできるわけがない。


「えー、でも恋愛相談の一環ですし、お願いしますよー」


「むっ……」


 思わず言葉に詰まった。

 わけの分からんし意味のなさそうな事ではあるが、確かに恋愛相談の一環と言えなくもない。恋愛相談を引き受けた身としてはなんの理由もなく断ることはできないのだ。

 面倒臭いなんてことは断る理由としてはちょっと足りない。


「はあ、分かったよ。付いて行けばいいんだろ」


「うしっ! やっぱりそーゆー攻め方に弱いんですね、センパイ」


 男に二言はない、ではないが確かにそういった論法で言われると無条件で断れなくなる。

 もちろんよっぽどの理由があれば普通に断るが。


「お前ほんと、そーゆー情報どっから仕入れてくるんだよ……」


「クライアントの情報は明かせません☆」


「ああ、そう……」


 例の通りちょっといい笑顔で言われてしまったので追求を諦めた。そもそも知ってどうこうできる事でもない。


「話が逸れましたねー。デート作戦を練らないと!」


 すると汐留はカバンへと手を伸ばしその中身を探る。みっけと言う風にアホ毛が揺れるとカバンから何かを取り出した。

 見た目A4よりも一回り大きいが、教科書よりもはるかに薄い本だ。表紙には『eighteen』という文字が踊っている。いわゆる女性誌というものだろう。


「この雑誌に載ってたデート特集を参考にしていきましょー!」


「ほう、参考にするものがあるのか。功刀よりだいぶマシだな」


 あいつは「何か意見ある!?」って威張るだけだったからな。


「へー。まず最初は服装からいきますか!」


 汐留は本日二度目の超スルーを披露すると雑誌のページをめくっていく。やがて目的のページにたどり着いたのか動きを止めた。


「えーと、清潔感のある自分に似合ったものを、ですって」


「うん、まあそりゃそうだよな」


「ですね」


 すごく当たり前のことだった。だが功刀の事もある。


「一応聞いておくが、お前ファッションセンスあるのか?」


「いやだなー、センパイ。そりゃ人並みにあるに決まってるじゃないですかー。なんせ私、情報の女神様と呼ばれてるんですよ?」


「……そうだな、愚問だったな。お前ならどっからかそれっぽいの調べてきてテキトーに着そうだもんな」


「フワフワしてますね!? まあいいんですけど。じゃあ次、デート場所……」


 汐留は指差し目的の欄を探す。俺もそれに倣った。

 と言っても奴は雑誌を自分の方に向けて置いているのでこちらからでは探しづらい。案の定汐留の方が先に見つけた。


「映画館デートはやめた方が良いって書いてますね」


「は?」


 ちょっと驚いた。

 ラノベでもなんでもデートスポットとして最初に出てくるのは映画だ。むしろ映画しか出てこない。

 その理由としては、映画を見終わった後、話題に困らないからだという。

 それは理にかなっていると思う。互いのことを知りもしないのにいきなり話せと言われても困るだけだ。

 俺は汐留が指差す場所を反対側からではあるが読んでみる。


『デートはお互いの良さを知るためにすることです。映画デートでは、話す内容が映画のことに限られてしまうので、向いていません』


 なるほど。

 デートの定義をそうすれば、確かにそう考えられなくもない。

 俺は一応納得したが、汐留はどうなのだろうかと顔を上げると「ふむふむ」と超頷く彼女が目に入った。


「ということはやっぱり他のところがいいですね。知ることはすごく重要です」


「ああ、まあそれはいいが。そういや聞き忘れてたが、お前と甲斐って今はどんな仲なんだ?」


 お互いを知るためのデート、というのもおかしくはない。だがやはりある程度仲が良くなければ成立しないだろう。

 功刀みたく話したこともないとかだったら、見える未来は凄まじいタイフーンで日本列島を縦断だ。学生は超喜ぶ。

 汐留は答えようとして、「あっ」と口を噤む。そしていたずらっぽい笑みを浮かべると、


「逆にどんな関係だと思います?」


「質問してんの俺なんだけど……」


 畳返しばりに質問を返された。面倒臭いのでテキトーに返す。


「なんかあれじゃね? 人に言うのも憚られるような……」


「ざんねーん、ハズレでーす」


 超むかつく顔で腕でバッテンを作られた。アホ毛もバツになってる。


「じゃあなんだよ」


「ヒントは私と甲斐センパイの部活です」


 あっさりと正解は教えてくれなかった。

 汐留と甲斐の部活……? 確か汐留は女子バレーボール部で、甲斐はサッカー。それぞれ練習場所は体育館とグラウンドだ。

 つまりここから導き出される答えは、意味分からんということだけ……!


「分からん。もう面倒臭いからパパッと教えてくれ」


「えー、つまらないですねー。正解は結構話す関係でした!」


「ヒントの意味あったかそれ」


 女バレとサッカー関係ねえ。練習場所も大して関係ねえ。結論、何言ってんだこいつ。


「もー、いいじゃないですかー。それよりデート作戦デート作戦」


 言うと汐留は雑誌へと視線を戻した。俺もため息をつきながらそれに倣う。

 そうしてしばらくどんな話をすれば良いかとかどのくらい一緒にいればいいかとか、他にはいつ行くかも決めていった。

 普通他の部活の練習スケジュールは分からないだろうが、そこは汐留。ダークマターな入手経路からすでに手に入れていた。

 三十分ほど過ぎた頃だろうか。

 だんだん疲れてきた上に飽きてきた俺は、相談を受けている間に届いたコーヒーに口をつけ、ふとカフェの外へと目を向けた。

 見えるのは行き交う人々だ。このカフェからは駅の入り口が見える。つまり駅のすぐ近くだ。当然歩き過ぎていく人も多い。

 その中に見慣れた人影を見つけた。

 すらっと高い背に茶髪。容姿はちょっと腹立たしいほどに整っている腹黒なモテ男。つまり甲斐だ。

 あいつ電車で通学してんだなーと目で追っていくと、駅の隣にあるデパートに入るのが見えた。

 瞬間、俺は閃いた。それはもうアルティメットなグッドアイディアを。

 俺はカップを置くと口を開いた。


「汐留、尾けよう」


「はいぃ?」


 イクラちゃんみたいな声を出された。アホ毛は例のごとく「?」を模している。


「今甲斐があのデパートの中に入ってった。だから尾けよう」


「どの辺が『だから』なんですかね!? 全くもって意味が分かりませんよ!?」


 汐留が驚いたような声を上げる。

 接続詞が繋がってないのも、俺が相当わけの分からないアホみたいなことを言っているのは分かっている。が、あまりダラダラしてると探すのが難しくなる。ただでさえ現時点では見失っているのだ。


「いいから、あいつの後尾けながら説明するから、とりあえずチャチャッと準備しろ」


 言いつつも俺は自分のカバンを肩にかける。

 汐留はまだ何か反論しようとしたが、諦めたのか黙って雑誌をしまいカバンを手に取る。


「よしじゃあ行くぞ」


「は、はい……」


 大急ぎで会計を済ませて、俺たちはカフェを出た。

批難、中傷、罵倒、罵詈雑言などをお待ちしております。

感想、ポイント、ブックマークも遠慮せずに! マジで!

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