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最近の俺はコンサルタント  作者: サクラソウ
恋愛相談編リターンズ
22/75

19 しつこい!

 頭の回転は早い方だと自負する俺だが、この時ばかりはその言葉の理解に時間を要した。


「悪い、今なんて言った?」


「恋愛相談受けて下さいって言いました」


「ほう、で、誰に言ったんだ?」


「は? いやセンパイしかいないじゃないですか」


「ん、なんて言ったんだっけ?」


「だから恋愛相談……」


 ふむふむ。なるほどなるほど。ようやく理解できた。つまりあれだ。超面倒臭い感じのやつだ。

 そう判断すると同時に一つの疑問が沸き起こる。


「つーかなんで俺? 友達にでも相談すりゃいいだろ」


「あーそれはですねー」


 しおなぎ……じゃなくてしお……しお……なんだっけ。まあどうでもいいか。

 奴はどこからともなくピンク色の手帳を取り出すとパラパラとページをめくっていく。ピンクの手帳にはいい思い出ないんだよな……。やがて目的のページを見つけたのか手を止める。


「センパイは同じクラスの功刀愛華さんの恋愛相談を受けて、そんでそれを見事に成功させてるじゃないですかー」


 ちょっと待てその情報どっから仕入れた。鈴丘? 鈴丘か? 鈴丘だよな? あいつ姉さんにも言ったもんな?


「あ、クライアントの情報は明かせませんのであしからず」


「クライアントってそういう意味じゃねーよ」


 ソースなら分かる。ウスターが好きです。

 しかしこいつは侮れない。俺の第八感あたりがそう警告している。

 鈴丘は観察眼によって情報を得るタイプだが、こいつは自身の交友関係から情報を得るタイプだ。そして俺の情報をも手に入れたことから、その交友関係はバカ広い……。しかも手帳まで常備しているとなると、情報コレクターみたいなものなのかもしれない。

 警戒心を強めていると、そいつが口を開く。


「まあ功刀さんはかなり早く別れちゃったみたいですけどー。でもあの性格からして仕方ないですよね」


 ほら侮れない。

 功刀と甲斐が別れたこと自体は周知の事実だ。だが功刀の性格までは一学年下の生徒には容易に伝わるはずがないのだ。あいつ部活やってないし。他学年と関わる機会は少ない。いや、つい最近有志合唱があったか。


「つーか何で俺の力不足だったとかは考えねんだよ。あと、あいつの恋愛相談を受けてたのは俺だけじゃなくて……」


「鈴丘さんも一緒にですよね?」


「お、おお」


 もうやだこの子怖い。いや今までのことからして知っててもおかしくないけど。

 奴はそーっと目を横に泳がせ、そしてアホ毛をフニャンとさせながら、


「私、あの人苦手なんですよねー……」


 え、だから俺だけに? おかしくない?


「まあそれはそれとして! 私的にー、功刀さんの恋愛相談はだいぶ短い時間で解決したっていうのも、早く別れた原因だと思うんですよ」


 と、そこで奴は少し考えるように言葉を切る。そして、


「だから、私の場合はバレンタインに告白! って感じのスケジュールでお願いしようと思ってるんですよね」


 なにその地獄。何でそんな当たり前のことのように言ってんだよ。俺に自由は? ねえないの?

 そんな理不尽なお願いに対する答えは当然決まっている。


「断る」


「早くないですか!?」


 お前のツッコミの方が早えよ。


「うっせ。そんな面倒なこと引き受けるわけないだろ。第一俺にメリットがない」


「はー、メリットですかー」


 そう言って奴は腕を組む。アホ毛は「?」マークになっていた。マジでどうなってんの。

 そうすること数十秒。アホ毛が電球マークになるのと同時にポンっと手を叩く。


「可愛い後輩女子とたくさん喋れますよ!」


「帰るわ」


「えええっ!? ちょっと待ってくださいよ!」


 後ろから投げかけられる声を完全に無視しながら、俺は下駄箱へと向かった。



 ***



 面倒ごとを華麗に回避した翌日。俺はいつもの時間通りに学校に来た。

 下駄箱で姉さんと別れ、ボーッとしながら教室へと向かう。

 習性や慣れというのは恐ろしいもので、特に何も考えなくてもちゃんと自分の教室に行けるのだ。まあクラス替えしたその日は間違って一年の教室に行ってしまったんだが。

 階段を登りきり角を曲がって進んで行くと朝の喧騒が空間を支配し始める。と、思わず足を止める。

 教室の前に一人の女子。茶色がかったショートカットにアホ毛、パンダの髪留め、上履きの色からして一年生。


「なんでいんのあいつ」


 昨日と同じように警戒心が沸き起こる。はたしてこのまま進んで何も起こらずに済むだろうか否か……。

 そんな思考が終わる前に奴がこっちに気がつき目をキラン☆と輝かせた。やばいロックオンされた……! そして当然のように俺へと一直線。


「センパーイ、おっはようございまーす!」


「よ、よう。し、しお……しお……?」


「名前覚えてないんですか!?」


「うん」


「悪びれずに!?」


 目の前の奴の目が驚愕へと開かれ、アホ毛が「!」マークへと変化する。

 いやだって、断るつもりだったし……。



「汐留ですよ。汐留朝日。ちゃんと覚えてくださいよ?」


「あーはいはい。汐留ね汐留」


 多分明日には忘れると思うな。そんな気持ちを込めて適当に返すと「雑だなー」という小さい声が聞こえてきた。

 小声にしてるあたり聞かせる気はないんだろうが、本当に聞かせる気がないならそもそも言うなと思う。


「で、お前なんでいるんだよ」


 取り敢えず差し当たっての疑問を解消することにする。


「いえ、恋愛相談受けてもらおうと思いまして!」


「断るって言ったよな?」


「いやー、もしかしたら気が変わってるかもしれないじゃないですかー」


「もしかしなくても変わってねぇよ。絶対引き受けん。帰れ」


「すごい冷たいですね!?」


 そりゃそうだろ。嫌だもん。


「そこをなんとかお願いしまよー」


 パンっと初詣よろしく手を合わされた。少なくとも昨日よりは誠実だ。そしてかなり断りづらい。


「まあ確かに後輩女子と話すとかは人によっちゃメリットだな」


「おっ、そうですよ! 友達に自慢できますよ!」


 俺、友達、少なくとも学校にはいないんだが。


「あとはまあ、名前忘れてたのも悪かったっちゃ悪かったしな……」


「おっ、てことは……?」


 汐留の目が輝き、アホ毛が犬の尻尾のように揺れる。

 俺は十分に溜めを作ってからこの言葉を紡ぎ出した。


「だが断る」


 一生のうちに言いたいセリフベスト七位。言うとそのままスタスタと教室へ入る。

 遅れて廊下から脱力したような叫び声が聞こえてきた。



 ***



「それで、それだけ勉強したのに平均点以下なのよ! おかしいわよね」


「えー? 私は七十点取れたけどなー」


「えぇ!? 鈴丘さん頭よすぎ!」


「そんなことないよー。あ、武藤君は何点だった?」


「んあ?」


 休み時間。唐突に話しかけられラノベから顔を上げるとそろそろ見慣れた顔たち。鈴丘と功刀である。

 いくら言っても休み時間には大体来るのでもう諦めていた。


「点数よ点数! 現代文の点数! アンタ何で目の前で話してのに聞いてないのよ」


「ラノベ読んでたからだろ……」


 つーか目の前で話してても聞いてないことくらいはあると思うんだが?


「それで、何点だったのよ」


「……八十七点」


「ええぇっ!?」


「武藤君すごいね」


 功刀が驚愕し、鈴丘が賞賛する。


「そんなあぁ……武藤には勝ってると思ってたのに……。バカそうなのに……」


「おいこらそこ何言ってやがる。俺はそこそこかなり賢いんだからな」


 頭を抱えて嘆く功刀にツッコむ。失礼なやっちゃな。


「大体俺は姉さんという素晴らしい家庭教師がいるからな。割とどれも点数いいんだよ」


 勉強もテストも嫌いな我が姉だが、嫌いなくせに何故かやたらと勉強はできる。ゆえにその指導を受けることはよくあるのだ。姉さんいなかったら点数取れる気しない。

 言うと功刀はビシッと指を指して、


「ズルいわよ!」


「ズルくない。できる姉を持たないお前が悪い」


「姉限定なんだね」


 そんな下らんやり取りをしていた時だ。


「センパーイ」


 可愛らしい声が聞こえてきて、クラスにいた者のほぼ全員がその方向へと目を向けた。俺もその中の一人。そして発見、汐留。

 彼女はまたしても口を開く。


「センパーイ」


「あの子こっち見てるけど誰の知り合いなのよ? 鈴丘さん?」


「え? 私あの子知らないよ?」


 え、知らんの? じゃああの情報提供者は別にいるのか……。とか思っていたら二人の視線がこちらへと向けられた。


「武藤君、知り合い?」


「知らん」


 あいつ明らかに俺を見てるけど知らない。俺に都合の悪いことは全部知らない。知ってても知らない。


「武藤センパーイ」


「呼んでるよ」


「うちのクラスの他の武藤だろ」


「いないよ……」


 いないのか。

 もう面倒臭いのでラノベへと視線を戻すことにする。


「というかあの子とどういう関係なの?」


「は?」


 だが功刀に聞かれて阻まれた。なんで不安そうな顔なんだよ。


「ほら、武藤君、他の学年っていうか、クラス内でも交友関係狭いから珍しいんだよ。だからその……あの子とはどういう関係なのかなぁって」


 お前もか鈴丘。なんでちょっと顔赤いんだよ。熱か。保健室行け。

 なんかラノベっぽいシチュエーションだが、ぶっちゃけ面倒臭い。俺は別にラノベの主人公になりたいわけではないのだから。だからテキトーにうやむやにすることにする。


「言ってるだろあんな奴知らんって」


「武藤飛雄馬センパーイ!」


 おいこら汐留。なに逃げ道完全に塞いでんだ。回り込みか。回り込んだのか。ヒットポイントがピンチの時にモンスターに遭遇しちゃった感じのやつか。

 まあいい。ずっと呼んでいることから、おそらくあいつは教室内に入ってくることはないだろう。目の前の女子二人の視線は少々痛いが、ずっとここにいれば問題あるまい。

 と、思っていたら俺に集中する視線が一気に増えた。クラスの連中だ。

 どうやら俺のフルネームが呼ばれたことにより確信を持ったらしい。男子からの羨ましがる視線や、早く行ってやれよという類の視線が今までにないほど突き刺さってくる。わ、わーい、俺人気者……。つーかみんな俺の名前覚えてんのかよ。俺は覚えてないのに。

 人からどう思われようがどうでもいい的思考をする俺だが、さすがにこの量の視線は居心地が悪い。

 ガタっと席を立ち上がり汐留の方へと向かう。その際鈴丘と功刀の視線は特に痛かった。

 辿り着くと先に口を開いたのは汐留だ。


「もー、なんですぐ来てくれないんですか!」


「面倒臭いからな」


「後輩女子に対する扱いが酷すぎます!」


「お前の中での後輩女子に対する扱いのスタンダードは俺には通じない。で、何の用だよ」


 問うと彼女はいたずらっぽく笑い、


「恋愛相談を……」


「断る」


 スタスタと自席に帰るのとチャイムが鳴るのは同時だった。



 ***



 それからというもの、汐留は毎日、毎時間の様にやって来た。

 教室で姉さんが作ってくれた弁当を食べている時にも「センパーイ」と笑顔で出現。

 放課後、カバンを肩からかけて教室を出ると「センパーイ」と笑顔でスタンバイ。

 見つかる前に別のところに避難しようと教室を出て歩いていると「センパーイ」と笑顔で捕捉、追跡。

 しかも昨日は、引き受けてくれたらラノベおごりますよという手法まで使ってきた。一体いつそれが割と効果的という情報を仕入れたのやら……。

 そして極めつけはクラスメイトの視線だ。リア充は死ねというものはもちろん、何故か軽蔑の視線まで混ざってる。鈴丘と功刀が絡んでくる回数も増えた。そして西倉には「お前なんかもう仲間じゃないいいいっっ!」と言われてしまった。あ、これはどうでもいいか。いや良くないな。いつ仲間になったんだよ。

 そんな四日間を過ごした俺は、社畜のごとく疲れた顔でトボトボと 教室への道を行く。

 昨日の朝は俺が登校してきた後に来たからな。もし教室前にいなければカバンを置いてすぐにトイレに逃げ込もう。多分来る時間遅くすればいいだけなんだろうが、家を出る時間はズラしたくない。

 角から目だけを出して様子を伺う。ふむ、クラスの女子が数人たむろしてるだけだ。今なら行ける!


「セーンパイっ」


「……っ!?」


 唐突に後ろから声をかけられ心臓が止まるかと思った。振り返ると奴がいる。


「おー、センパイの驚いた顔初めて見ましたよー」


 一本取ったりといった風に笑うのは汐留朝日。全く気配を感じなかった……。この俺が……? いや、教室前を見るのに集中してたからかもしれん。


「お前、本当に懲りないな……」


「ふふーん」


「得意げに笑うな。マジ帰れ」


 無表情、ポーカーフェイスが売りの俺もさすがに苦々しく眉を顰める。

 だが汐留はそれを意に介さないようで、


「そんなこと言わずに、いい加減諦めてください☆」


「口調が完全に悪役だぞ」


 まあ俺には悪役そのものに見えるけど。ゆうしゃたすけて。


「帰りませんよー? 引き受けるって言うまでずっと追いかけ回します」


 その目は本気。完全にマジ。絶対追いかけ回される……!

 いやおそらくそのうち飽きるのだろうが、だがそれがいつになるのか全く分からない。そしてその間に蓄積されるであろう俺の精神的疲労は計り知れない。アニ○イト行くくらいで回復できるのかすら分からないのだ。

 もういっそ、引き受けてしまおうか……。

 そんな考えが沸き起こってくる。

 試しに一度考えることにする。引き受けるべきか否か。

 そもそも俺が恋愛相談を引き受けたくないのは面倒臭いからだ。だから現状が続くのとどちらの方が面倒かを比べればいい。

 恋愛相談は功刀で一度経験している。面倒ではあったが、あのレベルであれば現状よりも楽と言える。

 だが現状が案外早く終わった場合、それは恋愛相談を受けるよりも楽なのだ。


「……ふむ」


「なに一人でつぶやいてるんですか」


「うっせ。ほっとけ」


 そうだ、条件を提示すればいいのだ。バレンタインなんぞまで付き合いたくない。もっと早い段階で打ち切るように言えばいい。


「汐留」


「はい?」


「気が変わった。引き受けよう」


 言うと汐留は「おおっ」と目を輝かせる。アホ毛が嬉しい時の犬の尻尾のごとく超振れてた。


「ただし条件付きだ。バレンタインなんて悠長なことは言わせない。夏休みまでに終わらせる」


「早すぎません!?」


 知るか。


「そしてそのあとは一切俺に関わるな。あと告白失敗しても責任負わんし、どっちにしろそこで相談終了だ」


「結構ヘビーな条件ですね!?」


 だから知るか。

 汐留はむむっと腕を組みアホ毛を「?」マークにして考え込む。そしてしばらくすると諦めたようにため息をついた。


「分かりました。その条件飲みます。よろしくお願いします」


「おう」


 面倒ではある。面倒ではあるが……さっさと終わらせれば問題はない。ないはずだ。ないといいなぁ……。


「ところで、お前の想い人、まだ聞いてないんだが。誰なんだ?」


 嫌なことはすぐに終わらせよう。そう思い取り敢えず情報を引き出すことにする。功刀の時みたいに失敗しないように、今の相手との関係も聞き出さなければ。

 そんなことを考えていたからだろうか。またしても俺は彼女の口から出た言葉、いや名前を理解するのに数秒の時を要した。


「甲斐センパイです!」

皮肉、不平、不満、罵詈雑言などをお待ちしております。


できれば評価、感想、ブクマの方がいいけどね!

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